ビヨンザタイム 投稿者: アクシズ
「おーい、マルチー」
「はいっ! なんでしょう浩之さん」
またまた、廊下の掃除を続けているマルチに俺は尋ねた。
「……お前この間……またバージョンアップが……」
「はいっ! その通りですっ!」
言って俺は激しく後悔した。
その時のマルチの目と来たら、まるで獲物を見つけたハンターモードのレミィと
おんなじ光だったからだ。
「…………で、今度は一体……」
聞くまでもなかった。
マルチの額を見れば、バージョンアップの内容はたちまち理解できた。
マルチの額にははっきりと書かれていた。
“υ”と。
「……………………υ(ニュー)マルチか……」
「はいっ! そうですっ! どうして分かったんですか!?」
……そう言えばこの間Fの完結編が出たばっかだっけ……
俺は公園で鳩に餌をやっていたオッさんの顔を思い出し呆れていた。
あのオッさん、完全に趣味を仕事に持ち込んでいるに違いない。
「それで今度の装備はですねェ……」
「ち、ちょっと待てっ!」
俺はこの間の惨劇を思い出し恐怖した。
結局あの後、芹香先輩の魔術によって理緒ちゃんを始め「光の翼」の犠牲者達は
どーにかこーにかこっちの世界に帰ってくることが出来たのだ。
人類は、二度と再びあの悲劇を繰り返してはならんのだ。
「マルチ、屋上いこう、屋上」
ここは人が多い。とにかく人の少ないところへ……
「あっ……」
突然、マルチが驚いたような声を出した。
「……げっ」
その理由はすぐに理解できた。
俺はマルチの両肩をつかんで引っ張っていこうとしたのだが、焦っていたのか、
俺の右の掌はマルチの薄いが柔らかい胸板を完全に押さえ込んでいたのだ。
しかも揉んでいるし……
「……………………………………」
「……………………………………」
マルチは両の目をまん丸にしたまんま、かすかに震えてまっすぐに俺を見つめている。
「あっ……いや、マ、マルチ……」
次の瞬間ー
マルチの耳カバーが片側二つずつに別れ、バヒュンバヒュンと飛び回りだした。
「うげええええええぇぇぇッ!!」
「ファ、ファンネルが敏感すぎましたぁぁぁっ!!」

その後はもう大変だった。
暴れまくり生徒達をなぎまくるマルチのファンネル達。
悲鳴を聞きつけ、弓を握って駆けつけるレミィ。
レミィの弓をIフィールドで跳ね返すフィンファンネル。
子供は嫌いだと叫びながら轟沈していく志穂。
結局、現場はこの間を上回る惨状と化していた。
「…………………………」
「…………………………」
「……人は、同じ過ちを繰り返すのか……」
「……υマルチは、伊達じゃないですぅ……」
血の海の中、犠牲者の中にまたもやいつの間にか理緒ちゃんがいたことは……
……言うまでもない。