いつものようにいつものごとく、柏木耕一は隆山の美人四姉妹のもとに遊びに来ているのだった。
(富山敬、今回はヤンウェンリーの声で読んでちょ)
「「「「「いただきまーす」」」」」
夕食時。今に勢揃いした柏木四姉妹と俺は一斉に箸を持つ。
「……ごちそうさま」
ぶう!!
まさに電光石火。
一瞬の後には、食事を終えて手を合わせてちょこんとお辞儀する楓ちゃんの姿がそこにある。
速い。速いなんてモンじゃない。
柏木楓はわずか一ミリ秒で食事を完了する。ではそのプロセスをもう一度見てみよう。
『……いただきます』
灼熱の食欲エネルギーが柏木楓の脳神経を直撃する。増幅された食欲エネルギーは、漆塗りされた箸を伝わり、
柏木楓に赤射蒸着されるのだ。
「も……もう食べたの? 楓ちゃん……」
「はい」
そう言って彼女はテレビのリモコンを取ると、スイッチを入れる。
ちょうどニュースの時間。全国ニュースが終わり、今日の特集が始まりだした。
「本当に楓お姉ちゃんは食べるのが速いよね」
初音ちゃんが苦笑混じりに言う。
「なんか、作りがいが無いよなぁ。食べられるんなら味なんてどうでもいいんじゃないの?」
普段からそう思っているのだろうか梓がぶつぶつと文句を漏らす。
「……あら?」
と、突然千鶴さんがテレビ画面に視線を移した。
「このお店、隣町の『レストラン石井』じゃない?」
その言葉に反応して俺達はみなテレビに注目する。
レストラン石井とは隣町にある大衆食堂、味よりも値段の安さと量で勝負している店である。
俺も何度か食べにいったことがある。
番組は今日の特集として、「街の大食い料理」を報じていた。
『今、こちらの店ではこの【爆山カレー】こと、五人前分の特盛りカツカレーを三十分以内に食べ尽くすと、
賞金として五万円を差し上げています』
番組の内容は簡単に言ってこんなものだった。
「へえ…… 石井でこんな事始めていたんだ」
「カツカレー五人前だって。とても食べられないね」
「耕一さん、試しにどうですか?」
「止めてくださいよ千鶴さん、こんな化け物カレー、誰も食べられるわけ無いじゃないです……か……」
そうのたまう俺のセリフは、そこで霞のように消えていくのであった。
「…………楓ちゃん?」
そう。
楓ちゃんがまさにテレビにかじりつくような格好のまま真剣な眼差しで画面に釘付けになっていた。
そしてその表情には並々ならぬほどの決意を感じられる……
「…………」
そのまま俺達が凍り付いている横で、楓ちゃんはすっくと立ち上がり、何も言わぬままスタスタと今を出ていった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「るおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーッ!!」
「!? な、何だ!?」
しばらく後、夜の隆山に突然ケモノの雄叫びが轟き渡る。
その悪鬼のような咆哮を耳にし、俺は思わず鬼の力を解放しかけた。だが……
「……気合い、はいっているね楓お姉ちゃん……」
……はい?
初音ちゃんがみそ汁をすすりながらかすかにつぶやいた。
「やる気なのね、あの子……」
ほえ?
千鶴さんが納得したように頷く。
「……可哀想に、石井の親父さん、いい人なんだけどな……」
何と?
梓がポロリと大粒の涙を流した。
………………………………………………………………
「るおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーッ!!」
雄叫びに反応して、あちこちの家の犬達も一斉に遠吠えをあげていく。
……ふと隣の家を見ると、屋根の上に、まるで月明かりの写し絵のごとく映える楓ちゃんのシルエットが見えた。
……ような気がした。
……錯覚だ。
……錯覚だと思いたい。
……だってそれが人の革新へとつながるのだから……
翌日、早速俺達はそろって隣町のレストラン石井までやってきた。
……いや、そろってはいない。
当の楓ちゃんだけが何故かいない。
「ああ、あの子は私たちとは別行動を取るんですよ。仲間だと思われたら困るからって」
……そう説明してくれた千鶴さんの言葉に、俺はなにか後ろめたいものを感じるのだった。
「ま、あたしらはあたしらで普通に食事しようよ」
と、言うわけで、俺達四人はごく普通の客となってそれぞれ料理を注文し、ごく普通に昼食を取ることとなった。
食事を初めて十分ぐらいした頃だ。
から〜〜ん♪
「いらっしゃいませー」
「おっ、来たよ来た来た……」
梓がフォークでそっと入り口の方を指し示す。
楓ちゃんがいた。
きょろきょろと辺りを見回し、昼時でテーブルがほぼいっぱいに埋まっているのを確認すると、
トコトコとカウンター席の一角に何も言わぬまま座る。
「なんになさいますかぁ?」
給仕がにこやかな笑顔で水を差し出す。だがその笑顔は一瞬のうちに消える運命にあった。
「……【爆山カレー】」
ざわっ!!
楓ちゃんの、静かだがしかしよく通る声が響き渡ったとき、店内の空気は一変した。
ざわめきが広がっていく。隣に座っていたサラリーマンの、その箸が宙に浮いたままピタリと止まっている。
「……ば、爆山カレー……です……か?」
「はい」
「……え……と…… 食べ残すとお代として五千円いただくことになるんですが……」
給仕が念を押すように尋ねてくる。
そりゃそうだろう。こんな化け物カレー、力士とかだったらともかくこんな女の子が食べ尽くせるものではない。
誰もがそう考える。
……普通なら。
「……いいから早く持ってきてください」
「! は、はいっ!!」
楓ちゃんがチラと一瞥すると、給仕は跳ねるように調理場へと駆け込んでいった。
……どうやら鬼をちょっと解放したらしい……
「……お待たせしました」
周りの客の好奇の視線を一心に浴びながら、楓ちゃんの目の前に【爆山カレー】が運ばれる。
「……な、なんだありゃあ!!」
俺は思わず大声を出していた。
テレビで見るのと迫力が全然違う! なるほど爆山先生もまっつぁおだ!!
山と盛られたご飯の上に、親の仇のごとくのせられたトンカツの集合体。そして滝のようにかけられたカレールー。
「……う、うえ……」
客の一人が手で口を押さえてトイレに駆け込んでいく。無理もない。俺だって見ているだけで胸焼けがしてくる……
「そ、それでは、制限時間は今から三十分です」
さっきの給仕がストップウォッチを手にして楓ちゃんの傍らに立つ。
店内を緊張感が包み、誰もが楓ちゃんの一挙手一投足を見守っている。
ごくり…… 俺は思わず生唾を飲み込んでいた……
「いいですか? ……よーい、始めっ!!」
赤射あッ!!
「ごちそうさま……」
「「「だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」」」
そして誰もがコケていた。
ギャグアニメのように、俺達ひょうきん族のように、八時だよ全員集合のように。
本来コケる必要のない千鶴さんたちも、ただの客の振りを通すため『はらほろひれはれ』とか言いながら
床に突っ伏すのだった。
「……ど、どうぞ…… これが賞金の……五万円です」
石井の主人は手を震わせながら楓ちゃんに賞金を手渡す。その瞳は畏怖のものを見る恐怖によって激しく泳いでいた。
「…………」
楓ちゃんは黙ってそれを受け取ると、周りの羨望と脅威の視線を一身に集めながらもすたすたと
店を出ていってしまう。
戦慄の空気で店の中はよどんでいた。
「……あの子、人間じゃねえ……」
「……胃袋の中が、因果地平につながっているんだ……」
などと、残った客達が好き勝手いっていると、突然また
から〜ん♪
店の扉がためらいがちに開いた。
「いらっ! ……しゃい……ませ……」
尻すぼみに消えていく給仕の声と同時に、再び悪夢が(まるでベスパのように)レストラン石井を包んでいく。
「……お、お客様……?」
それは楓ちゃんだった。
いや、正確に言うと、セーラーサ○ーンのコスプレをした楓ちゃんだった。
お客達が目を丸くして見守る中、セーラーサ○ーンはスタスタとカウンター席へと向かう。
千鶴さんたちはただ黙々と料理を食べている。
「……【爆山カレー】」
給仕の頬がひきつった。
「あの……お客様…… 爆山カレーは、一度成功された方には……」
すると楓ちゃんは鋭い一瞥を給仕にくれる。
「ヒッ!!」
「……今の私は、セー○ーサターンです。それ以外の何者でもありません……」
カミーユが修正に来てくれなかったので、給仕はカレーを楓ちゃんに出すしかなかった……
赤射ああッ!!
「……ごちそうさま……」
「……あ、ありがとうございました」
マスターが青い顔で見守る中、セーラーサターンは何もなかったかのように店を出ていく。
と。
から〜ん♪
「……いら………………………………」
今度は、神崎すみれがやってきた。
赤射あああッ!!!
「………………あ、ありが……とう……」
から〜ん♪
吸血鬼美夕がやってきた。
赤射ああああッ!!
「………………………………あり…………が……」
から〜ん♪
潮崎久美子がやってきた。
赤射ああああああっ!!
色がやってきた。
赤射あああああああッ!!
南弥生がやってきた。
赤射あああああああああッ!!
星野ルリがやってきた。
赤射あああああああああああああっ!!
(アクシズは、ホビージャパンエクストラで女の子を捜すのに大変だった……)
赤射あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
燃え尽きていた。
レストラン石井のマスターは、真っ白になって、おだやかな表情のまま店の隅で燃え尽きていた。
結局、楓ちゃんはキャッシュで五十万を手に入れた。
そして綾波レイのコスプレをしたまま、あくまで無表情で店を出ていくのであった。
ひゅううううう……
一陣の風が吹き抜けた。
西部劇でよくある、わけの解らんものがコロコロと転がっていく。
もはや廃れきった、レストラン石井の店の中で、マスターと給仕だけが白い目のまま天井を仰いでいる……
……から〜ん……♪
「………………」
お客が入ってきたようだ。
もはやマスターはぴくりとも動かない。
こっ こっ こっ こっ……
堅い足音を立てるその音の主は、マスターの前まで来ると、手にしていた物をマスターに投げ捨てた。
「………………!?」
その時点でマスターは気付いた。
入ってきた客が、楓ちゃんだということに……
「…………あ、あんたは……」
「……そのお金、お返ししてもいいですよ」
楓ちゃんは、あくまで静かに言い放つ。
「…………!? ほ、本当かね!?」
「……ただし、そのお金、あくまで私の言うとおりに使ってください」
「……へ!?」
それから一月後ー
レストラン石井は、新装開店、本格的なステーキの店として新たなデビューをした。
マスターは専門店でみっちりと修行をし、楓ちゃんの五十万で店の改装も済んだ。
開店記念日。
レストラン石井の前にはたくさんの人が並び、閉店まで大盛況を誇った。
「……なんで……」
俺は不可解に思い、楓ちゃんに問うてみる。
「……なんで、あんな事したの楓ちゃん。目的はなんだったの?」
「……不味い料理を出す店が、許せなかっただけです……」
そして今日も楓ちゃんは石井に出かけていく。
ステーキ五枚をノルマとして平らげるために。
その夜。
「私が、こんにちこうやっていられるのも、みんな楓さんのおかげで……」
店のマスターと奥さんが、自作の感謝文を書いて柏木家を訪れ、みんなの前で読んでいる。
今の明かりは消されたままで、マスターにはスポットライトが浴びせられていた。
「……………………」
そして俺の目に、楓ちゃんとみのもんたの姿がダブるのだった。
」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「……時間、かかりましたねこれ……」
「……あうう……」
「……先に、マルチナインとかがあがっちゃいましたね……」
「あうう……西山さんに殺されてしまいそうナリな……」
「……そう言えば……ルナのSSは……?」
「ぐはっ!! (左腕をやられた)」
「……後、クマさんのリクエストは?」
「がはっ!! (頭が吹っ飛んだ)」
「……この次あたりですよね? きっと」
「……まだだ! たかがメインカメラをやられただけナリ!!」
「意味の分からないこと言いながら逃げないでくださああああああぁぁぁぁぁい!!」
「我が輩これから秋葉原行ってスキャナー買ってくるナリいいいいぃぃぃ!!」
……そして誰もいなくなった……