うたわれる☆アンティーク 第3話 投稿者:アホリアSS 投稿日:11月7日(木)00時08分
 そのお姉さんの耳は、形が鳥の翼にそっくりだった。もしかして、お尻には鳥の尾羽の
ようなシッポがついてるのだろうか?
 まぁ、そんなことはどうでもいい。問題は、その女性が剣を抜いて怒りの形相で斬りか
かってきた、ということだ。
 ……ちりちりちりちりちりちり……
 僕は精神電波を自分の身体に使っていた。これで反応速度と運動能力が上がる。
 お姉さんの初太刀を余裕を持ってかわす…つもりだったが、斬撃の速さは予想以上でギ
リギリ紙一重でよけることになった。あぶねーー!
 二の太刀、三の太刀をなんとかかわした。このお姉さん、速い! もしかするとティリ
アの剣より速いんじゃないか? このままじゃ斬られそうだな。こうなったら……
「止まれっ!」
「な? か…身体が……」
 精神電波でお姉さんを金縛りにした。これで動けないだろう。僕は一息ついた。
 僕の名前は長瀬祐介。友人のスフィーの魔法が失敗したせいで、見知らぬ世界に迷い込
んだ。僕とスフィーはこの世界で山賊に襲われていた女の子を助けた。
 山賊の装備や女の子の身なりから推測すると、ここは僕やスフィーのいた世界より文明
の水準が遅れているのかもしれない。
 その子を村まで送る途中、いきなり変なお姉さんが現れ、襲い掛かってきた。どうやら
僕らを山賊の仲間だと勘違いしているようだ。ちゃんと話せばわかってもらえるだろうか。
「えーと、何か誤解があるみたいだね。僕らは山賊の一味とは…」
 羽根耳のお姉さんにそう言いかけたとき、背後から殺気を感じた。
「祐介! うしろっ!」
 スフィーの声と同時に僕は横に飛んでいた。さっきまで僕がいた空間に閃光が走った。
 背後にお姉さんがもう一人いて、剣を振りぬいたのだ。そのお姉さんは身体にぴったり
とした丈の短い服を着ている。まるで首輪のようなどでかい首飾りをつけている。
 僕は後ろに下がろうとした…けど、背中に大木の幹がぶつかった。これ以上は下がれな
いな。首輪のお姉さんが一気に間合いをつめてきた。やばっ!
「界王拳2倍!」
 身体に流れる精神電波を倍増した。負担が大きいのであまり使いたくないが、非常事態
だ。
 お姉さんの剣をギリギリでかわし、横にとんだ。お姉さんの剣は勢い余って、木の幹を
ぶったぎった。すごいパワーだ。ひょっとして耕一さん以上か?
 斬られた大木が倒れてきた。その先には、金縛りになったままの羽根耳のお姉さんがい
る。やばっ!
「動けっ!」
 僕は羽根耳のお姉さんにかけた金縛りを解いた。でも、お姉さんは呆然とつったったま
まで僕の方をみている。このままだと下敷きになるぞ。
「界王拳3倍!」
 僕は倒れてくる大木を全速力で潜り抜け、羽根耳のお姉さんの抱きかかえるようにして
倒れた。なんとか下敷きにならずにすんだようだ。
「よいしょっと。大丈夫ですか?」
 僕は身を起こして、羽根耳のお姉さんに手を伸ばそうと……したとき、首筋に冷たい感
触を受けた。背後から剣を突きつけられている。
「動かないでもらえる? まずは、あなたが何者で、ここに何をしにきたか教えていただ
けるかしら?」
 首輪のお姉さんが言った。僕はゆっくりと振り向いた。お姉さんは凛とした顔でけっこ
う美人だ。耳はキツネのようにとがっている。
「動かないで、と言ったはずよ。首と胴を別々にされたくなければ言うことをききなさい
な」
「そっちこそ……動かないでください」
「え? 身体が……」
 僕は首輪のお姉さんに金縛りをかけて離れた。
「祐介、だいじょうぶ?」
 少し離れたところにいたスフィーが声をかけてきた。いつでも魔法を撃てる構えでいた
ようだ。
「ああ、だいじょうぶだよ。まったく……わけもわからずに斬りかからないでほしいね。
僕じゃなかったら死んでたよな……」
 モーユはぱたぱたとこちらに駆けてきた。
「トウカさーん。カルラさーん。この人たちは山賊ちがうですよ。モーユを助けてくれた
ですー」
「な、なんとっ! 某(それがし)としたことが、恩人に剣を向けてしまったというのかっ。
どのように償いをするべきか…… こうなればこの首を……」
 羽根耳のお姉さんが自分の首に剣の刃を当てた。ほっとけば本気で斬りそうだな。
「まぁまぁ… そんな大げさに考えることはないですよ。僕はなんともなかったし」
「し、しかしそれでは某(それがし)の気持ちが治まりませぬ」
「じゃあさ。僕とスフィー、泊まれる所を探しているんだ。お金も持ってないんだけど、
なんとかならないかな」
「そんなことでよいのか。わかった。某(それがし)が泊まっている宿でよければ手配しよ
う」
 お姉さんの耳の羽がピンッと広がった。感情によって羽根の形が変わるのだろうか。
 その隣でモーユが首をかしげた。
「だったら、うちに泊まればいいのに」
「うーむ、モーユの家でもどっちでもいいんだけどね。できれば他の人たちと関わらずに
泊まれるところがいいな。目立ちたくないから」
 僕の言葉にスフィーもうなづいた。
「そうね。あたしも祐介も尻尾がないし、村の人たち警戒されちゃうのもいやだしね」
「ふむ、目立たずに泊まれる部屋か……」
 羽根耳のお姉さんが腕組みをした。考え込んでいる様子だ。
 しばらく静寂があたりをつつむ。
「ちょっといいかしら?」
 後ろの方で、首輪のお姉さんが話しかけてきた。
「私、いつまでこのままじっとしていればいいのかしら?」
 あ、忘れてた。金縛りにしたままだったっけ。僕はすぐに金縛りを解いた。
「すみません。動いていいですよ」
 首輪のお姉さんは大きな剣を鞘に収めた。
「ふふっ……あのままずっと放っておかれるのかと心配しましたわ」
 お姉さんの笑顔はちょっと怖かった。が、その表情が変わった。じっと僕の顔を見て、
言った。
「その瞳…その髪…その耳…… そしてその能力(ちから)……あの人と同じですわね」
「え? あの人? 僕達みたいな耳の人が他にもいるんですか?」
 僕が聞くと、首輪のお姉さんはそっと目を伏せる。代わりに、羽根耳のお姉さんがぐっ
と顔を近づけてきた。
「お聞かせ願えませんか? あなた様が何者なのか… そして、なぜこの地にいらしたの
かを……」
「えっと……何者って言われてもなぁ……」
 僕もスフィーもこの世界の住民じゃない。だから何者でもないんだよな。
 さて、どんなふうに説明すべきかな。僕の精神電波のことやスフィーの魔法のことはあ
まり喋らないほうがよさそうだ。
 とりあえず、話せるところだけ話してみるか。
「僕の名前は長瀬祐介。祐介って呼んでくれていいよ。そっちはスフィー。たぶん、君達
の知らない遠い国からきたんだ。どうやってここに来たかは……言えない。話してもうま
く理解できないだろうし、言いたくもないし。ここに来た理由はとくにない。来るつもり
はなかったけど、ちょっとした手違いでここに来てしまったんだ。帰る準備ができたらす
ぐにここを去るつもりだよ」
 そこで言葉を切った。お姉さん二人は真剣な目でこちらを見ている。
 羽根耳のお姉さん、恐る恐ると言う感じできいてきた。
「で、では……あなたは神ではないのですか?」
「ないない。そりゃあ、君達から見れば魔法みたいな特技はもってるけど、僕は人間だよ。
斬られたら死んじゃうし、死んだ人を生き返らせることもできない」
 あれ、スフィーならできるかな? 言う必要はないけどね。スフィーの方を見ると、顔
の前で手をパタパタと振っている。どうやら『できない』と言ってるようだ。
 こんどは首輪のお姉さんがきいた。
「あなた。別の姿に変わることはできますの? 見上げるような大きな身体で、異形の…」
 お姉さんは、怪物…と続けようとして口ごもった。
 身体の大きい化け物に変身か。耕一さん達のことかな。
「そういう特技を持った友達はいるけど、僕には無理だね」
 ん? スフィーなら魔法で変身もできるのかな? スフィーの方を見ると、また手をパ
タパタ振っている。これもできなさそうだ。
 お姉さん二人はヒソヒソと何か話し合っていた。やがて話がまとまったのか、こちらを
向いた。
「ユーイチ殿、あなたの力を見込んでお頼みしたいことがありますの。我らの主(あるじ)
を救っていただけないかしら」
 首輪のお姉さんが軽い口調で、でも本気の眼で言った。
「なにとぞ…なにとぞお願いしたいっ」
 羽根耳のお姉さんが地面に両手をついた。
 二人とも、僕のことを何かすごい人物だと勘違いしているのかな。
「どうする? スフィー」
「んーと……話だけでも聞いてあげようよ〜 引き受けるかどうかは別にしてさぁ」
 はぁ… そうだな。とにかく話だけでもきいてみるか。

(つづく)

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