逆襲のシホ 前編 投稿者: アクシズ
「アクシズ様」
「……なんナリ、トワイニング……」
「落ち込んでおられますね」
「…………気付かなかったんだ……」
「八塚崇乃さんに指摘されたことですね」
「……気付かなかったんだ、『志穂』じゃなく、『志保』だったことに……」
「マジぼけだったんですね」
「調べてみたら、『シュラク隊の防壁』『星のくず作戦』どころか、
『ビヨンザタイム』のころから間違っていたし……」
「間抜けですね」
「………………」
「………………」
「……とりあえず、本編言ってみようかナリな」
「そうですね。前置きも長くなっているし」
「……ところでトワイニングよ」
「なんでしょう?」
「声を、声色を、南央美にするんでないィィィィッ!!」
「……少女ですから」
などとほざきながら、首を絞められるトワイニング。

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【BGM:逆襲のシャアサントラより、メインタイトル】

でんでんでんで、でんでんでんで、でんでんでんで、でんでんでんで……♪


「原因はなんなんや、水がかかると透けちまう理由は」
「胸元周りの素材を変えたのが原因です。もう二重にしたので安全です」
「当たり前や。いちいち透けたら叶わんわ。なんで事前に連絡して……」
「納期を十日も繰り上げられれば……」
「それはネオジホンの長岡さんに言うてや。あの人が水泳大会を急がなければ、こんな事にならなかったわ」
そして、智子は店の一角にかけてあるシートをはぎ取る。
「これやな」
「はい」
「ん〜〜〜〜〜〜っ……」
その下から現れたのは、オーダーメイドの、純白の、ワンピースの水着。
胸元には、赤い文字で『υ』と描いてある。

『機動戦士トモコ 逆襲のシホ』

ぱ〜ぱ〜ぱ〜 ぱ〜〜ぱぱ〜〜♪ ぱぱぱぱ〜〜ら〜〜 ぱっぱら〜〜♪



浩之達の通う学園には、他にはない特別なイベントがあった。
水泳大会。
それ自体はそう珍しくもないかもしれない。
だがその中で、余興として行われているこのイベント、
「どきっ! 女だけの騎馬戦大会」は、日本中探してもここだけにしかあるまい。
いや、あってたまるか。【反語表現】
もちろんこんな戯れ事には反対意見も多い。
しかし、当の女子の中にもこのイベントを毎年楽しみにしているものがいた。
その筆頭が、ネオジホン総帥こと、『長岡志保』であった。
ちなみにネオジホンとは、
『ねえねえちょっと聞いてよヒロ.女の子の魅力は明るい性格と見目麗しい美貌だって
言うんなら.The.本当に可愛くて人気ナンバーワンはやっぱりやっぱりやっぱり
この志穂ちゃんよ♪.ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜完ッ璧ッ♪』
の略称である。

今日は大会前、最後の練習をかねた水泳の授業があった。
志保のいる2−Aと、あかりや、智子のいる2−B、その両方の女子が合同でタイムを
競い合ったりしたのだが、ラスト15分程からは完全に自由時間となっていた。
プールサイドに楽しげな少女達の歓声が上がる。
そんな中我らが長岡志保は、ただ一人プールにはいることもなくまるでエマニエル夫人にでてきたような
籐椅子に悠然と腰掛けていた。
「志保様、どうぞ」
横についていた取り巻きの一人が志保にトロピカルジュースを差し出した。
「ん……」
志保はかけていたサングラス『イーグルアイ』を外すと、ジュースを受け取り、
そして音を立てたりしないようあくまで上品にストローを吸うのだった。
「ふう…… アンニュイな午後ってヤツね……」
志保の水着は鮮やかなワインレッド。布地の極めて少ないビキニタイプだ。
胸元には行書体で『沙座美(サザビィ)』と記されている。
某オークションとはまったく関係ない。
サザビィとは、
『さあさああんた達、戯れ言ばっか言ってないで、美の女神にふさわしいこの
志保ちゃんの艶姿を崇めなさい拝みなさいひれ伏しなさい』の略だ。

「志保様」
取り巻きBがひざまづいたまま進言した。
「久値井かず子の空域が膠着状態です。援護の必要を認めますが」
志保がちらりとプールの一方を見た。
そこでは、ネオジホンで志保の右腕とも噂される久値井かず子が、2−Bの一部メンバーとプールの
領有権を巡って言い争っていた。
「……久音井かず子を援護、回収するわね……」
そう言うと志保は籐椅子から立ち上がり、足首をタイルでぐりぐりと回しながらプールの端へと立った。
「サザビィ出ます、サザビィ発信!」
取り巻きCがアナウンスする。
そして志保の体は日光にきらきらと輝きながら美しい放物線を描いて水面へと飛び込んでいくのであった。

「だから、違ういうとるやんか!」
久音井かず子と言い争いをしている2−Bのメンバー、その筆頭は、対長岡志保反対同盟
通称【ロンドベル】のエースパイロット、保科智子その人だ。
「あんたら今遊んでるだけで、別に大会の練習しておらんさかい、うちらにもう少しスペース
貸してくれても罰は当たらんやろ!」
薄緑の水着を身に付けた智子は強い口調で一気にまくし立てた。
その胸元にはゴシック体で『リガズィ』とかいてある。
そう、この水着は去年まで着ていたバージョンのリメイクであった。
ちなみにリガズィとは、
『リメイク:がんがん行くでぇ、ずぃーっと見たってやウチの胸元、いいやろ大きいやろう長岡さんとは
桁が違うで』の略だ。
……まだ今年用の、オーダーメイドの新水着は出来ていないのだ……
「て、抵抗するの保科……」
九音井かず子は額に青筋を立てながら声を絞り出す。
「この、九音井かず子の警告を無視するならッ!!」
突然逆ギレした久音井が保科に殴りかかろうとした。
「ふん……」
しかし、智子は落ち着いたまま素早く自分のめがねを外すと、それをレンズとして日光を増幅させ
久音井の額に照射した。
俗に言う、ソーラーシステムである。
「しまっ……」
絶句した久音井がソーラーシステムに焼かれようとした、まさにその瞬間、

どっぱああああああああああああああああああぁぁん!!

「くううっ!?」
「ちいいっ!!」
二人の間を突然裂くかのように水柱が突然吹き上がり、智子と久音井かず子は後ろに吹き飛ばされた。
そして水柱が消えた後に立っていたのは……
「……志保っ!」
そう。
いわゆるウルトラマンポーズを取った志穂が水中から二人の間に現れたのだ。
「ふっふっふっふ……」
不適な笑みをこぼす志保。
「この久音井かず子には金をかけてある。そう簡単に沈められるわけには行かないのよ。
久音井、先にプールを上がってなさい!!」
「は、はい!」
志保の言葉に素直に従う久音井。

戦いはすでに始まっていた。
因縁のライバル同士はお互いに火花を散らし、辺りから他の生徒達を遠ざけていく。
「赤い色のスイムスーツ……」
水の中をタイガーステップで動き回り志保を牽制する智子。
「またずいぶんと派手好みやなあ、まるで水商売のお姉ちゃんみたいや……」
ピクッ……
智子の毒舌に志保の眉がつり上がる。
「……そういう保科さんこそ、去年の水着のリメイク? しかもセパレートからワンピースに変更なんて……
よほどあの件が辛かったのねぇ」
「去年のことは言わんでえええわあああッ!!」
智子の顔が怒りと恥辱で赤くなる。
そう。
去年の騎馬戦大会、智子は志保によって水着のブラを思い切り剥ぎ取られるという
苦い経験をしているのだ。
その事で反則をとられ、結局試合自体は智子チームの勝ちにはなったのだが、
智子は全校生徒の前でまるで仕込みのAV女優みたいな扱いに落ちぶれたのだった。
「あらあ? だってそのおかげで保科さんは完全に去年の主役だったじゃないのう? 
あやかりたいわぁ、私にはとてもあんなコトできないけどねぇ?」
「………………」
青筋を立てて怒りを押さえ込んでいた智子だったが、やがて深く息を吐くと、
突然笑みを浮かべてこう言った。
「……ま、そやな。そんな貧相なもんじゃつかみたくともつかめへんもんなぁ」
「な……」
志保は顔を真っ赤にし、自分の胸元を手でおさえながら金切り声をあげた。
「なによなによっ! デカけりゃいいってもんじゃないわよ牛じゃないんだからッ!」
「牛とはなんや牛とはッ!!」
「ふーんだっ!! 胸のでかい女は頭が悪いってゆーじゃない! アンタなんか人間止めて、
ララミー牧場で乳揉まれていりゃいいのよ!!」
「胸がなくて、そのうえ頭もパーな女が言うことかいなっ!!」
「誰がパーよッ!!」
「あんたやあんたっ!!」
「牛が言うなあああああああっ!!」
「パーが言わんでええわあああああああっ!!」
そして志保と智子はガシッと手を組み合う。
互いに顔を近づけて威嚇しあう二人のケモノ。
「がるるるるるるるるるるるるるるるる」
「うぐるるるるるるるるるるるるるるる」
と、
突然志保の足元からあるものが智子にむけて発射された。
「!」
あまりの近接攻撃に智子はよけることもままならない。
魚雷のように水面から飛び出して智子の頬にヒットした。
「くっ…… ファンネルかッ!」
と言うか、それはビート板だった。
今までずっと足で踏みつけていたビート板、もといファンネルを志保は智子目掛けて次々と発射した。
「ちいいいいいぃッ!!」
たまらず距離を取る智子。
「あーっはっはっはっは! そんな情けないスイムスーツと戦って勝つ意味なんてないわねッ!!」
ファンネルをコントロールしながら思いっきり笑う志保。
「この決着は一週間後の大会でつけようじゃない! せいぜい今年も恥さらしにならないようにねっ!」
「……! 待てや……」
と、その時、
キーンコーンカーンコーン……
授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
「ちいっ……」
授業が終わっては、さすがの智子ももう手出しは出来ない。
もはや智子の方を振り向きもせず、急いでプールを上がろうとする志保。
その背中を見送りながら、
「やっぱ乳は巨乳やろう…… ひがみにはつきあってられんわ……」
と、自分なりに結論を出す智子であった。

決戦は一週間後。二人の因縁に決着が付くときは、近い。
【後編に続く……ハズ】