まじかる☆バスターズ(2) 投稿者:アホリアSS 投稿日:6月10日(土)01時34分 削除


 あたし、新城沙織。コードネームはさおりん。今日はなんと、恋人の長瀬祐介君とデー
トをしているのだった。え? 前回のあらすじと違うって? それはたぶん気のせいよ。
 ホットケーキの美味しいお店に向かう途中、可哀相な女の子に乱暴をしている悪者の男
の子をみつけたのだ。
 正義の味方アストラルバスターズのさおりんとしては、ここは助けに入らなきゃいけな
い。でも敵はとても手ごわくて、さおりんピンチッ! でも大丈夫、そこへあたしの騎士
(ナイト)様の祐くんがさっそうと現れて悪者をやっつけてくれるのだ。そして私と祐くん
との恋愛ポイントがさらに上昇し、そのまま一気に…ってあれ?

 ドンッ!

 襲っていた方の男の子がしりもちをついてた。女の子が振り払うか突き飛ばすかしたの
だろうか。女の子がどういう動きをしたのかよく見えなかった。
 ま、いいや、作戦変更。私は男の子をビシッと指さし、怒鳴りつけてやった。
「こらっ! そこの男子! か弱い女の子に暴力をふるうなんて最低よっ!」
 で、女の子の方には優しく、しかしできるだけ頼もしく聞こえる声音で話しかける。
「ここはあたしにまかせて逃げなさ…… い?」
 その女の子はじ〜…っとあたしの横を見ていた。けっこう可愛い子ね。まあ、私には劣
るけど。この子、以前にどこかで会ったような気もする。で、その視線は……
 あ、祐くんをじっと見つめてる。ひょっとして一目惚れってやつ? むかっ!
 あたしはつかつかと女の子の前に歩み寄り、もう一度、はっきりと言ってやった。
「ここはあたしにまかせて逃げなさい」
「・・・・・・・・・・・・」
 その子はちょっと黙っていたが、ペコリと頭を下げ、そそくさと立ち去って行った。
 よし、お邪魔虫を撃退に成功。もとい、窮地にいた少女を危険から遠ざけるのに成功し
たわ。
「あ、あの……」
 あ、さっきの男の子がまだいる。敵意はなさそうだ。あれ、この顔どこかで…
「あの…新城先輩ですよね」
「え? あ、ひょっとして慎一くん?」
「そうです。お久しぶりです」
 思い出した、中学の頃の後輩だ。私が女子バレー部、慎一くんは男子バレー部だった。
男子と女子は普段は別に活動しているが、時々合同練習とか練習試合とかもやっていたの
で覚えている。
「沙織ちゃんの知り合い?」
 祐くんがきいていた。
「うん。中学が一緒だったの」
 あたしは慎一くんの事を祐くんに話した。で、慎一くんにきいてみた。
「ねぇ、さっき何やってたのよ。なんだかよくわからないけど、彼女、すごく嫌がってた
じゃない」
「え…僕は…その…」
 慎一くんは目を伏せている。
「ま、立ち話もなんだし落ち着いて話せるところへ行こうか。祐くん、いい?」
「いいよ。悩みがあるなら相談に乗るし」
 うん、やっぱり祐くんは優しい。慎一くんも見習うようにっ!


 あたし達は『HONEY BEE』という喫茶店にやってきた。雑誌に載った可愛いウエイトレ
スもいる。あの子、外国人かな。祐くんと慎一くんはコーヒーを、あたしは特製ホットケ
ーキを注文した。
 で、あたしは再び慎一くんにさっきの事情をきいてみた。
 慎一くんは少しうつむきながら、口を開いた。
「僕…彼女に交際を申し込もうとして… でも、何度も断られてて、最近はぜんぜん話も
聞いてくれなくて…」
「あきれたわね。強引すぎるのはよけい嫌われるわよ。もうちょっとうまく…あれ? き
み、中学の時は倫子ちゃんと付き合ってなかった? 女子バレー部の」
 うん。たしかそうだ。あたしが中三の時に慎一くんと倫子ちゃんが中一だった。この二
人は当時から仲がよく、周りからからかわれてた。あたしは中学を卒業した後、OBとし
て何度かクラブの様子を見に行った。ちゃんとした交際を始めたという話は聞かなかった
が、いつも仲がよさそうだったと思う。
「……倫子とは…別れました…」
「え、なんで? あんなに仲がよかったのに。ケンカでもしたの?」
「いえ…僕が他の人を好きになったからです。倫子のことは嫌いじゃない。嫌いじゃない
けど……今の僕の心にはなつみちゃんしかいないんです。ほんとです」
「なつみちゃんって、さっきの女の子だよね。まぁ、可愛い子には違いないけど。そこま
で好きになるきっかけって、何かあったのかな?」
 ぷりちーレベルで言えば倫子ちゃんだって負けてないと思う。
「あの子…牧部なつみちゃんは、倫子の幼なじみです。だから、僕も前からなつみちゃん
とは知り合ってました」
「ふんふん」
 そういえば中学の頃、あたしもそのなつみちゃんって子を何度か見たような気がする。
たぶん、倫子ちゃんといっしょに登校してた子だろう。
 私はホットケーキを口に運びながら話を聞いている。十五枚重ねはさすがに迫力がある。
食べきれるかな。祐くんも無言で慎一くんの話を聞いていた。
「僕と倫子は…その…今年になるまで正式には付き合ってなかったんです。手を握ったこ
とはありましたが、その…キ、キスをしたこともなくて…お互いに好きだとは言ってなく
て…」
「へ〜…ずいぶん遅いのね。でも、ちゃんと付き合いはじめたんでしょ?」
「は、はい。春の連休前に…倫子の方から告白されて…付き合って欲しいと言われて…
僕も…僕も、応じたんです。連休中にはデートもして…」
「ふんふん」
「でも…六月に入ってから…出たんです」
「出たって、何が?」
「あの…ええと… 僕の部屋で…」
「ふんふん」
「夜…ベットに寝ころんで本を読んでた時にですね…急にその…目の前に出たんです」
「だから何が?」
「は…はだかの…なつみちゃんが…」
「??」
 慎一くんが寝ぼけていたのか、それとも本当にあの子が夜ばいをかけたの?
「ゆ、夢を見たとかじゃなくて、ちゃんと起きてました。その時はすぐに消えちゃったん
です。でも、次の日も、またその次の日も毎晩僕の部屋に現れるんです。ほ、ほんとなん
です」
「待って。それって、なつみちゃん本人が部屋の扉や窓から入ってきたんじゃなくて、い
きなり出てきていきなり消えたってこと?」
「そ、そうです。…姿は見えるんですが、触れることはできなくて… でも、本当にそこ
にいるみたいに、はっきりと見えるんです」
「……………………」
 うーん…何とコメントすべきだろうか。嘘や冗談を言ってるようには見えないし。あた
しは魔法使いや超能力者に知り合いはいるけど、こういう現象は初めて聞いた。
 単なる錯覚や疲れ過ぎによる幻覚って考えるべきかな…
「初めのうちは姿を見せるだけだったんですが… 三回目か四回目の時に…好きって言っ
たんです。なつみちゃんが…僕の事を…」
「喋ったってこと? 目の錯覚という話ではなくなったわね」
「その日から、なつみちゃんは僕に話しかけて…いえ、僕を誘惑するようになったんです。
慎一が好きだ…私を好きになって欲しい… そ、それから、エッチなことをしようとか」
「え、エッチって…触れないんでしょ? それとも、本人のことだったのかな」
「で、でも…なつみちゃん本人にきいても、そんなことを知らないって」
 はあ? この子、自分が見た幻覚の事をきいたの? 気持ち悪がられると思うけど。
「慎一くん、そういうのってあまり人には言わない方がいいと思うよ。まぁ、あたし達も
聞いておいてなんだけどさあ…」
「あ、いえ、夢を見たって話できいてみたんですけど…」
「あのね。ちょっと想像してみて。あなたの知り合いの女の子…誰でもいいけど、その子
が、『あたし、慎一くんが裸で迫ってくる夢を見たの、心当たりあるぅ?』って言ってき
たらどう思う?」
 慎一くんは、顔を真っ赤にして黙り込んでいる。

「ちょっといいかな」
 黙って聞いていた祐くんが言った。
「とりあえず、慎一くんの家で見たというなつみさんを幻影とするよ。慎一くんはなつみ
さんのことを好きになってから幻影をみるようになったの? それとも幻影を見るように
なってから好きになったの? どっちが先?」
 慎一くんは少し考えていた。
「…わかりません… でも、たぶん幻影の方が先だったと思います。好きだって事を初め
は自覚してなかった…ということかもしれないですけど…」
「なつみちゃんのこと、好きなのかい?」
「好き…です。なつみちゃんのことは忘れられません」
 祐くんは、ちょっと首をかしげた。
「忘れられないって、もしかして…今は幻影は出なくなっているの?」
「はい…夏になつみちゃんが転校してから…全然…」
「転校?」
「はい。僕の家は隣町なんですが、なつみちゃんがこっちの方に引っ越したんです。今日
はなつみちゃんに会いたくて…会ってどうしても話したくてこの町に来たんです」
「会って何を話すの?」
 あたしは聞いてみた。
「僕がなつみちゃんの事が好きだってことを伝えたくて… そ、それに僕が… じ、自分
の心が確かめたくて…」
「でもさっきの様子じゃ、なつみちゃんは慎一くんと話すのを嫌がってたよね。なつみちゃ
んの方は慎一くんのことを何とも思ってないんじゃないの。だいたいなつみちゃんって、
倫子ちゃんの友達でしょ? その彼氏を取ったりなんか…」
 言いかけて、あたしは恐ろしいことに思い当たった。
 倫子ちゃんの立場はどうなる? この春には、ずっとずっと好きだった人と晴れて恋人
同士になり、幸せの絶頂だったはずだ。そのすぐ後に、彼氏が他に好きな人を作って振ら
れてしまったとしたら。で、新しい恋人ってのが、自分の親友だったとしたら…
「し、慎一くん… 聞いていい? 倫子ちゃんとなつみちゃんの仲って今は?」
 慎一くんは目を伏せた。つらそうな表情で唇をかんでいる。
「あ、言わなくていいわ。だいたいわかったから…」
 あたしはパタパタと手を振った。
「しっかし参ったわねぇ。恋愛のアドバイスをするつもりだったんだけど…」
 あたし達はすこし黙り込んだ。
 やがて、祐くんが口を開いた。
「慎一くん、さっき自分の心を確かめたいっていったよね。今日、なつみちゃんに会って、
確かめられたの? 慎一くんが本当になつみちゃんが好きなのかどうか」
「え……」
「それとね、なつみちゃん本人と慎一くんが見た幻影、あれは別人と考えてみて欲しい。
その上で答えてくれ、君が本当に好きなのは誰? なつみちゃん本人? それとも毎晩出
てたという、なつみちゃんとそっくりの女の子?」
「ぼ…僕は… 僕が好きなのは…」
「それとも、前に付き合ってた倫子ちゃんかな?」
「………………………………」
「わからないなら… わからなくなっているのなら、答えなくていいよ。二人の女性を同
時に好きになった時、『本当に好きなのがどっちなのか』なんて答えられないこともある
からね」
 今の祐くんのセリフは説得力がある。祐くん自身のことでもあるからね。ただ、祐くん
の場合は三人だ。嘘でもいいから『一番好きなのは沙織ちゃんだよ』って言ってくれない
かなぁ。

「新城先輩…それに祐介さん、あの…僕の話、どこまで信じてるんですか? 倫子も、な
つみちゃん…本人の方ですが、僕がおかしくなったように思ってるみたいで… 先輩達も
そう思いますよね」
「いや…少なくとも、君が嘘を言っているとは思わないし、壊れて…いや、狂っていると
も思ってないよ。僕は訳あって精神医学を少しかじったこともあるんだけど、慎一くんは
正常だと思う」
「そ…そうなんですか?」
「なつみちゃんの幻影の正体は僕にはわからない。でも、君がそれと出会って話をしたと
いうのは信じるよ。その手の怪奇現象…あるいは超常現象ってのは、ありえないことでも
ないと思うから」
「僕は…僕はこれからどうすればいいんでしょう?」
「それは慎一くんが自分で決めるしかないよ。いずれにせよ、なつみちゃんの幻影は忘れ
た方がいい。本当のなつみちゃんと付き合おうっていう場合も、そうでない場合もね」
「……忘れること…できるでしょうか」
 慎一くんは俯いている。と、祐くんはあたしの方をむいた。
「沙織ちゃん、あの鏡を貸して」
「え? いいけど…どうするの?」
 あたしはナップザックに入れておいた魔鏡を取り出し、祐くんに渡した。
 祐くんは鏡を慎一くんの方に向けて言った。
「慎一くん、ちょっとしたおまじないをするよ。この鏡に写った自分の目を良く見て…」
「え……」
 慎一くんが鏡を覗き込む。祐くんは言葉を続けた。
「自分が好きなのは誰なのか、自分に問いかけてみて」
 慎一くんは、真剣な顔で鏡を見つめている。

 …ちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちり…… 

 あれ? 今、祐くん……力を使った? たしか、電波っていってたっけ。
 何をやったんだろ?
 あ、ウエイトレスの外人の女の子がこっちをじーっと見てる。もしかしてあたし達、変
なお客だと思われているかな。

 しばらくして、祐くんはクルッと鏡を回した。
「答えは出たかい?」
「…は、はい… たぶん……」
 ちょっと顔が赤くして、慎一くんが答えた。
「慎一くん、君が誰を選ぶかは僕にはわからない。でも、決断するのは君だ。決して後悔
しないように、自分の意志ではっきりと決めて行動するんだ」
 祐くん祐くん、同じセリフをあなたに言いたいんですけど、あたし。
 あたしと瑠璃子ちゃんと瑞穂ちゃん、いったい誰が好きなのかはっきりさせてよ。

 その後、少し話をした。十五段重ねの特製ホットケーキはなかなか手ごわい敵だった。
あたしだけでは勝てず、最後と祐くんに手伝ってもらった。あれは一人分の量じゃないわ
ね。たぶん、あたし達みたいなカップルで食べるものだろう。きっとそうだ。
 伝票を切る時、祐くんが払ってくれた。鏡の修繕費も出してもらったし、悪いかなぁ。
でもうれしい。今度祐くんに何かプレゼントしてあげよう。
 喫茶店を出ようとする時、外人ウエイトレスがじーっとあたし達を見てるのに気づいた。
「あの…何か?」
「ごめんなさい。失礼ですが、先程鏡で何をなさっていたのだろうと…」
「あれね。ちょっとした恋愛成就のおなじない」 
「はあ、そうだったんですか…」
 そういうことにしておいて貰おう。実はあたしもよくわからなかった。でも、きっと祐
くんが慎一くんのためになることをしたんだろう。だって慎一くん、何か悩みが解けたよ
うないい顔してるもん。
 でも、慎一くんがみた幻影って何だったんだろ?
 きっと祐くんも同じ疑問を持っている。この謎にあたし達が挑むことになるのだろう。

 よ〜し、久々にアストラルバスターズの行動開始よっ!

(つづく)

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