新世紀マルチエリオン(謎) 第二十四話Bパート 投稿者:梓弐號


後半です。実は殆どあの有名な台詞のパロをやるためだけに
やりました。(^^;
ちなみに途中で明らかに雰囲気が変わってるのは文中にあるとおり、
寝不足で途中でこびとさんに交代したためです。(^^;;

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「さあ、行くよ。おいで、僕の分身。そしてリーフのしもべ」
 雅史の呼びかけに、学生服を着た長身の男がゆっくりと動き出す。
 突然町中に音楽が鳴り響いた。それはエンディングの音楽、終局が近い事を知らせる局だった。
「矢島、再起動!」研究所でも阿部隆之が叫ぶ。長瀬開発主任はそれを聞き目を剥いた。
「馬鹿な!矢島はイベントで既にあかりに玉砕したはずだ!誰かが動かしているのか!?」
「近辺に重要イベントの反応あり!神岸あかりの家に向かっています!」
「矢島イベントは結果が決まっている!重要イベントなわけがない!」
「いいえ、矢島ではありません。パタ−ン・好雄、間違いありません!めめやろエンディングです!」
「なんだって!?」

「そんな、雅史が敵だったなんて!」千鶴から真実を聞いた浩之が叫ぶ。
「雅史君がリーフが用意した、バッドエンドのためのキャラクターである事は事実です。受け入れなさい」
 浩之には信じられなかった。昨日あれほどあかりと浩之のことを心配していたのは演技だったのか!?
 強引に自らの手でバッドエンディングを迎えさせることが真の目的だったのか!?
「そうだからこそ、あなたの幼なじみであると言う以外はっきりせず、特定の彼女もいなかったのよ!あなたが阻止しなければ、この
 ストーリーは自動的に『女々しい野郎ども』エンディング、すなわちバッドエンディングに突入します!」
「糞!」浩之は吐き捨てるようにつぶやくと、あかりの家めがけ一目散に駆けていった。
 そこに長瀬警部もやってきた。じっと二人は浩之の背中を見送る。
「まさかここまで強引に幕を下ろそうとするなんて…」
 千鶴はショックを隠し切れずに言う。
「煮え切らない浩之君の態度に、痺れを切らしたんだろう。予定を一つ繰り上げる気だ、自らの手で」
「でもどうして雅史君は矢島君を?」合点が行かず千鶴が言った。
 しばらく考え込んだ後、長瀬警部は口を開く。「もしや神岸あかりとの結合を果たさせるためか?」
「つまり、完全なる破滅を導くために…?」

「いた!」全力ダッシュで雅史を追いかけた浩之は、矢島を伴ったマサシの姿に、
 あかりの家の直前で追いついた。
「雅史!裏切ったな!俺の気持ちを裏切ったな!?」浩之は昨日の雅史の姿、
 厳しい事を言ってはいたが、二人を心底心配しているように見えた雅史の姿を思い出していた。
 あれは統べて演技だったのか!?浩之は込み上げる怒りを込めて、雅史に殴り掛かった、
 が、それを何かに憑かれた様な矢島が受け止める。
 矢島に拳を押しつ押されつの攻防を繰り広げていた浩之は、キッと視線を鋭くして呟いた。
「矢島、すまん!」そう言って空いた手で矢島を殴り飛ばす。
「待っていたよ、浩之」雅史はそんな浩之を不思議な微笑みで、迎え入れた。
「雅史!どうしてだ!?」
「月島兄弟は僕と同じ身体で出来ている。僕もリーフより生まれしものだからね。
 毒電波さえ集められれば、操る事は出来る。今日は天気がいいから」
「雅史ィ!」殴り掛かる浩之の拳を、見えない何かが押し止める…
いや、浩之の身体を見えない何かが操って、押し止めている。
「毒電波!?」
「そう、『雫』ではそう呼んでいるね。何人も逆らえざるオゾム電気パルス。宇宙からの放射線…」
 雅史はそう言って空を仰ぐ。
「浩之もわかっているんだろう?」
「そんなのわかるわけねぇだろ、雅史!」
 浩之は見えない何かに抗おうと力を振り絞る。しかしどうする事も出来なかった。
 雅史はそんな浩之をどうするでもなく、あかりの家へと爪先を向ける。雅史の姿が遠ざかるつれ、
 毒電波の支配力が弱まっていった。
 どうにか身体が動かせるようになると、逆上した浩之は雅史を何の策も無しに追いかけようとした、
 が、そんな浩之の足を何者かが掴む。
 視線を足元に移すと、毒電波により完全にもとの人格を破壊された矢島が浩之の足をがっしりと掴んでいた。
「くっ!」
 マサシは遠く、そんな二人の攻防を見るでもなく、あかりの家に入りながら呟いた。
 雅史はあかりの部屋へとゆっくりと向かっていった。
「くそっ!くそっ!!」一方矢島と格闘し続ける浩之は、防戦一方でなんとか持ちこたえてはいたが、
 毒電波によりリミッターの解除された人間に素手の人間が適うべくもなかった。
 動きの鈍り始めた浩之の身体に、コンクリートをも貫く矢島の拳が刺さりかけた瞬間!
 突然体中に衝撃が走った。電波の衝撃。だが雅史のものではない。
 矢島の身体がそれにはじかれた。浩之は何故助かったのか、訳も分からず立ちすくんでいたが
 そんな浩之の側に水色の短い髪をした、どこか壊れたような目をした少女が何時の間にかか立っていた。
「君は?」浩之は初対面の少女に問う。しかし少女は何も答えず、にっこり笑う。
「藤田ちゃん、電波、感じた?」
 そう言った後、まだ地面でうごめく矢島の方を向くと両目をカッと輝かせ、光線を発射した。
 着弾点の爆発に巻き込まれ、吹き飛ぶ矢島。浩之はそんな光景を呆然と見詰めていた。
「なんなんだ!?いきなりこの展開は!?シリアスじゃなかったのか!?」

いや、そろそろ起きて36時間近くになる書き手がただ単にいい加減シリアス調の展開に疲れてきただけである。(笑)

ぱちぱちと火の粉をとばす爆発跡を見ていた浩之は、はっとしてあかりの家の方を見る。
「そうだ、あかり!」
 その時既に雅史はあかりの部屋に入り込み、ふとんにくるまって寝息を立てているあかりの元へと近づいていった。
「あかりちゃん、ToHeartのメインヒロインたる存在」雅史は呟く。「あかりちゃんよりはじまりし
 物語は、あかりちゃんに帰桔せねばならないのか。結果、浩之を不幸にしてまでも」
 雅史は布団に手をかけ、一気に引き剥ぐ。しかし、布団の中にくるまっていたのはあかりではなく、
 短い髪の、眼鏡をかけた童顔の少女だった。うっすらと開いた目の中で数字が瞬いている。
「違う!これはみずぴー!?そうか、そういうことか!さおりん!!」
 雅史ははっとして、窓から向かいの屋根を見る。そこにはバレーボールを手にした新城沙織が
 今まさに必殺のスパイクを繰り出そうとしていた。雅史が電波を出すより早く、沙織が高々と
 上げたボールを思い切り叩く!
 雅史は避ける事も出来ずに窓を突き破り飛び込んできた凶弾に吹き飛ばされた。
 電波は精神攻撃なので物理攻撃に対しては全く無力なのだ。
 ボールに吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられた雅史がぐったりしたところに浩之が現れる。
「雅史!」
 息も絶え絶えになった雅史を浩之が抱き起こす。
「ありがとう、浩之。矢島は君に止めておいてもらいたかった。そうしなければ彼と
 エンディングを迎えていたかもしれないからね」
「い、いや、矢島を止めたのは俺じゃないんだけど…」辺りを見回すが瑠璃子の姿は見えない。
「だが雅史、なんでこんなことを…」
「君が誰とも結ばれない場合、幕を引き降ろす事が僕のさだめだからさ。結果、
 バッドエンドになるとしても」
 雅史は苦しそうに血を吐きながらむせる。
「僕はこのまま無理矢理エンディングを迎えさせる事も出来る。ハッピーエンドもバッドエンドも
 無関係なんだ、僕にはね」
「雅史、俺にはお前が何を言ってるかわからないぞ!?」
 雅史は寂しげに笑った。「セオリーさ、恋愛ゲームの」
「雅史…」
「さあ、浩之、僕を消してくれ。そうしなければ無理矢理バッドエンドを迎える事になる。
 迎えるべきエンドは一つしか、選べないんだ」
「い、いや、消すといっても…」どうしろというんだ?と、聞き返したかった。
「そして、あかりちゃんエンディングは消えるべき存在ではない」
 雅史は浩之の戸惑いを余所にそう言うと、窓の外に視線を向けた。
 向かいの屋根には、何時の間にかさおりん、るりるり、みずぴーの三人がそろっていた。
 雅史はそちらに向かってにっこり笑う。そして静かに目を閉じた。
浩之は雅史を抱きかかえたまま、おろおろとし、ながいこと逡巡していたが、
突然雅史が突然血を吐いた。そして慌てる浩之の目の前でそのまま息絶えてしまった。

 夜更け、公園の池の前で浩之はじっと水面を見詰めていた。その後ろには、
 千鶴が浩之を見守るように立っている。
「俺は、何も出来なかった」浩之が呟く。
「アストラルバスターズがいなかればあかりをたすける事だってできなかったし、結局救急車呼ぶ
 のを忘れて雅史もたすけられなかった」
「いいえ、浩之さんは悪くない」千鶴が首を横に振った。
「雅史君は自らの義務の重荷に耐え兼ねて、自らの役割の消滅を願った。だから浩之さんは悪くない」
 しかし浩之は何も答えなかった。ただ冷たい風が、しばしの間空間を満たしていた。
 暫くして浩之がようやく口を開いた「偽善者なんだね、千鶴さんて」
 ぷちっ!
 シャキン、という千鶴の爪が伸びる音の後、浩之の絶叫が夜の公園に響いた。
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雅史、千鶴さんファンの人、こんなオチでごめん。