正直 投稿者: WILYOU
波間に漂う偽りの星の群、石の国に作られた綺麗な森では、いくぶんか空気が澄んでいる気がする。
外のかしましい音もいくぶんかやわらげられ、ビルの谷間に吹く風も、ここでは違うように感じられる。
そんな名もないような公園の中で、男は池の畔に立っていた。デニム生地で体を覆い、手をズボンのポケットに突っ込み、持ち物はポケットの中の3枚の紙幣とちょっと重めの硬貨たち、シャツにかかったサングラス、そして、
愛を一つ・・・・・・

1,
「お〜い、耕一。そのまま視線夜空へ、初音!ライト暗いよ!」
俺がぼ〜っと池の暗い面を見つめていると、後ろからそんな声かがかかったので、振り向くと、梓が家庭用ビデオカメラを回している。
「・・・・何やってる・・・・」
「ああっ!せっかくきまってたのにぃ。動いちゃ駄目だってば」
見ると、横で初音ちゃんが棒の先にくくりつけられた懐中電灯をよたよたと持ち上げて、小さな灯りでこちらを照らしていた。
「・・・・・・・・」
「別れた奥さんを連れ戻しに、この東京砂漠へと単身乗り込んだ若い男!、いい絵がとれるとおもってたんだけどな〜」
「そういうの学校ではやってんのか?梓」
俺はちょっとしためまいを覚える。
「別に」
・・・・・
「ただでさえ、心労で疲れてるんだ。頼むからこれ以上疲れさせるような真似はやめてくれ・・・」
「なんか泣きそうだね、耕一」
それは無理もないだろう、なにせ・・・・

それは一週間前にさかのぼる。
俺と千鶴さん、梓、楓ちゃんの四人で、夜遅くまで衛星中継のサッカーの試合を見ていたときのことである。
「いっけぇ〜、中田!」
梓が、ダンッ、とちゃぶだいを叩き、俺もTVに視線を釘付けにされる。それはなかなか白熱した試合だったように思える。なにせ徐々に日常が非日常に浸食されていたにもかかわらず、なおも日常の中にいると勘違いしていたのだから、それはそれなりに興味を引くものだったのだろう。
最初は朝、梓が今日の新聞を持ってきたことから始まった。梓の話では、今日の夜遅くから「日本*○○」の試合が今夜遅くにTVでやるとのことで、それにのった俺も馬鹿だったのだが、初音ちゃんを覗く大人組(楓ちゃんは違うが・・)で、それを見ようということになったのだ。TVが始まった最初は良かった。ちゃぶだいに置かれたクッキーと紅茶の香り、なごやかな雰囲気、それらがこの柏木家の居間をつつみこんでいた。しかし何故であろうか?いつのまにやらそれは「かきのたね」「エ○スビール」といった酒盛りアイテムに姿を変えていたのは?
「か〜っ、いいねぇ。美人姉妹にかこまれながら飲むビールは。はぁ、これで初音ちゃんもいればねぇ・・・」
トクトク・・
その頬を赤らめながらも、楓ちゃんが静かに空になった右手のグラスにビールをついでくれる。
「殺せ!、いてまぇ〜〜〜!!!」
テレビから60センチと言ったところで梓が吠えている。奴の頬も一応赤いには赤いのだが、楓ちゃんのように風情はやはりない。いつのまにかその髪はいくらか逆立ち、この家もかすかに震えているようなきがす。つまり、無意識のうちに鬼状態になっているのだ。
下手に刺激すると怖いことになりそうだったが、このままいって日本が一点でも入れられれば、テレビごと爪でまっぷたつにしかねないと思い、俺は一応止めておいた。
「ほら」
トクトクトクトクトク・・・・
梓が握りしめている空のグラス(よくもまあ、壊れなかったものだが)に俺は褐色の瓶から透明な液体をついでやる。
すると梓はTVから視線を外すこともなく、そのグラスを口に持っていくと一気にあおる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「へへへっへっへ、ほらぁ、ははたぁ〜、しっかりせぇやぁ〜」
すでにろれつが回っていない。
「アルコール98パー」、これに勝る武器は無いだろう。これならいくら暴れても、よたよたしていろ梓を押さえることならまだたやすい。酔いつぶれて眠ることを期待しながらも、俺は楓ちゃんの次いでくれたビールをあおった。
しかし・・・・・・・・・。
「あれ?ここにあった私の【手作りウォッカ〜強化バージョン〜】は?」

ピシィッ!(ホットだった脳味噌が瞬間冷却される音)

台所の方からかごに入れた枝豆もってきた千鶴さんのその一言に、俺の頭は酔いの心地よい世界から現実世界へと引き戻された。
「あの・・耕一さん、グラス押さえてもらえませんか・・・・・」
横を見ると楓ちゃんが困った顔で下を見ている。
下?
見ると俺のグラスを持つ手が、いつのまにか痙攣している。
「ははははっ、とまんないや・・」
痙攣はさらに激しくなり、グラスのそこの方にたまっていたビールが揺られて外へとこぼれ落ちる。
「あの・・・・・・・」
「いや、ほんとにとまんないんだって」
とはいうものの、なかなか信じてはもらえないようだ。自分でも自覚できるぐらいに、俺の顔はひきつった笑みを浮かべていただろうから。
前回の「セイカクハンテンダケ騒ぎ」、これはまだ記憶に新しい。いったい今回のお酒には何が含まれているのだろう。
「どうかしたんですか?」
多少酔ってその頬を赤らめている千鶴さんが、くすっと笑いながら自分の席に着くが、俺にはそれにかまっているひまもなく、慌てて梓に飲ませたウォッカ(?)の入った褐色の瓶を手にとってよ〜くみる。
瓶は普通のビール瓶だ。普通に会社のロゴが入っていて、普通にラベルが貼られ、普通に成分表示みたいなのがされている、しかし、しかしである、
何故ここの成分のかかれた欄外に小さく「セイカクショウジキダケ」と追加されているのだろうか?
正直・・・・・・・。不可解だ・・。
「耕一さん?」
よし、ここはちょ〜っと怖い気がしないでもないが、本人に聞いてみよう。
「あの千鶴さん?」
「はい、なんでしょう」
「これなんですけど、、、、」
ドンッとなぜか普通の酒が入っているにしては、やたら重みのあるその瓶を俺はちゃぶ台の上にのせる。
「あ、私のお酒。こんな所にあったんですね」
「いや、それよりもここに書いてあるこれなんですけど・・」
俺が身を乗り出して例の文字を指さすと、千鶴さんが身を乗り出してきてその文字を観察する。ちょっと赤らんだ顔の千鶴さんの顔が目の前に・・・・千鶴さんの熱を持った頬から、千鶴さんの暖かさが感じられる気がして俺はさらに赤くなる。
だぁ〜ったまらんっ!(作者談)
と、まあ変態なそんな奴のコメントはさしおいて・・。
「ああ、これですか。今日仕事で視察に行って来たときに、滝壺の畔の岩の影のトリカブトの花の上に寄生していた変な形の曲がったキノコです」
どうしてそんな妖しげなものを酒につかうかといいたくもなったが、あまりに無意味な気がして俺はその言葉を飲み込んだ。
「そして辞典で調べたら、そんな名前が乗ってたものですから」
そういって何故か恥ずかしそうに顔を背ける。
はぁ、かわいずき・・・・・・・。
とまあ、超変態ロリ野郎な作者のコメントはおいておいてだ。
「その辞典は?」
ポンポン
肩を叩かれて横を向くと、楓ちゃんが重そうにぶっとい辞典をこっちに差し出していた。
俺はそれを受け取ると、膝の上に置き、何かお約束のようなものを感じて、表紙も見ぬまま、そのページを捲る。
・・セイカクコウカンダケ・・・・セイカクハンテンダケ・・・・っといきすぎた・・セイカクショウジキダケ・・・・っと、あった・・・・・・
「食べると正直になるキノコ」
何故かそのキノコの欄だけ手書きで書いてあったのが妙に気にはなったが、とりあえずだいたいの効果はわかった。
食べると正直になるキノコ、つまり正直者になるということだろう。
しっかし、神戸の某市長じゃあるまいし、この柏木家の正直な姉妹の中でも一番まっすぐな性格の持ち主である梓。こいつがそれを喰っても、別に対して被害はないのではないだろうか・・・・・・・。
と、その時。いつのまにかカオスが元に戻っていた梓がすっくと立ち上がり、その口を開く。
「千鶴の偽善者!寸胴!○○!(千鶴さん保護条例のため割愛)」
耳が痛くなるほどの大きな声で、部屋の障子を大きく震わせながら、梓は叫んだ。
なるほど、バカ正直も含まれるという事か。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
状況は最悪となったようだった・・・
ここまでお約束通りに事が進むと、千鶴さんの反応など別に説明しなくてもわかると思うが、一応説明しておこう。
俺が慌てて千鶴さんの方を向くと、千鶴さんは一瞬惚けたような表情になり、やがてその言葉の意味が分かったらしく、その顔を赤く染めてゆく。そして、ある程度まで赤くなると、こんどはスッとその熱が冷め、同時に経やり温度もいくらか下がる。
って、なにか変だな・・・。
ここまでの流れは「お約束」という奴だが、いつもとは違う何かを感じて俺は身をかがめて、座布団を頭の上に乗せた形であたりをきょろきょろと見渡す。
あった。
俺はその視線をある一点で止める。
壁に掛かったシンプルな作りの温度計の赤い部分が、赤い玉の所以外見えなくなっていた。
つまり、零下10度以下辺りまで下がっているのである・・・・・・・。
この温度の急激な下がり方から、千鶴さんの怒りの大きさが伺える気がする。
死ぬなよ、梓。俺は心の中でそう呼びかけた。
「耕一さん・・・」
その声に横を向くと、ちゃぶ台の下にうずくまっている楓ちゃんが、こっちに不安げな視線を投げかけていた。怯える猫のような瞳、それを見ているとなんとなく愛しい気持ちになる。
俺は片手を伸ばすと、その髪を優しく撫でて上げる。
「大丈夫だよ」
これ以上楓ちゃんをここに置いておくのは忍びなかったが、逃げられる状態でもないのでせめて安心させて上げたかった。
楓ちゃんは俺の手に震える小さな手を重ねると、ちいさな安堵のため息をつく。
「さすがに男の方ですね。落ち着いてます」
なかなか、嬉しいことを言ってくれる。
しかし、
「いつの時でも、希望的観測と現実逃避は必需品さ(音符)」
俺のその一言に、何故か楓ちゃんはさらに泣きそうな顔になってしまう。
そしてその次の瞬間だった。

キユュュュュュュュュュュュュュュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!

何かが収束する音と共に、

ダアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァンッッッッッッッっ!!!!!

柏木家の一角は木片となって夜空へと舞い上がったのだ。
下に燃え上がる蒼き炎を残して、、、、、、、、、、、、


次の日の朝。
「ねぇ、耕一お兄ちゃん。どうして、梓お姉ちゃんが松の枝に引っかかってたり、楓お姉ちゃんが仏間で放心してたたり、居間がなくなってたりするの!?」
寝起きの初音ちゃんのもっともな質問に、俺の心は痛む。
「ちょっとね・・・」
あいまいな笑みとあいまいな返事をかえす俺だったが、初音ちゃんはそんな俺の様子に気がついたのか、それいじょうつっこんではこなかった。
「・・・・と、とにかく、梓お姉ちゃんと居間をなんとかしなきゃ・・・」
トタトタと廊下を走っていく初音ちゃん、おそらく梯子を取りに行ったのだろう。
その間に、俺は居間のあった場所まで行くと、土の上に散乱した家具の破片の中から、証拠になりそうなもの、危険なもの、つまり何故か中身が入ったまま壊れていないビール瓶なんかを始末しておいた。
と、そんなときに俺はふと気がつく。
柏木家の居間のあった場所、その居間の壁に当たる部分だろうか?焦げて黒くなってしまい、雅もなにも無くなった一面のやはり黒い壁としか言い様のないものに、俺は何かを見つけて手をその上にそっと這わせた。
すると、ぼろぼろと焦げた壁がはがれ、なかから銀色の金属板が現れてくる。あれだけのエネルギーが放出されたにも関わらず、その金属だけはまったくのノーダメージ、そんな感じがするぐらい、綺麗にその板は光っている。
しばらくそれをはがしていると、やがて半畳ぐらいの金属の部分が露出し、そこには下手なギリシア文字でこう彫られていた。
『彼女たちをしっかりおさえてやれよ耕一。 B〜y親父』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
親父は知っていたのかもしれない、いや知っていたんだと思う。この柏木姉妹がおこすであろう惨事を。
そうでもなければ、この家にこうして金属補強をしたりはしなかっただろう。
そうして俺がなんともいえない親父への哀愁に浸っている時、

はらはらはらはら・・

ぽっかり空いた空から舞い落ちてきた一枚の紙を、俺はそれをはっしとつかむ。
『家出します。頑張って探してくれないとすねちゃいますよ ば〜ぃ千鶴』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さまよえるユダヤ人とは俺のことであったのか!?
「いてててっ、、まったく酔うとだめだね、昨日の記憶が全然ないや・・。ってあれ?耕一。なんであんた泣いてるの?」
脳天気な梓の声を横に聞きつつ、俺は朝霧の晴れてきた綺麗な青空をいつまでも眺めていた。


そうして俺はこうして東京砂漠へとでてくることになったわけである。
追いつけそうで追いつけない、そんな状態を楽しんでいる千鶴さんをどこまでも追いかけながら・・
「あ、ほら耕一お兄ちゃん!千鶴お姉ちゃんあの木の上にいるよ!」
初音ちゃんの言葉に俺が池の向こうの木を眺めると、バックに月の光を受け、長い髪を風邪にはためかせて偽善、もとい毅然と木のてっぺんに立つ、女の人のシルエットがあった。
「はぁ、いくか・・・・・・・」
俺は全身の筋肉に鬼の血を這わせ、一気にその身を強化すると大きく地を蹴って駆け出す、一足で池を飛び越え、風の抵抗を多少心地よく感じながらも、後ろに続く柏木姉妹年下3人とともに一人の人影を目指す。

そうして今日の夜も、東京の空では鬼たちが激しいデッドヒートを繰り広げることとなる。
そして明日のよみうりのトップはこうでるだろう。
『驚異!都庁一晩にして半壊!〜噂の鬼?〜』と。
耕一「嫌すぎ・・・・・」
                        (星)おわり(星)
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以上です。読んでくださった方、本当にありがとうございました(星)
変なネタばっかでごめんなさいね(音符)
これまでに3回ぐらい投稿してますが、覚えてる方はいないだろうので、
初めまして、ってことで(笑)
で初めてな分際で、感想など少しばかし書かせていただきます。
>感想
>だよだよ星人様
千鶴さんと二人でお酒を飲む前半部分。サイコ〜です(笑)
大人の雰囲気が漂ってますね。いい感じです。
で、やっぱり後半の+*の辺りが一番笑えました。
>ARM【玉緒様
1個で100円、10個で1200円とはまさに不思議なところですね
秋葉原というのは(笑)
その食い物(?)の名前は知りませんが、一回いってみたいです。
>紫炎様
いっちゃってる雅史君と委員長のつっこみがいいです。琴音ちゃんの辺りとか、最後になんか買ってる辺りとか、ひさひざさに爆笑させていただきました。
いや、まじによかったっス。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/1435/index.html