飛び降り自殺を見たことがある。 それも二人いっぺんに。そう、二人して飛んだんだ。 仕事帰りの夕焼けの歩道。それは恐ろしい速度で落ちてきた。 僕のほんの2メートル手前。 どすん、という嫌な音が今も耳に残る。 二人は折り重なるように同時に墜落した。 若い男女、学生服のカップルだった。 朝、通勤電車でよく見かける近所の高校の制服だ。 二人は動かなかった。 僕も動けなかった。 町の全ての音が空々しく聞こえた。 こんな日に限って、誰も通りかからない。 ・・・電話しなければ・・・ そんな単純なことに気付くまで、ゆうに2分はかかっていただろう。 咥えていたタバコはいつのまにか歩道に転がっていた。 携帯は持っていない。公衆電話を探さなければ。 駆け出そうとした時、女の方がむっくり起き上がった。 気だるそうに男の肩をゆする。 「・・・だめだよぉ、長瀬ちゃん・・・ちゃんと飛び降りなきゃあ・・・」 そう言った。そう言ったところで僕に気付き、振り向いた。 引き込まれそうな虚ろな瞳。 僕にあいまいな笑みを浮かべ、何か言おうと口を開き、しかし閉じ、倒れた。 僕は駆け出した。 目に付いた公衆電話に駆け込み、119をまわした。 本来なら目撃者として立ち会わねばならないのだろうが、僕は場所だけ告げて 受話器を置いた。そして逃げるように帰宅した。 それから当分は新聞もニュースも避けて暮らした。だからあの少年少女のこと は何も知らない。どこの誰かも、何が彼女達を追いやったのかも。 関わりたくなかった。 そう、怖かったんだ。今でも恐ろしい。 人の死が、じゃない。 あの時、彼女は何か言おうとした。それは声にならなかった。 ・・・でも僕には聞こえたんだ。 口の動きを読んだんじゃない。それは直接、脳に送られるような・・・ 『サヨナラ、人間ドモ』 ・・・サヨナラ人間ドモサヨナラ人間ドモサヨナラ人間ドモサヨナラ人間ドモ・・・ その言葉は、あの時のチリチリした感覚と共に、忘れることはできない。 ――――――――――――――――――――――― パクリだと怒らないで。 オーケン風に行こうと決めてたので。 最初の一行を決めて書き出しましたが・・・。 「さよなら、人間ども」は映画パラサイト・イヴの台詞(多分)