禁断の恋 投稿者: あり
「浩之ちゃん・・・」
 放課後、いつものように帰ろうとした浩之は、廊下を出たときに声をかけられた。
「なんだ、あかり」
 顔を見なくても分かる。浩之の幼なじみの神岸あかりだ。幼なじみでもあって声色が善くないことに浩之は気づいた。
「あの・・今日、一緒に帰ろ」
「すまん、今日も用事が・・」
 ここのところ毎日そんな感じだった。
 浩之は、誰とも会わず家に帰ることが多くなった。
 いや、本当に家に直行しているのは、わからないが。
 そう言いかけたとき、
 すたたたっ・・
「志保ちゃんキーック!!」
 ごっ。
「ぐはっ」
 見事に背中にきまり、よろめく浩之。
「コラーーーヒロ!」
 品のない怒鳴り声。こいつもわかる。長岡志保だ。
「ってーなー志保!!いきなりなん・・」
 浩之の言葉を遮って志保が続ける。
「あんた、最近冷たいんじゃない?」
「冷てぇって・・・誰に?」
 蹴られたことも忘れ、志保に問いかける。
「みんなよ、み・ん・な」
「何言ってんだ。俺は忙しいんだ。帰るぞ」
「あんた、そうやっていつも放課後に”家に帰る”ばっかり選択すると話が進まないでしょう、まったく・・・。
 あかりの髪型が三月中に変わって、二人でお花見いったんでしょ?もうあかり路線じゃない。もうそろそろ矢島の・・・」
「志保・・」
 あかりの声に気づいたときはもう浩之の姿はなかった。
「くぅーっ、なんて逃げ足の速さなのよ!」
 志保には言われたくない言葉だ。
「なんか言った?」
「え、なに?」
「いや、今なんか・・気のせいね」
 
「仕方ないよ、浩之ちゃんには浩之ちゃんの事情ってものが・・」
 いつもの帰り道。
 見慣れた高校の制服がぞろぞろと校門からわき出す。
 断られたのにもかかわらずあかりは浩之をフォローする。
「・・あかり」
 いきなり真剣な目になった志保を見て、少したじろぐあかり。
「な、何?」
「・・・ほっといていいの?」
「え?」
「もう、一週間も・・そう。あのみんなで戦ったあの日からずっとすぐに家に帰ってるわよ」
「あの、”ガディム”って奴を倒したときってこと?」
「うん・・・なんか説明口調ね・・・ま、いいとして、あかり。ホントにいいの?」
「え、でも、なんか事情が・・」 
「事情なんてこの際無視よ。わかってんの?このまま誰とも会わなくて、誰とも親密度を上げないと・・・雅史と結ばれちゃうのよ!!」
「ええっ!!・・・で、でも雅史ちゃんは男だし、浩之ちゃんが男の人を好きになるなんて・・」
「あまーーーーい!!ひろゆきにその気がなくても強制的にそうなって、修学旅行には雅史と・・・」
「僕がどうかしたの?」
 二人が凍り付く。声の主を知っていたからだ。
「ま、雅史?」
「雅史ちゃん!」
 二人の素っ頓狂な声がハモる。
「僕の話してたの?」
「い、いやなにも、ね、ねえあかり?」
 いきなり振られたあかり。
「う、うん、なにも・・だよ。ははは、はは」
 ひきっつった笑顔で答える二人。
「そう?」
「そうそう」
 重なる二人の声。
「あっ、そうだ、浩之は?」
 また凍り付く二人。
「・・・・・」
「・・・・・」
「ん?どうしたの?なに?」
「い、いや、何も。あっ、ヒロ?ヒロなら帰ったよね、あかり?」
「う、うん、そうそうそうそう」
 明らかに動揺している二人。
「そうか・・・まいいや。じゃまた明日ね」
「う、うんじゃあね」
「また、明日ね・・」
 ひきつる笑顔の二人を残し、雅史はその場を去っていった。


 午後七時。
 いくら春だろうが辺りは暗くなり始める。
「・・・ちゃん」
「浩之さん・・私、すごくあなたに会いたかった・・」
「なに言ってんだよ、昨日会ったばかりじゃんかよ」
 人気のない公園のベンチで一組の男女。
 はたから見れば、どう見ても恋人同士だ。
「うん、でも・・・私・・・」
「・・・ちゃん。・・・実を言うと俺も・・会いたかった。」
「浩之さん!!」
 少女は浩之の胸に飛び込んだ。
「・・・ちゃん・・・」
 目を細め優しく少女の髪を撫でる。
「・・でも、ただこうやって会うだけで、苦労するよな」
 嘆くように浩之は少女に問いかける。
「俺なんか、走って駅まで行ってこの時間だぜ」
「ごめんなさい。私の学校、少し山奥だから」
 浩之の胸に顔を埋めながら少女は答える。
「君を責めてるんじゃない。・・・やっぱ俺がふがいないのかな・・この関係をやっぱり君の家族に・・」
 はっとしたように少女は胸から顔を話し浩之の目を見つめる。
 そして、沈んだ声で、
「・・・それは、ダメなんです。それは・・・」
 浩之はまた目を細める。
「・・・ごめん。わかって言ってた。
 ・・・でも、いつか、いつか時が来たらご家族や、みんなに俺達のこと、認めてもらおうな」
 少女はさっき見せた沈んだ顔とは裏腹に満面の笑顔で、
「はいっ!」
 と元気よく頷いたのだった。


 次の日・・・
「浩之ちゃ・・・」
「わりぃ・・今日も、ちょっと野暮用が・・」
 すたたたっ・・
「志保ちゃんキーックフォーエヴァーー!」
 昨日とは名前だけが変わった普通の跳び蹴りが背後から浩之をねらう。
「とりゃぁぁぁ!!!」
 がしっ!!
「手応え有り・・・なにっ?」
 志保が驚きの声を上げる。
 志保が蹴ったのは、浩之の薄っぺらい鞄だった。
「ふふふ・・志保ちゃんキックフォーエヴァー見切った!!」
 浩之は、けりが入る直前に身を翻し、鞄を当て、横にそれていた。
「ヒ、ヒロ、あんた・・・」
「ふっ、だてに「リーフファイト」で、鍛えていたわけじゃないぜ!!」
「くっ・・今日のところは私の負けだわ・・」
「そうか、じゃ俺は・・」
 踵を返して帰ろうとした浩之をある人物が遮る。
「せ、先輩?」
「・・・・・」
 相変わらず無表情で浩之の前に立ちつくす。
「・・・・・」
「えっ?今から部室?惚れ薬?・・・ごめん。今日、俺・・」
「ちょっと待ちなさい!何で「先輩エンディング」になるのよ!おかしいわ、あかり路線のあんたが、何処にそんな時間が・・」
「藤田君!」
 そこの現れたのは、雛山理緒だった。
「よぉ、理緒ちゃん」
 先輩を無視して、雛山理緒のほうへ顔を向ける。
「あの・・・バトルっちのお返しが・・」
「・・あ、ごめん。今日ちょっと・・・」
「おかしい、おかしすぎる!!何処に理緒シナリオを遂行できる時間があるのよ!!」
「藤田君・・・」
 そこに現れたのは、なぜかびしょ濡れの委員長こと保科智子だった。
 委員長は、四人を無視して、浩之に近づく。
「藤田君・・私・・私・・・」
「何でなの?何で、委員長シナリオなの?どうやって四人もたらしこむのよ!!」
「先輩、帰ってきてたんですね!!」
「ヒロユキ・・・願いの樹を・・・」
「・・藤田先輩・・私のために命を・・・」
「今夜だけは、浩之さん専用の・・」
「今からあんたの家・・・はっ、私まで!」
「僕たち友達だよね」
 ・・・・雅史?
「藤田様!!」
 ・・・・セバスチャン?
「藤田!!」
 ・・・・矢じ・・
 
 

「・・・ちゃん!!!」
「浩之さんっっ!!」
「はぁはぁ、ごめん、遅れちゃった、走ってきたんだけど、はぁはぁ、ちょっと、撒くのに、時間が、かかっちゃった」
 そう、浩之は逃げた。
 しかし、ヒロインプラスアルファは我先にと浩之を追いかけるのだった。
 数々の飛び道具をかわし、数々の罠をくぐり抜け、撒くために草むらを駆け、土手をはい上がり、路地裏を駆け回った・・・・。
 そして、傷を負いも、浩之は最愛の人に出会うことができたのだ。
「浩之さん、矢が!」
「あ、いいよいいよ・・・」
 レミィの放った矢が鞄に刺さっていたようだ。
 矢だけではなくおたま、モップ、勉強用具、新聞紙、サッカーボール、波○拳・・その他諸々が浩之めがけて飛んできたのだった。
「浩之さん・・・ごめんなさい・・私のために、こんな・・」
 少女の目には、涙が浮かんでいる。
 浩之は、少女の髪をぽんぽんとたたきながら目を細めた。
「・・・ちゃん、そう言うのは、無しにしようぜ!それにこれは君の責任じゃないし、俺がふがいないだけなんだ」
「浩・・ゆきさん」
 そう言うと、少女は泣き出してしまった。
 浩之はそんな少女を抱きしめてぬくもりを感じるのだった。
「・・・ちゃん。俺らは、世間一般で言う、禁断の恋ってやつをしているんだと思う。ホントは俺達は正しくないのかもしれない。一般常識のルールを破っているかもしれない。だけど、だけど、俺はそんなルールなんてくそくらえだ。君を護りたい。君を離したくない。君を、君を愛してる!!!」
 自分でも恥ずかしいぐらいの愛の告白も、今なら言える。浩之は、そんな気がしてならなかったのだろう。
 そしてその告白も少女の胸に届いたはず・・・。


 翌日・・・
 浩之は、いつもより早く家を出て、まだ登校する生徒がまばらな時間に学校に着いた。
 理由は、あかりやほかのヒロイン達に会いたくなかったからだ。
 もしあったら、何をされるのかたまったもんじゃない。浩之の本能がそう言っている。
 自分の席に座る。
 目線は・・・あかりの席、委員長の席、そして・・・雅史の・・
「ひろゆき、お・は・よ」
 ふぅっ
 ぴきん!
 背筋が凍り付く。
 耳に息が・・・生暖かい・・
 声の主は・・・・
「まったく。昨日ひろゆきったらすぐ帰っちゃうんだもん。僕、追いかけたのにーこのこのいぢわるなんだからー」
「ま、雅史・・おまえ、な、何で」
 思いっきり動揺する浩之。
「なに言ってんの?僕部活だよ。あっ、今のがひろゆきギャグ?もう、かわいんだからー!」
(浩之)おいおい、おもいっきりやばいぞ。
    なんか、雅史の理性のタガがはずれて本能のままで生きてるって感じだぞ。
「んっ?どうかした?」
「あ、いや、別にだけど・・お、おまえ、早く部活行けよ、もう始まってんじゃん」
 校庭を指さすが、雅史は目もくれず浩之をのぞき込む。
「いっかいぐらいやすんだって・・・・いいとおもわない?ひろゆき」
「いや、あの・・っていうか、おまえ何で、ひらがなが多いんだよ、それに、そんなに顔近づけんな」
「いいじゃない、そんなこと、それより・・・」
(浩之)おいおいおいおい
    まずいぞこりゃ、こいつ本気だ!
    とりあえず、この場から・・・
「雅史、ちょっとトイレ行って来るわ」
 といって席を立つ浩之。
 その瞬間、雅史の目が光る。
「あ、僕も行くよ、二人でしようか」
「や、やっぱり、い、いいよ、そ、そういえば、家でしたところだった」
 雅史がちいさく舌打ちをする。
「そう?それじゃぁ・・・」
(浩之)やばい。やばすぎる。貞操の危機だ。
    こうなったら・・・
「雅史」
「ん?なぁに?ひろゆき!」
「えっと・・あ、今、あかりか?」
 もちろん、あかりの姿形もない。
 雅史は、あかりの名を聞いたとたん鬼のような形相になった。
「あ・か・り?」
「そ、そうそう、いたいた、と思う・・」
 語尾を小さめに言う浩之。
「そう?じゃ、僕ちょっと見てくるね」
 怒りに体をわなわなと震わせ、雅史は浩之に背を向ける。
(浩之)今だ!!
「うおおおおおおおおおっっっ!!」
 雅史が背を向けた瞬間、浩之は走った。
 そして・・・・・
 がすっ・・・ばたん・・・
 鈍い音が地味に響く。
 浩之の当て身が背後からまともに入りそのまま糸を切られたマリオネットのように雅史は崩れた。
「ふぅ、アブねーアブねー・・・・それにしても、こんなのがまだたくさんいるとなると・・・・・よし今日は、早退でもすっか」
 と楽天的に解決策を見つけ帰ろうとする浩之。
 鞄を持って帰ろうとしたそのとき・・・
 がらっ
 無機質で乾いた音が教室を埋め尽くす。
 後ろ側のドアが開く。
 朝日の逆行で誰だかは解らないが、二人いることは解る。
(浩之)ん?誰だ?
「藤田様ーーーー!!」
(浩之)ん・・この声、この威圧感・・それに俺を様付けで呼ぶ奴なんてこいつしかいねぇ。
「じじぃか?」
「藤田様、セ・バ・スチャンでございます」
 セバスチャンはわかりやすいように強調して言う。
「おい、何でじいさん・・セバスがいるん・・・せ、先・・輩」
 浩之の背筋がまたも凍り付く。
 来栖川芹香。はっきり言って浩之が一番恐れている相手だ。
 昨日の浩之を追いかけはしなかったが、精神的攻撃・・・呪いやなんかで、浩之を追いつめた。電波とか・・・
「お、おはよっす。先輩」
「・・・・・」
「な、何で今日はこんな早いの?」
「・・・・・」
「俺、あの、きょ、今日もう早退するから、ま、また明日な」
 そう言って、震えるからだで先輩の横を通り抜けようとしたとき・・
「藤田さまっ!!」
 がばっ、とセバスチャンが浩之を背中から羽交い締めにする。
「お、おい、な、なんだよはなせよ、セバス!!」
 浩之はもがくが、セバスチャンの厚い上腕二頭筋が浩之の腕を放さない。
「藤田様、芹香お嬢様のお話を、聞いてくださいませ」
 セバスチャンは促すように浩之から先輩の方を見る。
 浩之も先輩の方に視線を向ける。
「先輩・・・目が、赤い」
「・・・・・」
「えっ?俺のこと思っていたら、昨夜は眠れなかったって?そ、それはそれで嬉しいけど・・・」
 昨日のこともあり、素直に喜べない浩之。
「・・・・・」
「えっと、なんか用?」
 用件は解っているのに白々しく聞く浩之。
 そして芹香はおもむろに小さな茶色い小瓶を胸元から取り出す。
「・・・・・」
「えっ?惚れ薬?あ、あれね、で、できたんだ」
「・・・・・」
「呑みますかって?えっとそれは、あの・・・・」
 先輩の虚ろの眼が浩之の姿を反射させる。
(浩之)ど、ど、ど、どうしよう。
    やっぱ先輩のことだから本物なんだろうな・・・
    本物はまずい。
    し、仕方ねぇ、騙すようで悪いけど・・・・
「先輩・・・」
「・・・・・」
 いきなり真剣な顔になって、先輩の顔を直視する。
「俺らに、そんなものいらねぇんじゃねぇか?」
「・・・・・」
 解らないといった様子の先輩。
 それでも続ける浩之。
「先輩も俺の気持ち、解ってると思う。俺も先輩の気持ち解ってる。先輩・・・」
「・・・・・」
「先輩、好きだ。そんな薬無くても、俺は、先輩が好きだ!!」
「・・ひろゆき・・さん・・」
 そこまで言うと先輩の顔が上気しているのがわかる。
 いつの間にか、セバスチャンも押さえているという気はなくし、いつでも抜けれるようになった。
(浩之)よし、ここまできたら・・・
「・・先輩・・」
 浩之はそう言ってセバスチャンの腕からするりと腕を引き、先輩を抱きしめる。
「だからさ・・・そんなのなくても、いいじゃねぇか。この二人の思いだけで・・・」
「・・・・・」
 先輩は何も答えない。
「先輩・・・先輩・・先輩?おい先輩?」
 浩之が話しかけるが依然先輩は浩之に体重を預けたままだった。
「おーい、先輩」
 なおも呼びかけるが返事は無し。
 先輩は・・・・眠っていた。
 よほど気にかかっていたのだろう。
 それが、一気に安心というものに変わった。
 昨日寝てないこともあって先輩は立ったまま浩之の胸の中で小さな寝息を立てていた。
「セバスチャン・・・」
 浩之が後ろの巨体に話しかける。
「はい」
 事務的と思われそうな声だったが、声は、微かに震えていた。


 浩之は走っていた。
 先輩をセバスチャンに預け、急いで廊下を出て階段を駆け下りた。
 もう、通常の生徒が登校してもおかしくない時間とあって、たくさんの生徒は浩之と反対方向は歩いていく。
(浩之)とんだ時間ロスだぜ、ったく。
    でも、先輩、騙しちゃったな・・・
    まいい、後回しだ。
    俺は、今そこにある危機を避けなければ!!
 そんなことを思い下駄箱に向かって走り出す浩之。
 しかし・・・・
「藤田君!!」
 どきっ
 浩之の心拍数が上がる。
「おはよう、どないした?帰るんか?」
 聞き慣れない関西弁。
 ぶっきらぼうに聞こえるが、浩之と知り合った当初と比べると、色気が少し混じっている。
「お、おう、委員長」
 下駄箱から少し離れた廊下から委員長は浩之に話しかける。
 昔の委員長なら、人に、ましてや浩之に話しかけるなんて絶対にしなかっただろう。
「そうなん?・・・・じゃ私も帰ろ☆」
(浩之)あっちゃー・・こんなときに・・・・
    それに何だよ、その星マーク。
    どうにか撒かないと・・・
「お、おい、そんなんで休んじゃいかんだろう、優等生なんだから」
「ええの。藤田君の前では、頭の出来なんて関係ない。一人の女なんやから・・」
 いつもなら優等生扱いするといやな顔をする委員長も今日はなんか違う。
 ライバルが多いと解ったので女らしくしているのか・・・・
 ま、私(筆者)はそこのギャップが好きなんだが・・・余談です。
「あ、そういえば・・・」
 思い出したように委員長が口を開く。
「なんや、違う学校の制服の奴が校門の前におったな・・どっかで見たこと・・」
 しかめっ面して思い出そうとする委員長。
 そんなことをお構いなしで撒く作戦を考える浩之。
(浩之)やっぱ口では無理かな、出任せ言ったってばれるのは必死・・
「あ、そやそや」
 思い出したのか急に大声とも言えない声を上げる委員長。
「”リーフファイト”でいた女や、名前は・・・柏木・・」
 ぴくん!!
 浩之の目が、耳が異様な働きを見せた。
「お、おい、今委員長、なんて言った?」
 委員長の両肩に手をおいて急かすように委員長に問う。
「な、なんやの、血相変えて、嬉しいけど・・・」
「今、柏木って・・」
「え、ああ、名前よう知らんねんけど、柏木って名字は知ってるで」
「校門にいたんだな?」
「せや、いたけど、それが・・・藤田君?」
 浩之は最後まで聞かず、その場を走り去る。
 速攻で靴を換え、昇降口を飛び出す。
(浩之)何で、何で来たんだ。
    こんな所に来たら・・・・
    ここは、君がいちゃいけない世界なんだ・・・
    ・・・楓ちゃん・・・


 その頃、校門・・・
 一人の少女が校門の隅でおろおろと校門に吸い込まれる人たち一人一人を見る。
 この少女、浩之と公園であいびきしていた少女。
 名は柏木楓。
 鬼の能力を秘めた少女。
「ふぅ・・」
 ため息をついて空を見上げる楓。
(楓)・・来た。
   やっと来れた。
   やっと浩之さんのそばに来れた。
   何処にいるのかな、浩之さん。
   ・・・見つからない。
   学校さぼって大丈夫かな・・
   それにしても人目が気になるな。
   制服はまずかったかな・・・
 いろんな感情が小さな楓の体を占領していた。
 初めて来る土地・・・ただでさえ人見知りな楓なのだから緊張しているに相違いない。
 そして、人目にもたっぷりなった。
 校門に入る人入る人違う制服の彼女を見てはさしても興味なさそうにまた違う方を向く。
 そして、運がいいのか悪いのかまだほかのヒロイン達も登校していなかった。


 浩之は走った。
 昇降口から校門までの直線を一気に駆け抜ける。
(浩之)楓ちゃん・・・待ってろ。
 そしてようやく校門を出る浩之。
「楓ちゃん!!」
 どこかもわからずとりあえず名前を呼んでみる浩之。
「楓ちゃん!!」
「ひ、浩之さん!」
 校門の横の方から聞き慣れた声がする。
 声の主は・・・
「楓ちゃん!!」
 はっきり楓に向かってそう呼ぶ。
 浩之は、少し涙をためている楓に近寄る。
 だが、さっきの不安の顔とは違う、喜び混じりのはにかんだ顔だった。
「楓ちゃん・・・・何で、何できちゃったんだよ・・・ここの世界は・・・」
「だって・・・その・・ごめんなさい・・私、もっと、もっと浩之さんのこと知りたかったし、近くにいたかったし・・・」
(浩之)くぅーなんていじらしい娘なんだ!!
「わかった・・・楓ちゃんにそんな想いをさせた俺の責任だ・・・」
 浩之の顔が暗くなるのが楓にもわかる。
「・・・じゃ、責任とって、遊びいこっか?」
 さっきの顔とは裏腹にいつもの優しい笑顔で答える浩之・・・が次の瞬間、蒼白になっていった。
「浩之ちゃん!!」
 背後から呼びかけられる浩之。
 楓をエスコートしようとした手が止まる。
 聞き覚えのある声・・・・
「今日、早かったんだね?・・てっきり居留守してると思っちゃって・・」
「あ、あ、あ、あかり・・・・」
 震える手を押さえ、首だけを後ろに向ける。
 そこには、息を少しだけ切らした幼なじみのあかり・・・だが、髪や制服は乱れ、手には見覚えのあるドアのノブ・・・浩之の家の玄関のドアノブだった。
「ん?浩之ちゃん。その娘・・・・」
 蛇ににらまれた蛙のようにおびえた浩之の前にいた少女を見つけた。
「あれ、あなた・・「リーフファイト」で・・・確か、柏木・・楓ちゃんだった?」
 浩之を見つめた目の色とはまた違う目の色をして少女に尋ねる。
 こくんと頷く楓。
「えっと・・・あ、遊びに来たんだよ・・」
 浩之が震えながら言う。
「そう・・・・あの、昨日の返事・・」
「お、俺、早退する、から、あの、じゃ、じゃあな」
 あかりの言葉を遮って帰ろうとした浩之。
 だが・・・
「おはよーあかり、それに・・・ヒロ・・・昨日の・・・」
 運悪く志保が登校してきた。
 浩之に挨拶をしたときに少し戸惑う志保。
 そして・・・・
「あっ、先輩、おはようございます、あの、昨日の・・・」
「Good morning、おはようサンネ、ヒロユキ、返事・・・」
「おはようございますぅう・・あの、浩之さん・・」
「藤田君、おはよう・・あの、その・・」
「・・先輩。おはようございます・・・昨日の、こと・・・」
 作者が疲れてきたのか、手抜きで登場するほかの人たち。
(浩之)終わった・・・何もかも・・・
    俺一人ならまだしも、楓ちゃんつれて逃げるとなると・・
    よし、こうなったら・・・・
    王道で・・・
「みんな・・・ごめん!!」
 浩之は一列に並んだヒロイン達に深く頭を下げる。
「俺、みんなからは、選べない」
 下を向いたまま、浩之は続ける。
「・・俺、俺、好きな人がいるんだ・・」
 浩之は、下を向いているのでヒロイン勢がどんな面をしているのかはわからない。
「この中にはいない・・・だから、誰ともつき合えない・・・」
 少しの沈黙。
 まだ頭を下げている浩之。
「その人って・・・・誰?」
 代表で聞くあかり。
 声は、平静を装っている。
「それは・・・・」
 全員が息を呑む。
 そして・・・・
「それは、楓ちゃん・・・なんだ・・・」
 まだ頭を下げて告白する浩之。
 名前を呼ばれて少し反応する楓。
「・・・解ってんのヒロ?この世界のルールを。違うゲームのキャラクターにするだなんて・・・」   
 志保が話をつなげるように聞く。
「・・・・・」
 少しの沈黙。
 そして、
「解ってる・・・解ってるさ、そんなこと。でも・・でも、俺の気持ちは、楓ちゃんなんだ。だから、誰がなんと言おうと、たとえルールに反していようと、楓ちゃんしかいないんだ!!」
 頭を上げて熱弁を振るう浩之。
(浩之)完璧だ・・・
    ここまでいけば・・・・
    王道で行けば、ここで俺の気持ちを理解してくれて、自ら身を引く・・・
    そして、待つのはハッピーエンド!!
    ここら辺であかりあたりが・・・・
「・・・・浩之ちゃん・・・・」
(浩之)来た、来たぁぁ!!
「浩之ちゃんの気持ち・・・よくわかった・・・」
(浩之)よし、よぉぉし、もらった!!
「浩之ちゃん・・・・うらぁ!!」
 どごっ!!
「なにぬかしとん、アホか!コラ、ワレなに舐めくさっとんじゃ」
「がはっ、あ、あかり?」
 あかりの放った蹴りは見事浩之の鳩尾にはいる。
(浩之)お、おい、はなしが違うぞ!!
「誰がそんな王道に乗る思てんねん、ボケ」
(浩之)な、何、ばれてる・・
    ・・・使い回しだったな・・・
    これじゃ、吉本新喜劇とおちがかぶってるな・・・
「ま、まって!!」
 ヒロイン達は浩之を囲みおとしまえを着けようとしようとしていたときだった。
「ひ、浩之さんをいじめないでください!!」
 大声を張り出したのは楓だった。
「か、楓ちゃん!」
「・・私が悪いんですっ・・私が・・・」
 涙を溜めて叫ぶ楓。
(浩之)ナイス!王道
「違う・・俺が悪いのさ。見境なしに女の尻を追いかけちゃって・・そのツケが回ってきたんだよ・・自然の摂理さ・・・」
「二人とも、言いたいことはそれだけ?」
 関西弁は治ったにしろ、顔がひきつっているあかり。
(浩之)やっぱね・・・
「おい・・葵。あの女黙らしてきな。・・・でも顔はやめな、ボディにしなボディに・・・」
 どこかで聞いたようなフレーズで葵に命令するあかり。
「や、やめろ、葵ちゃん!!君はそんなことをする娘じゃない!」
 うずくまる浩之が葵に向かって叫ぶ。
「せ、先輩・・・わ、私・・・ごめんなさい!!」         
 そう言って、楓に近づく葵。
 一歩、また一歩・・・
「い、いや・・こないで・・」
 拒絶の色を示す楓。
 しかし、葵の耳には聞こえていないかのようにじりじり近づく。
「いきます!!」
 近づいて少しだけファイティングポーズをとる葵。
 しかし・・・
「あ、葵ちゃん?」
 そこにいた者のすべてが葵の方へ目を向ける。
「う、ううう、うぁ・・・い、色が、た、助けて・・」
 葵の制服、青みがかかった髪、白っぽい肌から色が消えていく。
「ど、どうなってんだ・・」
「色の違いね」
 志保が冷静にそう判断する。
「ど、どういう・・・」
「簡単よ・・・256色では16色も表示できるけど、16色では256色は表示できないってことよ・・・」
 淡々とした口調で進める志保。
「あの娘のゲームは、16色、うちは256色・・・だから、あの格闘少女があの娘に近づいたときに、あの娘を取り巻いている16色の影響で16色表示されて、色が足りなくなったのよ・・・」
「で、でも、俺の時は何も・・・」
「あんたは、「To Heart」では一度も顔だしてないからいいのよ・・」
 風が吹き抜ける。
 桜が散って吹き上げるが、楓のそばまで来ると、急にその桜色は味気ない色に染まる。 
「・・・わかって、いました」
 少しの沈黙の後、楓が口を開く。
「こうならなくても何らかのトラブルが発生することは目に見えていました」
「か・・・えでちゃん・・・」
「ここにいると、みなさんの迷惑になるから・・私、やっぱり戻ります・・今まで本当に楽しかったです、浩之さん」
 次に何を言おうとしているのかが、浩之に伝わる。
「さようなら・・・・」
 短く震えた声でそう言うと、坂のある方へ駆け出していった。
「か、楓ちゃん!!」
 追いかけようとする浩之に影が遮る。
 あかりだった。
「浩之ちゃん・・・行っちゃダメ・・」
 泣きそうな顔になって続けるあかり。
「もう・・・いいじゃない、やっぱり、こっちの世界はこっちの世界だよ・・・。何でそこまでする必要があるの?浩之ちゃんのこと好きな娘、こんなにいるのに・・」
「あかり・・・」
「何で、その気にさせるの?その気にさせて振られるんなら最初からそんな素振り見せないで・・・辛いんだから。どうしようもなくあなたが私を好きにさせたのに・・・」
 そこまで言うと、あかりは泣き出してしまった。
 嗚咽混じりでもあかりは続けた。
「ううっ、酷いよ・・酷すぎるよ!!もう、どうしようもないぐらい、ううっ、ひ、浩之ちゃんのこと好きになっちゃったのに・・今更他の人なんて、目に入らないん、うっ、は、入らないんだから・・・・」
「もう、いい・・あかり。もう、いいんだ」
 そう言って、浩之はあかりの体を抱きしめる。
 あかりは浩之の胸にすがりつく。
「わかった・・おまえの気持ちは十分わかった・・ごめん・・ずいぶん待たせて。・・・・本当は、ずいぶん前からわかってた。おまえの気持ち。もう、あきらめるよ・・楓ちゃんのこと。だって、こんなに俺のこと想ってくれてる人がこんなに近くにいるんだから・・・」
(浩之)・・・はぁ、仕方ねぇ。
    ほんとはまだ楓ちゃんだけど・・・
    ま、いいか。
    ずっと待っててくれたんだからな・・・
    これでハッピーエンド・・かな。
 ほかのヒロイン達も名残惜しそうだったが、二人を祝福してくれた。
「浩之ちゃん・・・」
「あかり」
 そして二人は涙の味がする口づけを交わすのだった。

     多分Happy End    
     
 
______________________  
 番外
(浩之)・・・はぁ、仕方ねぇ。
    ほんとはまだ楓ちゃんだけど・・・
    ま、いいか。
    ずっと待っててくれたんだからな・・・
    これでハッピーエンド・・かな。
 ほかのヒロインも名残惜しそうだったが、二人を祝福してくれた。
「浩之ちゃん・・・」
「あかり」
 しかし・・・
「藤田様ーーー!!お嬢様が、目を覚ましましたぞ!!」
 校門から走ってくる黒服の巨体。
 セバスチャンだ。
「はぁ、はぁ、藤田様」
「せ、セバス、そ、それに、先輩・・・」
 セバスに抱きかかえられている先輩は、虚ろな眼差しで浩之を見た。
 そして何も言わずにセバスチャンから降りて、浩之の前に立つ。
「も、もう、大丈夫?」
 こくんと頷く。
「・・・・・」
「えっ?今から、先輩の家?一緒にいたい?そ、そう?お、俺は全然構わないけど・・・」
 浩之はちらっとあかりの方を見た・・・
 あかりジト目で浩之の方を睨み付ける。
(浩之)や、や、やべぇ!!
    でも、先輩断っても怖いしな・・・
    でもあかりもな・・・
    いや、先輩のが恐ろしい、何てったって電波が・・・
「えっと・・う、うん、い、いいよじゃ、いこっか」
「浩之ちゃん、私、私!!」
 スカウ○ーがぶっとんだ。
 あかりの戦闘力が極限にまで達する。
「僕の、僕の気持ちを裏切ったなー!!とうさん!!」
 意味不明のフレーズを叫ぶあかり。
「あ、あ、あ、あかり、ちょ、ちょっと待った、待て」
「やめときな、もうおめぇはオラには勝てねぇ」
「な、何言ってんだ!!やめろ、く、来るなー!!」
 一斉に襲いかかるヒロイン達・・・
「科学忍法タツ○キファイター!!」
 ぐしゃっ
「赤○真空切りーー!!」
 ざくっ
「邪王炎○黒○波ーー!!」
 ずごぉぉん
「超電磁タ○マキーー!!」
「必殺 炎のコ○ーー!!」
「北斗百○拳!!」
「ペガサス流○拳!!」
「ラ○スアターック!!」
「か・み・○・り・斬りーー!!」
「ドラグ○レイブッ!!」
「九頭龍○!!」
「君に決め・・・・」
「パワーゲイ・・・・」
「滅殺豪・・・」
「・・・・・」
 意識が遠のいていく・・・
(浩之)真っ白に・・・燃え尽きちまったぜ・・・

          True Ending