警告。
このSSは大変危険です。
出来れば読み飛ばすことをお勧めいたします。
お読みになる場合、読者様の身体的、及び精神的苦痛をアクシズは何ら関知いたしません。
「これが、鉄仮面のやり方かッ!!」
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「今日ここに、皆さんに集まっていただいたのは他でもありません」
そこは、芹香先輩の運営する魔術倶楽部。
真っ暗な部室の中、真ん中に置かれたロウソクの火だけを灯りとして、
輪になってその者達は集まっていた。
メンバーは、あかり、マルチ、委員長、葵、レミィ、琴音、芹香、理緒、そして雅史。
その表情は至って真剣である。
とりあえず、司会進行を努めていたあかりが話を続ける。
「この四月十五日現在、『To Heart』のシナリオは、志穂を中心に進んでいます。
このままでは志穂がヒロインとして選ばれてしまいます。浩之ちゃんが志穂に取られてしまいます。
ゆゆしき問題です」
「そやな……」
委員長が同意した。
「藤田くんが誰を選ぶのか、それは藤田くんの問題や。けど、長岡さんにとられんのは、
いろんな意味で納得いかへん。つもる恨みもあるしな……」
「わ、私も、長岡先輩は藤田先輩には似合わないと思います」
おずおずと葵ちゃんが口を挟んだ。
「私、長岡さんに何度もお掃除の邪魔されたんですー」
涙目でマルチが訴えた。
「ほーらほら、ファントムネー」
ロウソクの光を顔の下から当てるようにして、レミィが理緒ちゃんを驚かしている。
その理緒ちゃんは、目を点にしたまま既に気絶していた。
「とにかく、大筋で皆さんこの問題に同意してもらえると思います」
こくこく。
無表情のまま芹香も頷いた。
「そこで私たちは一時休戦、志穂撃退のため力を合わせ浩之ちゃん救出にあたりたいと思うのです」
あかりが右手にぐっと力を込める。
「私たちの名前は……そう、シュラク隊!!」
あかりが宣言すると共に、部室の中に歓声が響くのであった。
だが一人、モトネタを知っている雅史だけが、
「……ふ、不吉な……」
と呟くのであったが……
「うっ、やべえ、授業始まっているじゃねえか!」
昼休み、俺こと藤田浩之は図書館で軽く昼寝でもするつもりだったのだが、
どうもつい寝過ごしてしまったようだ。
慌てて立ち上がったとき……
「ち、ちょっと……」
ん? この声は……
「うっ! いけない、もうイベントが始まっているわ!!」
言いながらシュラク隊のメンバーは図書室に入ってきた。
「どうしよう、この『橋本先輩とのイベント』は、志穂のシナリオでも重要なやつだから
絶対阻止しなきゃいけないのに……」
「芹香先輩がいけないんですよ、のろのろと昼食を食べるから……」
文句を言う葵に、琴音のつっこみが入る。
「そう言う葵ちゃんだって、お弁当十人前食べなきゃ気が済まないっていつまでもいつまでも……」
「とにかく、何とかしてイベントを止めなくちゃですー」
くいくい。
「え? なんや?」
芹香が委員長の袖を引っ張る。
「なんやて? 私がある魔法をかけておいたから平気ですって?」
「ある魔法って……一体……」
と、雅史がつぶやいた途端だ。
ドゴーーーンッ!!
轟音と共に、本棚を巻き込みながら、浩之の体が吹っ飛んできた。
「ひ、浩之ちゃん?」
「先輩!?」
もうもうと上がるほこりの中、その向こうから別の誰かが姿を現す。
「……あ、あれは……」
「……橋本先輩……?」
その通りだった。
だがその姿はいつもの彼とは違っていた。
まるでケンシ○ウかラ○ウのような、むきむきとしたマッチョマンなのである。
「…………」
「…………」
シュラク隊は呆然と変わり果てた橋本先輩を見つめている。
「……く、来栖川先輩、ひょっとして魔法って……」
こくこく。
「え? 橋本先輩の筋力を十倍以上に高めてあるって?」
「なるほど! 橋本先輩が負けなけりゃ、このイベントは成立せえへんもんなぁ」
委員長がぽんと手を打つ。
「がおおおおおおおおおーーーっ!!」
咆哮一閃、橋本先輩は倒れている浩之に乗りかかるとそのままげしげしと殴り始めた。
「……でも…………このままじゃ、藤田先輩、死んでしまうんじゃ……」
口元に指を当て、琴音がポツリとつぶやいた。
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
げしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげし
「雛山さんっ!」
「は、はいッ!」
委員長のあまりの剣幕に、リオはびくっとしながら答えた。
「……出番や」
「……はい?」
言うなり委員長は理緒の背中を思い切り蹴りつけた。
「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
「見事藤田くんを助けてこいやあああっ!」
まっすぐ橋本先輩へと向かい飛んで行く理緒。
そして今まさに衝突しようとしたその時、
「はぶっ!」
突然横から現れたバットが、理緒の体を弾き飛ばし、そのままお空の星へと変えた。
「さよおならあああああああああああっ!!」
「り、理緒ちゃああああああああああああああああんっ!!」
雛山理緒、死亡。
「ダメだよ」
バットを持っていた人物が、本棚の陰からゆるりとシュラク隊の前に姿を現す。
「あの二人は、私を取り合って戦っているんだから。邪魔はさせないよ」
「……し、志穂……」
「長岡さん……」
志穂の全身からオーラの光がプロミネンスのようにゆらゆら揺れている。
バーサク化していた。
もしくはハイパー化していた。
もしくは、ラスト近くのカテ公化していた。
「戦え、私の手のひらの中で。勝った方は、私が全身全霊をかけて愛してやるよ」
そしてカテ公……もとい志穂は高らかに笑いあげる。
その隙をつこうと、一気に葵が距離を詰めようと踏み込んだ。
「葵ちゃんっ!?」
「雛山先輩の、敵討ちをさせてもらうって言ってるんだよッ!」
いつの間にか、葵の頬には口紅で文様が書かれていた。
「甘いねえ……」
ぴかぁん!
画面が暗転する。
「!」
「!? あ、あれはっ!?」
音も立てず志穂が一気に葵の胸ぐらをつかむと、そのまま無数の攻撃を加える。
がかああああっ!!
『天』
「し、瞬獄殺ッ!?」
琴音が驚愕の声を上げた。
「……ひ、秘剣ガルシオンを、手にしたからには、……後には、ひけん。がくっ」
訳のわからん事をつぶやきながら、葵は倒れた。
松原葵、死亡。
「なぜ長岡先輩が瞬獄殺をッ!?」
「ふふふ、北○神拳は、一度戦った相手のワザを覚えることが出来るのよ」
「り、理由になってませんっ」
「それはそれッ! これはこれッ!」
「そのネタはもういいッ!」
次の瞬間あかりは、雅史の方を振り向くと絶叫する。
「オリファー隊長!!」
「……え?」
「オリファー隊長、死なないでくださいッ!!」
モトネタを知っている、雅史の頬を汗が伝う。アブラの汗が。
「ち、ちょっとあかりちゃん…… 一体何を言って……」
そんなことを言っている間にも、あかりと委員長は互いに頷き会っている。
お互い分かり合うように、何をすべきか確認しているように。
そして委員長は、
「お前達は地球にいかせんと言っただろうっ!!」
と叫び、またもや雅史の背中を思い切り蹴るのであった。
「マーベット! 俺達の子供をたのんだぞおおおおおおおおっ!!」
まっすぐに飛んできた雅史の顔に、志穂はためらうことなく己の鉄拳を打ち込む。
昔のマンガのように顔のへこむ雅史。
そしてなぜか爆発。
「ま、雅史ちゃん、どうなってしまったの? 私、私、怖いっ……」
ぽろぽろと涙を流すあかり。偽善の涙を。
「……と、とにかく……」
委員長は、いまだげしげしと殴られ続けている浩之を見ながら提言した。
「このままではまったくらちがあかへん。二手にわかれ、藤田くんの救出、長岡さんの撃破、
同時におこなうで」
「うん、それじゃあ……」
あかりは残ったメンバーを見回して選択した。
「私と来栖川先輩、マルチちゃんで浩之ちゃんの救出を。保科さんたちはなんとか志穂を抑えておいて!」
「わかった。ほな宮内さん、姫川さん、いこか」
そしてー
あかり達は志穂を大きく回り込んで、なんとか浩之へと近付こうとした。
「邪魔はさせないって言ったろう!?」
言って志穂があかり達へと駆け寄ろうとしたとき、
「!?」
志穂の全身が、まるで金縛りにでもあったように動かなくなった。
「こ、これは……」
「あなたこそ、邪魔をさせるわけにはいきません」
かろうじて動く頭を、なんとか声のする方にむける志穂。
そこには、胸の前で手を組んで祈る琴音がいた。
「クッ…… この、超能力娘め……」
「静まれよ、静まれよ。猛き心を持つ方々よ。私の言葉に耳をかすのです」
琴音の体からサイコウェーブが照射され、志穂の攻撃心を萎えさせようとする。
「くううう、止めろ、この歌を止めるんだああああッ!!」
そのころ、あかり達は、いまだげしげしと浩之を殴り続ける橋本先輩の側で立ち尽くしていた。
どうやって橋本先輩を止めよう?
ある意味でずっと志穂なんかより強敵である。
あかりは後悔した。
とりあえず、保科さんたちにこっちを任せれば良かった……
そしてなんとか浩之ちゃんを助け出してくれたら、その後なし崩しに
「私のおかげ☆」と浩之ちゃんへのポイントを稼ごうと思ったのに……
「あかりさんー」
あかりがブツブツ言っている横からマルチが声をかけた。
「どうしましょう!?? このままじゃ浩之さん死んでしまいますうー」
いや、もう死んでいるのかもしれない。
現に浩之は既にぴくりとも動かない。
「……そうね」
ふとあかりは、天使の微笑みを浮かべマルチの肩をぽんと叩く。
「マルチちゃん」
「はいー」
「ありがとう、あなたは立派だったわ」
「はいー?」
と、あかりはマルチの肩をがっしとつかむと、
「来栖川先輩ッ!!」
「…………」
「マルチちゃんの動力を、核融合炉に変えること、出来ます?」
「はいいいいいいいー!!??」
マルチが絶叫する横で、芹香が
こくこく。
と頷く。
「お願いしますッ!」
あかりが言うな否や、芹香は怪しげな呪文をブツブツとつぶやく。
「……は、はいい、あのーーーー……」
マルチの体が放電して、目がうつろなものに変わっていった。
頃合いを見計らって、あかりはマルチを橋本先輩へと投げ捨てる。
どごーーーーん……
マルチ、死亡。
キノコ雲が上がる。
爆風が吹き荒れ、本棚が吹き飛ぶ。
そしてそのうちの一つが、あかりへとむかって降ってきた。
「!」
両手でがっしと受け止めるあかり。
だが予想以上に重く、あかりはそのまま跳ね飛ばすことも出来ず、
そのままの体制で本棚を支え続けなければならなかった。
「……くっ……」
「あ〜〜か〜〜り〜〜〜〜……」
「!」
悪魔の声が聞こえた。
「覚悟な〜〜さ〜〜い〜〜〜〜」
爆風の中から、志穂がその姿を現した。
「し、志穂!? どうして……」
「アンタのやってくれた核爆発のおかげで、琴音の小娘が吹っ飛んでくれたのよ!
おかげでみんなまとめて始末できたわッ!!」
保科智子、宮内レミィ、姫川琴音、まとめて死亡。
「くっ……」
あかりの瞳から涙がポロポロと落ちる。
「浩之ちゃん…… 浩之ちゃんを守ることの出来るシュラク隊は、私一人になっちゃった……」
「本棚を支えながら死になあああぁぁ」
志穂が絶叫する。
「コクピット部分を一撃でしとめてやるよおおおッ!」
「いやあああああああああああああああっ!!」
ずずーーん……
支える力を失い、本棚が一気に崩れた。
あかりの体を下敷きにして……
神岸あかり、死亡。
「はあ……はあ……」
肩で息をしながら、志穂はいまだ煙でもうもうとしている図書館の中を見回した。
「ヒロ!」
叫ぶ。しかし返事はない。
「ヒロ! 出てこい! 戦いは終わった!!」
とー
志穂は探していた愛する人が、自分のすぐ足元に横たわっていることにようやく気付いた。
ぼろ雑巾のように、ずたぼろの姿に変わり果ててしまった事にもようやく。
「………………………………」
そして志穂はようやく気付く。
「しまったああああああああああああっ!!
ヒロが死んだら、このゲーム成り立たないじゃないのおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
その時ー
志穂は背後に気配を感じ……
「てりゃあッ!」
裏拳を繰り出しながら振り向いた。
どごおっ!!
「………………………………ば、ばかな……」
口から血を吐いて、志穂がゆっくりと崩れ落ちる。
橋本先輩だった。
橋本先輩は、志穂の裏拳を当て身投げで取った後、そのまま鬼のような一撃を喰らわしたのだ。
だが志穂が「ばかな……」と言ったのはその事ではない。
橋本先輩に寄り添うように立っていた人物。
「…………」
来栖川芹香を見て絶句したのだ。
そしてー
がらがらがらがらっ!
「う、うわあああああっ!」
突然、図書館の床が崩れ、志穂は巻き込まれ共に奈落の底に落ちていった。
いままでの激しい戦いに、既に図書館が耐えられなくなっていたのだ。
「………………」
無言のまま見守る芹香。
やがて彼女はポツリと呪文を唱える。
すると、糸の切れたマリオネットのように、橋本先輩の体がばたりと地にくずれた。
その体も既にいつもの姿に戻っている。
「………………」
そして芹香は、ボロボロの浩之の体を抱えると、そのまま図書館を後にするのだった。
時は流れた……
芹香と浩之は、共に暮らしていた。
芹香の怪しい呪術で一命を取り留めた浩之は、そのまま芹香に告白。
しかし二人の中を来栖川の家が認めるはずもなく、二人は駆け落ち同然に、この神田川の四畳半アパートで仲むつまじく暮らしていたのであった。
芹香が、アパート前に置かれた洗濯機を回していたときの話だ。
「……あの……」
ふと声をかけられ、後ろを振り向く芹香。
「すみません、ウー○ッグにはどう行けばいいのでしょうか?」
スクーターに乗った少女が、芹香に道を問うている。
その瞳は何故だかどことなく虚ろだ。
「………………」
「えっ? 小型のナビシステムをつけてくれる? ……でもお金はないんです」
「………………」
「えっ? 別に気にすることはないって?」
そして芹香はいったん部屋に戻って、少女のスクーターに取り付ける為のナビサターンを持ってきた。
「……ありがとうございます」
傍らにまで近付いて、芹香は気付いた。
その、まるで夢遊病者のような少女が、あの志穂であることに。
「……………………………………」
その時、
「……あ」
一陣の風が吹き抜け、桜の花びらが二人に降り注ぐ。
「……さくら……」
「………………」
「……春が来ると、何となくもの悲しくなりません?」
「………………」
「ええ、そうですね……」
芹香は、走り去って行く志穂のスクーターを黙って見送った。
そして、『今夜の夕飯は鯖みそにしよう』と、何もなかったように部屋に戻るのであった。
「姉さん」
後ろから声をかけられ、芹香は驚いて椅子の上で飛び上がった。
「何を熱心に書いているの? ……え? 未来設計の為のシナリオ?」
こくこく。
顔を真っ赤にしながら、けれどワープロの画面を決して綾香に見せないよう、芹香は必死で応対していた。
「ふうん……」
訝しげに綾香は首を傾げた。
「…………」
「え? 私を出すのを忘れてたって? ……あはは、なんだか知らないけど、いい役にしてよね」
こくこく。
「長瀬が呼んでいるわよ、もう夕食だって。先に行っているからすぐに来てよ」
こくこく。
妹が出ていったのを確認して、芹香はふうとため息をついた。
そして悩むのだった。
綾香の役はなんにしよう、と。
(とりあえず…… ギロチンのファラがお似合いかしら?)
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ふふふふふふふ。
夏風邪が収まりません、アクシズです。
どちらかというと、「幻覚に踊るアクシズ」というタイトルの方が今回あっているかもしれません。
ふふふふふふふふのふ。