『彩のひみつ』 投稿者:あんB
 俺は今日も彩と一緒に、原稿を書いている。

 カリカリカリ……
 「………」
 カリカリカリカリ……
 「………………」
 カリカリカリカリカリ……

 「……………………」
 「ふう……」

 男として、目の前にいるこの娘に対しての感情――はまあ、ともかく。

 一読者として、目の前にいるこの娘に感じているのは「賞賛」の一言に尽きる。
 俺にはとうていこんな話は思いつかない、この子、マジで本物の天才かもしれない…と。

 だが。

 同じ一作者として言えば、俺は目の前にいるこの娘に「嫉妬」すら感じている。
 彩とユニットを組んで本を出すようになって暫く立つが、彩の物語作りの巧みさや緻密さ
には、正直まったく叶わない。
 …もちろん彩の方が俺より同人歴が長いが、それにしたってこうも格の違いを見せつけ
られると、同じ書き手としてちとばかり複雑な気分だ。


 しかも、彩は作品の背後環境や設定に関しても、徹底したこだわりを見せている。
 1作ごとに集める大量の資料や文献が、彼女の書く物語に厚みと深みを増している…正直、
彼女のその知識には脱帽と感嘆を覚えるしかない。


 「この「千鶴」って名の空母――『ちづる』?…何か、女の人っぽい名前だね」
 「あ…それ、『せんかく』って読みます……「翔鶴」級の…架空艦で……」

 俺なんか、彩の書いた零戦乗りの空戦戦記ドラマを読んで、初めて「彗星」と「流星」の
違いを知ったぐらいだ。
 ……ほら、名前がよく似てるし。


 「流星」艦攻は「彗星」艦爆と「天山」艦攻の後継機。
 …そして「零戦」がザクで「紫電改」がリック・ドム、「烈風」がゲルググ、「震電」は
ジオング。ちなみに「誉」エンジンがジオンにおけるビームライフルだ。

 『ザクが三号戦車でドムがティーガー、ゲルググがパンテルで、ジオングがヤークト・
ティーガー、連邦のジムはシャーマン戦車』
 …こうすると、(ドイツ戦車好きな方限定だが)関係が判りやすいと思う、うん。

                  ***

 「ところで彩、今度の新しい本の内容って?」
 「あ……今度は、ハリウッド映画のようなアクションなんです。サイバーテロを企む組織と、
それを阻止しようとする主人公達の組織、って……」

 そうか、それでこの前コンピューターやネットワークについて色々教えてください、って
俺に聞いてきたのか。
 …まあ俺も、自分に出来る限りの事は彩にしてあげたいしな。


 目の前にいる、この凄い才能を持った女の子に何か手を貸せることがあったら、何だって
してあげたい。
 そして、彼女の才能から生み出された圧倒的な作品の数々を、みんなにも知って欲しい。

 そう、思ってる。
 …彩の作品が大好きな読み手として、彩の作品に刺激されている書き手として、そして、
その…えーと……彩という一人の女の子に強く強く惹かれている、男として。


 「どれどれ……はあ……」


  『「装備は?」
   「メインアームにMP5SD6、サイドアームにグロッグ19です」
   「ま、定番だな。……だがな、状況を考えろ。
    狭い室内でサプレッサーとストレートストック付き、ごてごてとしたキャベツ野郎の
   フランクフルト・ソーセージを振り回したいか?」
   「――確かに」

    ”人質救出”作戦ならMP5がベストだろうが、”制圧”というSMG本来の目的で、
   しかも銃を持っていることを秘匿したい時に使用するなら、背広の下のホルスターにも
   すっぽり収まる、サプレッサー付きのマック10を。
    その時々に変化するシチュエーションに、最適のチョイスを――そういうことだ。

   「それに、グロックは照準に多少問題アリだ。まあ我々には問題ないがな。
    兵器開発は常に進んでいる。今やグロックと同等の銃はたくさんある。
    …ま、装備はそれでいいだろう。だが、メインディッシュはこいつ、ハンドガンだ」
    そう言って、隊長は腰から45口径のグロッグ21を抜いた。

    大人数で強攻突入し、マシンガンを撃ちまくる必要はない。――よりスマートに、
   そして確実に片づけていく。それが彼達プロフェッショナルのやり方だ』


 「…………。」
 「あ、あの……何か……ダメだったでしょうか……?」

 う、ううん、そんな事ない。…もしダメなら、それはこの作者のせいだ。
 ――まったく、自分の作風に似合わない話書きやがって(余計なお世話だ)

 俺としては、その……目の前にいるとても可愛い女の子が、こんなバリバリのハリウッド・
アクションを思いつく、そのギャップに驚いたのだ。
 主演はジャン・クロード・ヴァン・ダムなんかがピッタリだろうか。

                  ***

 「なあ、彩。彩って(ホントに)いろんな話を思いつくけど、この話ってどんなふうにして
思いついたの?」
 「…え?」
 「ほら、よくマンガのネタは、音楽を聞いてたり風呂に入ってたりすると思いつく…って
言うだろ?彩はどうやって(ホントに)いろんなネタを考えつくんだ?」

 「あ……わたしは…よく夢に…出てくるの……」
 「夢?」
 「寝ていると…夢でマンガの中の人が出てきて……その人達がいろんなお話を……」


 …とすると。

 この目の前でペン入れしてる長い黒髪の女の子、しかも18歳の現役女子高生は。
 くまのぬいぐるみなんか置かれた、とっても女の子らしい部屋で。
 ベッドの中、大きなふかふか枕に頭を埋めながら、幸せそうな寝顔で。


 零戦やグラマンが大空を飛び交い、翼を交え。
 二〇粍機関砲が火を噴き、航空魚雷が敵空母の土手っ腹に突き刺さり。
 VT信管の対空砲火に、陸攻が火だるまになって落ちていく。

 ――そ、そーゆー危ない夢を見てたりするのか?


 …はてさて、フロイトはこの夢をいったいどう判断するのだろう。
 夢占いに『戦闘機の熾烈なドッグファイト』なんて、あるのか?


 「あの……やっぱり…わたしって、変、ですか……」
 「…あ、そんなことないない。すごいなぁ…って。羨ましいよ、彩が」
 「あ……ありがとうございます……」


 まあ、いいか。

           『”想像”無くして”創造”無し』


 …それが、俺や彩のような創作ジャンルだけでなく、すべてのモノ作りに関わっている
者達にとっての格言だ。

 あのエジソンも言っていたじゃないか、『天才とは99%の汗と1%のひらめき』と。
 一瞬のひらめきを形にする、イマジネーションをクリエーションへと昇華させる。
 …それが、「新しいモノを作る」ということ。

 ――そして、今目の前にいるこの女の子には、誰もが羨むほどのチカラがあるんだ。


 また一つ、彩から参考になったな…。

                  ***

 その夜、夢を見た。

 「貴様のような腑抜けは吾輩が粛正してくれるっ!」
 「敵前逃亡は銃殺や!ここで死んで詫びんかい!」
 「ちょおちょおちょおむかつくーっ!!」


 ――同人誌の原稿を落として、大志と由宇と詠美に機関銃で撃たれまくる夢。


 炸裂する手榴弾、崩れ落ちる会場、流れ弾に倒れる名も無きおたく達!
 …今、コミぱ会場は地獄の戦場と化した!!




        【※会場への銃火器の持ち込みは禁止です(施設責任者:牧村 南)】


                <おわりだおわりっ>

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※nifの某壁でのこと。
 有名葉っぱ同人サークル、『隆山温泉旅館組合』のあおきさんの
 【想像無くして、創造無し!】という言葉に感動したσ(^^)でした。

 #「千鶴」が出てくるのはそれが理由です。ホントに作品中で出てくるんだ(笑)

http://member.nifty.ne.jp/AMB/