電波の海原2 投稿者: アクシズ
いつものようにいつものごとく、柏木耕一は館山の美人四姉妹のもとに遊びに来ているのだった。
(富山敬の声で読んでちょ)

「へえ、懐かしいな……」
たまたま入った商店街の中古ショップで、俺はその格安CDを見つけだした。
『日○テレビドラマテーマ集 80年代』
まさにその名の通り、昔のドラマの主題歌を集めたベストアルバムだった。
たったの480円。
俺は、『あぶない○事』の『冷たい太陽』が何となく聞きたくなり、迷わず購入した。
「うん、生きたお金を使ったって感じだ☆」
子門雅人の『ひとり旅』を口ずさみながらご機嫌で帰途につく。
「まぁぼぉろしぃの〜 緑求めて〜 ただひとりぃ〜 燃える広野を〜♪」
たまたますれ違った女子高生達が、俺には聞こえないはずの小声でつぶやく。
「やぁね、マニアって……」
しかし鬼である俺は、聴覚でさえも普通の人のそれとは全然違う。聞こえてしまうのだ。
(知ってるアンタもかなりのモンだと思うぞ)
もちろん俺はそんなことなど決して口にはしない。
でも何となく腹が立ったので、とりあえずクロスファイアブリッツから
「サマソゥ! サマソゥ!!」
サマーソルトジャスティスも画面端なんで追加しておいた。
「ティケッツ、イィジィ!」

「お帰りお兄ちゃん!」
ぱたぱたと初音ちゃんが、俺に気付いて玄関まで飛んできた。
「ただいま初音ちゃん」
「あれ? それなに?」
俺の手にしたものを見つけ、好奇心旺盛に初音ちゃんは聞いてくる。
「ああ、CDだよ、一緒に聞く?」
「うん!」
そして俺達はそのまま初音ちゃんの部屋に向かった。
「『君は1000パーセント』? うーん、知らない曲ばっかり……」
CDの曲目を見て初音ちゃんがわずかに眉をしかめた。
さすがに、わずか15歳の初音ちゃんには辛い曲がラインナップされているようだ。
「まぁ、とりあえず聞いてみようか」

♪〜〜〜〜〜〜
「……これ、なんかいい曲だね……」
まるでα波を放出しまくっているようなリラックスした表情で、ポツリと初音ちゃんがつぶやいた。
その曲は西田敏行の『もしもピアノが弾けたなら』である。
「……私、ピアノをひくことは出来ないの……」
初音ちゃんはかすかに頬を染め、俺から視線をはずしたままでそっと言った。
「でも、お兄ちゃんのためなら……ピアノ習い初めてもいいな……」
なんてこった。
こんな展開は、全く予期していなかった。
美味しい。
美味しすぎる。
さすがアクシズのSS、話が強引ナリ。【じゃかあしいわッ!】
「………………」
「………………」
言葉も出さず、ただただ見つめ合う俺と初音ちゃん。
完全に『キックオフ』モード。
と。
次の曲が流れ始めた。

ちゃらちゃらちゃらちゃら……♪

(ん……? この曲は確か……)
その時、初音ちゃんに驚くべき変化が訪れた。
「……うっ……」
「!? 初音ちゃん?」
たちまち表情が曇りだしたかと思うと、その大きな瞳からポロポロと涙をこぼしだした。
そして重々しくつぶやく。
「自ギャグの、歌……」

あなたがい〜た〜こ〜ろ〜は〜♪

その曲は、杉田かおるの『鳥の詩』であった。
そしてそう!
これは『伊集院光のUP’S 深夜の馬鹿力』の人気コーナー、
『自ギャグの歌』で使われている曲なのだ!

しまった……
忘れていた……
柏木四姉妹の、ディープさを……

しかしそれはそれとして、この初音ちゃんの行動、非常に興味深い……
ふと俺はあることを思い付き、CDを止め、口笛で、ある曲を奏で始めた。

ちゃんちゃんちゃん、ちゃんちゃんちゃん……♪

『禁じられた遊び』のテーマである。

「…………それは、私が小学生の頃の話です……」
……思った通りだった……
初音ちゃんは、まるで催眠術にかかったみたいな瞳のまま、淡々と自分の過去の話を話し始めたのだった。
コーナーそのままである。

「私は、そのころ誰にも彼にも、『将来結婚してあげる』と約束していました……」
ブッ……
思わず吹き出してしまい、一瞬俺の曲が止まりかける。
しかしこんな重要な話、おいそれと聞けるものではない。すぐさま俺は曲を続ける。
「……それがみんなのためだと思ったんです。
そう言えば、みんなニコニコと笑ってくれていたんです。
それは子供心に、人間関係をよりよく保つための私の冗談でした。
……でも、それを本気にしてしまった人がいるんです……
お隣の、泉田おじさんです……
おじさんは、私が大きくなるまでずっと待っていたんです。
奥さんとも離婚していました。
そして先日、とうとう告白されたんです。
私がが16になったら正式に結婚してくれって……」

な……なにィ!?
なんじゃそりゃあ!?(松田ゆうさく風に)
そんなの神が許しても、この俺がゆるさんわッ!!

「おじさんはとても真剣でした……
でも、私には耕一お兄ちゃんがいます。
身も心も、全て耕一お兄ちゃんのものです。
私は、おじさんに断らなくてはいけませんでした。
その為に、強い心で望まなくちゃならなかったのです……」

初音ちゃんの瞳から、涙がポロリと落ちる。

「私は……キノコを食べました…………」

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それと同時に、俺の奏でるBGMの音量が劇的に盛り上がる。
見よこの見事な演出。
音楽スタッフの松上くんも真っ青だ。

「……私が気がついたとき、おじさんの姿は消えていました。
目の前からも、この町からも……
最後に目撃された様子によると、おじさんはゾンビのように
フラフラと山へ向かって歩む姿だそうです……」
そして初音ちゃんはだくだくと泣き始めた。
「伊集院さん、伊集院さぁん、私は、大丈夫なんでしょうか?」
誰が伊集院かい。
そう思いながら俺はBGMを止める。
しかしー
「伊集院さん、伊集院さぁん……」
初音ちゃんは元に戻らない。
解っている。
あのキーワードを言わねば、初音ちゃんの心の痕を埋めることは出来ないのだ。
俺はコホンと咳払いした後……

「だあいじょうぶなんですッ」

と、高らかに宣言した。

途端に、
「……あれ? あれあれ?」
キョトンとした表情で初音ちゃんが頭を左右に振った。
「お兄ちゃん、私どうしたの?」
「……初音ちゃん、覚えてないの?」
「……覚えてないって、何を?」
そして目を丸くしたまんま見つめ合う俺達。
初音ちゃんは、完全に忘れ去っていた。
過去の痕も、俺と一緒にCDを聞いていたことも。

…………ニヤリ。

俺の中の鬼がほくそ笑む……


「楓ちゃん、楓ちゃん」
言いながら俺は彼女の部屋のドアをノックした。
「……はい」
しばらくして、半開きのドアの向こうから楓ちゃんが顔を見せる。
満面の笑みを浮かべた俺を怪訝そうに思いながら。
「一緒にCD聞かない?」
こくん。
楓ちゃんはただ黙って頷くのであった……

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UP’Sシリーズ第2弾、月曜UP’S『伊集院光のUP’S 深夜の馬鹿力』です。
意味の分からない人は、この後一時からTBSをチューニングしてみてください。

CDの話は実話だったりします。

本当は四人分やろうと思ったんですが、思ったよりページを取ったので止めました。
評判が良かったら続けたいと思います。

本当は小橋VS秋山のネタでもやろうと思ってたんですが……

あと、「機動武闘伝Gマルチ2」は、ハンドルネームを間違えました。
自分です。同一人物です。