エンドレス・マルチ 投稿者: アクシズ
これは、以前掲載させていただいた『天使の輪の上で』『ビヨンザタイム』『星のくず作戦』の
いわゆる機動戦士マルチ三部作(……誰が決めた?)の続編にあたります。
まずはそちらをチェックしていただくと、より楽しめます。(……と、人の可能性を信じたい……)

え? 過去ログにももはや無い? そんな人は今すぐりーふ図書館へGOだ!


「……平和だなあ……」
俺の心は落ち着いていた。
いわばまさに明鏡止水の境地にあったと言ってもいいだろう。
あの『マルチ三大乱舞』ことV2、υ、デンドロビウムの事件が明るみにでて以来、マルチに対する強化武装案は
全て廃棄された。事件の元凶だった長瀬主任は更迭され、どこか遠い僻地に飛ばされたと聞く。
もはやマルチは戦いの道具ではない。ただのメイドロボだ。ただの。
もうマルチと会っても人類は脅威にさらされることはないのだ。
「……俺にはまだ、帰れるところがあるんだ……」
俺の頬を涙が伝う。
畜生、平和が、平和がこんなに素晴らしいものだったなんて。
(……へっ、こんな事ぐらいで涙が出るなんて、俺も甘ちゃんだな……)

「浩之さん」

と、突然後ろから誰かが俺を呼んだ。
聞いたことのない声だ。
……いや、確か、この抑揚のない声は……
「どうも、浩之さん」
振り向いた先にいたのは、セリオ。
マルチと共に学校という生活環境で試験運用をされている来栖川研究所製の試作メイドロボだ。
「セリオ! なんだ久々だな!」
と、俺は彼女の姿に以前会ったときとは何か違う違和感を覚える。
そしてその訳はすぐにわかった。
「セリオ……お前うちに転入でもしてきたのか」
そう、セリオはうちの制服を着ていたのだ。本来セリオは綾香と同じ寺女に通っているはずなのに。
「はい。長瀬主任の特命を受けて、しばらくの間こちらでお世話になることに」

ぴく……

「……長瀬主任?」
「はい。ネットを通じて」
…………………………いやな予感がするぞオイ。
俺はふと過去の数々の事件を思い出し、不安な気持ちに駆られてしまう。
「……まさか、特命って言うのは…… またマルチのバージョンアップじゃ……」
「それはあり得ません」
セリオは即答する。
「マルチさんの武装強化案は全て破棄されました。もはやマルチさんはただの試作メイドロボでしかありません」
「あ…… そう……」
「その為に私が来たのです。マルチさんの擁護のために」
「……擁護ぉ?」
その言葉になんの意味があるのかいまいちはかりかねた俺はマヌケな声を出した。
「はい。実は……」
その時だったー

「ふえええええええぇぇん」

「!」
「あの泣き声は……マルチ!?」
そう、マルチが泣いていた。
実際のところ、いつもニコニコと笑っているマルチがあんな大きな声で泣くことなんて極めて珍しかった。
例えば、何か感動して泣くというならともかく、マルチが悲しげに泣くことなんて俺にはとても想像できない。
何か緊急事態じみたものを感じる。
「……セリオッ!!」
と、慌てた俺がセリオを振り向いた、次の瞬間ー

ばさばさばさばさばさばさばさばさばさっ!!

「…………」
「…………」
俺は思わず腰を抜かしてしまう。
セリオは………………セリオの耳カバーが、突然外れたかと思うと、そこからでっかい鳥の翼が
『増えるワカメちゃん』のように一気に膨張してばさばさと羽ばたいていたのだ。
「…………」
「…………」
「……シレーヌ?」
ぴくっ
わずかにセリオの眉がひきつる。
「浩之さん…… 私のことは、ウイングセリオカスタムとお呼びください」
「…………」
「…………」
「…………デビルマンに出てきた、妖鳥シレー……はぶっ!!」
俺が最後まで言い終わる前に、セリオの揚炮が俺のあごにカウンターヒットしていた。
悶絶する俺を抱えて、そのままセンサーを働かせマルチの元へと急行する妖鳥シレーヌ。
ごすっ。
……もとい、ウイングセリオカスタム……

「ふええ…… ぐす、ぐす……」

マルチがいた。
マルチは廊下のど真ん中で泣いていた。モップをつかんだまんまで。
「マルチさん!」
「マルチ!」
「……あっ、浩之さん、セリオさん!」
俺達の姿を認めると、泣きやみかけていたマルチの瞳から再び大粒の涙がぶわっと溢れた。
「ひ、浩之さああん、セリオさあああん、ぶえええええ!」
「……どうしたのですか? マルチさん」
「うう、セリオさあん……」
いまだ泣き続けるマルチの頭を優しくなでてやるセリオ。
「……一体、誰にですか……?」
あくまでも淡々とした口調で語るセリオ。
だが何故だか表情がさっきよりも冷淡に見えるのは俺の気のせいだろうか?
「は、は、は、橋本先輩ですううぅ〜」
「……その、橋本という人は一体どちらへ向かったんですか?」
「あ、あ、あ、あっちですううぅ〜」
泣きながらマルチは廊下の一方を指さす。
「……そうですか」
と、セリオの瞳が突然ピカピカと輝き出す。
「……学園生徒名簿検索、HASHIMOTO確認。……学園内、生体反応チェック……」
衛星経由でデータをダウンロードしたセリオは、頭部に内蔵されている各種センサーを全開に働かせ、
橋本先輩の動向をうかがっているようだった。
「……発見」
そうつぶやいたと同時に、セリオの手の中にツインバスターライフルが物質転送で送られてくる。
……ってちょっと待てコラッ!!
「排除、開始」
「またんかあああああああああっ!!」

どっごおおおおおおおおおおおおん!!!

俺はすんでの所でセリオの腕を突き飛ばし、バスターライフルの軌道を変えることに成功した。
窓を突き破り、天空に向かって突き進むビームの粒子。
(実はそれが地球を狙ってやってきたキョアック星人の偵察隊に命中し、知らぬ間に地球が救われていたなど
誰が知ろう?)
「……何をする」
無表情のまま俺を睨むセリオ。いかん、こいつの目、もはやイッてしまっているぞ……
「そりゃこっちのセリフだっ!! セリオお前一体何考えてんだよおおおっ!!」
「……特命だ」
なんだか知らんが、いつの間にかセリオの声は緑○光そっくりにボイスチェンジャーされていた。
「長瀬主任からの命だ。力を失ってしまったマルチを、お前が必ず守れと、敵は全て排除しろと。それが任務だ」
…………………………
……あの親父……まさか、マルチだけじゃなくてセリオにまで己の趣味のバージョンアップを施しておいたとは……
「……だからってセリオ、学校内でツインバスターライフルは……」
「……お前は正義か?」
……………………はい?
「お前が正義なのか!? お前が正しいというなら、その力を俺に示してみろッ!!」
…………………………………………………………………………
……いかん、キャラが混ざっているじゃねえか……
俺が頭を抱えている横で、セリオは「俺のナタクッ」などと叫びながら両手を伸ばして廊下の窓ガラスを片っ端から
割り始めていた。
……ようし。
そうかい、そう言うことなら……

「……俺の名は、ヒイロ」

俺がそう告げると同時に、セリオの動きがぴたりと止まる。

「コロニーの伝説的指導者、ヒイロ・ユキだっ!!」

セリオは大きく目を見開いて俺を見つめた。その心の動揺が手に取るように解る。
「ヒイロ…… お前はヒイロなのか?」
「そうだ! ヒイロ・ユキの名においてセリオに命ずる。ただちに作戦を中止して、マルチをこの俺に渡せッ!!」
「あ……ああ……」
セリオは、全身を震わせながら必死に何かと戦っていた。
元々彼女の中にある命令と、俺が今くだした命令が、彼女の中で互いに争いあいジレンマとなっている。
「待て! セリオ!!」
と、突然誰か男の声が廊下に響き渡った。
「!? 誰だッ!!」
絶叫する俺。
と同時に、突然セリオの胸がぱかっと開く。
中から現れたのは小型のTFT液晶モニター。そしてそこに映っているのは……
「……な、長瀬!?」
そう。あの悪魔のメイドロボ開発主任、長瀬源四郎その人であった。
「うわー、お久しぶりですー」
現在の状況をまったく把握しないでのんきな声を出すマルチ。
「セリオに伝える!! 要求は解った、だがマルチは渡さない、繰り返す、マルチは渡さない」
モニターの向こうで大声で叫ぶ長瀬。
と、突然セリオがピタリとその体の震えを止めると……
「任務、了解」
そうつぶやき…………
「お、おい……? 何するんだよ……」
俺に思い切りしがみついてきた。
「……任務、実行……」

ポチッとな。

そのころ校門の前では、あかりがさっきからずっと浩之が来るのを待ちこがれていた。
「ふふふっ…… 浩之ちゃん、今日もまた料理を作ってくれなんて…… しかも今日はウナギがいいなんて……
何考えているのかしら? ……はっ、まさか、思い切り精を付けて、『あかり、今夜はお前を眠らせないぜ』なんて
事をするつもりじゃ…… ああ、もう浩之ちゃんたらもうイヤンイヤンイヤン、
そんなに私をどうにかしたいのかしらあぁ……」
ぽおーとしたままの表情でしばらく妄想し続けたあかりは、おもむろに校舎へと振り向くと、大きい声で叫ぶのだった。

「浩之ちゃあ〜〜ん! 早く私をコマしにいらっしゃあああああああああいっ!!」

……そのころ、その浩之当人が、今まさにあちらの世界へ旅立とうとしているのをもちろんあかりは知らない。

『馬鹿は、来る!!!』

」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「……ちょっと、オチがお下品ですね……」
「……うん。ちょっと反省ナリ……」

ちょびっと感想のコーナー。

《くまさん》
>総元締め(アクシズさん)がいるし。
 「……も、元締めって…… 我が輩、仕事人かいナリな…… 嬉しいけど、ちょびっと」
 「みんなで書こうガンダムネタ。ってここはリーフのHPだっつーのに……」
>ところで、リゾットってどんな料理ですか。
 「確かイタリア料理で、日本で言うところのお粥とか雑炊とか、そんな感じナリよな?」
 「エビのリゾットとか、ミラノ風リゾットとかありますねえ……」
【白野佑凪さん】  
<To Heartオールスターズ二行SS>
 「面白かったでございます。次回作、期待しております」
 「おんなじリボンがいくつもある。あかりって…… パタリロ?」

《仮面慎太郎さん》  
【未完・或る終局の形】
>なんだかよく解からないキノコに、これも、よく解からない人参の様な物・・・
 「…………」
 「…………」
 「食わんで欲しいですね…… なんだか解んないものを…… 耕一……」
 「鍋と言えば、我が輩的には白菜。絶対譲れんナリ」