柏木家の怪談 投稿者: アクシズ
いつものようにいつものごとく、柏木耕一は隆山の美人四姉妹のもとに遊びに来ているのだった。
(富山敬の声で読んでちょ)

暑い。
夏は暑い。
鬼だろうがなんだろうが、暑いものは暑いのだ。
この暑さを解消するため、人類は昔からさまざまな知恵を振り絞ってきたのだ。
例えば、風鈴。例えば、花火。

……例えば……怪談……

「お前だあああぁぁっ!!」
「きゃあああああああああああああっ!!」

突然梓は大声をあげる。
それは怪談話でよく行われる演出方法だ。
話のはじめの方は、ゆるりと、そして静かに静かに語り続け、最後の最後にドカンと大声を出す。
古典的ではある、がしかし実に効果的な方法だ。
見よ。千鶴さんはその瞬間後ろに飛び逃げて顔を青ざめさせているし、
初音ちゃんは嗚咽しながら頭を抱えて畳にうずくまっている。
…………
……俺はと言うと、別に今さら幽霊とかに怯える年でもないし……まあちょっとはびびったけど……
苦笑しながら頬をポリポリかくだけだった。
「はははははははは、うわははははははは」
その結果を見て、梓は満足げに高笑いする。
「だらしないねぇ千鶴姉、いい年こいてさぁ」
「……も、もう……あんまり驚かさないでよ梓」
いいながらふぅ……と深く息をはく千鶴さん。
「……う、うう……びっくりしたよお……」
涙目で抗議する初音ちゃん。
そして楓ちゃんは……
「………………………………」
「……楓ちゃん?」
全くの無表情。
ちょこんと正座したまま、ピクリともしない。
ひょっとして気絶でもしているのか?
そう思った俺は楓ちゃんの目の前で軽く手を振ってみる。
「……なんでしょうか?」
あ、どうやら意識はあるみたいだ。
「はは、怖い話だったねぇ楓ちゃん」
だが楓ちゃんは、キョトンとした表情で首をかしげると、
「そうでしょうか?」
とつぶやいた。
「設定に無理がありますし、演出もコケ威しにすぎません。子供だましですね」

ぴしっ!

空気のひび割れる音がした。

梓の額に青筋が浮かんでいた。
千鶴さんの目が点になっていた。
初音ちゃんはひたすら苦笑していた。
「こ……怖くなかった……の?」
こく。
その俺の問いにも楓ちゃんは黙って頷くだけだった。
「全然? びびりもしなかったの?」
こく。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

その後、
残る千鶴さんと初音ちゃんと俺が、それぞれとっておきの怖い話を披露した。
だがその目的はすでに本来のものとはズレを見せ始めていたのだ。
本当はみんなで和気藹々と怪談話を楽しむはずだったのに……
今は、今は、楓ちゃんをなんとか怖がらせようとみな躍起になっていた。
暑い。
いや、熱い。
熱気をみなぎらせながら俺達は怪談を話しまくる。
梓を再び巻き込んで、二巡目、三巡目……
稲川○二や桜○蔵も真っ青な怖い話の連発だ。
「…………」
だが楓ちゃんの表情はピクリとも変わらない。
冷や汗と熱気の入り交じる夜は刻々と過ぎていった。
入交はセガの社長。元本田の社員。【なんだそりゃと、自己つっこみ】

ぜえ、ぜえ、ぜえ……
柏木家の居間は修羅場と化した。
汗をだくだくと流したまま畳の上に突っ伏している俺、千鶴さん、梓。
そしてそれを涼しげな瞳で見つめる楓ちゃん。
ちょこんと正座したまま、いまだ微動だにせず。
初音ちゃんは俺達の怪談にグロッキー状態となり、居間のすみで耳をおさえ震えていた。
『……初音を怖がらせてどうする』
ああ、親父の叱咤が耳に届く。
怪談を続けていると、幽霊が集まって来るってよく言うもんなあ。

ぼーん。

居間の掛け時計が時報を知らせた。
ただいま午前零時三十分。
「……コサキンが始まっちゃう……」
楓ちゃんはポツリとつぶやくと、いまだぶっ倒れている俺達を見捨てて
スタスタと自分の部屋へ戻っていった。
「……な、何なのよ楓ったら……」
千鶴さんが呆れたようにつぶやく。
「あの子には感情ってものがないの?」
「いや、それは言い過ぎですよ千鶴さん」
と俺。
「まあ確かに、恐怖心が麻痺しているんじゃないかって疑いたくもなりますが……」
「く、くそう…… このままで終われるかよっ」
梓が畳をドンと叩く。
「あたしの意地とメンツをかけて、必ず楓をひーひー言わせてやるっ!」
「……おい……」
呆れたように俺がつぶやいた。
「……お前、やっぱズーレだったのか?」
「だがしゃああああああああっ!!」
と同時に梓の石破天驚拳が俺に直撃する。
「あたしの意地とメンツをかけて、必ず楓をひーひー泣かせてやるっ!!」
庭の池に頭を突っ込んで突っ伏している俺をほっといて宣言する梓に、
千鶴さんと初音ちゃんの激励の拍手が送られた。

「で?」
タオルで髪の毛を拭きながら俺は問うた。
「具体的にはどうすんだよ。また楓ちゃんに怖い話を聞かせるのか?」
「問題はそこだね」
腕組みをしながらうんうんと梓は頷く。
「楓に怖い話は通用しないことはようく分かった。けれど楓だって人間、と言うか鬼、
怖いモノの一つや二つ必ずあるハズッ!!」
どういう理屈だよ、と心の中で突っ込みながらも俺は同意して頷いた。
「それを知ることがまずは先決! 情報を制す者は勝負を制すッ!」
「まあ…… 梓どうしたの? いつものあなたらしくもない知的な戦略!!」
「ふっ…… 千鶴姉、人は変わっていくのよ」

いいながらどこか遠くを見つめる梓。
その時俺は梓の後ろに刻を見たような気がした。

「それでは、さっそく楓の弱点をゲットする作戦、『ソロモン攻略戦』を決行する!! びしっ!!」
「「びしッ!!」」
三姉妹は一斉に敬礼。昨日遅くまでナデ○コなんて見てるから……
そんな姿を見て、俺はふとある疑問を思い付く。
「でもさあ…… みんな今までずっと暮らしてきたのに、何でそんなことも知らないの?」

ぴきっ

空気が凍り付いた。

「で?」
十分後。
楓ちゃんの部屋の前で、俺は三姉妹に背中を押されながら困り果てていた。
「何で俺がこんな事しなくちゃいけないんだよ?」
「頼むよ耕一ィ」
梓がパンと手を合わせる。
「楓の怖いものを手っ取り早く知るためには、あんたが意識を電波化して
楓の心を探るのが一番手っ取り早いんだよお! あんたが一番楓と縁が深いんだから!」
「だからってなあ……」
戸惑いながら頬をかく俺。
「寝ている女の子の部屋に、間男みたいに潜り込むなんて……」
「大丈夫、天が許さずとも、この私が許します」
千鶴さんが断言する。
「ただし、楓にちょっとでも手を出すようであれば……」
「「「分かってますねえ???」」」
最後の部分は三姉妹全員が見事に声を合わせた。
「……は、はい。……分かってます……」
……なんか尻に敷かれているなあ……
なんで痕には由美子さんシナリオがないんだろう(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)
(あったところで尻に敷かれるのは間違いない【断言】)
「さてそれで」
梓が初音ちゃんの方を見ていった。
「耕一が見事楓の怖いものを探り出したら、これの出番だ」
「じゃじゃあーん、『バイゾー光線』ー!」
初音ちゃんが、大山のぶ○の声でその怪しい懐中電灯みたいなものをどこからか取り出した。
「…………は?」
俺は思わず目を点にしてしまう。
「えへへ、これは失われたエルクゥの技術の一つなの。この光線を浴びせたものはね、
なんでも倍に倍にと増えていくんだよ」
(嘘くせえ)
と俺は心の中でつぶやいたが、梓あたりならともかく、初音ちゃんがこんな事で
俺をからかうはずがない。
てことは、これ本物……?
「昔から、柏木家はこれを使ってさまざまなものを増やしてきました。
食料、衣服、そしてお金……」
「……って、そりゃ犯罪では……?」
「あら、犯罪はバレなけりゃ犯罪じゃないんですよ」
……………………
ニッコリとしたまま千鶴さんが俺に教えてくれた。
梓と初音ちゃんはというと、ひたすら苦笑しながら俺と千鶴さんを見つめている。
そうか、そうだったのか。
柏木家に秘められた新たな秘密を俺は今日知ってしまった気がした。
そして梓が千鶴さんをいつまでも『偽善者』とののしり続ける理由も。

結局俺は押し切られ、楓ちゃんの部屋の扉を開けるのだった。
時間は三時半。ラジオは歌うヘッドライトに変わっているはずだ。
楓ちゃんはもう寝ていた。
俺は、部屋の電気をつけぬままゆっくりと楓ちゃんの枕元に近付くと
身長に意志を楓ちゃんに飛ばしていった。
「………………………………」
伝わる。
楓ちゃんの考えが俺に伝わってくる。
だがその思考の海はあまりに膨大だ。インターネットなんて比較にならない。
「Yahooかgooでも持ってくりゃよかったかな……」
とにかく俺は、楓ちゃんの思考の海に俺の考え、『楓ちゃんの苦手なもの』という
検索条件を投げ入れていった。
しばらく俺は思考の中を飛び続け、やがて目的の場所であろう意識化にたどり着いたのであった。
「……ゲ!?」
そこで俺が目にしたものは……
「…………俺!?」
そう。一面の、俺、俺、俺。
か、楓ちゃんは…………楓ちゃんは俺のこと、怖がっていたのか!?

と、突然俺の意識は元の現実世界に引きずり出された。
いや、どちらかというと、あまりのショックのあまり俺が楓ちゃんの意識から
逃げ出したと言ってもいい。
「か……楓ちゃん……」
そう。俺はショックを受けていた。
楓ちゃんは以前、俺を嫌ってはいないと言ってくれた。
でもそれは別に俺を好いてくれている、そう言う意味でもなかったのだ。
「…………」
楓ちゃんは俺を怖がっていた。
それは、俺が男だからだろうか、楓ちゃんが女の子だからだろうか。
もう子供の頃のような仲には戻れないからだろうか?
「…………楓ちゃん……」
さみしかった。
辛かった。
いつの間にか俺は泣いていた。

「こ……耕一……」
そんな俺の様子を見て、訝しげに梓が声をかけた。
「どうしたんだ? 楓の怖いもの、判ったのか?」
俺はうつむいたまま、誰の顔も見ようとせず、ただ静かにつぶやいた。
「楓ちゃんは…………俺が怖いんだ……」
「!?」
「ええ!?」
「……そんな!?」
「……間違いないよ。直接、彼女の心に接触したんだ、間違いない……」
「……そ、そうか……」
梓がボソリとつぶやいた。
「ならことは簡単だな」
…………
………………
……………………へ?
「じゃ早速耕一さんを増やしましょうか♪」
千鶴さんがパンと手を叩いた。
「初音、とっととやっちまいな」
「うん」
梓に促され、初音ちゃんがカリカリとバイゾー光線の目盛りをなにやらいじっている。
…………
…………ちょっと待て。
「じゃ、行くねー♪」

ぴか!

「ちょ……」
ちょっと待てって!
なにそんな淡々と事を進めてんだよお!
俺の、俺のこの切ない思いは、
「どこに吐き出せばいいんだああああああああっ!!」

ぼぼばんっ!

「まあ!」
「おお!」
……そこには、廊下いっぱいに、身長三十センチくらいの、ディフォルメされた俺が、
俺達が群がっていた……
「えへへ、耕一お兄ちゃんをそのままたくさん出したらこの廊下大変なことになっちゃうもんね!」
初音ちゃんが得意げに胸を張る。
いや、だから…… 誰か俺の気持ちを…… 気持ちを察してくれよ……
「よっし、そんじゃこの身に耕一を楓の部屋に投げ込むぞおおおっ! びし!」
「「びし!」」
どばどばどばどばどば……
「おらあああ、楓ええええ、起きろおおおおおっ!!」
梓が狂喜乱舞の声を上げた。
やがて、楓ちゃんの部屋の中から……
「……!! きゃああああああああああああっ!! 耕一さあああああんっ!!」
……楓ちゃんの、楓ちゃんの悲鳴が響き渡ってくる。
「怖い怖い怖いいいッ! 耕一さん怖いいいいッ!!」
「ようしよしよしッ!」
梓は念願の『楓ちゃんの悲鳴』を耳にしてガッツポーズを取った。
「梓、もっとよ、もっともっと投げ入れるのよッ!」
千鶴さんもよほど根に持っていたのか、まるで悪鬼羅刹のような表情で梓をはやし立てた。
「合点承知よ千鶴姉! おらおらおらおらああッ!!」
「いやあああああああああああっ!! 怖い怖い怖いいいいっ!!」
「うらうらうらうらうらうらうらうらうらああああっ!!」
「きゃああああああああああっ!! お願い、もう投げ入れないでえええっ!!」

俺は……俺はもう……誰にも何も言う気もなくなって……
泣いた。
廊下の隅で。
涙で床に『の』の字を書きながら……

「ねえ、梓……」
「ん?」
しばらくして千鶴さんが首をかしげた。
「なんかおかしくなあい?」
「……なにがさ」
「普通、そんなに怖いんだったら、とっくに部屋を飛び出して来るんじゃないの?」
「…………そういえば……」
「………………」
「………………」
「……いやああああああああああああああん」
「なんだか、楓の怯え声も変な感じに聞こえてきたし……」
「…………」
「…………」
「……あっはああああああああああああああん」
「…………?」
「…………!」
その時点で、梓と千鶴さんは楓ちゃんの部屋のドアを全開にし、電灯のスイッチを入れた。
「あっ、もうダメです耕一さあああああああああああああん……」
「…………」
「…………」
「…………」
……そこには、
無数のディフォルメ俺の山に包まれて、ひたすらあえいでいる楓ちゃんの姿があった。
……どう見ても怖がっているように見えない。
はっきり言って、悶えている。
恍惚としている。恍惚と。
「…………」
「…………」
「……………………はっ……」
……やがて、
楓ちゃんもいつの間にか部屋に入った俺達に気付いて、恥ずかしそうにうつむいた。
特に俺とは絶対目を合わせようとしない。そりゃそうだろうなあ……
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
要するに、俺達ははじめから楓ちゃんに踊らされていたのだ。
梓の作戦をはじめから見抜いていて、俺の心に嘘の情報を流したのだ。
「…………楓」
「……はい?」
「……何か、言い残すことがあるなら、聞いてあげるけど?」
「……………………………………最後に一杯お茶が欲しい……」

(相変わらず、ディープだね楓ちゃん……)

ちゃっちゃか すちゃらか っちゃっちゃ♪ (ぱふ)
【笑点のテーマで閉める】



おまけ。
「あれ? そう言えば初音は?」
楓ちゃんの首をつかんで、こめかみをぐりぐりさせている梓が不思議そうに見回した。
「? そう言えばそうねえ、いつの間に、どこに行っちゃたのかしら?」

初音は、自分の部屋にいた。
顔を真っ赤にして、心臓をどきどき言わせている彼女の目の前には、耕一がいた。
バイゾー光線でコピーされた耕一が。
ディフォルメなんかじゃなく、どこもかしこも完璧にコピーされた耕一が。
「えへへへへ」
笑いながらコピー耕一に抱きつく初音。
「後でお姉ちゃん達にも造ってあげよ、みんなにお兄ちゃんが一人ずついれば、
もうみんな喧嘩なんてしなくなるモンね♪」

……鷲羽ちゃんかい、ちみは……

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「アクシズ様」
「なんなりトワイニング」
「今回のオチ、はっきり言ってだれもついてこられないのでは?」
「そうかなあ」
「そうですよ」
「そうかなあ」
「そうですよ」
「かなり有名なネタだと思うんだけど……」