CAT QUEEN 投稿者:姥神日明
「はっ、はっ、はっ」
 やべえ、急がねえと遅刻だ遅刻!
 学校へと続くいつもの坂道を、オレとあかりは全力疾走で駆け登った。
「ま、待ってよ〜、浩之ちゃ〜ん」
 後ろから、息を切らした幼馴染の声が聞こえてくる。
「早くしろよ、あかり。遅刻しちまうだろうが」
「だ、だって〜」
 あー、しゃーねーなぁ。
 オレはその場で駆け足をしながら、あかりが追いつくのを待つ。
 10秒ほどそうしていると、ようやくあかりはオレの隣に並んだ。
「ふう、ふう」
「運動不足だぜ。もうすぐ校門だ、あと少し走れや」
 言うが早く、オレは再びダッシュした。
「浩之ちゃんが全然起きないから悪いのに〜」
 あかりは情けなく悲鳴を上げたが、それでも泣きそうな顔で必死に付いてきた。

「おお、どうにか間に合いそうだぜ、あかり」
 オレが背後を振り返りながら、校門を潜ったその時。
 ぼんっ。
「おわっ!?」
 何やら柔らかいモノに衝突して、オレは無様に転倒した。
「だ、大丈夫!?浩之ちゃん」
 程なく追いついてきたあかりが、慌てて駆け寄ってくる。
「いつつつ――」
 痛む腰を押さえつつも、何にぶつかったのかと前を見上げると――。
 そこに立っていたのは、2人の美女であった。
 一人はスーツに身を包んだ、茶色がかったロングヘアの女の子だ。
 しかし、どことなく表情に人間臭さ……というか隙がない。それに、彼女の耳を
覆った飾りのようなカバー。恐らく彼女はメイドロボだ。
 そして、もう一人の方は――。
 髪はつややかな黒のロング。乱れ一つないその流れに、天使の輪ができている。
 生命力にあふれた、悪戯な猫を思わせるえらい美人である。
 年は、オレより少し年上だろうか?
 ……などと、呆けたようにその2人を見ていると。
 ぐいっ。
「うわっ!」
 オレは突然メイドロボに胸ぐらを掴まれ、物凄い力で足の届かない高さまで吊り
上げられた。
「浩之ちゃん!?」
「恐れ多くも、アヤカお嬢様にぶつかるとは不届きな。死んで詫びて下さい」
 メイドロボは抑揚のない声で死を宣告すると、オレの首を絞め上げた。
「あがぎげごげ」
 な、何て力だ。
 何やら綺麗な花畑が見えてきた、その時。
「やめなさい、セリオ」
 もう一方の女――アヤカと言ったか――の制止の声に反応し、メイドロボ――セ
リオはようやく手を放した。
「げほっ、げほっ」
 激しく咳き込みながら、オレは目尻に浮いた涙を拭いた。
 今、首を絞められている自分を俯瞰で見ていた気がするぞ。
 放すのがもう少し遅かったら、マジで死んでたんじゃねーのか!?
「ですが、アヤカお嬢様。この男は……」
「まあまあ。ここは日本なんだから、国と同じやり方しても駄目よ」
「……はい。承知しました」
 何を訳のわからないことを話してるんだ、こいつら?
 それに――。
「あ、あの、あなたたちは一体……」
 そう、それだ。
 オレより先に、あかりが妙な2人組に尋ねた。
「ああ、私?」
 アヤカは整った顔に微笑みを浮かべて言った。
「転校生よ」


「――突然ですが、今日からこのクラスに留学生を迎えることになりました」
 マジかよ。
 教壇の横に立って担任の先生に紹介されている『留学生』は、まぎれもなく先程
遭遇したアヤカとかいう女本人であった。
 しかも、オレを殺しかけたセリオというメイドロボも一緒である。
 あかりの奴も、ぽかんと口を開けて2人を見ている。
「彼女の国は地中海に浮かぶアクア王国という島国で、彼女はその島の王女様です」
 王女様という言葉に反応しておおっ、というざわめきが起きる。
 はー、王女ねえ。
 それなら、さっき殺されかけた理由も納得できる(殺されてもいいという意味で
はないぞ)。
 彼女が元いた国なら、絞首刑モノのことをオレはやっちまった訳だ。
「それでは、アヤカさん」
 先生に自己紹介を促され、一歩前に出るアヤカ。
「アクア王国から来たアヤカ=クルスガワです。国では王女と呼ばれてるけど、み
んなは『綾香』と呼んでね。それじゃあよろしく〜」
 綾香が物凄い美人であることと、王女という肩書きに圧倒されていたクラス一同
であったが、彼女の気安い雰囲気に安心したのだろう。
 自己紹介を終えた瞬間、質問の嵐(特に男子から)が矢のように浴びせられた。
「誕生日は?」
「ねえ、血液型は?」
「好きな食べ物とか……」
「好みの男性のタイプは?」
 それに対し、苦笑しながらも一つ一つに答えていく綾香。
 セリオの方はそれを見て、さっきから心なしか機嫌が悪そうな様子である。
 いや、あいかわらずの無表情ではあるのだが、さながら偽善者長女がキレた時の
ような薄ら寒い空気を身にまとっていた。
 そして、一人の馬鹿な男子が、
「しつもーん。スリーサイズはいくつですかぁー?」
 などとのたまった時だ。
 いきなりセリオは自分の右腕を引き抜くと、中から現れた銃(!)で馬鹿男子を
間髪入れずに狙撃した。
 カッ!
 しかも、飛び出したのは銃弾ではなく光線だし。
「ひいいいいいいっ!」
 ビームは馬鹿男子の左頬を焼くと、窓に穴を穿って爽やかな青空へと消えた。
「外しましたか。次こそは」
 何時の間にやら葉巻を咥えながら、再度セリオは銃を構えた。
「セリオ、ストーップ!そういうのは駄目だって言ったでしょー」
「ですが、余りに無礼だったので」
「だからって、いきなりビーム撃つこたないでしょ」
「ビーム兵器はロボットの基本ですので」
 基本らしい。
 当然ながら、もはや綾香に質問をしようなどという生徒はいなかった。
「で、では綾香さんはあそこの空いている席へ」
 おわっ!
 そこはオレの左隣の席ではないか。
 でもここって空いてたっけか?まあいいか。
「はーい」
 こちらに歩いてくる綾香とセリオ。
「ち、ちょっといいかな、綾香さん」
 その時、オレの右隣に座る女生徒が命知らずにも綾香を呼び止めた。
 我がクラスの委員長、保科智子である。
「なあに?」
「そのメイドロボは、外に出してもらえないかな?」
「ああ、なんだ――ってなんでやねんっ!!」
 突然、綾香は委員長に裏拳を見舞った。
 裏拳は委員長の鼻先を掠め、後ろの席に座る男子生徒の顔面を痛打した。
 吹き飛んだ男子生徒は後ろの壁を突き破ると、隣のクラスの教壇に激突してそれ
きりピクリとも動かなかった。もうアジャ・コング裸足の威力。
「殺す気かあああああっ!!」
 ダチョウ倶楽部ばりに絶叫する委員長。
「やだなあ。軽いツッコミよ、ツッコミ」
「こんな殺傷能力の高いツッコミがあるかっ!」
「おかしいな、知り合いのブラジル人空手家からはこうだって」
 ああ、王女の方も普通じゃなかった。
「それはいいとして(良くない)、セリオがいたら駄目?」
「こんなデンジャラスな奴がおったら、落ち着いて勉強もできへん」
「色々面倒な国ねえ……セリオ?」
「はい」
 セリオは懐から何やら取り出すと、それを委員長に握らせた。
「なんとかこれで穏便に」
「はあ?」
 何を渡されたのかを見るオレと委員長。
 ――ジャンボ鶴田『ローリングドリーマー』のLPだった。
「……」
 こんなボケにどう反応しろというのだ。
 石化する委員長をよそに、綾香は席に着いた。
「あら、あなたはさっき会ったわね」
 オレの顔を見ると、綾香は嬉しそうに話しかけてきた。
「あ……、ああ。藤田浩之だ、宜しく……」
 自然な笑顔を作れたか、自信がない。
「よく見ると格好いいわね、あなた。姉さんの好みのタイプよ」
「……はは、そいつは光栄だなあ」
「姉さんの写真があるけど、見る?」
 綾香は胸ポケットから写真を出すと、それをオレに見せた。
 写真には、黄色いパンツを履いて地団太を踏む体格の良すぎる(デブとも言う)
レスラーが写っていた。
 ……理不尽大王?ていうかこれ男だし。
 おばはん顔だけど。
 おのれこの女、あくまでもプロレスネタでボケ倒す気だな。
 リーフファンの9割が置いて行かれるのも辞さない構えらしい。
「妹そっくりで可愛いな」
 試しにオレがそういうと「でしょう?」と微笑み返してきやがった。手強い。
「生きていれば17歳になるわ……」
「え?亡くなったのか」
 頑丈そうなのに。
「2年前にね。思えばあのホクロさえなければ……ってああああー!!」
「な、何だああああ!?」
「ひ、浩之っ、あなたその首すじのホクロはああっ!!」
 唐突に綾香は絶叫すると、深刻な顔でセリオと相談を始めた。
 何事かと教室にざわめきが起きる。
「○△××!?」
「△△□○……」
 解読不明の言葉で相談する2人。
 母国語で話すんじゃねえ。わからねえ分一層不安になるじゃねえか。
「――いや、でもあれは死ぬわよ?」
「それしか可能性はありません」
 日本語になった途端に何てことをいうのだこの既知共は。死ぬって何だよ。
「いい、浩之。落ち着いて聞いてね。――セリオ」
「はい」
 セリオは綾香に促されると、とうとうと語り始めた。

 (BGM:光の粒)
  今から千年ほど昔。
  我がアクア王国は飽くことなき戦乱に明け暮れていました。
  土地は荒れ果て民は飢え、
  まさに暗黒の時代でした。
  これを憂えた時の王クルスガワ1世は
  女子高生発狂事件の解決に乗り出し、
  鬼の血を克服して幼馴染と結ばれ
  アイドルの彼女との愛を貫き、
  最後には同人界の神とまで呼ばれるようになったと言われています。

「――それからというもの、首すじにホクロのある者は罪人として悪魔の生け贄に
せねばならなくなったのです」
「何が何だか全然わかりません」
「ここは裏拳でツッこむ所よ、浩之」

「とにかく安心して。そんな迷信を信じているのは一部の狂信者だけよ。『私の』
浩之を生け贄になんて絶対させないわ!」
 決意に燃えて拳を握り締める綾香。
「はあ、悪いね」
 何だか全てがどうでも良くなってきた。
「あ、そうだ。あなたもこのクラスだったのね、浩之のお友達?」
 唐突に、綾香はあかりに話しかけた。
「わ、私ですか?浩――藤田くんとは幼馴染なんです」
「幼馴染?」
 何やら、綾香の表情が一変した。
「邪魔ね――セリオ」
「はい」
 セリオは素早く、あかりの首になにやら注射をした。
「へ?な、何?」
 あかりの体が、無脊椎動物のようにぐにゃりと脱力した。
「心配ありません。ただの筋肉弛緩剤です」
 そう言うと、セリオはあかりを引きずって廊下に出る。
「ど、どこ行くの〜?」
「ちょっとした『訓練』をしてもらうだけですよ」
「く、訓練って何!?」
「別に怪しくないから『絶対』大丈夫です。同じ年頃の女の子もいますし、いい所
ですよ、あの『教団』は。
「『教団』!?」
「さあ、まずは適性を……」
「い、いやあああ〜」
 どんどん遠ざかるセリオにあかり。
「あ、綾香さん?あかりは一体どこに……」
「心配することはないわよ、浩之。そうね、2〜3か月もすれば彼女は素晴らしい
人間になって帰ってくるわ」
「……」
 わりい、あかり。バッドエンドだけは避けてくれよな。


 その頃、校舎の屋上から綾香たちを観察する2つの影があった。
 一人は戦闘服に身を包んだ屈強な老人。
 もう一人はマントを羽織った、魔女ルックの神秘的な美女であった。
「ボディーガードのセリオが綾香から離れました、お嬢様」
 双眼鏡から目を離し、老人は女に報告した。
「狙撃いたしますか?」
 ……。
「『この子に任せます』?承知しました」


「あ〜、そろそろ1時限目が始まるのでHRは……」
 放心状態の先生が、HRを終わらせようとしたその時。
「ガアアアアアアア!!」
 窓ガラスを突き破り、巨大な化け物みたいな奴が教室に突っ込んだ!
 いや、『みたいな奴』じゃなくて化け物そのもの。
 翼とかあるし。
「何だ!?」
「召還獣!てことは奴め、ここまで追ってきてたのねっ!」
「はいい!?」
「返り討ちにしてくれるわ!」
 化け物に向かって飛び掛り、旋風脚をぶち込む綾香。
「グガアアッ」
「おっとお」
 反撃とばかりに化け物が吐いた炎を紙一重でかわす。
 クラスメイトの何人かが、その巻き添えで黒焦げになった。
「あああああ!?」
「大丈夫大丈夫。次週には何事もなかったかのように復活するわよ」
 何の話だ。
「どうせ橋本先輩以下の命なんだから、気にしない気にしない」
 こいつ最低。
「しかし、こういうでかい化け物と一対一で戦ってるとカプ○ンの『ウォー○ード』
を思い出すわねえ」
「ああ、あったなそんなゲーム」
「浮かせてからの風魔法でコインを稼いで」
「そうそうそう」
「ちゃんと毎回パスワード書いてたのに、すぐ店から消えるんですもの」
「やっぱり肝心の対戦が盛り上がらなかったのが敗因かなあ」
「コンシューマー移植されないのかしらねえ」
「そう言やケイ○、『エスプ○イド』はどうして移植しないんだろうな」
「『怒首○蜂』はSS、PSで遊べるのにね」
「ま、色々あんだろ」
 ガスッ、ゲシッ。
 こういう濃い会話をしながらも、綾香はしっかり戦っていたりする。
 うーん、器用。

 20分後。
 長い死闘は幕を閉じた。
 この世の物とは思えない戦いを征したのは綾香であった。
「オ……オソロシイ奴メ」
 血まみれで横たわる化け物の口から、くぐもった声が漏れた。
「ダガ、仲間ハマダマダ沢山イル。貴様ヲ殺スマデ毎日襲撃シテヤル……」
(毎日ィィィ!?)
 オレを含むクラスの全員が心の中で絶叫した。
「覚悟シ……ッ」
 グシャッ!
 化け物が捨て台詞を言い切る前に、綾香はその頭を踏み潰した。
 脳漿と眼球と歯が派手に飛び散る。
「上等よ。いままでは火の粉と思い払ってきたけど、これからは違うわ。狂信者に
与する奴らは私自らの手で葬ってやるわ、そう!」
「……」
「この綾香王女と2年○組の戦士たちでっ!!」
「何ィィィィィッ!?」


「……」
(次はこんな爽やかタッチでは終わらせませんよ、綾香)
 魔女ルックの女はそう呟くと、ゆっくりと屋上から立ち去ったのであった。
 緊迫の次週(?)を待て!

                             (注・続きません)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 あー、わかる人にはわかると思いますが、某マンガを元ネタにしております。
 て言うかほとんどパクリだし(苦笑)。