『きみといっしょ』 投稿者: あんB
 ――ねえ、姉さん。
 今度この子連れて、一緒にゲームセンターでネコプリ、撮らない?

 100円入れて、三毛猫さんのフレームに、美人姉妹2人、可愛く並んで。
 そして、その間に、「にゃん!」…って、この子を挟んで――

             。。
             ○°  『きみといっしょ』


 「ただいま」と、帰れば――「おかえりなさいませ」と、迎えてくれる。
 …その『お迎え』に1人(?)加わった、新しいニューフェース。

 「ただいま〜」

 …おかえりにゃさぁい!!

 誰よりも早く、とたたたたっ…と私の元に駆け寄って来て、にゃあと「お迎え」して
くれる、彼。

 ――最近、家の皆の表情に、優しい笑顔が多くなったのは。

 ――きっと、この子が原因。

                    ***

 姉さんが家に連れてきた、つやつや毛並みの黒猫さん。
 …もしかしてこの子、姉さんの『使い魔』か何か、だったりしてね。

 ちゃんと、姉さんが決めた名前、あるんだけど。
 …家の皆からは、「くろーっ」とか「ねこーっ」とか、好き勝手に呼ばれてる。
 でも、それにちゃんと「にゃ?」と可愛く応える、かわいい使い魔さん。

 猫って、不思議。
 最初は反対されても、いつの間にか、家の中に自分の居場所を作ってる。
 …そしていつの間にか、そこにいるのが当たり前になって。
 いつの間にか、そこにいないと皆、どこか寂しくなってしまう。

 そんな――不思議で、そして素敵な、ちいさな生き物…。


 すたすたすた、とことことこ。
 この子を足元に引き連れ、一緒に廊下を歩く。
 …さぁて、トレーニングの後だし、軽くシャワーでも浴びて……。

 自分の部屋に入り、ベッドに腰下ろして、リボンを解いて、制服脱いで…。
 ドレッサーの前に座って、ブラシを手にして、すっ、すっ…とブラッシング。
 …さらさらと流れる綺麗な長い髪は、毎日きちんと丹念に行ってる、ケアの賜物。

 そんな私の側で、黒猫さんは床にぺたんって座り込んで、ぺろぺろ毛繕い。
 猫って、きれい好きだねぇ――ね、せっかくだから、きみも一緒に、お風呂入る?


 猫さんは、とても清潔好き。
 …だけど、お風呂に入れてもらって、身体洗ってもらうのは好きじゃないみたい。
 だから、最初の頃は「うにゃあぁぁん、助けてぇ〜!」とばかりに大騒ぎ、大暴れ。
 執事の長瀬なんか、「ぷるぷるぷるっ」とされて水浸し、その上、ガリガリっと顔に
2ヶ所の引っ掻き傷。

 ふと、
 『――セリオのデータベースに【猫の洗い方】って、載ってるかな?』
 …なんて、妙な事考えたりして。

                    ***

 きみを連れて、バスルームで部屋着そっと脱いで、タオルで髪をアップにして。
 裸体にバスタオルを巻き付けて、シャンプー片手に、「きみ」と一緒のお風呂。

 「ほーら、大人しくしなさいっ」

 最近は、猫さんも『洗ってもらうと気持ちいい』って、覚えたみたい。
 だから、もう大騒ぎしないし、じたばた暴れたりせず、じーっと大人しくしてる。

 いつも厳しい長瀬も、猫を洗ってる時は。
 ふっ…と眼鏡の下の目元、いつもより優しく緩んでる。
 ――偶然そんな光景を見たとき、何故だか私、とっても嬉しくなった。


 怯えないように、怖くないように、ぬるめのシャワーで優しくお湯をかけて。
 しゃわしゃわっと撫でるように身体を濡らし、お顔も手で軽く拭って…シャンプーを
泡立てて、優しくなでなでするように、身体を洗ってあげる。

 あはははっ……きみって、やっぱり『猫っ毛』、なんだねぇ。
 いつもの艶やかな毛並みが、濡れてすっかり濡れ細って、ぺっちゃんこ。

 泡をシャワーで洗い落として、ぼたぽた落ちる水滴を「ぷるぷるぷるっ」ってさせて
から、身体の水滴をしっぽの先まで、タオルで拭いてあげて。

 「きゃっ!」

 猫さん、屈む私のバスタオルにえいっ!…っと飛びついて、ぶらんぶらん。
 はらり…とタオルが外れて、あられもない姿が、2つの胸のふくらみが、ぷるんっと
その頂上、ピンクの先端まで露わに…。

 …でも、怒るに怒れない、悪戯っ子なきみ。
 バスタオル押さえて「こらっ!」っと睨みながら…思わず、くすくす微笑んじゃう。
 もぉっ、えっちなんだからっ……。


 ――使い魔猫さんは、【魅惑】の魔法使い。

 くるくる変わる表情、可愛い仕草、あどけない寝顔。
 憎めない悪戯、表情豊かな尻尾、凛とした横顔。

 ――みーんな、きみの魅力だね。

                    ***

 バスタオル姿のまま、タオルとドライヤーを使って、身体を乾かしてあげて。
 身体をなでなで…ってしながら乾かしてあげると、にゃああん…としっぽ立てて、
とっても気持ち良さそうな『猫なで声』。

 …そんなきみに、私の瞳も、ふっと優しくなる。
 この手に触れる、心地いい感触――伝わってくる生命の重み、柔らかな温もり…。

 「はーい、できたっ」…と、きみを廊下に出して、私は再びバスルームに。


 (さー……)

 温度を上げたシャワーが迸り、私の身体を濡らし、暖め、潤し、刺激する。
 しなやかな肢体にきらきらと眩しく輝き、駆け下りていく、無数の美しい水滴。

 ……清々しい気持ち、幸せな気持ちでいっぱいになる、この瞬間。

 「んふふっ……」

 スポンジを手に取り、ボディーソープを含ませて泡立て、身体を丹念に、きれいに。
 ふんわりとミルクの匂いが香る、優しい泡で。
 桜色に染まったつやつやの肌を、私のすべてを、そっと包み込むようにして…。

 (さー……)

 ボディソープの泡を洗い流して、しゃわしゃわ…と、長い髪の毛をそっと優しく丹念
に濡らし、湿らせてから。
 愛用のシャンプーを泡立て、泡を髪全体に擦り込んで…髪を根本から毛先まで、
しっかり洗っていく。

 丹念にすすいで、シャンプーの泡を念入りに洗い落として。
 洗い髪をアップにまとめて、タオルをきゅっと頭に巻き付けて…。


 (さー……)

 身体に流れるシャンプーの泡を落とし、シャワーの水流を身体のあちこちに当て
ながら、そっと、火照る肌に触れる。
 ぴんと瑞々しい張りのある、弾力と――優しい温もりを感じさせる、柔らかさ。
 …その2つを包有した、健康的な輝きを持った、色白で肌目細やかな肌。

 「ん……」

 目をつぶって、ぱしゃぱしゃ…と、肌を流れる水流の心地よさに、じっと浸って。
 なめらかなカーブを描く身体のライン、きちんと均整の取れた、プロポーション。
 しなやかな肢体に弾ける、美しい水滴……そして、ほんのり香る、石鹸の香り…。


 『エクストリーム・チャンプ』…格闘家としての、鍛えられたボディ。
 …そして、16歳の『女の子』としての、女らしい、清純で、綺麗なボディ。

 ――そのどちらも、日々の努力の賜物……だよね。

                    ***

 (きゅ…)

 シャワーを止めて水滴を拭い、バスタオルを胸に巻いて、扉を開ける。
 身体に残る潤いを取って、頭のタオルを取ると、ぱさっ…と流れる、きらきら輝く
長い黒髪。
 しっとり濡れた髪を新しいタオルで挟むようにして、丹念に水分を拭き取って…。

 「んっ…」

 揃いのホワイトのブラとショーツを身に付けて、軽く化粧水。
 ブラシで髪の毛を優しく梳かし、弱温風のドライヤーで、さわさわっと髪を乾かす。
 …窓の外からは、柔らかく部屋を満たす、とってもきれいな、夕焼けオレンジ。


 服を着て、まだ少し濡れてる髪の毛にタオルを当てながら、扉を開ける。
 …あら、ちょうど姉さん、習い事から帰ってきたみたい。

 ――目の前を、とたとたとたっ…と玄関に向かって駆けていく「きみ」が、証拠。

 きっと玄関にいたって、姉さんの小声の「ただいま」は、聞こえないけど。
 猫のきみには、「ご主人さま」のただいまが、ちゃんと聞こえてる。

 「…にゃん!」
 「・・・」

 ――お帰りなさい、姉さん。

                    ***

 滑らかな黒い毛に、きゅっと首輪代わりのリボン。
 そんな姿で、1日お家の中を、そしてお庭を、とことことこ。
 ちょっと疲れたら、ごろんって丸くなって、ぐー…とお昼寝。

 可愛いしぐさで皆を微笑ませ、小悪魔のような悪戯で驚かせて。
 真剣な眼差しでじっと座ってたり、天使のようなあどけない寝顔で、ぐーぐー…。

 そんなきみは、この家の皆から、いっぱい愛されてる。
 皆に愛されて、人の優しさに包まれて、のびのびと暮らす、ちいさな「きみ」。
 ……でも、この子を『飼っている』とは、誰一人として、思ってない。


 ううん、違うの。
 この子と、この黒猫さんと、この家で『一緒に暮らしている』、そう…思ってる。

 ね、そうでしょ――?

                    <おしまい>

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