「初音アルバイト志す!」の巻 投稿者:あきら
=====ちょっと一言=====

 初めまして、あきらと言います。初投稿ですので、稚拙な文章になっていま
すが、そこの所はご勘弁下さい。
 ショートストーリーなのであっと言う間ですが、最後におもしろいと思って
下さったらうれしいです。
 それでは、ご覧下さい。

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『アルバイトォォォォ〜〜〜〜?』
 柏木家の静かな夜のひとときに、3人の大きな声がこだました。

 夕食を取り終え、みんなで食後のお茶を飲んでいた時のこと。ずっと何かを
我慢していたような顔をしていた初音が、神妙な声で切り出した。
「・・・あのね、みんなにお話ししたいことがあるんだけど」

「やっぱり・・・ダメかな?」
 8つの目が自分に集中していることに重圧を感じながら、初音は申し訳なさ
そうにつぶやく。
 最初にリアクションを起こしたのは、意外なことに(やはりというべきか?)
沈着冷静な楓だった。座テーブルの真ん中に置いてあるお煎餅におもむろに手
を伸ばし、ポリポリとかじりながら言う。
「・・・いいんじゃない?」
「楓ぇぇぇぇ〜」
 長女の千鶴が、ちょっと情けない声をあげる。その顔は蒼白になっていた。
 それもそうだろう。あの真面目で純真な心を持った初音が、「アルバイトを
する」、と言い出したのだから。
「絶対にいけません! だいたいアルバイトする必要なんかないでしょうに!」
 力説する千鶴の顔は、いつの間にか真っ赤になっていた。ずっと四姉妹一緒
だった輪が、これをきっかけに壊れてしまうかもしれないと、不安をおぼえた
のだ。
「まあまあ、千鶴さん。なにも初音ちゃんがアルバイトをすると決まった訳じゃ
ないんですから。そうでしょう、初音ちゃん?」
 千鶴の慌てぶりに苦笑しながら、耕一がゆっくりと千鶴の肩に手をのせた。
「耕一お兄ちゃん・・・」
 初音が目に大粒の涙をためながら、嬉しそうに耕一の方を見た。姉から怒ら
れたことが、よほど怖かったのだろう。
 ふ〜ん、とちょっと感心したように頷いた梓が、興味津々と初音に聞く。
「で、どういうバイトをするのさ」
「え、え〜っとね。自分の洋服屋の写真のモデルになってくれないかって言わ
れたの。店内に飾りたいんだって」
 頬を赤くしながらちょっと誇らしげにかたる初音。やはり女の子である。モ
デルという職業に、誰しも憧れるものだ。
「すごいじゃないか! うんうん、オレも洋服屋だったら、初音ちゃんみたい
にかわいい女の子を見つけたら、モデルになってくれって絶対に声をかけるよ」
「バ〜カ。洋服屋の耕一だろうが大学生の耕一だろうが、かわいい子をナンパ
すること変わりはないんだろう?」
 冷やかす梓の言葉に、耕一も黙っていなかった。
「心配するな。梓みたいな凶暴女には、天地が滅びようとも声をかけたりしな
いから」
「なんですってぇぇぇぇぇ!!」
「なんだよぉぉぉぉぉ!!」
 うなり声を上げながら睨み合う二人をしり目に、楓がこっそりと残り一枚の
お煎餅を口に運んだ。事件の当事者である初音は、なんと声をかけて良いのか
オロオロするばかりである。
「それで、もしかして初音は了解してしまったの?」
 千鶴が心配そうに聞く。慌てて初音は小さな顔を横に振った。
「してないよぉ〜。ただ写真一枚につき1万円出すって言うし、洋服屋さんの
知名度もその道に人には有名だって宣伝するから」
「それで心が動いてしまったわけなの」
「うん」
 いつの間にやら、耕一も梓も初音の方に注意が向いてしまったようだ。じっ
と初音の言葉に聞き入っている。
「・・・そうだよな。初音の学校ってアルバイト禁止って訳じゃないもんな」
 梓が感慨深げにつぶやく。初音の通う高校は、アルバイトを特に禁止してい
ない。もちろん良識に反していないアルバイトに関してだが(←注:この話で
の設定のみ。本当の『痕』では知らない)。
「どう思いますか、耕一さん? 私はやはり反対なのですが」
「そんなに心配することないですよ、千鶴さん。なにも校則に反しているわけ
でもないんですから。実はオレも高校の時にバイトをやっていた身ですから、
どちらかというと賛成ですよ」
 はははっと気楽に笑う耕一。それでも千鶴の気は晴れなかった。
「・・・梓は?」
「私っ!? いいんじゃないかな。一回だけなんだろ?」
 嬉しそうに頷く初音。
「だったらやらせてあげようよ。初音のいい勉強になるしさ」
「そう・・・楓は・・・あらっ、楓? かえで!」
 きょろきょろと見回す4人。だが楓の姿はどこにもなく、座テーブルの上に
一枚の紙が乗っているだけだった。
「なになに・・・お煎餅ごちそうさま・・・!!」
 手にとって読んだ耕一は、ハッと驚いた様子でテーブルの上を見る。そこに
は煎餅が十数枚は入っていたお皿が、すっかり空になっていた。
「やられた〜! オレ、1枚しか食ってなかったぞ」
「耕一もか? あの水戸の手作り海苔煎餅だけはもう少し食べたかったのに!」
 頭を抱える耕一と梓。やはりこの二人、よく似ている。
 口にこそ出さないがちょっと悔しかった千鶴は、オホンッと咳払いをして話
を進める。
「(あとで楓にはお仕置きをするとして)フゥ〜、分かりました。耕一さんと
梓は賛成ね・・・」
 数秒の間、沈黙が居間の中を支配した。遠くでししおどしが乾いた音を立て
る。初音も千鶴の言葉をじっと待っていた。
「・・・いいでしょう。ただし、一回だけよ」
 ワ〜っと歓声が上がる。初音も耕一も梓も大喜びだ。その様子に真面目な顔
をしていた千鶴も、思わず笑みを漏らす。
「よかったね、初音ちゃん。おめでとう!」
「ありがとう耕一お兄ちゃん。私がんばる!」
「写真ができたら、私にもくれるんだよ。学校のみんなに自慢するんだから!」
「うん、分かった!」
 手をつないで喜び合う3人を見ているうちに、千鶴はあることを聞くのを忘
れていたのに気づいた。
「ところで初音。その洋服屋さんって、なんて名前なの?」
「えっ? なに?」
「だから、お店の名前よ。まだ聞いていなかったわ」
 きょとんとした顔をしていた初音だったが、やっと自分の落ち度に気づいて
照れるように笑った。
「う〜ん、なんてお店だったかな・・・そうだ! 連絡をくれって店長さんに
名刺をもらったの!」
 ごそごそと自分のポケットを探す初音。そして真っ白な名刺にかかれた店名
を読み上げる。
「ブルセラショップ「リーフ」だって」

『絶対にダメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


=====あとがき=====
 
 いかがでしたでしょうか(笑)。この構想は、電車の中でオジさんの新聞を
盗み読みしていたときに思いついたものです。
 キーワードは「アルバイト」と「ブルセラ」。初音ちゃんはブルセラといわ
れても、きっと何のことだか分からないことでしょう(笑)。
 このショートストーリーを読んで下さった人は、短い文章で構いませんから、
感想のメールを下さい。他人の反応というのは、やはり気になるものですから。
 でも、意地悪なメールはなしですよ。お願いいたします。
 それではみなさん。ご機嫌よう。

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