うたわれる☆アンティーク 第2話 投稿者:アホリアSS 投稿日:10月1日(火)01時13分
 僕の名前は長瀬祐介。本当ならスフィーと一緒に魔法の国から元の世界に帰ってくるは
ずだった。
 でも、僕らはいつのまにか見知らぬ森の中にいた。
「スフィー… もういちどきくぞ。ここはどこだ?」
「んとね。あたしの世界とか祐介の世界とも違う別の世界だよ。ごめんね。ちょっとアイ
テムの使い方を間違えちゃった。変なところに転送されたみたいだね。てへっ」
「てへっ、で誤魔化すな。次はちゃんと戻れるんだろうな」
 僕がきくと、スフィーは露骨に目をそらす。僕はゆっくりとスフィーの視線の前に回り
こんだ。
「どうなんだよ? まさかと思うけど、もう二度とここから出られなくて、ここが僕たち
以外だれもいない世界で、それでもって僕たちがここでアダムとイブになるってことはな
いだろうなぁ」
「わぁ。祐介っていやらしい! 何考えてんの」
「やかましい。たとえお前と二人っきりになっても、そーゆー関係になるつもりはないぞ」
「あたしだってないよ!」
「まぁ、それはおいといて、俺たちは戻れるんだよな」
「え、えーとね。ペンダントの使い方はばっちりなんだけど、魔力がカラッポになってる
んだよ。だから帰るまでしばらくかかる……かも」
 ふむ。そういうことか。二度と戻れなくなるということはないんだな。
「で、しばらくってどのくらいなんだ?」
「んー……1週間ぐらいだと思う」
「けっこうかかるな。もうちょっと早くならないのか」
「魔力に満ちた場所にいけばもっと早く貯まるよ。五月雨堂みたいな骨董屋があれば魔力
がたっぷりありそうなんだけど……」
「骨董屋か。まぁ、それ以前にこの世界に人がいるかどうかも問題だよな」
 僕はあたりを見回した。見上げるような大きな木々に囲まれている。木の葉の間から太
陽がちらりと見えた。角度的に見て、日本だったら正午ぐらいか。しかし、ここの緯度も
自転周期もわからないからあてにならないが……
「スフィー。今のうちにこの辺りを調べておこうか。野宿するなら、食べ物や寝るところ
をみつけないといけない」
 僕はサバイバルの経験はない。今は晴天だが、雨にでも降られれば面倒なことになる。
「あ、それじゃあ空から調べようよ。人がいる町か何か見つかるかもしれないし」
 なるほど。魔法使いのスフィーは空を飛べるんだ。この世界の住民とコンタクトをとれ
るならその方がいい。
 スフィーは近くの木から手ごろな枝を1本折り取った。
「まじかる☆ らじかる☆ てくにかる!」
 謎の呪文を唱えると木の枝がホウキに変わった。
「じゃ、祐一も乗って」
「乗るって……僕が前?」
 ホウキの柄の先が前だとすると、スフィーは後ろの方でまたがっている。
「うん。それでね。この帽子をかぶって欲しいの」
 スフィーはネコ耳付の黒い帽子を僕に差し出した。どこから出したんだ?
「なんだ? これは…」
「魔女のホウキには黒ネコが似合うんだよ」
「……そうか。じゃあお前がかぶれ」
 僕は受け取った帽子をスフィーの頭に被らせた。
「もう…… 祐介ってノリがわるーい」
 ふくれっつらでスフィーは前の方に移動した。僕は後部座席にまたがる。スフィーのホ
ウキにはグエンディーナでも何度か乗せてもらっていた。
「よし。いいぞ、スフィー」
「んじゃあ、しゅっぱーつ!!」
 僕らを乗せたホウキが一気に上昇した。

 (BGM:うたわれるもの オープニング)

 森の越えてかなりの上空までやってきた。森の緑が当たり一帯に広がっている。
 左手の方角に遠くに海が見える。右の方角には山脈が見えた。
 ここから見える範囲では人工的な建物や畑の類はみえなかった。
「祐介、どっちにいこうかな?」
「まぁ、人のいるところを探すなら、海岸線沿いに飛ぶのがいいとおもうよ。…ん?」
 右の方角で何かがキラリと光った。光は一瞬だけで、すぐに消えた。
「スフィー。今、あっちで何か」
「うん。あたしも見えた。ピカッてなったね。なんだろ?」
 そちらの方角で、かすかに太鼓のような、どーんという音が聞こえた。
「花火…… というより、火薬の光か?」
「祐介、いってみよう!」
「ちょっと…待って」
 ホウキが向きを変え、さきほど光ったあたりに向かって飛んだ。
 僕は意識を集中し、精神電波を使ってスフィーに話しかけた。
『待て、スフィー。行くにしても僕らの姿を隠せ。もし、あれが火薬だとしたら、うかつ
に近づけば撃墜されるかもしれないぞ』
「あ、そーかもしれないね」
『それと、なるべく音をたてないようにしよう。声もだ』
『うん。わかった』
 スフィーの言葉が頭に響く。
 僕とスフィーは声を出さずに会話が出来る。僕は精神電波を、スフィーは魔法を使って
お互いの頭に言葉を届けることができるのだ。テレパシーで会話するようなものだ。
 そのまましばらく飛び、さきほど光った辺りに近づいた。そこは森を大きく切りさくよ
うな谷になっている。谷底には河が見えた。
 崖の上に、何か動くものが見えた。人影だ。それも複数いる。さらに近づき、彼らの姿
がはっきり見えるようになった。

 (BGM終了)

『あ、祐介。人がいるよ。……でも、なんか様子が変だね』
『うん。なんだか追いかけっこしてるように見えるな』
 古風な鎧を身に着けた人が何人も見えた。彼らは1人の子供を追いかけていた。
 逃げている子供は泣いている。反面、追いかけている方はあまり上品ではない笑い顔だ
った。
『大変だよっ。早く助けないと!』
『落ち着けスフィー。まだ、どっちが正義かわからないぞ』
『見りゃわかるでしょ! 追いかけてる方が悪者だよ! もしかしたら違ってるかもしん
ないけど、祐介はあの子を放っておけるの?』
『……放っておけないね。やっぱし……』
 僕は追っ手の大人達を観察する。全員、刀や槍のような武器で武装している。弓を持っ
たのもいる。でも、鉄砲らしきものはなさそうだ。その数、10人くらいか……
『スフィー。僕らで戦って勝てるとは思うけど。あまり目立つことはしたくない』
『えーー? あの子を見捨てるつもり?』
『そうは言ってない。作戦を言うよ……』
 僕は考えた案をスフィーに説明した。そして、僕らを逃げている子供の進行方向に向か
って降下した。少し先の茂みの影に降りた。僕らには姿を消す魔法がかかっている。
 しばらくして、子供が駆けてきた。この位置なら追っ手の死角に入る。今だっ。
 僕は精神電波でその子の動きを止め、腕をつかんで茂みに引きずり込んだ。
「ごめんね。僕たちは君の味方だ。しばらくおとなしくしててくれ」
 なるべく優しい声で話しかける。まぁ、僕が電波で縛っている限り、動くことも声を出
すことも不可能だろうが。
 スフィーが魔法でその子の幻影を作り出した。
 で、幻影が「きゃ〜〜〜」と叫んで、崖に向かって駆け出した。そして崖を飛びだし、
「あ〜れ〜」と叫びながら転落していった。さいごにドボーンと水音が聞こえた。すべて
スフィーの作り出した幻覚である。
「うわ、あのガキ、谷に落ちやがったぞっ」
 追っ手の一人が叫んだ。
「どうしやす? イーカさん?」
「仕方ないわねーえ。まぁ、人質作戦はダメだったけど。口封じは大成功よぉ。それじゃ
あみんな引き上げるわよー」
 イーカと呼ばれたオカマっぽい声の男がリーダー格のようだ。その男は仲間を率いて去
っていった。
「行ったみたいだな。ごめんね。騒がれると困るから動きを封じさせてもらった。もう大
丈夫だよ」
 そう言って、僕は子供の背中をポンとたたく。そのとたん、子供のシッポがピンと立ち
上がった。
 シッポ?
 その子はささっと逃げて近くの木の後ろに身を隠した。で、顔を半分だけだしてこちら
をうかがっている。
「あはは……そんなに怖がらなくていいよ。取って食いやしないから」
 スフィーが子供においでおいでをした。ちなみに今のスフィーの体型は小学生みたいに
なっているので、その子と歳はあまり離れてなさそうに見える。
 子供はおずおずと近づいてきた。
「あ…あの。助けてくれて、ありがと」
「いいのいいの。ところでさ、あんた名前なんていうの? あたしはスフィー。こっちは
祐介っていうの」
「あの……あたし…モーユ」
「あれ? もしかして、女の子だったの?」
 僕がきくと、その子…モーユは少しムッと表情になった。
「女の子だよ!」
 モーユの耳が苛立つようにピクピク動く。その耳は顔の両側ではなく、あたまのてっぺ
んについている。
「あ、ごめんごめん」
「全く……祐介ったら、デリカシーに欠けてるわねぇ」
 スフィーは腰に手を当てて偉そうに言った。
「じゃあ、スフィーは気づいてたのか? この子が女の子だったって」
「当然じゃない。見りゃわかるでしょ」
 くそぅ。本当かどうかはわからないぞ。ま、いいけどね。
 僕は改めてモーユの姿を眺めた。
 動物のような耳に毛の長い尻尾。どうみても僕らと同じ人間ではない。
 僕は以前、ネコ耳に尻尾を持った魔族の女の子に会ったことがある。でも、モーユとは
雰囲気が違う。
「ねえ、モーユの知ってる人は、みんな尻尾があるのかい?」
「え? あの……尻尾はだれだってあるよ」
「スフィー、君の世界には尻尾を持った人間っているのか?」
「んー……グエンディーナにはいないよ。でも。そーゆー人達がいる世界もあるって、お
じいちゃんが言ってた」
 僕らの話をきいていたモーユは軽く小首をかしげる
「あの…スフィーとユースケ、シッポないですか?」
「うん。僕らの住んでいる町では、みんなシッポがないんだ。君達からみれば変わってる
かもしれないね」
 そして、僕らはモーユが追われていた事情を聞いた。
 追っていた男達は山賊で、モーユの住む村を何度も荒らしているらしい。
 モーユは村の他の子供達と森に山菜を採りにきていたのだが、山賊たちに見つかって追
いかけられたそうだ。モーユは他の子供とははぐれてしまったらしい。 
 僕たちはモーユを村まで送り届けることにした。
 森の中の細い道を歩いていると、前方から1人の女性が駆けて来た。裾が膝下まで届く
長衣をまとっている。長い髪を後ろでポニーテールにしていた。顔の両側に鳥の翼のよう
な飾りがある。もしかしてあれも耳なのか?
「みつけたぞっ! 山賊め!」
 その女性は僕たちの前で足を止め、居合いのような構えで腰を落とした。そのまま剣の
柄に手をかけた。
「エヴェンクルガの名において某(それがし)が成敗つかまつる。覚悟!」
 こちらにむかって突進してきた。

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