-aftereffect- 投稿者: あり
「じゃ、先輩また明日ね」
 オレはまだ赤い顔をしている先輩にむかって少しおどけたように言う。
 もう学校には部活をやっている生徒がちらほらいるだけの地平線に沈む太陽が映える時間帯だった。
「・・・・・」
 何も言わずただこくんと頷いた。
 まったく、さっきまではあんなに声出してたのに・・・
 そう、ほんの三十分前までオレ達は部室で裸のまま抱き合っていたところだ。
 そしてオレ達はその時に、正式につき合うという間柄になった。
 オレは憧れの先輩をものにした達成感と優越感に溺れ、顔はずっとほころんでいた。
 先輩はというと、さっきから顔を赤くしっぱなしだった。
 そんな先輩を不信に思ったのかセバスチャンは先輩には心配そうな眼差しを、オレには敵意剥き出しのメンチを切る。
 へっ、てめえがどれだけオレと先輩の仲を引き裂こうとしてもな・・・もうやっちゃったんだぜ、もう先輩はオレという存在によって汚されたんだ、なんて言ったらオレはどうなるんだろうか。
 普通だったらそんな眼差しに対してオレは反抗の色を見せるのだが、今はそんなことどうでもよかった。
 ただ、先輩という存在だけでオレは世界のあらゆる何もかも許せそうだった。
「・・・・・」
 また明日、と先輩は言い残すと黒塗りのリムジンに乗り込んでいった。
 重低音の響きと共に下町には不似合いな車が遠ざかっていく。 
 オレはそれを見送って反対方向へ帰ろうとしたところ、自分の体の不信に気付いた。
 さっき、愛する女性を汚したモノが、まだ元気いっぱいだったのだ。
 オレはまだ興奮が冷めやらないんだなと思い、別に気にはしなく治まるのを待たずに歩き始めた。


 おかしい。
 こんなに持続するものなのか。
 オレは剥き出しになった自分の分身に問いかける。
 当然問いに答えるも無く、ただただ頂点を指している。
 先輩としてからゆうに5時間以上は経っている。
 それなのに・・・オレの分身は元気がいっぱいだった。
 風呂から出て自分のベッドの上でそれを凝視する。
 とても人に見せれる姿ではない。
 色々手は施した。
 一人の時の男の行為をしたり。
 テレビで太った芸能人を見たり。
 目を閉じて無心の状態にもなった。
 しかし、言うまでもなくことごとく打ち砕かれた。
 オレは一つため息をついて布団に潜り込む。
 こんな状態で起きていたら、何回もやってしまいそうになると思い、同時に寝れば治ると思ったからである。


 眠れない。
 いや、こんな状態で眠れるというのがおかしい。
 布団とパジャマとトランクスに封印されたオレの欲望は押さえ込まれながらも上を向こうとしている。
 それでも目をつぶりながらオレは布団の中で考える。
 今日は色々なことがあった。
 なんと言っても先輩とやれたこと。
 そのきっかけが・・・
 ・・・やっぱあの薬かも。
 そう。
 先輩が”惚れ薬”と言ったあの謎の薬。
 先輩の自作だろうか。
 確か少し飲むだけで効力が出るって言ってたっけ。
 あれ飲んで気を失ったし、それに、そのおかげで勃っちゃったし・・・
 オレは・・・飲み干しちゃったからな・・
 何にしても、朝に治ってなかったら先輩に解毒剤を作ってもらわないと。
 オレは妥当な解決策を出してに本格的に眠ろうとした。


 ぴぴぴぴぴ・・・ぴぴぴぴぴ・・・
 う・・ううう・・朝・・・か・・
 かちっ
 ね、眠い・・
 結局寝付けたのはもう少しで新しい朝が来る前だった。
 そしてオレは下半身に不信を感じていた。
 ・・・やっぱ治ってねえ・・
 オレのモノはパジャマの中ではち切れんばかりだった。
 朝という時間も加点したのであろう。
 一つ大きなため息を吐く。
 いつもなら10分ぐらい一眠りするところをそんな状態じゃないことを認知して布団を翻す。
 今日のことを色々考えながら部屋からでる。


 ぴんぽーん ぴんぽーん ぴんぽーん
 あかりが来たな。
 オレはすでに支度を終え、朝の芸能ニュースを見ていた。 
「今行くーー」
 大声でそう言うと鳴り続けていたチャイムが止まった。
 オレはあらかじめ用意した鞄を持つ。
 フフフ、これがオレの最終兵器だぜ!!


「おはよ、浩之ちゃん」
「おう」
「あれ?鞄変えたんだ」 
 いつもと違うオレの肩に掛ける鞄を見てを見てあかりが聞く。    
「ん?まあな、たまには気分転換ってとこか?」
 適当に言いつくろってその場をしのいだ。
 まさか、下半身を隠すから、なんてとてもだ。
 そう、これがオレの最終兵器だ。
「行こうぜ」
 オレは先に移動する。
 前に歩くというのも気付かれる確率が低いからだ。 
「ま、まってよぉ」
 そんなことを夢にも思わないあかりが少し小走りで追いつく。
 あとは・・アイツに会わなければいいが・・
 少し後方のあかりを気にしながら考えた。


「おはよ、お二人さん」
 げっ。
 こういうタイミングの悪いときに・・・
「おはよー、志保」
 あかりが志保に挨拶をする。
 ・・やばいな。
 早くここを立ち去るべきだな・・・
 うん。
「おはよ、じゃ・・」
 オレは特に何も言わず立ち去ろうとしたが当然のごとく立ちはだかれた。
「なによヒロ、あんたそれだけの挨拶で終わろうとするわけ?」
「何でオレがおまえに気を使わなくちゃなんねえんだ」
 これはやばい。
 志保はオレの真ん前に立ちオレの姿を一瞥して
「何その鞄、趣味悪ー」
 顔をしかめて言う。
 オレだって思うさ。 
 そう、代えた最終兵器というのがこれがまた。
 奇抜な色で、それもでかい。
 ま、何かを隠すのはちょうどいいってとこか。
「うっせーよ、気分転換だよ」
 さっきのいいわけと同じ事を言う。
「なに、あんたに気分なんてあったの?」
 いつものペースだがこれに巻き込まれたら元も子もない。
「はいはいないです、さようなら」
 オレはわざとむかつくように言ってその場を去る。
「何よその態度!!」
 少し前屈みになりながら後ろの声に耳も貸さず行こうとしたときだった。
 あっ
 びくん!
 いきなり下半身がけいれんする。
 そこには
「せ、先輩、おーい先輩」
 少し前に歩いていた先輩に声をかける。
「・・・・・」
 顔が赤い。
 いや、赤くなったという方が適切か。
「おはよっす」
「・・・・・」
 相変わらずの声で挨拶を返してくる。
「せ、先輩、今日、部室に来て、オレも行くから。話したいことがあるんだ」
 びくん!びくん!
 う、うう
 ど、どうしたんだ・・
 先輩を見てから、股間が・・
「・・・・・」
「えっ?わ、私も話があるって?じゃ、じゃあ、きまりだね」 
 俺は微笑んだつもりだったがどう見えただろうか。
 それにして、も・・
「じゃ、じゃあ、行くわ」
 と言って急いで立ち去る。
 なんなんだ?
 先輩を見たとたん、妙に興奮したぞ。
 ・・うう、先輩・・
 

 今日、オレは席をトイレに行った二回しか立っていない。
 それも、最高潮の時の小便というものはなかなかどうして好きになれない。
 余り出る量が少ないし、時間がかかるし、何か痛いし。
 席を立ってしまうとカモフラージュを失ったオレの下半身は誰から見ても明らかだ。
 幸運な事に移動教室はなかった。
 オレには先輩という女神さまがついてるなと実感した。
 パンは雅史に買いに行ってもらい、オレはわざと誰も近づけぬよう目つきを悪くした。
 こういった行動がオレのことを怖いという奴が多々現れるが、今は自分の評判に耳をかしている暇はない。
 そのおかげオレに話しかけたてきたのは雅史とレミィぐらいだった。
 あかりでさえ、オレの方へ気はやっているが結局話してこない。
 雅史はオレに気を使っていたが、レミィはこっちの事情なんてお構いなしなんだろう、何のこともなく話しかけてきやがった。
 いらついているのは演技なんだからレミィとは普通に話したが・・・
 そこで一つ疑問が浮上する。
 オレはさっきの先輩のことを見て、オレのモノはさらに膨張した。
 しかしレミィやあかりと話したときは何も起こらなかった。
 なぜだろうか。
 やっぱ、薬と先輩に何かあるようだ。
 最終的にはそこに総て答えが隠されてるんだ。
 と、昼休みに考えているときだった。
「はーい、ヒロ」 
 うっ
「朝はよくも無視をしてくれたものね・・」
「いや、あの、今日は絡むな、オレちょっと、疲れてんだ」
 一発でオレの不信感に気付いた志保がさも疑うような目で睨み付ける。
 こいつにこんな事知られたら、オレの学校での権限が・・(?)
「・・ヒロ、あんたなんか隠してない?」
 す、鋭い
「いや、何も・・・」
 勃ったまま女と喋るのは耐え難い。
「そう・・あんた、あんまり今日は席を立ってないようね」 
「い、いや、そんなことは・・」
 そんな情報、何処で聞くんだ?あかりか?
「んじゃあ、立ってみなさいよ」
 ぐっ
 このアマ・・
「な、何でそんなことしなくちゃなんねえんだ」
「いいじゃない、それだけであんたのその噂がはれるのよ」
 な、なに?
 噂だと?
「な、何のだ?」
「あら、いつもはそんなことには耳を貸さないのにね・・どういう風の吹き回しかしら」
 くそ、ペースにはまっちまった
「・・ん、んなもんおれには関係ねーよ、別にオレがどうと言われようと勝手だし」
「へー・・」
 嬉しそうにオレを見る。
 この野郎、オレをからかうのを生き甲斐にしてやがるな。
「と、とにかく、もう行けよ、用はすんだだろ」
「・・・まあいいわ、じゃね」
 にやにやしながら去り際に
「・・・今日も元気ね」
 ぎくっ
 と言って勝ち誇った顔で教室を出ていく。
 し、知ってやがったのか・・
 はぁぁ
 オレは大きなため息を付いた。
 また弱みを握られてしまった・・・
 ビッグバリューセットはかたいな・・・
 少し横を見るとなぜか委員長が笑いをこらえていた。
 おいおい、知ってんのか?


 きーんこーんかーんこーんきー・・・・
 やっと放課後。
 今日は一日がとても長く感じた。
 そんなオレの安堵感と反比例してオレのモノはまだ膨張していた。
 オレは鞄で隠しクラブハウスへ急いだ。
 せんぱーーい・・待ってて


『オカルト研究部』と簡単にレタリングされた見慣れた部屋にたどり着く。
 ノブに手を伸ばし
 がちゃ
 開いた・・ということは・・
「先輩!!」
 オレは少し大きめの声で中にいる影に呼びかける。
 予想どうり、先輩は部室の中にたたずんでいた。
「先輩・・」
 確かめるように嘆くようにオレはもう一度先輩を呼ぶ。
「・・・・・」
 ろうそくの光に揺れて先輩が相変わらずの赤い顔をしてこっちを見る。
「先輩、先輩!!」
 オレは急いで先輩の所に駆け寄りしっかりと抱き寄せる。
「・・芹香」
 耳元でそう囁くと先輩はぎゅっとささやかに答えるように手に力を込めた。
 オレのモノは今までになかったように激しくうごめいた。
 今わかること・・それはオレが先輩を欲しがっているということ。
 しかし、そんな欲には溺れず、いったん先輩との距離を置いて事情を説明しようとしたが・・。
「・・・・・」
「えっ?言いたいことはわかってるって?先輩もそんな状態だって?」
 こくんと頷く。
 それを聞いたオレは、正直な気持ちを言う。
「・・先輩、我慢できない」
「・・・・・」
 確かに先輩は私もですと言って、オレをまた抱きしめてきた。

・・・

・・・

・・・

(空白の25分2秒)

「それにしても、これってさ、やっぱあの薬のせい?」
 行為が終わり余裕を取り戻したところで聞く。
 そう聞くとこくんと頷く。
「・・・・・」
「えっ?後遺症があったって?へー・・んじゃあ、解毒剤みたいなもんある?」 「・・・・・」
「えっ?効力は満24時間で切れるって?・・そっか・・よかった・・」
 オレは安堵感がいっぱいになる感じと下半身が萎えているのにも気付く。   「ホントだ、治まった・・」
 かみしめるように下半身を見る。
 さっきまで高まっていた自分がなつかしい。
「いやー、一時はどうなるかと思ったぜ・・・まったく人が悪いぜ先輩、こういうことはあらかじめ言っておかないと」
「・・・・・」
 すまなさそうに先輩は言う。
「えっ?家で気付いたって?じゃ、しょうがねえな」   
 と、オレはさっき考えていた一つの疑問が頭に浮かぶ。
「そういえば、先輩見てすごく興奮したんだけどさ・・アレも効力なの?」
「・・・・・」
「えっ?愛している人を見るとそうなるようにできてるって?そ、そうか・・オレは先輩を愛してるもんな、だからか」
 さりげなくオレは愛の表現をする。
 当然のごとく先輩は顔に赤が懸かる。
「じゃあさ、先輩はオレを朝に見たとき、そういう風になった?」
 意地悪っぽく聞くと
「・・・・・」
「えっ・・薬が無くてもいつもそうなるって?・・・うう、先輩、芹香・・」
 オレはそんな予想外の先輩の言葉を聞いて心がいっぱいになった。
 先輩は真っ赤な顔をしている。
 そして・・
「・・・・・」
「えっ?まだ薬がありますからいつでもどうぞって・・先輩・・」
 オレは自分のせいでHになった先輩を見て、達成感と罪悪感に見舞われた。



                        <終>