まじかる☆バスターズ(8) 投稿者:アホリアSS 投稿日:6月22日(木)01時29分
 あたしはアストラルバスターズの新城沙織。あたし達アストラルバスターズは、五月雨
堂という骨董屋に集まっている。
 そこには健太郎さんとスフィーちゃん、それにスフィーの妹のリアンちゃんって子もい
た。スフィーちゃんが魔法使いだというのはこれまでの調査で薄々気づいていた。でも喫
茶店で出会ったあの子がスフィーちゃんの妹だというから驚いた。スフィーちゃんは魔法
の使い過ぎで小さくなっているが、本当はあたし達より年上とのことだ。

 あたし達は健太郎さんたちも交えて、なつみちゃんの幻影について話し合った。なつみ
ちゃん本人は、やはり魔女の血をひいているらしい。なつみさんのお母さんは、魔法の国
グエンディーナに住んでいて、スフィーちゃん達の魔法学校の先輩だということだ。 
 あの幻影は、なつみちゃんの魔力が暴走してできたものらしい。その暴走を止める方法
について話し合った。スフィーちゃんの意見では、魔法の使い方を勉強して制御できるよ
うになれば、大丈夫だろうということだった。
 でも、祐くんの考え方は違っていた。幻影にも心があり、なつみさん本人の心と離れ過
ぎているというのだ。今のままでは、魔法を身につけるのは難しいだろうと言う。リアン
ちゃんはずいぶん考え込んでいたが、最後には祐くんの意見に賛同した。祐くんってやっ
ぱりすごい。本職の魔法使いに意見できるなんて。
 そこで、スフィーちゃん達の力で幻影をいったん封じておき、後でなつみちゃん本人に
魔法を教えようってことになった。

 祐くんは健太郎さんの家の一室を借り、部屋の中に一人でいる。あたし達は部屋の外で
待機することにした。あたしは部屋の扉にコップを当てて、そこに耳を当てている。こう
すれば部屋の中の物音がよく聞こえるのだ。スフィーちゃんもお椀で同じようなポーズを
取っている。今のところ、何も音が聞こえない。
「…きたよ……」
 あたしの後ろで瑠璃子ちゃんがささやいた。なんでわかるんだろ? 私はじっと耳を済
ませた。

「こんばんは、なつみさん」
 祐くんの声が聞こえた。ほんとうに来たんだ。あたしは全身を耳にする様な気持ちで集
中した。

「……いや、違うよ…… 君にききたいことがあったから…」
 ・・・・・・・・
「好きと言えるほど、付き合いは長くない。でも、嫌いだと思う理由はあるよ」
 ・・・・・・・・
「それを素直に信じる気にはなれない。半分は嘘だろ?」
 ・・・・・・・・
「確かに……君はなつみさんの正直な心と言えるかもしれない。でもそれは、自分に嘘を
つかない、欲望を我慢しないという正直さだ。誠実という意味じゃないんだよ」

 ……? 聞こえるのは祐くんの声だけだ。なんか電話で話しているのを横できいてるみ
たいだ。その時、横にいるスフィーちゃんが小さい声で言った。
「音じゃなくて魔力で声を伝えてるんだよ。限定された空間でしか聞こえない。たぶん部
屋の中に入れば聞こえるよ」
 てことは、部屋に入るまでなつみちゃんの声は聞こえないってことか。出番が来るまで
ここで祐くんの声をきいて…… あれ? あたしに出番ってあったっけ? スフィーちゃ
んとはリアンちゃんで幻影を封印して、それからなつみちゃんに魔法を教えてめでたしめ
でたし…
 あう。あたしの活躍の場はなさそうね。と、とりあえず祐くんの声をきいていよう…

「…君がこのまま好き勝手な行動を続ければ、確実に本体…いや、もうひとりのなつみさ
んに被害が及ぶ。そうなるたびにふたりの心がどんどん離れていくんだ。それに魔力の乱
用がなつみちゃんの身体に負担をかけている。放置しておくのは危険なんだ。君の方で…
出るのを手控えることはできないのか?」
 ・・・・・・・・
「そうか… なら、ほんのしばらくの間、辛抱していてほしい」
 ・・・・・・・・
「スフィーちゃん!」
 祐くんの声と同時に、スフィーちゃんがドアをばんっ!と開けた。スフィーちゃんとリ
アンちゃんが素早く部屋に入った。
「そこまでよっ!」
 スフィーちゃんがビシッと指さした。その先には、全裸のなつみちゃんの幻影が立って
いた。続けて、リアンちゃんも一歩進み出る。
「この部屋を完全に封鎖しました。もう外へ出ることはできません!」
「なつみ、よく聞いて! これは全部、なつみのためなの! このまま放っておくと、な
つみから魔力がどんどん抜け出していくわ。五月雨堂で多少補給しても、とても足りない。
このままじゃ、あなたは魔力を使い果たして、最悪死んじゃうかもしれない!」
「・・・・・・・・・・・・」
 なつみちゃんの幻影はキッとスフィーちゃんをにらんでいる。
「今のなつみは魔法を制御できない。だから…魔力そのものを封じさせてもらうよ!」
 スフィーちゃんとリアンちゃんが魔法の呪文を唱え始めた。

「封じる? 私を、封じるの?」
 なつみちゃんの幻影が言った。
「違うよ、そんなの… どっちかが本当でどっちかが偽りってことじゃない… どっちも
『本当のなつみ』だよ。ふたりをあわせて『なつみ』なのに… みんなはあっちのなつみ
が好きなの? こっちのなつみは嫌いなの? 嫌いな方は封じてしまうの? そんなの嫌
だ。否定しないで! こっちのなつみを否定しないで!」
 幻影が叫んだ。
 呪文を唱えるスフィーちゃんとリアンちゃんの身体が淡く光っている。二人の魔法で幻
影は封印されるだろう。祐くんの方を見ると、真剣な目で幻影を見つめている。

「いや… …私は… 封じられたくない!」
 突然、幻影がまぶしい光を放った。あたしはとっさに目を覆っていた。光が消えた時、
幻影の姿はなかった。
「封印…したの?」
 あたしはスフィーちゃんに聞いた。
「ううん。できなかった。ありったけの力で抵抗されちゃった」
「そ、そうなの? じゃあ別の手を考えなきゃいけないね」
 その言ったあたしの横を、すごい勢いで瑞穂ちゃんが通り過ぎた。そのまま瑞穂ちゃん
は祐くんに走り寄った。
「祐介さんっ! 祐介さんっ! しっかりしてくださいっ!」
「え? 祐くん? どうしたの?」
 あたしもあわてて駆け込む。祐くんは目を閉じてぐったりしている。さっきのショック
で気絶したのだろうか。
「祐介さんの心は、なつみさんに取り込まれたんです。なつみさんの心の世界に」
 リアンちゃんがとんでもないことを言った。あたしは祐くんのホッペをペチペチとたた
いた。
「祐くん。祐くん! 起きてよっ! ちょっと、スフィーちゃん、リアンちゃん、魔法で
何とかできないの?」
「難しいわね。無理に連れ戻そうとしたら、祐介さんの心の一部があっちに残ってしまう
可能性があるのよ。なつみが自分から祐介さんを開放しない限り、無理ね」
 スフィーちゃんが言う。
「そ…そんな…」
 瑞穂ちゃんは半泣きになっている。あたしだって泣きそうだ。瑠璃子ちゃんを見ると…
 あれ? いつも通りだ。
 瑠璃子ちゃんは祐くんの横に座り、そして膝枕に祐くんの頭を乗せた。
「……違うよ… 出てこようと思えば、長瀬ちゃんは自分で出てこれるよ…」
 瑠璃子ちゃんが落ち着いた声で言う。
「長瀬ちゃんは自分からあの世界に行ったんだよ。……昔… そうやってお兄ちゃんを助
けてくれた…」
 そんなことあったっけ? あ、ガディムやラルヴァと戦った時のことかなぁ? 
「ほら…沙織ちゃん…瑞穂ちゃん…… 長瀬ちゃんの声が聞こえるよ」
 瑠璃子ちゃんがあたしたちの方に手を出した。あたしたちはそっとその手をとる。

 ちりちりちりちりちりちり……

 聞こえる。どこかで祐くんの声が…。なつみちゃんの声も聞こえる。これが祐くんの…
じゃない、なつみちゃんの心の中で起こっていることなのね。
 ふたりの話を聞いていると、なつみちゃんが駄々をこねていて、祐くんがいくら話しか
けてもラチがあかないように感じる。

「祐介さんの声が聞こえるんですよね。では、こちらの声を祐介さんに伝えてもらうこと
はできますか?」
 リアンちゃんの声に、瑠璃子ちゃん答えた。
「…できるよ。何て伝えるの?」
「今、祐介さんの前にいるのは、なつみさんの魔力が生んだ影みたいなものです。その世
界にはもうひとり、本体のなつみさんがいるはずです。もう一人のなつみさんを探しだし
て、説得してください」
「わかった。今、伝えるね」
 瑠璃子ちゃんの心の声が祐くんに伝わった。あたしも祐くんに呼びかけようとしたけど、
スフィーちゃんに止められた。
「必要以上にあまり話しかけない方がいいよ。なつみにも聞かれるかもしれないし、それ
に祐介さんの集中力を乱すだろうから」
 しかたない。今回は聞き役に徹しよう。

 祐くんと本体のなつみちゃんはすぐに会えたようだ。今度は本体と幻影が話し始めた。
自分同士だからすぐに解決すると思ったけど、それは甘かった。結構もめている。

『私のしてることは、あなたが心の中で本当にしたいと思ってることなんだよ… 私は正
直に行動してるだけ… そしてあなたはココロを偽ってるだけ…』
『そ、そんなことない… 私は…』
『いずれにせよ、魔力は私が支配している。あなたには何も出来ないのよ…』
『どうして? どっちも同じなつみなのに…』
『同じだけど、同じじゃない… 同じになりたいけど…同じになれない… あなたが私を
拒んでいるから…』

 う〜む…どっちが本体でどっちが幻影なのかはっきりわかる。負けてる方が本体だ。な
つみちゃん頑張れっ! …って呼びかけちゃいけないのね。祐くんも口出しせずに黙って
きいてるようね。

『…慎一を誘惑したのは、私… べつに好きでもなかったけど、男の子に興味があったか
ら… 倫子から慎一を奪ったのは、私… 毎日飽きもせずに慎一のことを話す彼女がうっ
とうしくて、羨ましかった…』
 そんなことだろうと思ったけど、改めて言われるとムカツクわね。親友の倫子ちゃんを
泣かして平気なの?
 しばらく聞ていると、幻影は今までの所業の数々を淡々と話している。自慢しているん
じゃない。それらはぜーんぶ、本体のなつみちゃんが望んだことだって言ってる。

 え? じゃあ、今まで幻影がやってきたことは本物のなつみちゃんのせいだっての?  
でも、それってなんか変だよね。あたしだって聖人君子じゃない。悪いことを考えること
もあるし、やってはいけないことをやってみたいと望むことだってあるよ。でも、同時に
『そんなことはやりたくない』って気持ちもあるはずなんだ。人を傷つけたり苦しめたり、
そんなことは嫌だって思っているんだ。
 なつみちゃんだって、人を傷つけたいって思うことがあっても、同時に傷つけたくない
って考えも持ってたんじゃないかなぁ…

『本人は魔法を否定してるくせに… なのに都合のいいときだけ、私を使って… 自分で
やってることを認めずに… 責任から逃れようとしている…』
『わ、私… 私は…』
 本体の方は幻影に押されっぱなしのようだ。その時、祐くんの声がきこえた。
「そこまでだ。もうそのぐらいでいいだろう。自分で自分を責めるのは」
『祐介さん…』
「どちらのせいとか…どちらが悪いとかいうことじゃないんだ。もともと一人のなつみさ
んしかいないんだよ。ふたつの心が互いに反発しあっているけど、相手を受け入れればい
いだけじゃないのか」
『……うん、そうだよ』
『で、でも…受け入れるって… …どうしたらいいか、私……』
『知ってるはずだよ… どうすればいいかなんて…』

 どっちがどっちだかよくわからなくなった。でも、祐くんの仲裁で話がまとまりそうだ
ね。さっすが祐くん。
 あれ…なにやってんだろ? 祐くんが何か驚いてるみたいだ。服とか裸とか言ってるけ
どまさか……

『そう… それが、私を肯定することだから。さあ、あとは正直な気持ちを言葉にするだ
け… 私と同じことを… 一番したいことを、素直に口にして…』
『祐介さん… 私を…愛してほしい… …こんな私だけど…』
『…私も…同じだよ…』

 ・・・・・・・・・・・はい? 今、こいつら何て言った? 祐くんと何をやろうとし
てるんだ?
 横を見ると、瑞穂ちゃんは蒼白になっている。瑠璃子ちゃんの表情もいつになく固い。
冗談じゃない、これは何がなんでも止めないと…
「待ってください。止めてはいけません」
 リアンちゃんが小声で言った。
「なんで? あたしの祐くんが他の女の子とエッチするかもしれないんだよ。まさか傍観
してろっていうの?」
「え? …あ、それはですね。一種の治療だと思ってください。祐介さんがご存じなのか
どうかはわかりませんが、なつみさんの魔力を安定させるにはあれが一番よい方法なんで
すよ」
「そ、そんなこと言ったって… 瑞穂ちゃんはどう思う? 許せないよね、やっばり」
「わ…わたしは…わたしは祐介さんを信じています。たとえ他の人を抱いたとしても…そ
れでも信じ…続けます。ぐすっ」
「る、瑠璃子ちゃん、祐くんを止めてよ。ねえ、やめさせてよぉ」
「…長瀬ちゃんは私とお兄ちゃんを助けてくれた… 今度はなつみさんを助けようとして
いるんだよ。…私…長瀬ちゃんの邪魔はできない…」
「あ…あたしは嫌だよっ こんなの間違ってる…間違ってるよっ! 瑠璃子ちゃんも瑞穂
ちゃんも変だよっ」
「沙織ちゃん…ここは長瀬ちゃんに任せよう。今は長瀬ちゃんを待つこと。それが私たち
の…アストラルバスターズのやるべきことじゃないかな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 あたしは何も答えられなかったけど、しぶしぶうなずいた。祐くんは優しいから…優し
過ぎるから…こんな時でも女の子に優しくしちゃうんだろうな。でも、あたしは祐くんが
嫌いにはなれない。 

 悪夢のような時間が過ぎた。なつみちゃんと幻影はひとつになれたようだ。

 そして、祐くんが目を開けた。
「・・・・・・・・・・」
 相変わらず祐くんは瑠璃子ちゃんの膝枕で寝そべっている。あたしと瑞穂ちゃん、それ
に瑠璃子ちゃんはじっと祐くんの目を見つめていた。
「・・・・・・・・・え〜と、ただいま」
 祐くんの声にも、あたしたちは無言だった。

「あ、祐介さん、ご無事で何よりです。なつみさんの魔力は安定したみたいですよ。無駄
な魔力の放出がなくなってます。もう何も心配いらないですよ」
 リアンちゃんはそう言いながら、後ずさりして部屋から出た。
「そう? それはよかった」
 祐くんが身を起こした。
「ゆ…祐介君… 今夜はもう遅いし、泊まっていってくれ。それじゃ…」
 健太郎さんは逃げるように部屋を離れた。
「なるべく部屋のものは壊さないでね〜」
 スフィーちゃんも逃げていく。
 そして部屋の中にはあたし達四人が残された。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「……もしかして、聞こえてた?」
 祐くんは頬をポリポリかきながら、こう言った。
「聞こえてたわよっ。祐くんのスケベッ! エッチッ! ヘンタイッ!」
「さ、沙織ちゃん、落ち着いて……聞いてくれっ」
「落ち着いてられるわけないでしょっ! 女の子だったら誰でもいいのっ! このっ!
このっ!」
 あたしは祐くんの頭をポカポカたたいてた。
「違う、誤解だっ! 僕はやってないっ!」
 え? 嘘…
「イメージの世界だから、実際には指一本触れていないだろ。それに…あの世界の中でも
僕は入れてないし、出してもいない。なんて言えばいいか…そう、Bしかやらなかったん
だ。それ以上はやる必要もないからね」
「あの… 祐介さんは知ってたんですか? エッチなことすれば、なつみさんが助かるっ
て…」
 瑞穂ちゃんが聞いた。
「知っていたわけじゃない。ただ、心の世界に入ったら、なんとなくそう思ったんだ。間
違ってなかったよね」
「…長瀬ちゃん……」
「な、何? 瑠璃子さん……」
「…口紅…ついてるよ……」
「え?」 
 祐くんはあわてて、両方のほっぺたを手でこすってた。なんだ…口にはやってないのか。
「くすくすくすくすくすくす……」
「ふふ……」
「あははははは……」
「え? え? あ〜! 瑠璃子さん、からかったんだね。口紅なんか付くわけないじゃな
いか」
「浮気した罰だよ。長瀬ちゃん」
「あ、ごめん。もうしないよ。約束する」
「くすくすくす…… じゃ、あたしの質問に答えてくれたら許してあげる」
 そう言いながら、瑠璃子ちゃんはあたしと瑞穂ちゃんをチラッと見た。何を言おうとし
ているかすぐわかった。瑞穂ちゃんも気づいたはずだ。
「何?」
「私達三人のうちで…」
 瑠璃子ちゃんの声が途中で止まる。
「誰が一番好きなのか…」
 瑞穂ちゃんの声が後に続いた。次はあたしだ。
「今ここではっきりさせ… あっ! 待てっ!」

 祐くんは脱兎のように部屋から飛び出していった。

「逃げちゃった…」
「行っちゃいましたね」
「はぁ…相変わらずだね、祐くんは… でも、これでなつみちゃんの方は一件落着か」
「それはそうですけど… 今度は本物のなつみさんが祐介さんにちょっかいを出してきそ
うですね」
「ふんっ、絶対に負けないもんっ! もちろんあなた達にもね」
「わたしも…負けたくありません」
「負けないよ。絶対」
「あははははは……」
「ふふ……」
「くすくすくすくすくす……」

 こうして、美少女探偵団アストラルバスターズの活躍によって、事件は無事に解決した
のであった。まる。

(つづく)

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