まじかる☆バスターズ(3) 投稿者:アホリアSS 投稿日:6月12日(月)00時24分
ネタバレ注意です。
このストーリーは、『まじかる☆アンティーク』の『なつみシナリオ』のネタバレが含ま
れます。クリアする前に読んだ場合、ゲームの面白さを半減させる可能性があります。
第1話は6月8日1時43分、第2話は6月10日1時34分に投稿しています。
タイトル「まじかる☆バスターズ」の『☆』は「アストラル」と読んでください。

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 僕は長瀬祐介。自宅の自分の部屋にいる。今日の出来事をさっき月島瑠璃子さんに電話
で話した。次に藍原瑞穂ちゃんに一通り話し終えたところだ。

「祐介さんは、その幻影の正体はどのように思っているのですか?」
 瑞穂ちゃんがきいた。
「わからない。ただ、あの幻影が慎一くんの頭の中だけに浮かんだものではないと思う」
「え〜と…夢とか錯覚ではない、ということですね」
「そう。それから催眠術やテレパシーなどを受けたものではないと思う。慎一くんはその
幻影を実際に目で見て、声を耳できいたみたいなんだ」
「だとすると、もしその時その部屋に他の人がいたとしたら、その人にも同じ幻影が見え
るということでしょうか」
「たぶんね」
「沙織ちゃんは慎一さんの部屋に何か秘密があるんじゃないかって言ってました」
 僕からの電話の前に、瑞穂ちゃんのところに沙織ちゃんからも電話があったそうだ。沙
織ちゃんは瑠璃子さんと瑞穂ちゃんを引き込んでアストラルバスターズという探偵団のま
ねごとをやっている。いつの間にか僕が隊長にされていた。沙織ちゃんは今回の事件も解
きあかそうとしているようだ。
 沙織ちゃんは、今頃瑠璃子さんに電話しているのだろうか。

「祐介さんも、慎一さんの部屋、あるいは家に何かがあると思いますか?」
「可能性はある。幻影が出るのが慎一くんの部屋だけなんだ。しかも、時間は夜の十一時
前後が多いらしい。あれがもし慎一くんの心が生み出した幻なら、もっと他の場所や他の
時間でも出るだろうと思う」
「あの…今更なんですけど、すべて慎一さんの夢だったってことは?」
「常識ならそう考えるのが妥当だと思う。でも、慎一くんは夢ではなく、自分の部屋の中
で実際に起こった事だと言ってる。一度、自分のほっぺたをつねって夢じゃない事も確認
してるそうだ」
「そうなんですか」
「むしろ、慎一くんの夢の方…眠っている時にみたものでは、裸のなつみさんが出てきた
というのは記憶にないそうだ。まあ夢の内容はほとんど起きれば忘れているから、単に覚
えてないだけかもしれないけどね」
「とすると…慎一さんが見たのは幽霊のようなものか、立体映像みたいなものですか…」
「そういう感じだね。なぜそれが慎一君の部屋に出ていたのかはわからない」
「もし…その幻影が意志を持っているとすれば…本当に慎一さんのことを好きだったので
しょうか。本物のなつみさんの方は別にして」
「慎一君はそう思っているみたいだ。いや、そう思いたがっているというところか。でも
僕は違うような気がする。他の目的を持って現れたような感じなんだ」
「すると、何かの偶然や自然現象のようなもので『出た』のではないんですね。それが何
かの目的をもって『出てきた』か、誰かが『出した』か…」
「そう思う。確証はないんだ。僕の勘だよ。まぁ、目的ってのが見当もつかないんだけど
ね。驚かせる目的なら、毎晩出るわけじゃないし」

 瑞穂ちゃんは少し考えていた。

「幻影が出た事で、慎一さんと倫子さんそれになつみさんの仲が悪くなったんですね。そ
れが目的だったのでは?」
「あ、それは思いつかなかった。そういう考え方もできるよね」
「その幻影のことは、なつみさん本人は知らないんですよね。まったく別の幽霊か何かが
なつみさんの姿になって現れた。あるいはそういった幻影を操れる人が、慎一さんに偽者
を見せたということになりますね」
「うん。ただ、ちょっと気になる事があるんだ」
 僕は、なつみさんと慎一くんを初めて見た時の事を思い出しながら言った。
「何ですか?」
「昼間、なつみさんの腕を慎一くんが引っ張っていた。なつみさんがそれを振り払ったん
だ。軽く振り払っただけにしか見えなかったんだけど、慎一君はまるで両手で思いっきり
突き飛ばされたかのようになって、少し離れたところにしりもちをついたんだ」
「ありえない話ではないと思いますけど…」
「なつみさんが振り払った時、一瞬だけど妙な感じがしたんだ。説明しづらいんだけど…
エリアが魔法を使った時の感じによく似てた」
「エリアさんというと、隆山温泉で会った魔法使いですよね。たしか異世界から来たって
いう…」
「そう。幻影のことは別にしても、なつみさんには何かあるんじゃないかって思っている
んだ。普通の人にはない特殊な能力を持っているか、あるいは守護霊のようなものがつい
ているのか…」
「幻影の方はどうなんでしょう。その何かの力が慎一さんに幻影をみせたのでしょうか」
「それは何とも言えない。幻影のやったことは、なつみさん本人にとっては害にしかなっ
てないしね」
「それで、祐介さんはどうするんです? 沙織ちゃんはアストラルバスターズ出動!とか
言ってますけど」
「うん。僕も幻影の正体は突き止めたいな。今は慎一くんのところに幻影は出なくなって
いるけど、もしまた出てきたら面倒な事になるかもしれない。せっかく慎一くんが本当に
好きな人を見つけられるかもしれないのに」
「私も何か手伝える事はありますか?」
「そうだね。今回の幻影について、どこかに似たような事例があるか調べられる?」
「わかりました。調べてみます。来栖川さんとルミラさんにも尋ねてみますね。ところで
祐介さん。話は変わりますが…」
 瑞穂ちゃんの口調が少し変わった

「なに?」
「沙織ちゃんから鏡のことをきかれたんですよ。なぜ左右だけが逆になるかって」
 源之助さんがいってたやつだ。鏡は上下は逆にならないのに、左右だけが逆になる。そ
れがなぜかってことだ。
「ああ、それは僕もわからなかった。なぜだろうね」
「祐介さん、お近くに鏡はありますか?」
 僕は部屋の壁にかかった鏡を見た。
「うん。あるけど」
「鏡の向こうの祐介さんの左手、祐介さんから見てどちらにありますか?」 

 あっ!

「瑞穂ちゃん。左手は…左にある。逆になってないんだ」
「ですよね。上下も左右も逆にはならないんです。逆になっているのは『前後』なんです
よ」
「なんだ。わかってみれば簡単だな。でも、なぜ今まで左右が逆になると思ってたんだろ
う?」
「鏡に映った字を見た時、ちょうど左右逆に書いたものと同じように見えるからでしょう。
それに重力のせいで、鏡の向こうの世界を想像した時に上下を固定して考えてしまうんで
すよ」
「なるほどね…」

 その後,瑞穂ちゃんとしばらく話をして電話を切った。僕はベットに寝ころんで今日の
出来事を思い返していた。
 なつみさんから感じた気配…あれはなんだろう。あの気配、スフィーという女の子から
も感じた。あの町に何かあるのだろうか?
 なつみさんの目…かつての瑠璃子さんや大田さんのような壊れた目ではなかった。ごく
普通の女の子だ。容姿は普通じゃないか。かなりの美少女と言えるだろう。

 ??

 なんだ? 今、『あの気配』を感じた…

 僕はベッドに仰向けに寝ころんでいる。いつの間にか何者かが僕に覆いかぶさるように
四つんばいになっていた。
 それは、全裸の牧部なつみさんだった。