Leaf Hunter「一話・『千堂 和樹』」  投稿者:アルバトロス


 もうすぐだ・・・
 俺は慎重に指先を動かす。
 間違いは許されない。
 非常に細い線を操り、繋げようとし――
   そして――


           Leaf Hunter「一話・『千堂 和樹』」


「よっし!表紙完成!!」
 和樹は完成したばかりの表紙を、脇に置いていた原稿の束に重ねると素早くベタや
 トーンにまずい所がないかを確認していく。
「終わったのか?まいぶらざー」
「……うん、大丈夫。で、大志。何の用だよ」
 こいつの名は九品仏 大志。いわゆる昔からの腐れ縁と言うやつか。
「うむ。まあ、これを見ろ」
 そう言うと大志は懐から少し厚めの茶封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。
「なんだこりゃ?写真とメモとひぃふぅみぃ…30万?お前また勝手に『仕事』受け
 たな!?」
「ま、待てっ、首を絞めるなっ!わ、我々にも関係ある事なのだ!!」
「俺達?いいだろう、最後に聞いてやる」
「わ、われらがあさひちゃんに関係しているのだ!」
「はあ?」
「この男のせいであさひちゃんがピンチなのだ!」
 大志を投げ捨てると写真とメモを拾い上げ、目を通す。
「その男…橋本とかいうあるTV局の幹部なのだが、こいつが番組出演のかわりに我
 らがあさひちゃんの体を要求してきた。断るとプロデューサーを脅してあさひちゃ
 んを出演できなくしてしまったのだ!」
「で、誰からの依頼なんだ?結局」
「あさひちゃんのマネージャー」
「被害妄想じゃないのか?」
 くいっ、とずれたメガネを直す大志。
「いや、実際脅されたプロデューサーやディレクターから話を聞いたそうだ。
 それにこの男、他にもいろいろやっているそうだ」
「そうか」
 そう言うと携帯を取り出し、操作し始める。
 目的の番号を見つけるとダイヤルする。
「もしもし?千堂ですが・・・ええ、お久しぶりです。・・・はい?違いますよ。
 『狩り』の事です。お時間があればお聞きしたい事が・・・今からですか?
 いえ、助かります。・・・わかりました。では」
 そうして携帯の電源を切ると椅子に掛けてあったパーカーに袖を通す。
「じゃあ、俺出かけるから。ほら、お前も出る!」
「どこに行くのだ?」
「俺なりの調査だよ。お前の話の裏取りに行く。それとな」
「なんだ?」
「次勝手に『仕事』うけたら、しばく」





 ドアを開けるとドアベルが小さな音をたてる。
 店内には無口そうなマスターと客が一人。
 ――エコーズ
 それが「あの人」の指名した店だった。
 そして俺はたった一人の客に近づいて行く。
「ん、千堂青年か?」
「ええ、すみません急に――”緒方さん”」
 緒方 英二。以前ある『狩り』で知り合った人物の一人である。
 本人曰く『とっくに引退した元狩人』で、今では本業である(らしい)
 音楽プロデューサーに本腰を入れ、かなりの成功を収めている。
「仕事の方は良かったんですか?」
「今日は夕方からでね。…マスター、奥の部屋借りるよ?」
「・・・・・・」
 お店のマスターは俺達のほうをちらりと見るとゆっくり頷き、グラス拭きを再開す
 る。
「あのマスター、只者じゃないですね」
「あの人も元『狩人』さ。こうやって相談の場所を貸してくれる。ああ見えてもかな
 りの凄腕でね。…あの人のナイフ捌きは芸術モノだったな」
 そう言いながらドアを閉めると緒方さんは椅子に腰掛ける。
 俺がテーブルを挟んだ向かいの椅子に座ると緒方さんが静かに口を開いた。
「で、聞きたい事というのは?」
「ある人の依頼でこいつを狩ることになりました。相棒が情報を集めたらしいんです
 がどうも…で、職業上緒方さんなら知ってるんじゃないかと」

 写真を見た緒方さんはそれはもう、心底嫌そうな顔をしたように見えた。

「あ〜、こいつか。いつかはと思ってたが…」
 ため息とも呆れともつかない息を吐くと
「とっととやっちゃって構わないよ。ウチの新人に手ぇ出そうとしたぐらい。あの時
 は依頼関係なしで狩ってやろうかと思ったよ」
 手の平をぱたぱたやりながら無気力に言い捨てた、かと思うと急に真顔になり
「これはオフレコだが…何人か自殺しているそうだ」
「自殺…」
「ところでだな、千堂青年」
「はい?」
「依頼主は誰だい?」
「駄目でしょ、英二さん。そんな事聞いちゃ」
 声のした方を見るとコーヒーが二つ乗ったトレイを持った男性が部屋に入ってくる
 ところだった。
「いいじゃないか藤井くん、どうせ教えてくれないんだし。…ん?今日はここでバイ
 トか?」
 この人は藤井 冬弥さん。緒方さん同様、ある『狩り』で知り合った同業者だ。話
 によると緒方さんの技を伝授されたそうだ。
「彰がかわってくれっていうもんで…前にかわってもらった恩もありますし」
「そうか。じゃあ、例の件頼むよ」
「わかってますよ。そうと、時間はいいんですか?道、混んでましたよ?」
「混んでた?…じゃあ、早めに出るか。済まないな、千堂青年」
「いえ、遠慮いらないのが判ったので十分ですから」
 部屋から出て行く緒方さんを見送りながら俺も席を立とうとした。
「あ、千堂君、帰るのかい?」
「ええ」
「これ、マスターからなんでけど。お代はいいからって」
 そう言ってコーヒーを一つ、テーブルの上に置いた。




 和樹が部屋に戻る頃には既に日が暮れていた。
 部屋に入ると、全てのドアや窓に鍵が掛かっているのを確認し、カーテンを閉めて
 いく。
 そして照明の輝度を落とすと机の引出しをゆっくり抜き、奥から金属製の小箱を取
 り出した。
 ふたを開けると中には油彩に使うペインティングナイフとパレットナイフ、紙に包
 まれた塊が収められている。
 和樹はペインティングナイフとパレットナイフを取り出し、みつめる。
 ただのペインティングナイフとパレットナイフのように見える。

   …ただし、鋭利に研がれていなければ、の話ではあるが。

 紙に包まれた塊を手に取ると紙を剥がす。
 中には砥石があり、それとペインティングナイフとパレットナイフを掴んで風呂場
 に入る。
 先ほど見つけた二本の微妙な欠けを確認すると、静かに研ぎはじめた。





「…それではこの件、宜しくお願いします」
「心配するな、俺が約束を破ったことがあるか?そんな事より…わかっているだろ?
 次も頼むぞ。売り出したければな」
 二人が出て行き、ドアが閉まる音が聞こえると男――橋本はテーブルに置かれてい
 たグラスを掴み中身を飲み干した。
「さて、次は――」

   コンコン

「ん?」
 橋本は面倒臭そうにドアまで行くと「橋本様」と言う声がした。
「何だ?」
「橋本様にお荷物が届いておりまして…至急手渡すようにと」
「ちょっと待ってろ。…誰からだ?」
 橋本がドアを開けるとそこにいたのはボーイではなかった。
 その驚きと疑問に反応する暇なく――咽喉元を突かれた。


 
「さすが完全防音だ」
 ゆっくりと部屋に入りドアを閉め。
 橋本は恐怖に縛られた表情でこちらを見ている。そして何が起こったかを理解する
 と床に倒れ、のたうち始めた。
「…お前は支配する側から狩られる側に移った。大勢の人々の恨みを抱いて、地獄に
 落ちろ」
 そう言うと俺は突かれた咽喉を押さえ床でのたうちまわる橋本を押さえつけ延髄に
 パレットナイフを突き立てた。
 動かなくなったの確認すると携帯を取り出して番号を入力し、通話ボタンを押す。
「…終わりました。場所はキャニオンホテルの812号室です。…はい。手数料は必
 ず期限通りに。では」





 こみっくパーティー会場。
 ひと段落ついた和樹は自分の肩を叩くと辺りを見まわし、小さく深呼吸した。
 今日搬入した同人誌も2/3近く売れた。
 大志の奴もそろそろ戻ってくるはずだ。
「あ、あの…」
「はい?あ、モモちゃん。元気?」
「お、おかげ、さまで」
「あ、そうだ。これ、今回の新刊ね」
「は、はい」
「前の同人誌、どうだった?」
「え?はい、と、とても…お、面白かったです」
「ありがと」
「こ、これからお、お仕事…」
「あ、仕事かぁ。じゃあ、引き止めちゃ悪いね」
「つ、次も必ずき、来ます」
「うん、じゃあ」
 モモちゃんが行った方とは逆の方から大志が紙袋を両手に下げ、帰って来るのが
 見えた。
「同志和樹よ、今のは誰だ?誰かに似ていたと思うのだが…」
「ただのファンさ。気のせいだろ?」
 そう言うと俺は机の下をくぐり、カタログを手にとる。
「じゃ、休憩交代な」



           「一話・『千堂 和樹』」
               END


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<あとがき?>
 む〜、いろんなとこにかなりな無理が光ってますね、コレ。

 ぢつは執筆期間が異様に長いんです、自分。
 ネタが無いです。続きは出来るんでしょうか?(謎
 一応続き物のつもりなんですけどねェ。

 ちなみに元ネタは知る人ぞ知る「闇狩人」のつもり。



---次回予告---


   事の起こりは一体の死体だった。


 そして、依頼。
 その男はこう言った。


   「殺してくれ」


 と。


     次回、
     Leaf Hunter「ニ話・『藤井 冬弥』」

 

・・・今年中に出来るか?