艦長 藤田浩之 第3話 出発 投稿者: 暁 千破也
「綾香大尉、今回の任務は君にとって大きな試練になるだろう。
 しかし、耐え抜いてくれるものと考えているよ。
 だが、敵は来栖川帝国だけではない”敵は内にあり”だ」
「内に? 橋本中将どういうこと?」
「敵は外にいるとは限らない」
「そうね分かったわ。それじゃ、頑張ってくるね」
「綾香大尉、出発する前にちょっとお茶しないか?」
「なんであんたなんかとしなきゃいけないのよ!」
 ごす
「うっ」

( まったくふざけるんじゃないわよ!   )


「いやー、参ったな。2人一緒に来るなんて」
「藤田さんはお義父さんの命の恩人ですから。
 親切にしてくれた人には尽くして返すのが当然です。
 それに耕一さんもいるし・・・」
「楓ちゃん、尽くすと言っても俺にはあかりが・・・」
「藤田お兄ちゃんあれ見て」
「あれがトゥハートのようです」
「えっ、どこどこ?あらぁひょっとしてあの艦が?」
「指定座標に間違いありません。
 艦首識別信号を確認しました。あれがトゥハートです」


「駆逐艦トゥハートのみんな、私は副艦長に着任するのに
 この事を言われたわ”敵は内にあり”橋本中将の言葉よ。
 橋本中将は忘れてもいいけど、この言葉の意味を理解できるかしら?
 内なる敵、それは私達の内にある負けを恐れる弱き心よ。
 戦場では負けは死を意味するわ。
 軍人なんだから、決して弱気になってはいけないのよ!」
「はぁ、新入りが何言ってやがる」
「失礼よ梓、あれでもいちよう副艦長なんですから」
「何かしら?内火艇長の千鶴さん 海兵隊の梓さん。
 心しておいてね。礼節をわきまえてこそ真の軍人よ。
 まもなく到着する艦長に対してそのような態度は謹んで
 もらいたいものね」
「いつまで、でかい口を叩けるのか楽しみだな。なっ千鶴姉」 
「そうね」
「そもそも艦長とは艦そのものと等しい。これが私の信条よ。
 艦長が命をもらうと言ったら命を託す。副艦長はもちろん
 乗組員全員が思える人物それが艦長よ。そういう人物こそが
 艦長に相応しいのよ」
「藤田さん、こちらのようです」
「おぅ、みんな揃っているみたいだな。
 綾香久しぶり、お前もこの艦に配属になったのか?」
「あっ、浩之」
「それにあかりや琴音ちゃん、委員長までいるじゃねぇか」
「浩之何しに来たの? 確か年金課じゃなかった?」
「仕事に決まってるじゃねえか」
「仕事?」
「俺もこの艦に配属になったのさ。あまり外見が古いから驚いたぜ」
「わかったわ。では私の指示に従ってね浩之」
「なんで綾香に従わなければならねぇんだ?」
「私はこのトゥハートの副艦長だからよ」
「ならよろしく頼むぜ」
「艦長が来るまでは私が艦長代理を務めるわ。
 艦内の最高権限を私が握っているんだから・・・」
「あぁ、それなら綾香は艦長代理をしなくていいぜ。
 ご苦労さん」
「それはどういう事?」
「えーと、これ見いてみろ」
「藤田浩之 宇宙暦1999年4月1日をもって共済組合年金課より
 少佐に昇進、駆逐艦トゥハートの・・・ トゥハートの艦長に
 に、任命するぅ?」

( なんで、なんで私じゃなく浩之なのー      )

「そういうことだ」
「クスクス」
「ざまぁみろ」
「これはなにかの間違いよ!
 こんな馬鹿な話しあるはずないじゃない!」
「綾香も疑い深いなぁ、ほらこの前あかりと楓ちゃんと初音ちゃんを
 助けた功績が上層部に認められたんだよ。橋本先輩と矢島が推薦したらしいけど。
 でも綾香も地上勤務から配属変わっただろ。書類が信じられないのか?綾香」
「本当?あかりさん?」
「本当です」
「えー、なんでなのー!」
「てぇ訳で、俺が藤田浩之少佐だ。
 みんな張り切って仕事に戦争に頑張ろうぜ!」
「くっくっく こいつは傑作だね。
 あいつに命を預けるんだろう?副艦長さん」


 プシュー
「筆頭操舵士琴音ちゃん
 通信担当委員長
 情報担当あかり
 これからもよろしくな。
 それからあかり、周辺宙域の航行データを揃えてくれ」
「うん、浩之ちゃん」
「準備なんか適当に切り上げて発艦するぞ!」
「藤田君 発艦には司令部の許可が必要やけど?」
「委員長、そんなの無視無視」
「浩之ちゃん服務規定違反だけど・・・」
「あかり、艦内ではいったい誰の言う事を聞くのかな?」
「そ、それは浩之ちゃん」
「だろう。そうと決まれば、とっとと出発だ!」
「全乗組員に告ぐ艦長より緊急命令や。
 全乗組員は至急持場につき、緊急発艦せよ」
「うっ動いてる。上層部の作戦命令も副艦長の私も無視して
 艦が、艦が動いてるわ。もぅなんでなの〜」


 る〜るるるる〜 まぁこんな物かしら
「梓、これを届ければいいのね?」
「千鶴姉そっちは任したよ。私は仕事があるから・・・」
「そんなこと言って耕一さんの所へ行くのよね。
 楓と初音もいるから渡し終わったらそちらへ行くわね」


「私は命を惜しまないけど浩之が有能な上官とは思えないしねぇ
 どうして軍は私の上官にしたのかしら?
 まさか昔の事を言われないように昇進させたのかな」
 コンコン
「誰だろう。あら、何かしらこの箱は?
 ”綾香大尉殿 古参兵一同”
 プレゼントのようね。あとで開けようかしら」


「そろそろ司令部との回線を回復しないとえらい事に
 ならへんか? 琴音ちゃん」
「保科先輩、この私が舵をしている限り一発も当たりません。
 それに藤田先輩もいますし・・・」
「たいした自信やね」
「事実を言ったまでです」
「藤田君にとって申し分ない操舵士ってことやね」
「あれ、どうしたんや千鶴さん?」
「艦長に着任祝いにプレゼントをしようと思ったんですが
 寝ているようですね。 
 それじゃ保科さん、艦長が起きたらよろしく食べて下さいと
 言っておいて下さいね  ニコ」
「かまぁへんよ」

( それにしてもまさか千鶴さんがプレゼントなんて
  確か耕一さんに首っ丈だったのに、迂闊やったわ
  次の手を打っておかないといけないようやな       

  どうしよう藤田先輩のプレゼントはまだなのに
  なにを渡そうかしら、いっそ私っていうのは・・・ ポッ 

  浩之ちゃんがプレゼントを貰うなんて・・・
  今日夕食でも作りに行こうかな腕によりをかけて      )


「全機撃墜です」
「お嬢ちゃんやるねぇ。さすが耕一少尉のいとこだけあるな。
 でも実践もシミュレーション通りいくとは限らないよ。
 まっ、ベテランの耕一少尉でも1000時間ぐらいしか飛んでないんだよ」
「耕一さんが?」
「ああ整備士のおっちゃんが言う通りだよ。でも才能がない奴がいくらやっても無理だよ。
 狩人の資質がなければ駄目だよ」
「そうなんだ。耕一お兄ちゃん」
「よぉ楓、初音元気にしていたか?」
「梓姉さん」
「梓お姉ちゃん。えへへ、耕一お兄ちゃんがここに配属になるって聞いたから
 ついて来ちゃった」
 ・
 ・
 ・
「ここかしら。あら楓に初音」
「千鶴姉さん」
「千鶴お姉ちゃん」
「ところで梓、あれでよかったの?」
「ん、んん、よかったよ」
 ボソ

(「おい梓、いったい何をしたんだ?」
 「艦長と副艦長にプレゼントを贈ったんだよ」
 「ま・まさか千鶴さんの手料理か?」
 「そのまさかさ。今頃どうしてるかな くっくっく」   )


「やっぱりみんな口は悪くてもいい人達だったのね。
 ちょうどお腹も空いているから食べようかしら」
 パクッ
「あら?美味しいんだけどなんか舌がピリピリするわね」
 うぅぅぅぅぅぅぅぅぅー

 ( なにこれ   まさか毒・・・・      )

 パタ

あかりに発見されるまで気絶していたのだった。

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