星のくず作戦 投稿者: アクシズ
「伝言板よッ! 私は、帰ってきたッ!!」
朝もはよから、志穂は学園の屋上、更に給水塔のてっぺんまで登って
仁王立ちとなり、おもむろに叫んだのだ。
ここから見る生徒達の姿はあまりに卑小だ。
そう、まるでコンペイ島に群がる地球連邦艦隊のように。

怖い。
最近俺は、下校の時刻を迎えるのが怖い。
いや、正確に言えば、マルチと会うのが怖い。
極力会わないように努めてはいる。
しかし、そう思えば思うほど何故か会ってしまうマーフィーの法則。
……人は、己の性を乗り越えられぬ生き物なのか……
重い足取りで帰路につく今の俺のBGMは、FFYから『ティナのテーマ』だ。

「浩之さんー♪」
びくううっ!!

来た。
間違いない。
ヤツだ。ヤツが来たんだ。
俺は錆びついたロボットのようにぎしぎしと首を回して、後ろから俺を呼び止めたその脅威の存在の姿を認めた。
マルチ。
来栖川研究所、試作白兵戦用メイドロボ、マルチである。
持っているモップをまるでビームサーベルのように、
もとい、ビームジャベリンのようにぶんぶん振り回しながら、嬉しそうに俺に向かって走ってくる。
と。

びたーんッ。

「あううううううううううううっ!」
なんにもないところなのに、マルチはそれは盛大に廊下ですっころんだ。
「……………………」
「……………………」
そのまま……ぴくりとも動かなくなる。
「……お、おい大丈夫かよ……」
さすがに俺は心配になって、大の字に突っ伏しているマルチに近付き声をかけた。
「……はいぃ、大丈夫ですぅ」
両目をなるとマーク、もしくはドリームキャストマークにしながらも、
マルチはよたよたと立ち上がり、ぱんぱんと服の埃を払う。
「……なーんか最近調子悪いんですう……この間定期メンテナンスを受けたときから……」
「……」
「……な、なんですか浩之さん?」
真剣にマルチの顔をのぞき込む俺の表情を見て、マルチの頬がやや赤く染まった。
そう、俺は見ていた。
マルチの額を。
そこに書いてあるはずの、マルチの新しいバージョンアップを。
(……よし、今日は何も書いてない……)
そう、別に書いてはいない。ゼータともダブルゼータとも。
ホッと胸をなで下ろしながら俺はマルチの頭をなでなでしてやる。
「いや、別に何でもねえよ」
「……えへへ」
両手を口元に添え、嬉しそうに微笑むマルチ。
「……本当に大変なんですよ。早くバランサーのデータ書き換えをしないと。
今の私の性能は、GM以下なんですから」
ぴたっ
……と止まる、俺の右手。
「……今、なんつって……」
「はい?」
「いや……聞き間違えかな? ……いまなんか、ジムって聞こえたような……」
「はい。今の私はGM以下の性能しか……」
…………
…………
……………………いかん、フルバーニアンだ……
「マルチ、その喚装…………じゃない、書き換えはいつ……」
「今日これから、主任のところへ向かうんですけど……」
行かせてはいけない。
行かせてはいけない。
今度惨事がおきたら、地球はダメになってしまう。核の冬が来るぞ。
「マ、マルチ、今日俺のうちに来ないか? 一緒に遊ぼうぜ!」
「え!? で、でも今日は今言ったとおり……」
「大丈夫大丈夫! 一日やそこらほっといたって、別にどうって事ないって!」
「……で、でもですぅ……」

その時だ。
どごーんッ!
光が走ったかと思うと、俺とマルチの目の前で爆発が起こった。
「うおッ!」
「な、なんですかあっ!?」
たちけむる爆煙。
そしてそれが薄れたとき、その向こうから現れたのは……
「……し、志穂!?」
そう。
ロングレンジライフルを構え、背中にプロペラントタンクを担いだ志穂が、
薄ら笑いを浮かべながら俺達を見下していた。
「うふふふふふふふふふふ」
「て、てめえ志穂! どういうつもりだっ!」
「どうもこうもないわヒロ……」
言いながら志穂は再びライフルを構える。あんな物、一体どこから調達してきたんだ?
「その小娘は邪魔なのよッ! その小娘が、ヒロが私のシナリオへ来るのを邪魔しているのっ! 
邪魔者は全て排除ナリ! それが私のやり方ってヤツなのよぅ!!」
と、俺はあることに気付いて愕然とした。
志穂の後ろに、累々たる屍が横たわっていることに。
あかり、レミィ、委員長、葵ちゃん、琴音ちゃん……
み、みんなみんな……死んでしまったのか?
ああ、よく見るとみんなシュラク隊のパイロットスーツを着てるし何故かッ!
「マ、マヘリアさぁぁん! マヘリアさぁぁん!」
もちろん俺は消化器を持って駆け出し始めるのだった。
志穂の横を抜けようとしたとき、俺の腹もとを志穂がライフルで殴りつけ、マルチの近くまで吹っ飛ばした。
「あ、あうう、浩之さん大丈夫ですかぁ!」
俺のもとに駆け寄るマルチ。そして志穂はそんな俺達を笑いながら見下ろしている。
「次のターゲットはそのロボット女郎ッ!! 再びジホンを再興するためなら、
私はなんだってやるわよおおおっ!」
「ジ、ジホン!? なんだそりゃああッ!!」
「『The.本当に可愛くて人気ナンバーワンはこの志穂ちゃんよ♪.ん〜完璧♪』の略よ」
「そんないい加減な略があるかああああああっ!!」
「それはそれ、これはこれっ!」
「もうええっちゅーねんっ!!」
そんなやりとりをしている横で、マルチがすっくと立ち上がり、志穂へ対してきりっとした瞳をむけた。
「……やるんですかー?」
屹然とした態度で宣戦布告する。
「やるって言うんなら、容赦しませんよー」
「……ふっ」
そんなマルチの様子を鼻で笑う志穂。
「以前のυマルチや、V2マルチならいざ知らず、いまのアンタにそんな大口が叩けるなんてね」
「……確かに、今の私はただの非力なメイドロボですぅ」
そうなんだよ!
マルチ、そうだそれでいいんだ、それで正常なんだよう。
「……けれど……」
言うなりマルチは右手を天高くに指しのばし……
「……出ろーーっ! ですーーっ!!」
ぱちんッ!
ーと、指を鳴らすのであった。
げっ!?
まさか……ゴッドガン○ムでも呼んだってのか!?

ごごごごごごごごこ……

「な……なに!?」
轟音と共に、突然地面が激しく揺れだした。
「……? 下だ。下から何か来るッ!?」
俺がそう叫んだ途端……

ごっぱああああああああああああああっ!!

「どわあああああああああああッ!」
「きゃああああああああああああッ!!」
床を突き破り現れたのはー
「デ……デンドロビウムッ!?」
だった。
巨大モビルアーマー、動く武器庫ことデンドロビウム。そのあまりの巨大さに、
廊下は完全に破壊され、教室の壁ががらがらと崩れ落ちるのであった。
「マ、マルチ、お前GP−01だろうにっ!? なんでデンドロビウムを装備できるんだよおッ!!」
「それはそれ、これはこれですー」
「同じギャグは三度までじゃあいいッ!」
言っている間にも、マルチはステイメンとしてデンドロビウムの中に収まっていった。
「させるかッ!」
志穂がライフルを撃ちまくる。
しかしそれらは全てマルチの直前でバリアに跳ね返された。
「ちっ、Iフィールドか……」
「覚悟してくださいー」
ミサイルポッドが開き、連続的に一斉射された。
どごごごごごごごこごどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど

爆煙と爆風に包まれる志穂。
「やりましたー、浩之さんー」
嬉しそうに手を叩くマルチ。
俺は、俺は、なんと言っていいのか、ただ呆然とそれを見つめていたのだが……
「……甘いわあああ」
煙の中より、ものすごい勢いで再び志穂が現れた。
外側に取り付けてあった装甲を取り外し、新たな姿となって。
「……ノイエ・ジール!?」
「まだそんな装備を残していたんですかああああぁぁ!?」
がっしいいいいいん!
組み合い、そのまま廊下の向こうまですっ飛んでいくマルチと志穂。
「私には、大義があるのだああああッ!!!」
巻き込まれた生徒達が吹き飛ばされ、次々と屍と化す。
戦場は拡大していった。
いまや校舎のあちこちで、爆発と悲鳴の声があがっていく。
『再び悪夢が世界を包むとき、SOSを叫ぶ声が聞こえる』
(WINNERS FOREVERのMIDIデータ、ネット上にないかなあ……)
なんてことを考えながら、三度血に染まる廊下を見つめ、俺は絶叫するのであった。
「ハ○ーン様、ばんざああああああああああいッ!!」

その様子を、廊下の隅からのぞき込んでいた来栖川芹香が最後にポツリと言った。
「……強化しすぎたか……」


この後ー
HMXシリーズに対する強化武装案は史実から抹消。
マルチへ対する判決も取り消される物となる。
だがしかし、歴史は、ティ○ーンズの台頭を許すこととなるのであった。

「機動戦士Zマルチ」へ続く……(続きません)

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やらないんですか? と言われれば、やってしまうこのひねくれド根性。
そう言うヤツなんです俺ってやつは……