Bathing Beauty―AKARI― 投稿者: あんB
 しとしと雨音を子守歌にして眠った、土曜の夜も。
 翌朝カーテンを開ければ、そこには……カレンダー通りの、眩しい季節。


           ## Bathing・Beauty――AKARI―― ##


 ――夏。……すべてが輝く、季節。

 天高く昇った眩しい太陽、陽差しが光と影のコントラストをくっきりと映し出す。
 鮮やかな青い澄み切った空に、輝く真っ白な雲。

 雨上がりの、日曜日は……太陽がさんさんと輝く、文字通りの”Sunday”。
 こんな素敵な日には、太陽も、ねぇねぇ、お外に遊びに行こうよっ…って、誘ってる
みたい。

 ――今日は、こんなにいいお天気なんだもん。…お家にいるの、もったいないよ!


 …だからわたし、うきうきして街に繰り出したの。
 雨にちょっと濡れた歩道を駆け抜け、水たまりもぴょんと飛び越えて。
 この足、何故だかとっても軽やかなのは……この夏、新しい水着、買っちゃおう!!
って、決めたから。
 ううん、それだけじゃなくてね……その新しい水着を着て、浩之ちゃんと2人一緒に
行く海とかプールとかね、うふふっ…って、想像したりしてたから……。

 ――駅の大きなポスター、隣町にある大きなプールが、来週営業開始!
 あそこの波の出るプール、ウォータースライダー、とっても楽しいんだよねっ。

                                    ***

 今までなら、水着はお母さんと一緒に、駅前のデパートの婦人コーナーとかで買って
たんだけど。
 ……今年は、ブティックでブランド物の素敵な水着、買っちゃおう!…って。


 オトナっぽい物静かな雰囲気のブティックの店内には、冷房がほどよく効いてて。
 今までのわたしなら、気後れしちゃってたけど…ほら、今日なら、背筋ぴんと張って
自動ドアをくぐって。

 「いらっしゃいませ」

 きれいな店員さんのにこやかな挨拶にも、ほら、にっこり笑顔。

 「ありがとうございました」

 …ちょうどわたしと入れ違いに店を出ていく、きれいな長い髪にヘアバンドがよく
似合ってる、わたしと同い年ぐらいの女の子。
 嬉しそうな顔して、ブランドのロゴが入った袋を、しっかりと胸に抱えてる。

 …何、買ったのかな。わたしと同じく、新しい水着、買ったのかな。
 とっても嬉しそうだったな、彼氏とのデートに、着ていく服…だったりして、ね。

 ――わたしと、同じだねっ。


 『今年は、2人だけで海、行こうねっ』
 ……そう、約束したの。それでね、新しい水着欲しいな……って。

 去年の夏着てたワンピースは中学の頃から着てるのだし、色もデザインも何だか少し
地味で、スクール水着と大して代わらないしね。
 地元の中学生と大して代わらない格好で、海に行っても…ねぇ。

 ――だって……今年は、恋人と、一緒なのに。


 身長も、胸も、去年より…大きく、なったから。
 …だから、新しい水着で。

 そして…2人の気持ちも、大きく、なったから。
 …だから、新しい水着で……。

                                    ***

 「昨日、この夏の新作が入荷したばかりですよ」

 店員さんに案内された水着のコーナーは、そこだけカラフルな原色の世界。
 赤、青、緑、白、ピンク・・・色とりどりのスイムウェア、たくさん並んでる。

 オーソドックスなワンピースに、機能的なセパレーツ、そして、大胆なビキニ。
 ハンガーの並ぶコーナーには、今年の新作水着がいっぱい。
 デザインもみんな凝ってて、もう見てるだけで楽しくなってくるの。

 …やっぱり、今まで着てたような子供っぽい水着より、こっちの華やかな、女らしい
水着の方がいいよね。

 ――だって、夏なんだもん。…浩之ちゃんと一緒の、夏なんだもん。


 かしゃかしゃ…と、ラックにかかったハンガーをかき分けて、チェック。

 …モノトーンの、ワンピース。胸元に、ブランド名のワンポイント。
 オーソドックスなデザインだけど、背中が大きく開いていて、なかなかいい感じ。
 大人っぽくて趣味いいけど、ちょっと色が地味かな。もっと、派手な方がいいよね。

 海辺でも、遠くからでも、わたしとわかるような。
 …彼の目を、ずっと引きつけて、離さないような…。


 浩之ちゃんの水着の好みって、どんなのかな。何気なく、聞いとけば良かったな。
 …でも、彼には新しい水着にしたこと、海に着くまで内緒にしておきたかったし。
 新しい水着は、海やプールでいきなり見せて驚かせた方がずっと楽しいし、ね。

 わ……こんな大胆な水着、どんな人が着るんだろ…?
 このハイレグ、サイドの腰骨まで出ちゃってる……でも、布地の少ない水着だから
って、その分安いわけじゃないんだよね。不思議だねぇ…。


 今年はね、少し派手な水着にしようかな…って、思ってるの。
 ……だって、新しい水着だもの。
 「新しい」わたしが着る為の、「新しい」あなたに見せちゃう為の、水着だもの。

 …だから、『新しい』、水着。
 単に1サイズ大きいだけの、地味で子供っぽい水着は、選ばない。
 地味なわたしだけど、だからといって地味なワンピースではなくて、人目を引く
華やかなビキニとか、着てみたい。
 プロポーションに自信はないけど、色気のないコドモ水着じゃなくて、ちょっとだけ
でも大胆な水着、選んでみたい。


 爽やかな夏だからこそ、素敵な海だからこそ、愛しいひとと、一緒だからこそ。
 ……とっても素敵な水着で、眩しく輝いてみたい。


 ――それが、恋する女の子の、心なの。

                                    ***

 いろいろと水着を手にして、うーん…とか、一人悩んでみたり。
 今日は、自分が「これ、いい!」って思ったの、1枚でもいいから試着してみよう。
 …この店でなくても、今日でなくても、自分で満足いく水着、絶対見つけるんだ。


 …ストラップなしの、肩を大きく出したデザインの、コケティッシュな感じのピンク
のワンピース。
 大きな鏡の前で、服の上から身体に当ててみて、頭の中で海の光景をイメージして。
 うーん、爽やかでいい感じなんだけど、肩紐ないのはちょっと不安だな。
 ……もうちょっと胸があったら、こんなのも似合うんだろうけどなぁ…。

 わたしだって、女の子なんだよ。
 性格も、容姿も、考え方も、まだまだ子供っぽいわたしだけど、お年頃の女の子と
しての魅力、少しでも彼に、見せつけちゃいたい。

 『誘惑』とか『悩殺』とかには、縁遠いわたしだけど。
 …でも、一瞬でもいいから、浩之ちゃんに「どきっ!」って、させちゃいたいの。
 「ふーん」って平然とされちゃうのは、ちょっと悲しいもん。


 …淡い水色にトロピカルフラワーの柄がプリントされた、パレオつきのツーピース。
 これもいい感じなんだけど、わたし色白いから、もっと濃い色の方がいいかな。
 普段あんまりぱっとしないわたしだから、海辺やプールサイドでぐらいは……。

 「濃い色」――”こいいろ”――「恋色」。
 …そんな色の水着、ないかな……。


 「あっ……」
 ふと目に止まった、素敵なデザインの――ビキニ。
 真っ白な地に、花柄のビキニ。ぱっと見には『かわいらしい』水着だけど、細部の
デザインとか、ハイレグの切れ込みとか、結構……大胆、だよね。

 ビキニかぁ…ちょっと勇気がいるけど、でも……今まで見た中で一番の、水着だし。
 サイズもちょうどいいみたいだし、ちょっと……試着してみようかな?

 店員さんに断ってから、ハンガー片手にフィッティングルームへ。
 頼りなさげなカーテンでなく、しっかりしたドアの、小部屋。
 鍵を閉めて、半袖ブラウスのボタン、外して……。

 壁の鏡の向こうに現れる、透き通るような色の白い肢体。
 白のレース付き「お出かけ用」ブラ姿の自分の格好を見て、ちょっぴり…恥ずかしく
なって。

 ――変だね、水着だと恥ずかしくないのに、同じ形した、下着だと恥ずかしいね――


 ホック外して、そっと胸を彩っていたブラジャーを解いて、ビキニをつけてみる。
 ……うん、さすが出来もしっかりしてるし、大きさもちょうどいい感じ。
 ちゃんと胸のところにパットとワイヤーが入ってて、胸を大きく見せてくれるし!

 キュートな花柄や、胸元や両サイドの小さなリボンが、水着のデザインの大胆さを
カモフラージュしてて、何かいい感じ。
 スカートも脱いでみて、ショーツの上からビキニ、はいてみて。

 ビキニラインも、脚をすらっと出して長く綺麗に見えるし、ハイレグの切れ込みも
それほど大胆じゃないし、お尻の感じも、ちょうどいい具合。


 鏡の中に映る、わたしは……生まれて初めての、ビキニ姿。
 うわ、何かどきどきしちゃうなぁ……でも、思い切って着てみて、よかった。
 ……これ見たら、浩之ちゃん驚くかなあ。浩之ちゃん、気に入ってくれるかな?


 いつものワンピースでない、新鮮なビキニ姿の……新しい、自分。

 新しい、自分…。

 この春に、髪形、思い切って変えた時。
 浩之ちゃん、始めすっごく驚いていたみたいだったけど、「似合っている」って
言ってくれたよね。
 …すっごく、嬉しかったんだよ。思い切って髪型変えて、よかった!…って。

 あの日生まれた、新しい自分。
 ……今日、このビキニ買って彼に着て見せたら、浩之ちゃん、やっぱり驚くかな?
 この前みたいに、照れながら「似合ってる」って、言ってくれるかな。
 わたしのこと、少しは、「女らしい」って、思ってくれるかな…?

 ……この夏、ビキニにしたら、また……『新しい自分』、生まれるかな。


 ―――よぉし、決めた!この水着、買っちゃおう!!

                                    ***

 水着の入った、ブランドのロゴが入った袋。
 さっきの女の子と同じように、しっかり胸に抱えて、店を出て。

 …もうすぐ、夏休み。
 ちっちゃい頃からずっと、海水浴に花火大会、縁日に盆踊り…と、色々な所へ浩之
ちゃんと一緒にお出かけした、楽しい思い出。
 そして……今年も、浩之ちゃんと一緒。

 ――こ、「恋人同士」と、して……。


 2人で、行くとしたら……やっぱり、毎年行ってるあそこの海水浴場かな。
 この街から電車で30分、昔と変わらない、あの海。
 海の家も、浜茶屋も、休憩所も、貸しボートも、監視台も……ちっちゃい頃と、全然
変わってなくて。
 みんなでいっぱい泳いだり、波打ち際ではしゃいだり、砂浜を夢中で走りまわったり
して、わいわい騒いで。
 …波の音って、潮の香りって、どうして……ああ、嬉しくなっちゃうのかな。

 スイカ割りしたり、砂に埋まったり、海の家で焼きそばやかき氷、食べたりして。
 貝殻拾ったり、砂のお城作ったり、遠くを行く船に、おーいって手振ったり。
 …あの頃も、そして、今も……海の楽しさって、変わらないよね。


 でも、どこか遠い海、白い砂浜がきれいな海岸に、2人きりで行くのも、いいよね。

 …わたし達以外には人影もまばらな、プライベートビーチ。
 ビキニに着替えたら、その上からヨットパーカー羽織って。
 そして、浩之ちゃんの前で、パーカーをそっと脱ぐの…。

 その下から現れる、わたしの眩しいビキニ姿、見せたら……「きれいだね」って、
言ってくれるかな。
 ……そう、言ってほしいな…。

 ――恋する女の子は、大好きな人の前で、ひときわ綺麗になるんだから……。


 ピーチパラソルの下、デッキチェアーでソフトドリンク飲んだり、跡にならないよう
水着外して(うふふっ)、サンオイル塗って、こーんがり焼いたり。
 そして、波の音聞きながら、夕焼けに染まる波打ち際を、2人で…歩いて……。
 夜になったら、砂浜で花火するのもいいな。そして、いい雰囲気になって……。

                                    ***

 夏の海、2人だけの、秘密の想い出。

 ――今年の夏は、ビキニの夏は、どんな素敵な想い出、できるのかな・・・?


                                 <おしまい>

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 はじめまして。あんBと申します。
 今回初投稿、「To Heart」SS自体もまだ2作目です。
 #1作目は「芹香さんと黒ねこ」SS(笑)

 タイトル「Bathing Beauty」とは『(ミスコン等に出場する)水着の美人』、って意味
だったりします。
 あかりちゃんはスタイル的にはまだ発展途上ですが、まだまだ成長期だし、見る限り
おっぱい綺麗な形してるし、ビキニも似合うじゃないかなぁ……と。
 #きっと『あかりポイント』ぴろぴろ〜んと上がると思うよ(^^)


 しかし、書いてて1つ困ったことが。
 …『あかりちゃんが某詩○ちゃんに見えるぅ』(苦笑)

 ……実は私、あの「ときめきメモリアル」SS書きでして、【極甘SS書き】とか
【煩さっか】(笑)とかの称号持ちだったりします(^^;)
 そう、あかりちゃんに萌えたのも『幼なじみ』ってのがポイント大(爆)

 「他にも読みたい」「○織にしか見えねーぞ(^^;)」など意見感想ありましたら、
ご気軽にどうぞ。

それでは。

http://member.nifty.ne.jp/AMB/