空に舞う  投稿者:イリュージョン


おー、降ってる降ってる。
昨日、テレビで台風が接近してきてるって言ってたけど、直撃だな、こりゃ。
こんだけ降ってりゃ、さすがに学校も休みだろうな。
・・・でもまあ、一応テレビで確認しておこうか。

パジャマのまま一階へ降りた俺は、テレビのスイッチを付けた。
えーっと、天気予報はと・・・。
お、やってるやってる。
「・・・中型で勢力の強い台風15号は、このままの勢いで北上していく模様です。
 各地の警報は御覧の通りです。」
えーっと、うちの地域は・・・大雨・洪水・暴風警報か。
よし、臨時休校決定。

着替えるために、俺は再び二階へ上っていった。
部屋へ入ると、吹き荒れる風の音と横殴りの雨が窓に叩きつけられる音が入り混じった凄まじい音が窓越しに聞こえてきた。
ササッと普段着に着替えて、窓から外の様子を見てみる。
しっかし、本当にすごい暴風雨だなー。
今回のは特にすごいんじゃねえか?
さっきからいろんなものが風に飛ばされて目の前を通り過ぎて行くぜ。

新聞紙とか、立看板とか、植木鉢とか、屋根瓦とか、張り紙とか、
木の葉とか、自転車とか、理緒ちゃんとか、野良犬とか、木材とか。








・・・・・・・・・。








理緒ちゃん!!!!!???

い、今目の前を通り過ぎていったのって確かに理緒ちゃんだったよな!?
め、目の錯覚か?
いや、でも確かに・・・。

・・・・・・

確かめに行こう。
それが一番手っ取り早い。

俺は、もうかれこれ3年ほど使ってなかった雨合羽を取り出すと、普段着の上からはおった。
・・・さすがに3年も前のやつだとキツイな・・・。

玄関に立つと、俺は覚悟を決めてドアを開けた。
ビュウウウウウオオオオオォォォォ!!!!!
ぬおっ!!!
さ、さすがにキツイぜこりゃ!
・・・やっぱり行くのやめようかな?
いや!あれがもし本当に理緒ちゃんなんだったら、俺が助けに行ってやらないと!
それがTH主人公である俺の使命だ!
無理矢理自分にそう言い聞かせて、俺は嵐の中を歩き出した。





・・・うー、どこにいるんだ理緒ちゃん・・・。
かれこれ30分近く探し回ってるけど、全然見つからねえぞ。
やっぱり、俺の見間違いだったのか?
だとしたら、今の俺ってすっげえ間抜けだぞ。
・・・もう帰ろうかな・・・。

「・・・・・・う・・・。」

?
今、どこかで人の声が聞こえたような・・・。
空耳か?

「・・・・・・うう・・・。」

!
間違いない!人の声がする!
もしかしたら、理緒ちゃんかも知れない!
行ってみよう!
俺は、微かな声が聞こえてきた方へ駆け出した。



はあっはあっはあっ・・・。
確か、このあたりから聞こえてきたんだけど・・・

!

人だ!
人が倒れてる!
あの特徴的な触覚は・・・間違いない!理緒ちゃんだ!
俺は、倒れこんでいた理緒ちゃんに駆け寄って、理緒ちゃんを抱き上げた。
「理緒ちゃん!理緒ちゃん!しっかりしろ!」
「・・・う・・・ん・・・。」
「理緒ちゃん!俺だ!浩之だ!」
「・・・え・・・・・・あ・・・藤田君・・・。」
「良かった!気がついたんだな!」
「・・・あ・・・わ・・・私・・・・・・え?あ・・・ええ!?」
バッ!
理緒ちゃんは、いきなり俺から凄い勢いで離れた。
「!?り、理緒ちゃん?」
「だ、だめ、だめよ藤田君!こんなところでなんて!」





は?





「そ、そりゃ藤田君とはバトルッチのお礼にって事で一度はやったけど、だからってなにもこんなところで始めようとしなくてもぉ!」
「あの・・・理緒ちゃん?」
「・・・でも、藤田君となら・・・・・・ああっ!やっぱりだめ!恥ずかしいわぁ!」
「雛山さーん?」
「でも、でも・・・ああ!やっぱり!・・・でも・・・。」
「人の話を聞かんかあああああああああぁぁぁ!!!」
次の瞬間、理緒ちゃんに鳳○脚をきめてる自分がいた。



「・・・で、なんだってこんな日に外に出たりしたんだ。」
「え、えっとね・・・。」
どうでもいいけど理緒ちゃん、鼻血くらい拭けよ。
「せっかく学校が休みになったんだから、今からヤックへバイトに行こうと思って」





・・・・・・





なんですと?





「理緒ちゃん、今なんて・・・」
「だから、ヤックへバイトに行こうと思って。」
「バイトって・・・こんな日にか?」
「そうだけど?」
いや、そんな至極当然の事みたいに。
「理緒ちゃん、いくらなんでもこんな日はどの店も閉まってると思うけど・・・。」
「えええええ!!!??なんで!?あそこは年中無休がウリなんじゃないの!?それが店閉めてるってどういう事!?
 ひっどーい!どうかしてるよ!」
どうかしてるのはあんたの方だ。



「姉ちゃーーーーーーーん!!!」
ふいに声が聞こえてきた。
良太だ。
なんか血相変えて走ってきてるぞ。
「はあっはあっはあっ・・・。」
「何、良太、どうかしたの?そんな大慌てで走ってきて。」
「ね、姉ちゃん!大変だ!家が吹っ飛んでいったぞ!」
は?
家が吹っ飛んだ?
「えー!?またあ!?あんなにしっかり止めておいたのに!?」
また!!!!!???
しかも『止めておいた』って!!!??
「り、理緒ちゃん、あの・・・。」
「で、どっちに飛んでいったの?良太。」
「あっちの方だぞ。」
「よし、それじゃすぐに向かうわよ!」
「あ、姉ちゃん、待ってくれよ!」



行っちまった・・・。
それにしても、さっきのやりとりは一体なんだったんだ・・・。
家って・・・そんな簡単に吹っ飛ぶもんなのか?
・・・・・・。
俺も行ってみよう。
行けば答えが分かるはずだ。
て言うかこのままでは帰れん。
俺は、理緒ちゃんと良太が走っていった方向へ向けて走り出した。



答えはすぐに見つかった。
家は、確かに吹っ飛ばされていた。
しかも、道のどまんなかに。
原型をとどめたままで。
何で出来てるんだこの家。
「あっちゃー、また随分厄介なところに飛ばされたわねー。」
「そうだな。」
「良太、母さんとかは?」
「家の中にいるぞ。」
大丈夫なのかよ。
「・・・よし、とりあえず元の場所まで戻すわよ!」
・・・戻す?
「めんどくさいな。」
「つべこべ言わないの!ほら、お姉ちゃんこっち持つから、良太は反対の方持って!」
「分かった。」
お、おい、まさか家を持ち上げるつもりじゃ・・・。
「良太ー!そっちの方は準備はいい?」
「いいぞー!」
「それじゃいくわよ!・・・せーーーーの!!!」
おお!!!
ほ、本当に持ち上がったぞ!
しかも軽々と!
マジで何で出来てるんだこの家!

ビュウウウウウウオオオオオオオオオオオッ!!!!!
その時、今までのよりも一段と強い風が吹き抜けていった。
ブワッ!!!
そして、その風に煽られた家が、勢いよく大空へ舞い上がった。
「え?き、きゃああああああ!!!」
「ね、姉ちゃーーーーーーーーーーーーん!!!!!」
当然、家を持ち上げていた雛山姉弟も、一緒に大空へ舞い上がった。
そしてそのまま、はるか彼方へと吹き飛ばされていった。





「理緒ちゃんの家族の謎がまた一つ増えたな・・・。」
次第に小さくなっていく雛山家を見上げながら、俺はふとそんな事を呟いた・・・。





おわり。




〜おまけ〜

「ねーねー祐くん!知ってる知ってる?」
「え?何を?」
「昨日学校の近くの空き地に、突然家が現れたんだって!」