うたわれる☆アンティーク 第1話 投稿者:アホリアSS 投稿日:8月29日(木)00時35分
 この物語は『うたわれるもの』の世界を舞台に『雫』の長瀬祐介と『まじかる☆アンテ
ィーク』のスフィーのコンビが活躍するものです。
 それぞれのゲームのネタバレが入りますのでご注意願います。

 なお、前作『まじかる☆バスターズ』をお読みになっているとより楽しめると思われま
す。

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 ジュワワワワ……
 フライパンの上でホットケーキが焼けている。いいにおいがここまで伝わってきた。
「ほいっと……」
 スフィーがフライ返しを使ってホットケーキをひっくりかえした。
「祐介〜このぐらいいでいいのかな?」
「うん。ちょうどいい焼き加減だと思うよ」
 僕は平皿をスフィーに差し出した。スフィーがその上に焼き立てのホットケーキをのせ
た。
「リアン。クリームとシロップはどう?」
「はい。用意できてますよ。姉さん」
 リアンがニコッと笑って、手でテーブルの上を示した。準備OKのようだ。
「そう。じゃあ仕上げお願いねー」
「はい」
 リアンはホットケーキの上にクリームを乗せていく。その上からシロップを少しかけた。
最後にナイフを入れ、6等分にカットした。 
「できました」
「やったー! いただきまーす」
 スフィーはものすごい勢いで駆け寄り、ホットケーキにフォークを刺した。立ったまま
でほおばり始める。
「おいひーおいひーおいひー」
「ああ、こらっ! 1人で全部食うな! 3人で分けるはずだろうが」
 僕が止めた時はすでに遅かりし。できたばかりのホットケーキは全部スフィーが平らげ
てしまった。
「えへへ、ごめんねー。材料はまだあるし、次、作ろうか」
「姉さん。味のほうはどうでしたか?」
「んー…結花の作ったのと比べるとまだまだね。でもおいしかったよ。合格だよー!」
「よかったですね。姉さん」
「うん。これで毎日ホットケーキが食べれるんだよっ! うれしいよー!」
 スフィーが感動したように叫んでいる。今のスフィーはまるで子供のようだ。
「祐介さん。ありがとうございます」
 リアンさんが僕に向かって深々と頭を下げる。
「なあに、僕はたいしたことしていないよ」
 ちなみに、僕の名前は長瀬祐介。大学生だ。
 ちょっとした事件があって、魔法の国グエンディーナにきている。ここは一種の異次元
の世界といったところだろうか。この世界の住民のほとんどは魔法使いだ。意思の力でい
ろいろな奇跡を起こすことができる。
 半年ほど前、魔法使いのスフィーとリアンは僕たちの世界に修行のためにやってきた。
 スフィーは五月雨堂という骨董屋でホームステイをしていた。そこで、スフィーは五月
雨堂の店長である健太郎さんと恋人同士になった。
 半年間の修行期間を終え、スフィー達が自分達の世界に帰る日が来た。彼女達には元々
強制的にグエンディーナに帰還する魔法がかけられていた。
 スフィーは健太郎さんと別れるのをいやがり、魔法に対抗しようとした。が、帰還魔法
は強力で、スフィー達の力は及ばず、結局グエンディーナに帰ってきてしまった。僕はそ
の魔法の余波に巻き込まれて、一緒にグエンディーナまで来てしまったのだ。
 こっちにきてから知ったのだけど、スフィー達はこの国の王女様だった。
 僕がついてきたことで、国王や大臣の皆さんが当然のごとく驚いていた。最初は僕の記
憶を消して送り返そうとしたみたいだけど、僕が長瀬一族だと知って対応が変わった。
 僕の先祖もこのグエンディーナの人間だったそうだ。僕が持っている特異な力もたぶん
その影響をうけているのだろう。当分、『王女のご友人』という身分で王宮に住まわせて
もらうことになった。
 この国に来て6日間がすぎた。明日、元の世界に送り返してもらう予定だ。
 僕はこの国でいろいろと楽しませてもらった。不思議な魔法をみせてもらったり、おも
しろい話を聞かせてもらった。
 スフィーのおじいさんとも話をした。彼は長瀬家の話…とくに、源之助さんのことを知
りたがっていた。
 なつみちゃんの母親であるミュージィさんにも会えた。彼女からはなつみさん宛の手紙
を託された。映像と声の入った魔法の手紙だ。なつみちゃん、喜んでくれるかな。
 今、僕とスフィーとリアンはホットケーキ作りに挑戦している。こっちに来た翌日から
チャレンジしていたのだが、なかなかうまくいかなかった。
 小麦粉に牛乳、卵はこの世界にも元々普及している。バニラエッセンスは同じ物はなか
ったが、よく似た香りを出す葉が見つかったのでそれで代用した。
 シロップの代用品を探すのに最初は苦労した。この世界にある色々な甘味料を試したが、
同じ味が出せなかったのだ。が、王宮内にメープルの木、別名『さとうかえで』の木が見
つかり、あっさりと解決した。この国の人たちはメープルの樹液が蜜になることを知らな
かったようだ。
 で、今日になってようやく満足できる出来栄えになってきたところだ。
 スフィーが新たに焼く上げて、リアンがクリームを乗せて……あっ!
「おいひい、おいひいー」
 またスフィーが一人で食べまくってる。リアンが困ったような顔で笑ってるな。
「スフィー、僕らの分は?」
「ごめーん。次、作るね」
 口元にクリームをつけたまま、スフィーは笑った。
「じゃ、今度は僕が作るよ。スフィーに任せてると、全部食われちまいそうだから」
「ああ、それってひどくない? ひどくない?」
「スフィーはもう2枚も食べたろ。今度は僕とリアンの分だよ」
「ふっふっふ…甘いわね。結花の店ではいつも15枚は食べてたわよ」
「まったく、その身体のどこに入るんだろう……」
 スフィーは魔法を使いすぎると身体が低年齢化する。ようするに小さくなるのだ。
 実年齢は22歳だと聞いているが、今はどうみても小学生の体型だ。
「えへへ… ホットケーキは別腹だもんねー」
「わけのわからないことを… よいしょ…」
 話しながら、僕はホットケーキを焼きあげた。自分でクリームとシロップをかけた。そ
して切り分けた。半分、別の皿に移してリアンに渡す。
「ありがとうございます。祐介さん」
「それじゃ、いただきまーす」
 一切れ口に運ぶ。ふむ……まぁ、普通のホットケーキだ。
「う〜〜〜〜〜〜」
 スフィーが物欲しそうにこっちを見ている。無視して食べよう。
「う〜〜〜 リアン、一切れだけちょうだい」
「え? あ、はい。どうぞ」
「ダメだってば! 食べたきゃ自分で作ればいいだろう。材料余ってんだからさぁ」
「なによぉ。ちょっとぐらいいいじゃない」
「ちょっとですまないからダメだと言ってんだよっ」
 僕とスフィーが言い争うのを見て、リアンがおそおろしていた。
 結局、リアンは一切れだけ自分で食べ、残りはスフィーが食っちまった。その後材料が
切れるまでホットケーキ作りが続いたが、リアンはぜんぜん食べられなかった。まったく
もう……


 その夜、僕が寝ている時、ドアをノックする音で起こされた。そこは王宮内に用意され
ている客室だった。
「祐介? 起きてる?」
「スフィー? ちょっとまって」
 扉を開けた。そこに外出着のスフィーが立っていた。
「どうしたの? こんな時間に。それにその格好……」
「祐介、すぐ着替えて。今から祐介の世界に連れてってあげるから」
「え? 帰るのは明日のはずだろ?」
「明日になったら、記憶消されちゃうよ。だから今すぐ帰らなきゃ」
 スフィーの話では、明日、僕がこの世界で見聞きした記憶は全て消されてしまうらしい。
スフィーやリアンのことも含め、グエンディーナに関する全てを忘れた状態で送り返され
るそうだ。
 そうなる前にスフィーが僕を元の世界に戻してくれるそうだ。グエンディーナの記憶を
残したままで…
 確かにスフィー達のことを忘れてしまうのはいやだ。それに、記憶を消されたらなつみ
ちゃんへの手紙のことも忘れてしまうかもしれない。それは困る。
「わかった。用意するからちょっと待ってて」
 いったん扉を閉め、寝間着を脱いだ。こっちに来るときに着ていた服は別の部屋にある。
取りに行くのはちょっと面倒だな。
 かわりに、王宮でもらった訓練用の服を着た。
 僕は昔、ガディムやラルヴァといった異世界の魔物たちと戦ったことがあった。そのこ
とを王宮で話すと、衛士達の戦闘訓練に参加してほしいと頼まれた。
 衛士達はみな魔法使いだ。僕はその訓練で新しい技をいくつか身につけることができた。
 この服は実用にも使えるようになっていて、防弾防刀チョッキのような性能もある。ま
た、攻撃魔法もある程度防げるらしい。
 特に荷物はない。なつみちゃんへの手紙だけを服の内ポケットに入れた。
「おまたせ。じゃ、いこうか」
 僕とスフィーは忍び足で王宮の通路を進んだ。元の世界に戻るには、王宮内の魔法陣の
ある部屋までいかなきゃならないそうだ。
 途中、何度か衛士や小間使いの人に見つかりかりそうになり、なんとか隠れてやりすご
した。
 目的の部屋の扉が見えてきた。その時…
「スフィー様? どうなされました?」
 衛士の一人に見つかってしまった。
「やばっ! 祐介、走るわよっ」
 おいっ。走れば怪しまれるだろう。適当にごまかすべきだったんじゃないのか?
 すでに手遅れなので僕も全力で走った。
 目的の部屋に駆け込む。扉を閉めて中から鍵をかけた。床の中央に円形の模様が描かれ
ている。これが魔法陣だな。
 僕達は魔法陣の真ん中に立った。スフィーはペンダントを取り出してしきりにいじって
いる。
「えーと、えーと、こうだったかな。違う。こっちをこうして…」
 何だか試行錯誤しているようだ。つっこみたい気持ちはやまやまだが、余計なことを言
うと気が散るだろうなぁ。
 部屋の外では騒がしくなってきた。外から扉をどんどんと叩く音がする。
 スフィーは難しい顔でペンダントをいじっている。ふいにその表情が明るくなった。
「よし、できた。じゃ、行きましょう」
「ちょっと待って。スフィー。僕だけを送り届けるんじゃないの?」
「何言ってんのよ。あたしもけんたろの所にいきたいもん。いっしょに行くよー」
「……それが本当の目的だったわけだね」
 どかーんと音がして扉が破られた。
 と、思ったところで周りの情景が反転した。転送魔法が働いたのだろう。
 最後に、怒りの表情でどなっている王様と、笑顔で手を振っているリアンが見えた。


 辺りは、真っ白になっていて何も見えない。スフィーの気配は隣で感じられるがよく見
えなかった。
 が、やがて、霧が晴れるように辺りの風景が見えるようになってきた。
 ここは……?
 元の世界に帰ってきた……とはちょっと思えなかった。
 周りを見ると、日本では考えられないような大木に囲まれている。ものすごい密林だ。
「スフィー… ここ、どこだ?」
「てへっ、ちょっと間違えちゃった」
 スフィーが笑って舌をだした。

(つづく)

http://www1.big.or.jp/~roadist/leaf/al04.htm