帰ってきたさよなら銀河鉄道マルチナイン 投稿者: アクシズ

「機械の体が欲しいんだ」
マルチの運用テスト最終日、浩之はマルチを校舎裏に呼び出すおもむろにそう言った。
「俺は機械の体が欲しいんだ。マルチと一緒に生きていきたいから」
固い決意を秘めた表情で、浩之は一身にマルチの瞳を覗き込んでいる。
「……欲しいんだ、機械の体が……」
押し黙ったままのマルチに対し、浩之は再びそう言葉を紡ぐ。
「マルチと一緒になりたいから。機械伯爵に殺された母さんの仇を討ちたいから。ブラックゴーストの野望を
打ち砕くため。ゴルゴムの仕業をいち早く感知するために」
おそらく後ろ三つの理由に感動したのだろう。
マルチは軽くため息をつくと、
「……わかりましたー」
と、浩之にある物を差し出した。

「……こ、これは?」

定期だった。
【学校−来栖川エレクトロニクス】と記されている。期限はもちろん無期限だ。
「これは、ただで機械の体を作ってくれる場所へのパスポートですー。校門前の定期便から行くことが出来ますー」
「……校門前?」
訝しむ俺を引き連れ、マルチは校門前へ移動した。そこで俺達が見た物は……
「………………」
「………………」
「…………いらっしゃいませ。藤田様」

セバスチャンだった。

ダブダブの車掌服を着たセバスチャンが、大きく【スリーマルチ】と書かれたリムジンの横で俺達を待っていたのだ。
「す、スリーマルチ…… これが……」
「さあさ、のってください藤田様。間もなく発車時間となりますので」
セバスチャンに急かれて、俺とマルチは押し込まれるようにスリーマルチに乗り込む。
「これで……これで俺も機械の体を手に入れられるんだなマルチ!!」
「……はい」
感動のあまりだくだくと涙を流す俺。
だからその時、何故だかマルチが悲しげな顔をしていることに俺は全く気付かなかった。

いま、万感の想いをのせて、クラクションは鳴る。

“ぱおーーーーーーーーーーー”

「えー、次は、来栖川エレクトロニクス、来栖川エレクトロニクス、終点でございます」
スリーマルチの中、俺の横にどっかと腰掛けている妙に態度のでかい車掌がそう言った。
「……いよいよか……」
俺が言葉を漏らすと同時に、スリーマルチは来栖川エレクトロニクスの正門へと入っていくのであった。
「……浩之さん」
と、マルチが蚊の鳴くような声で囁きかける。
「ン? なんだいマルチ」
「……本当によろしいのですかー? いまならまだ、間に合いますよー」
「何を言っているんだマルチ!」
思わず語気をあげてしまう俺。
「俺はマルチのために機械の体が欲しいんだ! そしてカーズのくそったれを倒しエイジャの赤石を
手に入れる!! 俺は人を越えるぞオオオオオォォォ!!」
「……つきました。藤田様」
妙に淡々とした口調でセバスチャンが俺の暴走をくい止めた。

「よく来たね。藤田くん」
スリーマルチを降りた俺達を出迎えたのは、開発主任の長瀬と、たくさんの量産マルチだった。
「さっそくですまないのだが、君にはこの子達、量産マルチのネジになってもらうよ」
「……ネジ?」
言っていることがよく解らない俺は、呆けたままでマルチへと振り向く。
「……どう言うことなんだ。機械の体をくれるんじゃないのか!」

俺の激しい怒声に、ピクリと体を震わせるマルチ。

「クックック。君は本当にマルチ、つまりロボットに心があると思っていたのか?」
呆然としたままの俺に、長瀬は次々と言葉を浴びせかける。
「マルチはあくまで私の命令を遂行するだけの手足でしかない。そう、君がいままでマルチと経験した全てのことは、
私の用意したプログラムでしかないのだよ。君のような血気溢れる若者をここへ連れてくるための」
「……う、嘘だ……」
俺は体を震わせながらそうつぶやくしか術がなかった。
マルチはただ俯いたままなにも喋ろうともしていない。
「嘘なものか。君たちの様子は私が全てモニターさせてもらっていた。いや、君は実に率直な少年だ。ここまで
マルチに心を許したものは他にいなかったよ」
「……う、裏切ったな……」
俺の怒りの視線を浴びても、マルチは微動だにせずただ下を向いたままだ。
「裏切ったな、俺の気持ちを裏切ったなああああ!!」
『浩之サン。ソレ、NGワードデス』
と、
いきなり量産マルチの一人が電撃を放ち、俺はそのまま意識を失った……

「……さん」
う……
「……之さん」
……誰だ? 誰が俺を呼ぶ?
「……浩之さん」
……ネオ生命体? ひろしを守れ……ひろし……望月ひろしか!?
「なにいつまでもボケてんですかー」

ぼかっ

「あいたあああっ!」

気がつけば、そこは牢屋の中だった。
「大丈夫ですか浩之さん、助けに来ましたー」
「マ……マルチ……」
「このままでは浩之さんはネジにされてしまいます。速くスリーマルチで脱出してください。車掌さんにはもう伝えて
ありますから」
「マ……マルチ。お前やっぱり俺のことを……」
「……すいません…… 私は今までずっと主任さんの命令で皆さんをここに連れてきてました。でも、もうイヤ
なんですー。大好きな人がネジに変わってしまうのを見るのは……」
そう言ってマルチはえぐえぐ泣き出した。
俺はそんなマルチの頭を優しくなでてやる。
「マルチ……一緒に逃げよう。ここにいちゃいけない」
「……えっ? で、でも私は……」
「大丈夫だって。きっと何とかなる。きっと」

『藤田さんが、オリジナルマルチの手引きで脱走をはかっています』
オペレーションルームでは、何人もの量産マルチが研究所内の様子をモニターしていた。
「ばかめ…… 目を付けてやっていたのに……」
モニターに映る、浩之と手を取って走るマルチの姿を見て長瀬は呆れたように笑う。
「逃げられると思ってか……全武装マルチ、出撃だ!」

びーっ! びーっ!

と、その時、オペレーションルームの警報システムが悲鳴を上げる。
「な、なんだっ!?」
『……外部より、何者かの襲撃あり……』
「敵襲だと!? ばかな、誰がこの来栖川エレクトロニクスに……?」

たったら〜 たららら♪ たったら〜〜 たららら♪

「男には、命を懸けて戦わなければならないときがある。浩之はそれを知っていた……」
ドクロの旗の元、来栖川綾香が愛機アヤカディア号で襲来していたのにだれも気付いていなかったのだ。
「キャ、キャプテンアーヤッカ!!??」
さすがに長瀬も悲鳴を上げる。
「浩之を死なせるわけにはいかないわ!! 姉さんいくわよ!!」
「……(こくり)」
「ク、クイーンセリカリダスまでっ!!??」
もはや長瀬パニック状態。

どかーん!!

「こっちだ!」
「は、はいーー!!」
浩之はマルチの手を取り必死に走り続けていた。
スリーマルチまではあとわずかだ。
「こっちでございます! 浩之様!!」
律儀にも、スリーマルチのそばではセバスチャンが二人が来るのをずっと待っていた。
「急いで乗ってください! すぐにも発車いたします!!」
「セバスチャン、この騒ぎはあんたが!?」
「はい。お嬢様達に連絡させていただきました」

ぱおーーーーーーーー

崩れる来栖川エレクトロニクスの間を抜けて、スリーマルチが脱出していく。
浩之が窓から外を見ると、キャプテンアーヤッカとクイーンセリカリダスの容赦ない攻撃が続いている。
「あははははははははははははははははははは!!!!!」
なぜかキャプテンアーヤッカは、一人アヤカディア号の外に出て舵を取っていた。
すぐそばで爆風が起こり、細かい破片がアーヤッカの頬を咲き、血が流れる。
それでもアーヤッカはさわやかにフッと笑い続けるのであった。

「私の……私の研究所が……」
炎に包まれたオペレーションルームで長瀬はただ呆然と座り込んでいる。
「マルチ……せめてお前だけでもしあわせになってくれよ……がく」
(だから最後になっていい奴に戻んなっつーの、悪人役……)

こうして来栖川エレクトロニクスは宇宙の塵となった。


「……いってしまうのか……」

脱出後、浩之はただ一人スリーマルチを降ろされた。
マルチはこのまま別の研究所に向かい、そこで本来のメイドロボとして最セットアップされるのだという。
「……もともと、私は一週間だけの運用なんですー。あとは、私の妹たちの役目です」
「……また、また、会えるよな……」
そう漏らす浩之の言葉はわずかに震えている。
「……この次浩之さんが私にあっても、私の体はもう量産モデルのものに変わっているはずです。きっと気付くことは
ないですー」
マルチは静かに首を横に振った。
「……私は、浩之さんの心の中にある青春の幻影。誰もが通り過ぎる青春の幻……」

ぱおーーーーーーーー

スリーマルチのクラクションが響き渡った。
「!」
ゆっくり、ゆっくりと動き出すスリーマルチ……
マルチはスリーマルチの窓からずっと浩之を見つめ続けている。

「……マ、マルチ……」

離れていくスリーマルチを追って、いつしか浩之は走り出していた。

「……マルチ、マルチイイイイイィィ!」

マルチはずっと微笑んでいる。
その髪が風によって激しくゆれる。

「マアアアアァァァルチイイイイイィィィィィイイイイイィィィッ!!!」

浩之は泣いていた。
子供のように遠慮することなくわんわんと泣き続けた。

「……マアアアアァァァルチイイイイイィィィィィイイイイイィィィッ!!!」

浩之は走り続けた。
スリーマルチを追って、どこまでも、どこまでも。

いつしか彼は海岸へと出て砂浜の上を駆けていた。

「……マアアアアァァァルチイイイイイィィィィィイイイイイィィィッ!!!」

































「ウルトラ五つの誓いッ!!

   ひとつッ! 腹ぺこのまま学校へ行かぬこと!
   
   ひとつッ! 天気のいい日に布団を干すこと!

   ひとつッ! 道を歩くときは車に気をつけること!

   ひとつッ! 他人の力を頼りにしないこと!

   ひとつッ! 土の上を裸足で走り回って遊ぶこと!

……聞こえるかい!? マアアアアァァァルチイイイイイィィィィィイイイイイィィィッ!!!」



……天空にひときわ輝くウルトラの星に帰ってゆく郷○樹の姿を、浩之はいつまでもいつまでも見守り続けていた……

        〈完〉

」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「ええ話や! 本当にええ話ナリやあああ!!(T.T)」
「…………」
「…………」
「……何を死んでいるのナリ、トワイニング、シャリアブル」
「……あ、呆れているだけです……」
「……な、なぜに郷○樹??」
「馬鹿者ッ! 帰ってきたウルトラマンはVガンダムと並んで、あの庵野監督に多大な影響を与えた
 素晴らしい作品ナリぞ!!」
「……そういえば、ガイナックスの同人ビデオにウルトラマン役で出演してましたっけ」
「……ダビングさせてもらったんでしょ? あれ……」
「応ナリよ!! 見るか!?」
「……ま、また今度でいいです」
「……〈結構面白いナリのに……〉」

ps、くまさんへ
「ちょ、著作権侵害ナリッ!!(笑)」
(嘘嘘、面白かったナリ、ありがと〜♪)