まじかる☆バスターズ(5) 投稿者:アホリアSS 投稿日:6月16日(金)00時15分
 わたしは藍原瑞穂です。いろいろな事情があって、沙織ちゃんと一緒に『五月雨堂』と
いうアンティークショップに向かっています。

 発端は沙織ちゃんの後輩の身にふりかかった事件でした。牧部なつみさんという女の子
の幻影が毎晩のように出てきたそうです。しかも裸で。ここ最近は出なくなったというこ
とで、その事件は一応おさまったかの様に見えました。
 しかし、あろうことかその幻影が祐介さんの家に出てきてしまったのです。これは一大
事です。祐介さんがそう簡単に誘惑されるとは思いませんが…祐介さん優し過ぎるし…
これ以上ライバルを増やしたくはありません。わたし達は事件の手がかりを求めて、なつ
みさんが毎日訪問しているというアンティークショップを調べることになりました。

「沙織ちゃん、お店を調べる意味ってあるのでしょうか。慎一さんの所に幻影がでてたの
は、なつみさんがこっちへ引っ越してくる前ですよね」
「甘いわね、瑞穂ちゃん。事件は会議室で起こってるんじゃない、現場で起こっているの
よ」
「現場って…祐介さんの部屋はわたし達で散々調べたじゃないですか」
 あの時は大変でした。沙織ちゃんは祐介さんのベッドの下から変な本を引っ張りだして
るし、瑠璃子ちゃんは祐介さんの日記を読み上げてるし… とうとう祐介さんも怒り出し
て、わたし達は危うく出入り禁止になるところでした。
「一度言ってみたかったの、さっきのセリフ。冗談はおいといて、あのお店はことだよね。
今回の件には無関係かもしれないけど、祐くんの話じゃ、あのお店のスフィーちゃんって
いう女の子から、幻影と同じ気配を感じたそうよ。ひょっとしたら何か手がかりがあるか
もしれないよ」
「それでは、今回はスフィーさんという方となつみさんという方に会うのが目的なんです
ね」
「そうそう。でもいきなりズバリときくわけにもいかないよね。初めは骨董品の話でもし
て信用を得るっていう作戦でいこう」
「あの…わたし、そんなに骨董に詳しくないですよ…」
「大丈夫大丈夫、あたしなんか全然知らないんだよ」
 …不安です。

 やがて、五月雨堂に着きました。ウィーン…と自動ドアが開きました。店に入った時、
不思議な雰囲気を感じました。でも、嫌な感じではありません。なかなかいいの店ですね。

「いらっしゃいませ〜 …あれ? 新城さんだっけ」
 若い店長さんは沙織ちゃんのことを覚えていたようです。
「健太郎さん、こんにちは〜 あ、こっちは友達の瑞穂ちゃん」
「藍原瑞穂です。よろしくお願いします」
「こちらこそ。今日は何か捜し物でも?」
「ううん。あたし達、こういう店に来るのは初めてだから、どういうのがあるかなと思っ
て、見てっていいかな? あ、スフィーちゃんはいないようね」
 沙織ちゃんはわくわくしているような表情です。
「どうぞどうぞお気軽に見ていってください。スフィーはさっき買い物に出たからしばら
く戻って来ないよ」

 わたし達は店内に置かれた品々を見ていきました。壺に香炉、人形、オイルランプ、茶
道具、食器、兜に置物…いろいろなものが並んでいます。壁を見ると掛け時計に油絵、水
墨画に掛け軸、お面などがありました。数多くの骨董品がきれいに並べられています。品
物も店内も掃除がいきとどいているようです。素敵なお店ですね。
「ねえねえ、瑞穂ちゃん。この壺、面白い形だね」
「あ、これは火鉢ですよ。中に火のついた炭を入れて暖をとるんです」
「へえ〜…昔のストーブなんだ。あれ、これは何だろ… ステッキにしては短いし、警棒
かな?」
「くす… それは望遠鏡ですよ」
「え? あ、ほんとだ〜よく見える〜」

 わたし達は陳列された骨董品をひとつひとつ見ていきました。わたしは小さな木箱を手
にとってみました。蓋を開けると音楽を奏で始めました。これはやはりオルゴールだった
んですね。
「へ〜…いい曲だね。そういえば、瑞穂ちゃんっていつもオルゴールを持ち歩いてなかっ
た?」
「はい、今も持ってますよ」
 わたしは肩から下げているナップザックを軽くたたきました。この中にわたしの宝物で
あるオルゴールが入っています。
「よっぽど大切なんだね、それ」
 言いながら、沙織ちゃんはニコッと笑いました。と、思ったら何か見つけたのか、沙織
ちゃんはお皿を展示してある棚の方に駆け寄りました。
「ねえ、瑞穂ちゃん、これってかわいいお皿だね」
 沙織ちゃんは一枚のお皿を指さしました。二匹のウサギさんの絵が描かれています。伊
万里焼でしょうか…
 わたし達の話をきいていたのか、健太郎さんが寄ってきました。
「けっこういいお皿だろ。白いのがお姉さんウサギのましろ、黒いのが妹のまくらってい
うんだ」
「あはは、変な名前〜… でも、素敵なお皿だよね。へ〜…姉妹なのかぁ…」
「沙織ちゃんと瑞穂ちゃんは兄弟はいるの?」
「あたしは一人っ子だよ」
「わたしもです」
 兄弟や姉妹がいるご家庭がちょっと羨ましいです。お皿の中の二匹のウサギもとても仲
がよさそうですね。それにこのお皿… あれ? やっぱり…
「どうしたの? 瑞穂ちゃん」
 お皿をじっと見ているわたしを不審に思ったのでしょうか、沙織ちゃんがききました。 
「いえ…なんとなくですけど、このお皿は生きている様な気がして…」
「生きてる? お皿が?」
「魂が宿っているような…何かの力を感じます」
「ふ〜ん…あたしにはよくわからないなぁ… 健太郎さんはどう思う?」
「え? ああ、こういう古い物にはそんなこともあるかも知れないな…ははは…」
 健太郎さんはあいまいに答えました。

 わたしは、この店に入った時から気になっていたことがあります。健太郎さんに聞いて
も大丈夫でしょうか…

「健太郎さん、このお店って不思議な感じがしますね」
「そお? どんな感じかな?」
「お店全体が目に見えない不思議な力で満たされている様な… なんとなく空気が違う様
な気がするんです」
「へ〜… 瑞穂ちゃんもそう思うんだね。俺にはよくわからないんだけど、他にも似たよ
うなことを言ってた人がいるんだよ」

 その時、自動ドアが開く音がしました。そちらを見ると、学生服を着た女の子が入って
きました。もしかして、この子…
「お、噂をすれば… こんにちわ、なつみちゃん」
「噂って…私の話をしてたの?」
「そうだよ。あ、紹介しよう。こちらが新城沙織さんと藍原瑞穂さんだ。で、こっちが牧
部なつみちゃん」
 わたしはなつみさんに軽く頭を下げました。なつみさんは、沙織ちゃんの方をじっと見
ています。
「あの…新城先輩…ですよね。中学でバレー部のキャプテンをやってた…」
「あれ? あたしの事を知ってるの?」
 沙織ちゃんがききました。
「うん。先輩、すごく有名だったから… 先日はどうもありがとうございました」
「先日…? あ、あれかな。駅前でナンパされてたの、なつみちゃんだったのね」
 沙織ちゃんは、たった今思いだしたかのように言いました。名演技です。
「はい。おかげで助かりました。ところで…私の噂って…?」
 これには健太郎さんが答えました。
「なつみちゃん、ここに来ると疲れがとれるって言ってたよね。その話」
「うん、ほんとうだよ。ここに来た時と来ない時だと、疲れの取れ方が全然違うよ」
「瑞穂ちゃんも、この店には見えない力があるっていうんだよ。そうだね?」
「はい、不思議な雰囲気に包まれているような気がします」
 わたしは改めて店内を見回してみました。やはり、何か感じます。温かいお風呂にゆっ
たりとつかっているような感じでしょうか。
 なつみさんも店内をぐるりと見回して、言いました。
「やっぱり何かあるよ。この店…それとも骨董品には、かな」
「う〜む…」
 健太郎さんは、腕組みをして何か考えています。
「どうしたの? 健太郎さん」
 沙織ちゃんがききました。
「いや、この五月雨堂のパワーについて考えてたんだけど。もしかしたら根拠があるのか
もしれない」
「根拠?」
 なつみさんが首をかしげました。
「よく、古いものには魂が宿るって言うだろ? あれを実話だと想定する。うちの骨董品
は古いもので二百年、そうとう質のよい魂が宿っているはずなんだ」
 健太郎さんは目を輝かせながら話しています。
「しかも、ひとつやふたつじゃない。これにも、あれにも、あいつにも、そういう魂が宿
っているとしたら…この店には、相当なエネルギーが集まってるっことだ。それがこの五
月雨堂の力じゃないかな」
 わたしもその意見に賛成です。さっきのウサギのお皿からは確かに力を感じました。他
の骨董にもわずかながらも何かの力がありそうです。店中の不思議な力が集まれば、もの
すごいエネルギーになるかもしれません。

 その時、なつみさんがぷっと吹き出しました。
「ふふっ、意外… 店長さんってロマンチストなんだ。さすがは骨董屋さん」
 なつみさんはあまり信じていないようです。そういえば現実主義者といわれてたんです
ね。もっとも、なつみさんの反応が普通なのかもしれません。わたしや沙織ちゃんは何度
も非現実的な体験をしているので、そういう話を理解しやすいのですが…
 健太郎さんがあわてたようにいいました。
「いや、そういうんじゃなくて、実は知人にその手のプロがいて、そいつが言ったんだ」
「その手のプロって、何?」
 なつみさんがたずねました。それ、わたしもききたいです。
「プロってのはだな、その……魔法使い…かな?」
 魔法使いですか? わたしと沙織ちゃんが顔を見合わせました。どうやら同じ人を想像
したようです。来栖川財閥のお嬢さんで芹香さん。あの方には今回の幻影の件でも電話で
相談させていただきました。芹香さんが言うには、魔法を使えばあのような幻影を出す事
は不可能ではないそうです。

「あの…もしかして… いまの、笑うとこ? つっこみにくくて困るんですけど、そうい
うの」
 なつみさんは全然信じていないようですね。
 健太郎さんが返答に窮していると、なつみさんはすこし寂しげな表情になってつぶやき
ました。
「でも、魔法使い、か… ちょっと懐かしいこと、思い出しちゃった…… グエンディー
ナっていって……」
 グエンディーナ? どこかできいたような…
「ああ、魔法の国の」
 健太郎さんの言葉で思い出しました。子供の頃に読んだ絵本ですね。うちの押し入れの
中にまだしまってあるはずです。
「え? 店長さん、知ってるの?」
「……なつみちゃんこそ……」
 なつみさんと健太郎さんがお互い、きょとんとした顔をしています。絵本の話ではない
るでしょうか。きいてみましょう。
「もしかして、『グエンディーナの魔女』という絵本の話ですか?」
「うん。へえ…あの本、あまり有名じゃないと思ってたんだけど、けっこう知られている
んだね」
 なつみさんが感心したようにいいました。
「え〜…みんなずるーい。あたしだけその本のこと知らないんだよ。ねえねえ、その本っ
てどんな話なの」
 沙織ちゃんが言いました。続けて健太郎さんも。
「あ…俺も、その本のことは知らないんだ。どんな話か教えてくれないか?」

 わたしはその絵本の内容を良く覚えていますので、その話をしました。
 魔法の国グエンディーナから見習いの魔女が修行のために訪れます。名前はミュージィ。
彼女はひとりの男の子と出会い、町でいろいろな事件を解決します。その経験により、や
がて見習い魔女は一人前の魔法使いへと成長していくのです。

「ミュージィが出会った男の子は…少し気が弱そうに見えるんですが、実はしっかりして
て、とても優しいんです。まるで…」
 わたしが言いかけたところを沙織ちゃんが続けました。
「それって、祐くんに似てるんだね」
「はい。その男の子…トムっていう名前なんですが、祐介さんにそっくりですごく素敵な
んですよ。最後は魔女とトムは別れてしまうんです。とても寂しいですが、あたたかい終
わり方でした」
「へ〜… 瑞穂ちゃん、その本、まだあるの?」
「はい。うちを探せばあるはずですよ。今度お見せしましょうか」
「あ、みたいみたいっ」
「俺もよかった見てみたいな」
 なんとなく健太郎さんは真剣な顔で言いました。
「いいですよ。こんど持ってきますね」
「新城先輩…もしかして、祐介さんって…こないだ先輩と一緒にいた人?」
 なつみさんがききました。
「そうだよ。へへ〜…かっこいい人でしょ。あたしの彼氏なんだよ」
 沙織ちゃん、勝手な事言ってます。祐介さんはまだはっきりと選んだわけじゃありませ
んよ。わたしにだってチャンスが…
 なつみさんは何かを思い返す様な遠い目をしながら言いました。
「一度会っただけですけど…あの時私も…祐介さんが絵本のトムに似てる様な気がしまし
た」
 そうですよね。あの優しさと芯の強さ…よく似てます。ふだんは物静かで、内に闘志を
秘めるタイプですよね。
「そう? その絵本ってみたことないんだけど…あたしの祐くんの方が百倍かっこいいん
じゃないかなぁ」
 もう……沙織ちゃんたら…あの素敵な絵本を読んでないからそうな風に思っちゃうんで
すよ。これば絶対に沙織ちゃんに読んでもらわないと…


 すこし絵本の話をした後、わたし達は五月雨堂を出ることにしました。なつみさんに聞
きたいことはたくさんありますが、まだ早いでしょう。今日のところは軽く話すだけにし
よう、と予め打ち合わせをしていました。
 何も買わずに出るのも変なので、沙織ちゃんは銀製のティーカップを、わたしは小さい
信楽焼の置物を買いました。その置物は普通とは形が違ってて、タヌキというよりクマの
ようにも見えます。お店の骨董品の中で感じた不思議な力…、このタヌキさんからはそれ
が特に強く感じられました。

 わたし達が五月雨堂を出て、自動ドアがしまりました。その時…わたしは異様な気配を
感じました!

「沙織ちゃん、あぶないっ!」
「くっ!」

 いきなり目の前が人影が出現し、その身体が光りました。同時に衝撃波のようなものが、
わたしのすぐ横を通り過ぎました。沙織ちゃんを狙った様です。沙織ちゃんはそれをかわ
していました。

 わたしはとっさにナップザックを投げ上げました。

「いったよ、さおりん!」
「よしきたっ! 火の玉スパイクッ!」

 沙織ちゃんの気合と根性の入ったスパイクが、その人影の腹部に命中したかに見えまし
た。ナップザックは身体をすり抜けていきましたが、多少のダメージは入った様です。人
影はお腹をかばう様な姿勢になり、その姿が消えました。光る身体が消える寸前、その姿
は学生服を着た女の子に見えました。今の顔は……

「なつみ…ちゃん?」

 え? いつの間にか、健太郎さんが店から出てきてました。
 
「変な声が聞こえたんで見にきたんだけど… 何があったの?」
 あ…どうしましょう。いまのを見られちゃいましたか…
「なんでもないよ健太郎さん、瑞穂ちゃんがナップザックを振り回してて、うっかり飛ば
しちゃったんだよ。まったくドジなんだから。ほら、中の物が壊れてないか確認したら?」
 沙織ちゃん、ナイスフォローです。わたしはあわててナップザックの中を覗き込みまし
た。オルゴールは無事です。信楽焼も…あ、大丈夫ですね。
「そうなのか…… へんだな…今、なつみちゃんがそこにいたような…」
「何いってるの。なつみちゃんならまだお店の中でしょ」
「そうだよね。ごめん。俺の見間違いだった」
 そう言いながら、健太郎さんはお店に戻りました。わたし達も気になったのでお店の中
のなつみさんの様子を覗き込みました。え? なつみさんの顔色が悪いです。わたし達は
健太郎さんの後を追うようにお店に入りました。

「なつみちゃん、どうしたの? なんか真っ青だよ」
 健太郎さんが心配そうにきいています。
「急に…おなかがいたくなって…」

 これは一体…? わたしと沙織ちゃんは顔を見合わせました。

(つづく)

http://member.nifty.ne.jp/roadist/