Happy Happy Christmas!  投稿者:イリュージョン


「・・・眠れないなあ・・・」
僕は、ベッドの中でもう何度目か分からない寝返りをうった。
今日はクリスマスイブ。
去年までは家族と一緒に空しさの残るイブを過ごしていた僕だが、今年は違う。
今年の僕には、沙織ちゃんという恋人がいるのだから。
・・・そう思って沙織ちゃんの家に電話を入れたのだが、あいにく沙織ちゃんはいなかった。
なんでも、昼頃あたりから姿が見えないらしい。
そんなわけで、結局去年と変わらぬクリスマスを送ってしまった。
そして今、ベッドの中でこうしてるわけだ。


「・・・なんだかなあ・・・」
これまた何度目か分からない独り言を呟いた。
せっかく恋人ができたっていうのに、どうして去年と同じイブを過ごさなきゃならないんだろう・・・。
今年こそは、昔からの夢だった「好きな人と一緒にクリスマスツリーを見上げる」が実現すると思ってたのになあ・・・。


そんな事を考えてると、

ピンポーン

「?」

突然、インターホンが鳴った。
「誰だろう・・・こんな夜中に」
不審に思わずにはいられなかった。

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーーーン

なおもインターホンは鳴りつづけた。
両親はまったく気づいてないらしい。
まったく、鈍感というかなんというか・・・。
「はいはい、今出ますよ・・・」
少し警戒心を抱きつつも、僕はパジャマのまま廊下に出た。

冬の廊下は寒い。
パジャマのままだと震えが止まらない。
だけど、今から部屋まで上に羽織る物を取りに行くのも面倒なので、そのまま玄関までやってきた。
「一体誰なんだ・・・?」
そう思いながらドアを開けると・・・



「起きてたか、長瀬君」



月島さんだった。
しかもサンタの格好。
付け髭まで付けてる。
・・・似合わないなあ。

「悪かったな・・・似合わなくて・・・」


ちりちりちりちりちりちりちりちり


あ、すみません、ごめんなさい、言い過ぎました。
だから毒電波だけは勘弁してください。


「ふん、まあいいだろう・・・」



「ところで月島さん、こんな時間になにしに来たんですか?」
「この格好を見て分からんか?」
「この格好って・・・」
サンタの格好だよな、どう見ても。
って事は・・・
「プレゼントを届けに来たんですか?」
「その通り!」
やっぱり。
「でも、一体どういう風の吹き回しなんですか?月島さんが僕にプレゼントを届けにくるなんて・・・」
「はっはっは、何を言い出すんだ長瀬君。そんなの、僕がサンタだからに決まってるじゃないか」
なんのこっちゃ。
「そういうわけで、これが君へのプレゼントだ」
そう言うと月島さんは、袋の中から一つの箱を取り出した。
・・・なんかとてつもなくでかいんですけど・・・。
「よい・・・しょっと!」
ドスン!
縦、横、奥行き共に1メートル以上はありそうなでかい箱が僕の前に置かれた。
「・・・あの、月島さん、これは・・・?」
「さあ、開けてみるんだ」
開けてみるんだって・・・
こんなどでかい箱の中に一体何が入ってるっていうんだ・・・。
毒電波で壊された人が入ってるんじゃないだろうな。
オレンジ色のリボンをほどき、恐る恐る箱を開けてみると・・・



「祐くーーーーーーん!!!」
ガバッ!
「うわぁ!」



沙織ちゃんだった。
しかもいきなり抱きついてくるし。

「気に入ったか?」
「気に入ったかって・・・」
そりゃ嬉しいけど。

「さて・・・これで僕の仕事は終わった。それじゃ、僕はこれで帰らせてもらうよ。」
「え?あ・・・」
そう言うと月島さんは、そそくさと自分の家へ帰っていった。
「待ってておくれ瑠璃子、お兄ちゃん、もうすぐ帰るからね〜〜〜♪」
スキップしてるし。
はたから見ると危ない人にしか見えない。
元から危ない人だけど。

「ところで沙織ちゃん・・・」
「なーに?祐君」
「そ、そろそろ離れて欲しいんだけど・・・」
「え?・・・あ、あはは・・・」
僕からパッと離れて、恥ずかしそうに頭を掻く沙織ちゃん。
なんだか、僕まで顔が火照ってきた。
「と、ところで沙織ちゃん・・・どうしてこんな箱の中に入ってたの?」
「あ、えーっと、それはね・・・」

つまりこういうことらしい。
今日の昼、僕にプレゼントする手編みのマフラーを編むための毛糸を買うために家を出た。
そのお店へ向かう道中で、偶然月島さんに会ったんだそうだ。
(ちなみに、月島さんはその時から既にサンタの格好をしていたそうだ)
月島さんは、何か随分悩んでいたみたいだったが、沙織ちゃんの顔を見るなり
「そうだ、これだ!」
と言って、いきなり沙織ちゃんに電波を浴びせ掛けてきたそうだ。
・・・と言っても、少しの間だけ体の自由がきかなくなる程度のものだったらしいけど。
そうでなきゃ、今ごろこんなにピンピンしてるわけないよな。
話を戻そう。
その後、月島さんに無理やりさっきの箱につめこまれて、今に至ったというわけだ。
ちなみに、自分が僕へのプレゼントになってるって事は、ここに来る途中で月島さんから聞かされたらしい。
・・・月島さんって、相変わらず分かんない人だな。

「そ、そりゃあ大変だったね・・・」
「大変だったなんてもんじゃないわよー。箱の中ってすっごく窮屈だし、身動き取れないし、もー泣きそうだったんだから!」
「あははは・・・」
「でもね・・・」
「?」
そう言うと沙織ちゃんはちょっといたずらっぽい笑みを浮かべて、再び僕の胸の中に顔を埋めてきた。
「こうやって祐君と一緒にいられるんだから、そんな事はもうどうでもいいよ・・・」
「・・・沙織ちゃん・・・」
そうとだけ呟いて、僕は沙織ちゃんの背中に手を廻した。
さっきまで物凄く寒かったけど、今はちっとも寒くなんかない。
・・・なんて、ガラにも恥ずかしい事を思ってしまった。

「ねえ、沙織ちゃん・・・」
抱き合ったままで僕はそっと呟いた。
「ん?」
「僕さ、小さい頃からの夢だった事があるんだけど・・・聞いてくれるかな?」
「・・・うん」
僕たちは抱き合うのをやめ、お互いに少し体を離した。
「あのさ・・・」
「うん」
「その・・・」
「・・・」
「・・・なんていうか、その・・・」
駄目だ、やっぱり恥ずかしくて言えない。
「ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないよ」
「う、うん・・・だから・・・」
ええい、勇気を出せ!長瀬祐介!
心の中で自分に激を飛ばす。
「・・・一緒に・・・クリスマスツリーを・・・見に行きたいんだ・・・」
「え・・・」
沙織ちゃんはきょとんとしていたが、その後
「ぷ・・・」
「?」
「あはははははははははは!」
「え?」
いきなり堰を切ったように笑い出した。
「え?え?な、何?僕、なんか変な事言った?」
「だ、だって、いきなり『小さい頃からの夢があるんだ』なんてマジな顔して言い出すもんだから、一体どんなすごい夢なのかなって思ったら、
 『一緒にツリーを見に行きたい』なんてすっごいささやかな夢なんだもん!
 あははは、あーおかしー!」
僕の夢を盛大に笑い飛ばされて、さすがにちょっとムッとなってしまう。
「な、なんだよ!いいじゃないか!僕今まで恋人はおろか友達もいなかったんだから!
 一人でツリー見に行ったってみじめになるだけだろ!
 そんなに笑わなくたっていいじゃないか!」
「あ、ご、ごめん!べ、別に悪気があったわけじゃないから!」
「・・・・・・」
「で、でも・・・やっぱりおかしい・・・あははは・・・」
「・・・まったくもう・・・」
そうして、ひとしきり笑い終えた沙織ちゃんは、僕の顔を覗き込んで
「それじゃ、今から見に行こう!」
と言ってくれた。
「・・・うん!」
「でも、そんなカッコじゃさすがに行けないわよ?」
「え・・・あっ」
そういえば、パジャマのまま外に出てきてたんだった。
いろんな事がありすぎてすっかり忘れてた。
「す、すぐに着替えてくるからちょっと待ってて」
沙織ちゃんにそう言い残し、僕は着替えるために自分の部屋に向かった。


「ごめん、お待たせ」
「もう、遅いわよ祐君」
そう言うと沙織ちゃんは僕の手を取って、
「さ、早く行こ!」
と、いきなり走り出した。
「うわ!ちょ、ちょっと待ってよ沙織ちゃん!」
あまりにいきなりだったので、引っ張られる形になってしまう僕。
「何言ってるのよ、祐君の夢に付き合ってあげてるんだから早くしなさいよ!」
「そ、そんなに急がなくたってツリーは逃げないよー」





ま、とにかく夢がかなって良かった・・・。