「さて!」 「さて?」 「急いでいた時に、わざわざ理緒ちゃんに来てもらったのは他でもない!」 「そうだよー。早く行かないとバイトに遅刻しちゃうよ」 「その触覚についてだ!」 「これは触覚じゃなくて前髪!!!」 「これまで、その触覚について実にさまざまな仮説が立てられ、議論されてきた」 「私の話聞いてる・・・?」 「しかし! いつまでも同じ事で延々と議論し続けるのは不毛だと思わないか!?」 「そんな議論自体が不毛だよぉ・・・」 「そこで! ここは一つ俺がこれらの仮説をもとにビシッと結論を出そうと思う!」 「出さなくていいよ・・・」 「俺が出した結論ならみんな納得するしかないだろ?」 「どうして?」 「主人公だから」 「・・・・・・」 「さて・・・では、今までに立てられてきた仮説を挙げてみることにしよう」 「だからこれはただの前髪だって・・・」 『その硬さはダイヤモンドをも上回り、10枚重ねにされた鉄板をも軽く突き破る』 「そんなに硬くない!!」 『先端に強力な毒針が仕込んであり、挨拶するふりをして相手を殺す事ができる』 「あたしは殺し屋!?」 『「伸びろ! 如意棒!」と叫ぶと自由自在に伸ばす事ができ、最大で月ぐらいまで届く』 「孫悟空じゃないんだから・・・」 『取り外すと剣として使え、その一撃は岩をも切り裂く』 「取り外せない!!」 『一度取り外すと再び取り付ける事は出来ないが、3時間でまた生えてくる』 「そんなに早く伸びる髪、怖いって・・・」 『聴力は人間の耳の30倍で、1km離れた所で落ちたお金の音も聞き取れる』 「これは髪!!! 耳じゃないの!!!」 『片方でも無くなると平衡感覚が失われ、まっすぐ歩けなくなる』 「それじゃまるっきり虫じゃない!!!」 『耳から侵入させて脳に到達させる事で、人を意のままに操る事ができる』 「あたしの前髪は毒電波なの・・・?」 『電化製品は使わない時はコンセントを抜いておくことで、電気代がかなり節約できる』 「?」 『残り物でも、工夫次第でフルコース並の料理が作れる』 「藤田君?」 『水、レモン、きれい。水、レモン、きれい』 「藤田君!!!」 「ん? 何?」 「途中から全然関係ないことになってるよ!」 「あ、ごめん。これはあかりから教わった生活の知恵だった」 「・・・最後のやつは一体なんなの・・・?」 「では、気を取り直して・・・」 「最後のやつ・・・」 『高速で振り回すことによって、一定時間空を飛ぶ事ができる』 「最後の・・・」 「・・・とまあ、これらが今までに立てられてきた仮説なわけだ」 「うっ、ううっ、何よ何よ、みんなで寄ってたかって好き放題言って・・・。 そんなに私を未知の生物にしたいわけ・・・?」 「いじけてる場合じゃないぞ理緒ちゃん! ここからが一番大事なところなんだからな!」 「もういいよぉ・・・藤田君も絶対変なこと言うに決まってるよぉ・・・」 「これらの仮説から俺が考えに考え、一晩中考えてたどり着いた結論! それは!!!」 「だからこれはただの前髪なんだってぇ・・・」 「実は理緒ちゃんはその触覚こそが本体!!!」 「なんでそうなるのおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!?」