新世紀マルチエリオン(謎) 第二十四話Aパート 投稿者:梓弐號


新学期、の方でなく(謎)の方です。
シリアス版は諸々の事情で私にゃ無理です。(^^;
これも殆どエヴァの台詞パロですけどね。
#見てない人にはちときついかも…

あ、それとゲームのネタバレありなんでまだの人は見ないように。
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「ヒロ!私選ばれたの!」そう言って一人の幼い少女が草原を駆けていく。
「真実を報道するトップジャーナリストなの!ご近所でも評判の美少女なのよ!」
そう叫びながらいくつもの扉を押し開けていく。
「誰にも秘密なの!でもヒロにだけは教えてあげる!いろんな人が私に注目してくれるの。もう寂しくなんかないの!」
次々に部屋を抜けていき、最後の部屋の扉を開く。
「だから見て!私を見て!」
 しかし幼い志保の表情はそこで凍り付いた。最後の部屋、そこにいたのは風邪で寝込んでいる
 あかりと、それを看病する浩之だった。
 志保の声も聞こえず、入り込む隙間もない二人の空間に、ただ愕然とする。
 そこで突然試補は目が覚めた。「夢、か…」バスタブの中で肉体的と言うより精神的な疲労から
 眠りいってしまっていた志保はふと呟く。
「的中率0%、学園の広報係たる資格なし。あたしがいる理由もない…」
 志保は思い浮かぶ浩之の顔を消し去ろうとするように湯船にへ顔まで沈めていく。
「もう、学校に行く理由もないわ…」
 その日を境に、志保は、学校からも家からも姿を消してしまった
…

 公園の池のほとりで、一人たたずむ浩之。何の光景も映らぬその視線は、
 ただぼんやりと宙をさまよっていた。
「志保は、どこにいるんだろう」浩之はつぶやく。
「でも、会ってどうするんだ?あかりの話でもするのか?」
 浩之は志保が最後に姿を見せた日の事を思い出す。あかりと二人で抱き合った日の事。
 しかし、最後まで至る事は出来なかった。すべて自分のせいだということはわかっていた。
 そしてそこにたまたま現れた志保…浩之は志保の揶揄を予想したが志保が見せたのは
 意外にもかなしげな表情だった。
「レミィも、アメリカに帰ってしまった。あかりには会えない。その勇気がない。
 会ってどんな顔をすればいいかわからない」
 自分の精神的なものから来る不能。しかし浩之はその苛立ちをあかりにぶつけてしまった。
 一番不安だったのはあかりだったというのに…
「友達は…友達と呼べる人間は誰もいなくなった!」
「あかり、志保、委員長…俺は、どうしたらいいんだ?」
 その時かすかに囀るような歌が聞こえる。きれいなボーイソプラノ。
 浩之の目はその声の主を探した。
「ブランニューハートはいいね」池の柵に腰を下ろした、その学生服姿の少年は誰に言うともなく
 言った。
「リーフの生み出したOPの極みだよ、そうは思わないかい、藤田浩之君?」
「何故俺の名前を…?」浩之は突然自分の名が出た事に驚く。
「君のことを知らないワケがないさ。失礼だが、君は僕の立場をもう少し知った方がいいと思うよ?」
 そう言いながら振り向く。ちょうど夕日が逆光になって一瞬よく顔が見えなかった。
「僕は雅史、佐藤雅史。君と違い、ショタ好みに作られた親友、
 おまけにサッカー・プレイヤーさ」
「雅史?お前なのか?」ようやく光に目が慣れた浩之が呟く。
「僕たち、友達だよね?」浩之がにっこりと微笑んだ。

「佐藤雅史が今、到着したようです」柳川拓也が柏木家を訪れ、千鶴に告げた。
「そう、長期のサッカーの遠征から凱旋。過去の経歴は認知済み。あかりと同じに」
「そう、あかりちゃんと同じ、浩之君の幼なじみです」
「土壇場で出してきたキャラよ。なにかあります」千鶴はいつもの温和な表情に似ず
 冷たい視線を遠くに向ける。
「エルクゥの血筋とも関係ありませんが、ただ気になる事があります」
「気になる事?」千鶴は柳川の言葉に柳眉を顰める。
 柳川は、サッカー部のホープである雅史の女子に対する人気を一通り説明した後、
 言葉を接いで言った。
「なのに、彼女がいないんです」

 次の日の放課後、一種に帰るべき相手のいない浩之は、校門の前でただ無為に時間を過ごしていた。
 何をするでもなく、ただ手元のCDウォークマンからは、「ブランニューハート」がながれつづけ
 ていた。そこに一つの人影が近づく。部活を終えた雅史だった。
「やあ、僕を待っていてくれたの?」
 その言葉にはっと我を取り戻したように雅史の方を向く。
「いや、そういうわけじゃ…」
 しかしそれは本当だろうか?実は一緒に帰る相手を、自分の近くに来てくれる相手を
 探していたのではないと、自分で言い切れるだろうか?浩之は強く否定する事が出来なかった。
「一緒に帰らないかい」
 浩之はその申し出に、わずかに躊躇する。しかし断る理由は見つからなかった。「…ああ」
「あかりちゃんと、何かあったの?」雅史は道の途中で浩之にたずねる。
「いや、別に…」何もかも見透かしたような雅史の視線に、全てがばれているという錯覚を覚えるが
 浩之は曖昧な返事で誤魔化した。
「ふーん…」雅史は意味ありげに返事をする。
「でも雅史、あかりちゃんを避けているようだったよ?」
 それは事実だった。いつもと違い、言葉一つ交わす事のない二人。まるでお互いを相殺する
 引力と斥力に支配されているように、何か言いたそうに、しかし何も言えずに浩之を見つめる
 あかり。昼休み、ようやく勇気を振り絞って話し掛けてきたあかりから、
 浩之は『購買が閉まる』と言って逃げ出していた。
「幼なじみって言っても、いつまでも一緒にいるわけじゃないからな。あいつもいいかげん
 俺に付きまとうような真似は止めた方がいいし、俺もあかりにたよりっぱなしってわけに行かないしな…」
 雅史は、それを聞いてかすかな微笑みを浮かべる。
「しかし頼るべき相手、パートナーがいるということは幸せにつながる。いいことだよ」
「何が言いたいんだ?」浩之は雅史をジロっと睨んだ。いや、本当は言いたい事はわかっている。
 しかしそれは、今の浩之にとって触れられたくない事だった。
「…いや、別に…」雅史は微笑を浮かべたまま、意味ありげな返事を返しただけだった。
 しばらく二人はそのまま無言で歩いていたが、雅史は浩之の手をとつぜんに、しかしさりげなく
 握った。突然の事にその手を跳ね除け、驚いた表情を見せる浩之に雅史は微笑みかけた。
「いま、一次的接触を極端に避けているね、浩之は」
 そうだった。なぜなら他人との接触は、あの失敗したあかりとの結合を連想させる。
 出来れば思い出したくなかった。
「恐いのかい?人との接触が」全てを知っているかのような雅史の言葉に浩之は思わず視線を逸らす。
「避けていれば、心の痛みを思い出す事はない。でも、心のしこりが消え去る事もないよ。
 それをなかった事にしてしまう事はできない。過去は過去だからね。ただ、やり直す事ができるから
、人は生きていけるのさ」
 浩之はぎゅっと、唇を噛んだ。そんな事はわかってる。わかってはいるが…
 浩之が突然立ち止まる。浩之もそれに気がついて慌ててとまった。
「もう、家だ」雅史の言うとおり、浩之の家がもう目と鼻の先にあった。
「それじゃ、ここでおわかれだね」
「…ああ」浩之はほっとしたような、残念なような、複雑な感情を感じていた。
 しかし雅史はすぐには立ち去ろうとしなかった。「最後に言っておきたいんだ」
「…何を?」
「人は心に空白を感じて生きている。空白があるからこそ、心も身体も預けられる相手を求める」
 浩之はただ雅史を静かに見つめていた。
「それは、行為に値するよ」
「行為?」浩之は聞き返した。
「つまり…」雅史は言いかけてやめる。「いや、なんでもない。それじゃ」
 雅史は浩之の肩をぽんと叩くと、自分の家の家路へとついていった。
 浩之は自分の家に入る事も忘れたかのように、その後ろ姿をずっと見送り続けていた。

「どう?彼のデータ、入手できた?」千鶴が楓の部屋で楓に聞く。
「ええ、柳川さんの記憶から、精神感応によって盗み見ました」
「危ない事するわね。逆に支配されるかもしれないのに。で、どうだったの?」
 そう言う千鶴に、楓はきれいに清書されたメモを渡す。
「何?これは?」千鶴が表情を曇らす。「浩之さんとあかりちゃんの幼なじみだという以外、
 日常におけるプライベートな行動も同性及び異性の交友関係も不明…」
「データが少なすぎるみたいです。柳川さんもゲーム中で明らかになってない
 プライベートな事までは…」
「こうなったら、手段は選んでいられないわ…」千鶴はぎゅっと拳を握り締めた。

 千鶴は浩之の学校を訪れた。そこには一人の少女の姿があった。
 あかり経由で雅史にラブレターを渡した少女。ゲーム中ではグラフィックすらなかった少女は、
 千鶴を見て不思議そうに見つめていた
 が、その目的が自分らしいと気づくと少女は千鶴の方に自分から近づいていった。
「…あの、私に何か用ですか?」
「あなたに聞きたい事があります」静かな、しかし有無を言わせぬ、怖さすら感じさせる口調だった。
「雅史君の、佐藤雅史くんの正体は何?」
 少女はそれを聞いてはっとしたように顔を逸らす。「…それを私に聞くのは、ルール違反です」
「かまいません」
 断固とした千鶴の態度に、少女はゆっくりと口を開いていった。
「それは…」しばらくためらっていたが、やがて決心したようにはっきりと言った。「最後の雅シ」

               第
             最 二
             後 十
             の 四
             雅 話
             シ 
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 本当は、
「行為に値するよ」
「コウイ?」
「するってことさ」
というネタを入れようかと思ったのですが、雅史のキャラクターでないのでやめました。(^^;;