鬼龍業魔録 第一章 『邂逅』 第三幕  投稿者:おーえす


止まった。
その場所の何もかもが停止したようだった。
対峙する二人は、互いに睨み合ったまま一歩も動こうとしない。
浩之は構えたまま。
耕一は自然体のまま。
そして、見守る二人もまた、その場を動こうとしない。

動くものは、秋風に揺れる木々と葉のみ。

だが、心地よいはずの秋風は、たった一人の男によってゆがめられている。
耕一の体から発せられる『鬼気』或は『殺気』が、辺りの空気をまるで圧迫
しているようだった。

---------何なんだよ!?こいつは!!

浩之は歯噛みした。
目の前の男が、先程までとは違う『生物』に感じられる。
『化け物』である事は解っていた。
だが、

圧倒的な恐怖。

相手は構えてもいない、それどころか人の姿のままである。
だが、耕一が立ち上がったその時より、本能的な何かが浩之の内で訴えていた。

『目の前の男は危険』だと。

---------それでも、

奥歯を噛みしめる。恐怖を打ち払う為に。

---------こいつかもしれないんだ・・・

全身の緊張が、止まる。
体が、戦おうとする意志につき動かされ熱くなる。
浩之の表情から、おびえは消えた。


耕一が、動いた。


低い前傾姿勢で浩之へと突っ込む。
その姿は、まるで獣のそれを思わせるものだった。

浩之も迎撃する為に、うって出る。
スピードを合わせて右足で、耕一を蹴り上げようとした。
だが、
当ると思われたその瞬間。
耕一が、かわした。

先程までの姿が、残像で残る程のスピードで。

そして、どんな体勢、どんな動きをしたか、浩之には認知出来なかったが、
いきなり耕一の右足が上から、浩之を襲ってきた。

---------チッ!!

だが、浩之も上半身を反らし体勢を変えてかわす。そして、反撃の左の正拳を放った。
しかし、無理な体勢故に力の入らぬその一撃は、耕一にダメージを与えてはいない。
「っこの!!」
浩之は続けざまに、右の正拳、左の正拳と交互に何度も繰り出す。
だが、その浩之の両手での連打も耕一は片手でさばいてゆく。

---------畜正!!

さらにスピードを上げ、全力で耕一へと連打をたたき込む。
それでも、耕一は浩之の猛攻を片手でさばいてゆく。

---------畜正、畜正、畜正、畜正、畜正、畜正、畜正、畜正!!

悔しかった。
まるで、遊ばれているかのように感じられる
力の差が。
だから、思い出してしまう。
『あの時』を。
浩之の拳に、更に力が入った。

浩之の必死になっている姿を見て、耕一は心が痛かった。
自分に向けられる
怒りも、
憎しみも、
憤りも、
全て理不尽なものであるのに、全てが耕一の心へと突き刺さる。

今の浩之の表情を、以前見た事がある。

その為かもしれなかった。

最初は、少し脅せば引き返すと思っていた。
だが、浩之の決意に満ちた表情を見てから、耕一は迷った。
目の前の男を打ち倒すか、否か。
だから、最初の一撃もわざと相手がかわせるように、放った。

一発殴られた怨みがない訳ではなかったが、それでも耕一は敢えて戦いの
主導権を握る事で、戦いを引き延ばす事に専念していた。

「浩之!!」
不意に、横の雅史が声を張り上げた。
その声に合わせるように、浩之が連打を止めて耕一から間合いをとる。
次の瞬間。
耕一の目の前を、数枚の真っ白な長方形の紙が舞った。
そして、

「爆!!」

という、雅史の言葉と共にその数枚の紙が輝きだし、
一斉に爆発した。
耕一の目の前が真っ赤に染まり、爆風と炎が、身体を蝕もうと迫ってくる。

後退した。
一足にその場から離れる。
炎は一瞬で消え、耕一には届かなかった。
が、

炎が消えたその先に、浩之はいない。

---------上か!?

耕一が見上げた時。
今、まさに浩之が空中から耕一へと飛び込んで来るところだった。

浩之の一撃。
かわせないと判断した耕一は、左腕で防御する。
重い。
ガードした左腕が痺れる。
蹴りと言うより、重いハンマーで殴られたような痛みだった。

さらに浩之は、耕一に背を向けるように横に回転し、
空中にいながら、
先程の攻撃とは別の足を、耕一に叩きつける。
それを、耕一は右腕で受ける。
先程よりも重い一撃。
耕一の右腕の骨が軋むような感覚。

---------ったく、冗談じゃねえぞ!!

だが、さらに浩之は空中で体勢を整え、その凄まじいバランス感覚で、

空中で三撃目を、放った。

その一撃を、耕一は左手で『受け止めた』。

渇いた音。
耕一の左手から、血が、吹き出した。
破裂するように。
蹴りの衝撃の凄まじさを、その惨状が物語っていた。
だが、耕一の左手は砕けたわけではなく、しっかりと浩之の右足を掴んでいた。

浩之の体格は、標準の男性の体格よりも少し重い。
その浩之を、耕一は何の苦もなく足を掴んだ片手で『降り上げ』、
そして、叩きつけた。

だが浩之も体が地面に付くよりも先に、両腕の掌を地面に付け直撃を避ける。
腕に直接来る衝撃に、浩之は呻き声を上げたが、それでもなお耕一に向かって
空いた左足を使い攻撃を繰り出す。
二、三度繰り出された攻撃を耕一は全てかわし、掴んでいた右足を離すと、
浩之から間合いをとった。
また、浩之も耕一が離れた隙に立上り軽く間合いをとり、構える。

---------強え・・・

浩之にとって、眼前の男は今まで戦ってきた相手の中で間違いなく最強だった。
内容的には押しているかもしれないが、決定的な一撃を打ち込めない。

---------やっぱり、これしかねえか。

血に染まった右手を、握りしめる。
それこそが、自分にとって最強の技を放つ、『凶器』だった。


赤く染まった自分の左手を見て、耕一は再認識していた。
目の前に立つ男の、その力を。

---------迷ってる暇、無いかもな。

相手は十分に強い。
それ相応の覚悟を持って、挑まなければならないだろう。
耕一は、決心した。
目の前の男を、倒す事を。


一蝕即発。
二人の間に緊張が走る。
そして、二人同時に動こうとした瞬間。

「喝ぁああああああああああああああああああつ!!!!!!!!!」

という怒声が辺りに響き渡った。
耕一は驚きの為。
浩之はその声に聞き覚えがあった為に、
止まった。

声のする方向。
そこには、
体格の良い初老の男性が立っていた。
「藤田殿、その御方と戦ってはいけません。その御方は貴方の探す『眷族』とは
違いますぞ!!」
男性は眼鏡をかけ直しながら、浩之に向かってそう言い、二人の間に割って入る。
だが、戦いを邪魔されたのが気にくわなかったのか浩之はその言葉にくってかかった。
「どうしてだ!?こいつら『眷族』を皆殺しにする事が俺の・・・」
浩之の怒声を男性は手で制した。
「この御方は、人に仇なす御方ではありません故。申し訳ありませんが藤田殿、
お引き下さい。私はこの御方に用がありますので」
その言葉に浩之は俯き、そして耕一の方を見る。
その眼は、耕一にはひどく悲しそうに見えた。

「今度会った時は、必ず殺す。殺してやる」

どことなく辛そうにそうつぶやく。
そして、その場から離れていき、見守っていた二人の方へと歩いて行った
その二人と二言三言会話すると、公園の出口へと歩いてゆく。

歩き去って行く浩之と呼ばれた青年を見ながら、耕一はまた出会う事もあるだろう
と、

予感のようなものを感じていた。





第一章 『邂逅』 終



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2、3週間ぶり?かな?
お久しぶりの、おーえすです。
続き物を書いてるくせにこのていたらく。
自分で自分をけなしたくなります。


感想&レス

ギャラ様>『痕拾遺録』第十二話「鬼が夢見て」
          楓ちゃんの心情の描写がすごく良かったです。 正直、ぐっとなりました。
          初音ちゃん選ぶとこうなっちゃうのかなあ。
          感想どうもありがとうございました。

夜蘭様>『李家の感想』
        毎回感想ありがとうございます。
        どーでもいい話しですが『とらは2』やってるんですか?(笑)
        僕もやりたひ(笑)

遊真様>『迷風奏』(七) 月の裏(上)
        いつもながら本当、かっこいいですね。
        梓の戦う姿もちょっと見てみたいです。
        感想どうもありがとうございました。

vlad様>『鬼狼伝』(56)
            浩之の戦いが終わりましたね。
            戦いの終わった後のこういう話しはすごく好きです。
            
            ちなみに僕の書く浩之像はvlad様の影響をかなり受けてます。
            いや、すごく好きなもので。

久々野 彰様>『皆ヘンだよ、日本人』
              すいません、天女さんがどなたか解りません・・・
              坂下さんがちょっぴり可哀相ですね。
              やっぱり彼氏いないし(笑)


感想が、もっとかけたらいいな・・・