まじかる☆バスターズ(4) 投稿者:アホリアSS 投稿日:6月13日(火)21時41分

 あたし、新城沙織。コードネームはさおりん。美少女探偵団アストラルバスターズの一
員よ。
 例の鏡を鑑定してもらった日から一週間たった。あの日は、あたしと祐くんがデートを
していて、昔の後輩に会ったんだ。後輩の慎一くんの話によると、夜な夜な部屋に現れる
裸の女の子に悩まされたそうだ。
 が、その日の夜、裸の女の子の幻影は祐くんの部屋に出たそうだ。許せんっ!
 こうなったら何がなんでも幻影の正体をつきとめて、二度と出て来ないようにしなきゃ
ならない。次の日、あたしと瑠璃子ちゃん、瑞穂ちゃんは祐くんの家に泊まった。でもそ
の日は幻影のなつみちゃんは現れなかった。
 あれから一週間、祐くんの話では最初の一回しかでなかったという。姿を見せてすぐに
消えただけで、声は出さなかったそうだ。でもこれでわかったことがある。あの幻影は慎
一くんの心が生み出したものではないということ。慎一くんの部屋や家に原因があるわけ
じゃないってことだ。とすると、なつみちゃん本人に何か手がかりがあるかもしれない。
 そして今、あたしの前になつみちゃんの事をよく知る人物がいる。

 ここは小さな喫茶店。窓からは海が見えている。先週訪れた町からは電車で1時間ほど
かかる場所である。
 あたしの目の前の席にいるのは後輩の倫子ちゃんだ。あたしが電話で呼び出したのだ。
なつみちゃんの事が聞きたいことを告げると、倫子ちゃんはこう言った。
「新城先輩、わたしは…なつみとは絶交したんです。あの子のことは考えたくありません」
 そう言うとは思ってたんだけどね。でも話してくれないとこっちが困る。
「あのねえ倫子ちゃん、あなたの恋人を取ったのはなつみちゃん本人じゃないんでしょ」
「本人だったら殺してますっ!」
 なかなか物騒なご意見ね。本気で言ってるわ、この子。
「本当のなつみが慎一を取ったんじゃない、それはわかってます。でも、わたしには許せ
ない。慎一がなつみを好きになったせいで… わたしが振られたんですよ。恋人になった
ばかりだったのに… ずっとずっと待っていた夢が現実になったばかりだったのに… あ
たしは親友だと思ってた子に裏切られたんですよっ! 先輩にはわたしの気持ちがわから
ないんですっ!」
 う〜む… これはかなり根が深そうね。でも、この子、慎一くんの心が離れてっても何
もしなかったんじゃないかな。ここはガツンと言ってやろうか。
「まあ…確かにわかんないわね… 恋人を取られて、そのまま待ってるだけのあなたの気
持ちなんてね…」
「…なっ…」
 あたしは倫子ちゃんの目をまっすぐ見て、言ってやった。
「あたしにも親友が二人いる。その二人はあたしの彼氏を好きになっているの。あたし達
三人で一人の男を取り合っているってわけよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「でも、あたしは絶対に負けない。あの二人は大好きだけど、祐くんのことはもっと好き。
愛してるわ。絶対に譲れない。渡せない。たとえ祐くんが他の子を好きになっても…あた
しは諦めないわ。振り向かせてみせる。奪い返してみせる。あたしは絶対に、絶対に負け
ないんだからっ」
 はう…思わず興奮して立ち上がってた。座り直し、コップのお冷やを飲む。ちょっと涙
が出てた。
「新城先輩…やっぱり強いです…わたしには…真似できません」
「そんなことないよ。倫子ちゃんだって自分を信じていれば、できるはずだよ。後はほん
の少し押しが強くするだけ」
「祐介さんって、慎一は先輩と一緒にいた人ですよね。慎一はお二人は仲のいい恋人同士
だって言ってたのに…」
「まぁ、それは本当よ。ライバルが他に二人いるだけの話よ。最後に勝つのは私だけどね。
あ、慎一くんとはその後、どうなの?」
「先週の夜、慎一が電話してきたんです。先輩達と会っていろいろ考えたって。気持ちの
整理が着くまで、もう少し考えさせてくれって言ったんです」
「へえー… 少しは期待できるってことかな」
「それで、一昨日、彼が言ったんです。『今まで浮気してごめん。またつきあってくれ』
って…」
 倫子ちゃんは泣き笑いのような表情を見せた。
「よかったじゃない。倫子ちゃん」
「でも…でも…あたし心配で… また慎一がなつみの夢を見るようになったらと思うと不
安でたまらないんです」
「それはないわ。安心していいよ。なつみちゃんの幻影が、慎一くんの部屋にでることは
もう二度とないと思う。その代わり、その幻影が祐くんのところに出るようになったの。
ターゲットが変わったみたいね」
「え? それってどういうことですか?」
 あたしは声を少しひそめた。
「倫子ちゃん。信じられないかもしれないけど聞いて。正体はわかんないんだけど、人の
家にいきなり現れて、いきなり消えていく幽霊みたいなのがいるの。そいつがなつみちゃ
んの姿を借りて慎一くんを誘惑したのよ。今度は祐くんを誘惑しようとしてるみたい」
「……じゃあ、慎一が見たっていうなつみは…慎一の夢じゃなかったんですか? 先輩は、
慎一がお化けに取り憑かれてたっていうんですか。…信じられません……」
「お、お化けっていうのかどうかはよくわからないけど…まあ、そんなところよ」
 あたしは『お化け』は苦手だ。超能力者とか鬼とか魔族とかならまだ平気なんだけど。
 でも、怖いなんて言ってる場合じゃない、お化けだろうがなんだろうが、人の恋路を邪
魔するやつは馬キックの刑なんだからっ!
「それで話を戻すわね、倫子ちゃん。慎一や祐くんの見た幻影は、なつみちゃん本人はた
ぶん何も知らないと思う。でも、まったくの無関係じゃないかもしれない。倫子ちゃんは
何か知らない? なつみちゃんの周りで何か変わった事はなかった? 常識では説明のつ
かないようなこと」
「そんなこと言われても… わからないです。それなら、直接なつみにきいたらどうです
か? たぶん、まったく相手にしないと思いますけど。なつみ、その手の話は全然信じな
いから」
「まあ、そう簡単に信じてくれるとも思ってないけどね」
「なつみ…超能力とかオカルトとか…その手の話を嫌っているフシもあるんです。現実主
義っていうんでしょうか。怪談とか怪奇現象なんかはすべて科学で説明がつくって言って
た事もあるんですよ」
「そうなの… でも、なつみちゃんって何かあると思うのよね。あたしの勘だけど。だい
たい慎一くんと祐くんの両方に部屋に幻影が出たんだけど、二人の共通点って、なつみち
ゃんに会っていることだけなの。なつみちゃんに霊か何かが憑いてんじゃないかって勘ぐ
ってんだけどね、あたしは」

「そう言えば…」
 倫子ちゃんがポツリとつぶやく。
「去年…なつみが…クラスのいじめっ子たちにちょっかいをかけられたことがあるんです。
あたしは…助けられなかった。自分がいじめられるのが怖かったから。でも、何日か後で、
そのいじめっ子達が怪我をして…彼らは階段から落ちて怪我したって言ってたんですが、
それから、いじめっ子たちがなつみに近寄らなくなって… なんかなつみを怖がっている
みたいで…」
「それって、なつみちゃんがいじめっ子に何かしたってこと?」
「いえ…なぜそんなことになったのか、なつみ自身は知らないみたいなんです。とぼけて
るとかじゃなくて、本当に知らなくて。でも、これは他の子にきいたんですけど、いじめ
っ子達はなつみのことを化けものって呼んでるって… でも…まさか…」
 倫子ちゃんは真剣に考えこんだみたいだ。


 数日後、わたしは変装してなつみちゃんを尾行していた。以前に顔を見られているので
このままではバレやすい。髪を染めて髪形を変え、化粧も変えた。これでどこから見ても
あたしの姿は『保科智子』さんだ。ちなみに眼鏡バージョンである。
 こないだは倫子ちゃんからいろいろなことがきけた。幻影のついては半信半疑ってとこ
ろだ。まあ、頭から疑っていない分、柔軟な思考なのかもしれない。

 なつみちゃんは学校帰りで制服を着たままだ。駅を出て、商店街をてくてくと歩いてい
る。どこへ行くのだろうか。なつみちゃんのご両親はすでになく、叔父さんの家に住んで
いるらしい。しかし、叔父さん宅に向かっているわけではないようだ。
 あれ? この道はこないだも通ったな。ひょっとして…と思っていると、前の方にあの
喫茶店『HONEY BEE』が見えてきた。
 が、なつみちゃんはその前を通過。なんだ、違うのか。どこへ行くんだろ?

 なつみちゃんは一軒のアンティークショップに入った。あれ? 『五月雨堂』っていう
看板がかかっている。たしか、あれって健太郎さんの店。これはチャンスかもしれない。
偶然を装ってお店に入って、健太郎さんとなつみちゃんに話しかけて… って、しまった。
あたし今は変装してるんだ。あ〜ん、どうしようどうしよう……

「何やってんだ。お姉ちゃん」
「ふへ?」
 突然を声をかけられて、妙な返事をしてしまった。目の前に『大山靴店』という靴屋さ
んがあり、そこの店員さんが声をかけてきたのだ。なんだか威勢のよさそうなおじちゃん
ね。何とかごまかそうか。いや、ちょうどいいから聞き込みをやってみよう。
「あの〜 あたし、雑誌のルポライターをやっていまして、今度骨董品店の特集があるん
ですよ。よかったらあちらの骨董屋の評判などをお聞かせ願えないでしょうか」
 口から出まかせを言いながら手帳などを取り出す。美少女探偵には大胆さが必要よね〜
「おう、そうだったのかい。健太郎ちゃんの店なら俺が保証するぜ。健吾がやってた頃よ
り繁盛してんじゃなねぇのか」
「健吾さんというと…今の店長さんのお父さんですか?」
「そうそう。息子に店を任せててめえは観光旅行にでかけてるってやつだ。でもよ、健太
郎ちゃんの店を任されてからあの店は雰囲気がかわったぜ。なんていうか明るくなったん
だよ。最近は若いお客さんも来るようになったしよ」
「そう言えば、さっき高校生らしい女の子が入っていったみたいですが」
「ああ、あの子かい。ここんとこ毎日来てるみたいだな。どっかで見た事あるから、この
近所の子だと思うけど」
「なるほど… 若い子にも人気があるお店なんですね」
「なぁ、よかったら店長の健太郎ちゃんと直接話してみるかい? なんなら俺が口をきい
てやってもいいけどよ」
「あ、結構ですよ。それと、今回きいたこと、五月雨堂の方には内緒にして頂けます?」
「いいけどよ。なんで?」
「今回の特集、まだ決まったわけじゃないんで、ぬか喜びさせるかもしれないんです。そ
れに正式な取材をする前に、周りの人たちにいろいろ聞き回っていると知れると、気を悪
くするかもしれないですよね」
 ああ〜 なめらかに嘘八百が滑りでるこの口が怖い。
「ふ〜ん… そんなものかね。おっ…スフィーちゃんだ。あの子も五月雨堂の店員さんだ
よ」
 商店街の向こうの方から、買い物カゴを片手にこっちに走ってくる女の子が見えた。
「あ、私のことは内密に…」
「そうかい。…お〜い、スフィーちゃん、いつも元気だね〜」
 靴屋さんがスフィーちゃんに手を振った。スフィーちゃんも手を振り返した。
「おじさんもね〜〜〜〜」 
 ドップラー効果をかけながら通り過ぎるスフィーちゃん。そのまま五月雨堂へ駆け込ん
で行った。ふう。危なかった。気づかれずにすんだみたいね。あたしは靴屋さんに礼を言
ってそこを離れた 

 さてと、なつみちゃんはほとんど毎日あのお店に行ってるわけか。よっぽど骨董品が好
きなのね。じゃ、明日からはあたしもあそこに行けば彼女に会えるって事だわ。でも、あ
たしは骨董品の事はよくわかんないな。今日のところは退散するとするか。あ、ついでに
こないだの喫茶店に寄ってこう。

(つづく)

http://member.nifty.ne.jp/roadist/