浪費 投稿者:あかすり 投稿日:2月27日(日)22時54分
「耕一さん、耕一さん、見て下さいよコレ。」

そう言って、千鶴さんが差し出したのは鍋だった。

「なんですか…コレ。」

「鍋ですよ。」

「そうじゃなくて…どうしたんですか?」

「買ったんですよ。」

「どこで…?」

「実は昨夜深夜のテレビショッピングで紹介してて、一目見た瞬間にビビッときて思わず電話しちゃったんです。(てへ)」

「またか」……と思いつつ苦笑する。
最近、千鶴さんはこのテの商品にハマっている。
先週も直径1mはあろうかという蚊取り線香を嬉しそうに俺に見せに来た。

「…で、いくらしたんです…その鍋?」

「…2万円ですぅ。」

「………」

「…そんなに見つめちゃイヤですぅ…。」

「…先週の蚊取り線香は5000円の5個セットだったよね?」

「ええ。」

「ウチには、もう捨てる程にあるよね…鍋?」

「ええ。」

「それで………鍋?」

「ええ。」

「なんで……?」

「超合金製なんです。」

「ソレが…」どうしたの?と言い終える前に「劇薬を料理に使っても、鍋が傷つかないんです。」
と遮られた。…劇薬って…。

「千鶴さん、前から言おうと思ってたんだけど…」

「それだけじゃないんですよ。この鍋のスゴイとこ。」
聞いちゃいねぇ。

「変形するんですよッ!」

「…変形?」

「そう、変形。」

「ど、どんな風に?」

「さぁ…?」

「「さぁ」?」

「取り扱い説明書には『変形しますよ、奥さん』としか書いてませんもん。」

「千鶴さん、ソレ…」騙されてるよ。と言い終える前に「購入特典もスゴイんですよ!」
と遮られた。

「購入した人には、もれなく…『ウッドボールのうた』のテープが当たるんですよ!」

「う、うっどぼーず?」

「ウッドボールですよ、耕一さん。知りませんか?」

「…知らない。」

「漫画家の桜玉吉が歌ってるんですけどね…。」

「悪いけど…知らないよ。」

「そうですか…。でも、イイ歌なんですよ。」

千鶴さんはそう言うと鍋を片手に「ウッボ〜、ウッボ〜、ウッボッボ〜」と奇妙なフレーズを口ずさみながら台所へと姿を消した。




 今月も家計は火の車だ…。