鬼龍業魔録 第一章 『邂逅』 第二幕  投稿者:おーえす


耕一が振り向いた先には、男女が合わせて三人。
全員、耕一には面識が無い。
ただ、二人の男に隠れるように立つ少女、と言うより『女性型メイドロボ』は
耕一にも見覚えがあった。

『HM−12  マルチ』

来栖川重工の最新作であり、余分な機能を省いた低コストをコンセプトと
している。
はずであるのだが、
耕一は、何故か違和感を覚えた。

いや、違和感ならば、前にいる二人組もまた奇妙な取り合わせと言える。

一方は優男で、カジュアルな服装で身を包んでいる。顔立ちも整っており、
なかなかの美男子の部類にはいるだろう。
もう一人は、Gジャンにジーンズというラフなスタイル。顔立ちは悪くない程度。
ただ、

瞳は、異常なまでに鋭い。

「あんた」

その男が耕一に声をかける。
その声は、先程耕一に投げかけられた声と同一であった。

「人間じゃないんだろ?」

そう言って男は、笑う。

確かに、耕一は『人』ではない。
だがその事は、ごく一部の人間しか知らないはずである。
「・・・お前な、初対面の人間に向かってそりゃないだろう?」
耕一は苦笑しながらもそう答える。
ただし、その笑みはひきつっていた。
「俺はな、鼻がきくんだよ」
男は、自らの鼻を指さしながら言う。
「化け物の匂いは、絶対に間違えねえよ」

『匂い』とは、つまり『気配』。

その言葉に、耕一は軽く肩をすくめて、
「じゃあ、俺が、『人間』じゃなかったら、どうするんだ?」
と、言った。
「決まってんだろ」
言葉と共に、男の周りの空気が変わる。
渇いた音。
落ちる朱の葉が、男の『鬼気』に次々と弾けてゆく。
周りの二人も、男の迫力に押され少し後ずさる。

「手前ぇをぶっ殺す!!」

「浩之!!」
「浩之さん!!」
二人の声が男の、浩之の声の後に続いたと、耕一が感知した瞬間。
浩之が踏み込んだ。

---------疾い!!

二人の距離は大体3メートル程度。
その距離を浩之は一気に詰めた。
そしてその距離がゼロになる前に、刺すような前蹴りを耕一に向かって放つ。
だが、耕一も右腕で金的及び腹の部分をガードする。

---------甘いんだよ!!

浩之はその動作を読んでいた。
今まで化け物を殺し続けていたが、えてして『人型』は『人』と同じように
急所を守ろうとする動作が入る時がある。
もっとも、化け物の場合人と同じ急所に当てても死ぬ事は無い。
だが、その一瞬の隙を作れば、それだけでよい。

直線的だった浩之の蹴りが、下に落ちる。

---------フェイント!?

激痛。
浩之の右足が耕一の左足の甲に当たる。
さらに、踏みにじる。
靴の上からの圧迫に、耕一の足は悲鳴をあげた。
「くっ、この!!」
耕一はガードを崩し、攻勢に移ろうとする。
近い。
どの攻撃でもよかった。
だが、それより先に、

腹部への激痛。

ガードを解いてしまった耕一のガラ空きの腹に、浩之の左肘が下から突きささる。
さらに浩之は踏んでいた右足を離し、振り払うような右の裏拳を耕一へと放った。
耕一の体は横っ飛びに、道の脇の木へと当たる。

轟音と共に、強い衝撃が耕一の体を貫いた。

衝撃の為に大量に落ちた木の葉が、崩れる耕一へと降り注がれる。
その様を浩之は、急に、どこか冷めたような瞳で見つめていた。


人が少ない事が幸いしてか、大きい音にも関わらず人が寄って来る気配は無い。
その事に、浩之の側にいた青年、佐藤雅史は胸をなでおろした。
自分達の行動は、公には出来ない。
警察沙汰はなるべく避けるようにしなければならなかった。

---------焦りすぎだよ・・・浩之・・・

だが、浩之が焦る理由、
それを雅史は、痛い程知っていた。

雅史の友人であり幼馴染みでもある藤田浩之。
彼はある『目的』の為に、

『修羅』となった。


ポタリ。という音と共に、浩之の足元に血が一滴落ちる。
さらにもう一滴落ち、やがて短い間隔で落ち始め、血溜りとなってゆく。
浩之の拳、いや着ているGジャンの右肘から下が、朱に染まっていた。
異常な筋肉の収縮より放たれた一撃。
その負荷の為に、血管が一部破裂していた。

「浩之さん!!」

マルチが悲痛な声をあげ、浩之のもとへ駆け寄ろうとしたが、

「来るな!!」

浩之の怒声にマルチは、びくっ、と身をひるませ立ち止まる。
「来るな、まだ終わっちゃいねえ!!」
その言葉にマルチは元いた場所まであとずさる。
「まいったぜ・・・今までの奴等ならこれで終わりだったのによ」
右拳の血をなめる。
口に鉄の味がひろがっていく。

---------拳は壊れてねえ。まだ戦えるな・・・

構える。
軽く中腰になり、右足を前に出す。
左手を腰の高さに合わせ、赤く染まった右手を前に突き出す。
そして、待った。

立ち上がる、その男を。


体を包む痛みの中、耕一の頭は驚く程冷静だった。

---------忘れてた。

---------久しい痛みだ。

浩之の攻撃は効いた。
だが、立ち上がれない程ではない。
むしろ体の方は久々の戦いに湧き踊っているようにも感じる。
自分の中の『鬼』としての意識が、戦いへの飢えを訴えているのが解った。

ゆっくりと、立ち上がる。


眼前の男と、戦う為に。



第二幕  終



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えーと、浩之の登場なんですが、ガラの悪い浩之になってしまいました(笑)。

戦いは次の回で終わります。


感想&レス

ちょっと今回は感想はお休みさせて頂きます。

読む方に時間をかけようと思うので。

遊真様、川村飛翔様、夜蘭様、感想どうもありがとうございます!!
柳川さんの出番はすこしの間途切れますが、次出て来た時は派手に活躍
させますので。

感想を読み損なっていたら、ご容赦下さい。