裏To Heart 第一話Aパート 投稿者:青紫
 どうも、原作者のひとりでありながら二次創作をやっているアオムラです(^^;。
 今回はトゥハート4月の間に挿入されるパラレルストーリーという形で、
宇宙篇エピソードを公開します。
 ……が、これは途中で終わってます。
 つまり、連載という形ですね。それを御了解の上、お読みください。


     裏To Heart
   〜そんなこんなで宇宙旅行!〜

 《第一話》 探検! 宇宙船


「あ〜あ…」
 ベッドの上で、オレはそんな気の抜けた声を上げた。
 今、見えるのは、照明だけがついたグレーの殺風景な天井。
 もう何時間もそれだけを眺めてるような気がする…。
 他にすることがない…というのが正解かもしれない。
 なんといっても、殺風景なのは天井だけじゃない。
 この部屋全体がそうだ。
 四方を淡いブルーの壁で囲まれ、家具らしきモノはベッドと隅にある鉄の
テーブルだけ。
 あとは出入り口のドアがあるだけだ。
 窓はない…。
 そんなもの、あっても意味がない。
 だって、壁の向こうは真空交渉拳…じゃねえ、真空の宇宙空間なんだ!
 なんで宇宙なんだよ?
 オレが何をしたってんだ?
 そもそも、事の始まりは----。
「あんた! なに暇そうに寝転んでんのよ!」
「おわっ!!」
 突然間近から怒鳴られ、オレはベッドから転げ落ちそうになった。
「『おわっ!』じゃないでしょ? なんであんたはここでくつろいでんのよ」
「オメエ、いつのまに…」
 体勢を立て直し、オレは声の主----志保を見上げた。
「いつの間にって、さっきから何度も呼んでたじゃないの」
「…あのな、志保、人の部屋に入るときは、ノックぐらいするもんだぜ?」
「ノックもなにも、ここのドアって触るだけで開いちゃうじゃん」
 悪びれたふうもなく言う志保。
「んじゃ、インターフォンを使えよ」
「なんであんたの部屋へ入るのに、いちいちあんたの顔色確かめなきゃなん
ないのよ?」
「てめえ、いい加減にしとけよ。最低限のエチケットじゃねーか!」
「あんたこそ、約束破っといてよくもエチケットだなんて口がきけるわね!?」
 言いながら、志保は戦闘体勢を取った。
 よ〜し、そっちがやる気ならこっちもそのつもりで----と、そこで彼女の
背後から、
「あのぉ、ふたりともその辺で押さえておきましょうね」
 そんな声がかかった。
「あ…、雨宮さんもいたのか」
「ごめんごめん理菜っち。こいつとぼけんの上手くてさぁ」
 位置関係が悪くて今まで見なかったが、彼女はM高校の雨宮理菜さん。
 オレたちよりいっこ上で、来栖川先輩と同期だ。
 なんでも、志保とはゲーセンで知り合ったらしい。
 今回の一件では、唯一部外者----他校の生徒だ。
「クスクス…志保ちゃんとヒロ君って、ほんとに仲がいいのね」
「勘弁してよ雨宮さん。どこらへんがそう見えるんだよ」
「そーよそーよ」
「ケンカするほど仲がいい…かな?」
「ったく、からかわないでくれよ〜」
「ほんとほんと」
 志保もウンウンうなずく。
 オレは、キッと志保をにらみ、
「テメエ、さっきは約束がどーのとか言ってやがったな?」
「あ、そうそう。あんた、約束をすっぽかしたのよ」
「だから、なんの約束だよ?」
「あんた、ますますノー味噌の鳥化が進んでるわね? いいこと? 宇宙船
の中を探検するって言い出したのはあんたよ」
「あ…」
 すっかり忘れてた…。
「『あ…』じゃないわよ! っとに、あたしと理菜っち、待ちくたびれてた
んだからぁ」
「わりぃ、いろいろ考え事があってだな…」
「言い訳なんて聞きたかないわよ。どーすんの? 行くの行かないの?」
「行く行く! 行かねえと考え事が増えるだけだし…」
「んじゃ、行くわよ〜」


 部屋を出て、オレたちは娯楽室に集まった。
 娯楽室といっても、テーブルやソファがあるだけで他には何もない。
「おい、他のメンバーは?」
「ハイッ! アタシデ〜ス!」
「おう、レミィか。で、他は?」
「no exist。誰もいません」
「なんだ。全部で4人か…」
「だってさー、他に来るようなメンツいないじゃん。あかりは雛山さんとキッ
チンの使い方、勉強してるし」
「ここでは自炊しなきゃなんねーからな。あのふたりが命綱だな」
「一年生組はミョーに遠慮しちゃってるしぃ」
「そりゃ、するだろ」
 琴音ちゃんはみんなとこういうことは絶対やらねえだろうし、葵ちゃんも
宇宙船にはとくに興味は持ってない。
「マルチはお嬢様の言いつけ守ってるしぃ」
 そうだろう。
 居住区以外は勝手に歩き回るなと言ったのは、来栖川先輩だからな。
「保科さんなんて、誘ったら逆に怒られそうだし…」
「そらそーだ」
「だから、メンバーはこの4人ね」
「…解説ありがとよ」
「あんたもね」
 オレとしても、集まらなかった連中になにかを期待してた訳じゃない。
 それに、人数が少ない方が移動しやすいしな。
 オレはここで咳払いをひとつ、
「さあ、行くか」
「うん」
 とみんながうなずいた瞬間、ため息のような音と共に娯楽室のドアが横に
すべった。
「あ…」
 入ってきたのは来栖川先輩だった。
「ちわ〜っす」
 反射的に挨拶したのはオレ。
 ここは、間を持たせないとな。
 後ろめたさがあるのか、こういうときだけは自分でも驚くほど小回りが利
く。
「……」
「え? みんなでなんの相談ですか、だって? …えっと、なんの相談だっ
け?」
 間をもたせるつもりが、初っ端からネタに詰まってしまった。
 オレの小回りもここが限界…。
 すると志保が小声で、
「ヒロ、ここはあたしが上手くやっとくから、あんたと理菜っちは、さり気
なく先に行ってて」
「お、おう…」
 やっぱ、悪巧みは志保に任せといた方が無難だ。
「ねえ、ヒロ。なんか相談すんの?」
 言いながら目で合図する志保。
「いや…よく考えたら、することねーな」
「今からあたしとレミィは英語の勉強するから、あんたは部屋で昼寝でもし
てたらぁ?」
「そ、そうだな…昼寝でもすっか〜」
「じゃあ、わたしも部屋でお昼寝しよっかな」
 そう言ってウインクで合図したのは雨宮さん。
 オレは、なるだけ平静を装って出口に向かった。
 雨宮さんも後に続く。
「さあレミィ、こっちはおべんきょしましょ」
「OK! シホ。repeat after me」
「いきなりヒアリング&発音からね? オ〜ケ〜、どっからでも来なさ〜い」
「…では、行きマス」
「うん」
「this is a pen」
「ディスイズ…ってコラッ、あたしゃ小学生か!」
 …なにやってんだか、あのふたりは。
 志保とレミィが即席漫才をやっているうちに、オレと雨宮さんは娯楽室を
後にした。


「これからどうする?」
 居住区から宇宙船本体へと続くエレベータの前で、オレは訊いた。
 ここ居住区ってのは、宇宙船本体と離れてぐるぐる回っているんだそうだ。
 そのせいで、ここら一体は窓の無いただの学生寮みたいな景色が広がって
るだけ…。
 半日もしないうちに飽きてしまう。
「志保ちゃんは、先に行ってて、って言ってましたよねぇ…」
 そう言って、雨宮さんは小首を傾げた。
「連中、先輩が帰ったらすぐに出てくるだろーから、とりあえずここで待っ
てみようぜ」
「ええ」
「……」
「……」
・
・
・
 数分後…、志保とレミィはまだ来ない。
 ったく、なにやってんだよ。


「では、6つ目の会話行きマス。Do you have a reservation?」
「イエス。ウィーリザーブド…ア、テーブル…フォアトゥー」
「……」
「Good!! セリカ、とってもジョーズヨ!」
「ジョーズ4とか言われても、あたしには何も聞こえなかったわよぉ?」
「シホ、これ」
「なによ? 耳かきなんて…ってあんた、あたしの耳が詰まってるなんて言
うんじゃないでしょーね?」
「ツマってないの?」
「詰まるかい! 耳が垢で詰まってんのはヒロよ、ヒ・ロ!」


「ヘックション!」
 くそ…あいつらいつまで遊んでんだ?
「遅いね、志保ちゃんたち…」
 困ったような表情で雨宮さんが言う。
「あいつ、人に文句付けといて、自分もさんざん人を待たせてるじゃねーか」
「実は来栖川さんにバレてしまった、とか…?」
「いや、あいつに限ってそんなヘマしないって。なんってたって、ヤツは悪
事の天才だし」
「クスクス…天才は当たってるかも」
「こんなとこで、なにしとんの?」
 突然声をかけられて、慌てて振り返ると、そこには委員長が立っていた。
「ゲッ!」
「なんや、人を見るなり『ゲッ!』はないやろ」
「いや〜、なにしてるって言われても…」
 慌てて雨宮さんに目で『お助けサイン』。
 しかし、雨宮さんも、
「いえ…ここ、あったかいね〜って言ってたんです」
 なんて、よく解らない言い訳を始めてしまった。
 内心やばいなって思ってると、オレたちの脇をすたすたと通り過ぎていく
人影が----。
「あ、琴音ちゃん」
 オレが声をかけると、彼女はピクッと立ち止まった。
 ペコリとオレたちの方に頭を下げる。
「なんや、姫川さんもこんな場所でなにしとん?」
「あの…、ここのフロアは下よりも空気が暖かいですから…」
「そうそう。やっぱここはあったかいよな〜雨宮さん」
「ええ、ええ。気持ちいいね〜ヒロ君」
 ぎこちなく微笑み合う、オレと雨宮さん。
「なんや、それやったら部屋のエアコンでぬくまればええやん」
「…壁だけの部屋はなんだか落ち着きません…」
 思わず抱きしめたくなるほど嬉しいフォローを入れる琴音ちゃん----って、
この場合はオレたちへのフォローじゃないんだけど。
「一日中、なにもない部屋にごろごろしてんのは、けっこー疲れるんだぜ?」
「そうやろな。そのへんに関しては、あんたらと同意見や」
「…なんだ、委員長も暖まりに来たのかよ」
「ただの散歩や」
「…あの、わたしはこれで…」
「姫川さん、散歩もええけど、居住区から出たらあかんで?」
 ギクッ!
「あ、はい…。それでは…」
 そう言って、琴音ちゃんはペコリと頭を下げて歩きだした。
 琴音ちゃん…この宇宙船でも独りぼっちだな…。
 心成しか寂しそうな彼女の後ろ姿を見つめていると、
「あんたら、散歩せーへんの?」
 オレたちの方を見ながらの委員長。
「オレたちは…立ち話。うん、立ち話してんの」
「なんや…、それなら私も仲間に入れてくれへん?」
 それはマズい!
「い、いや、ここはちょっと…秘密の話題でな----」
「だから、ここでこっそり話してたんですよ」
 すばやく雨宮さんが連携をしてくれる。
 とはいえ、オレたちの態度はどう見ても不自然だった。
 委員長はオレと雨宮さんの顔を見比べた。
 やがて『しょうがないなあ』って顔で、
「秘密の話題って、誰かの悪口とかやないやろな?」
 なんて言い出した。
「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ」
 オレはそんなひねくれた奴じゃねーぞ!
 委員長は、フンと鼻で笑い、
「まあ、藤田くんはともかく、雨宮さんもおるし、信用しとくわ」
「…オレがなにをするってだよ」
「雨宮さん、監督、任せたで」
 そう言い置いて、委員長はつかつかと歩いていった。
 …ったく、人をガキ扱いすんなよな。
「あ、はい…」
 ぎこちなく答える雨宮さん。
 それもそのはず、監督どころか一緒になって悪さするんだからな。


「----来ないね、志保ちゃん…」
「ああ。ったく、しょーがねえヤツだ」
 あれから更に15分。
 まだ志保たちは来ない…。
 こりゃあ、あいつがなにかヘマをやらかしたと見るのが妥当かもしれない。
「もーやめだ。雨宮さん、さきに始めようぜ」
 どうせ戻っても、退屈な部屋に押し込められるのがオチだ。
 だったら船内を探検した方が、何倍も気が紛れるはず。
「えっ、志保ちゃんたちは?」
「いいって。あの二人のことだ、失敗しようが何しようが、よろしくやってっ
だろ」
「でも…」
 そう言って雨宮さんは目を伏せた。
 こんふうに律義な辺りが志保のヤツとは大違い。
「オレが約束すっぽかして、あいつは遅刻した。これで貸しも借りもねーよ。
それにあいつ、先に行ってろって言ってたし」
「うん…」
「言い出しっぺはオレだし、いざとなりゃオレが志保に文句言われるだけだって」
「…うん、りょーかい…」
「よし、行くかっ」
 まだ気持ち納得してないふうの雨宮さんの肩を抱いて、オレはエレベータ
の前に立った。
 スイッチに手を近づけただけでランプが灯る。
 やがてエレベータが降りてきて、ドアが音もなく開いた。
 奥の壁に下向きの赤い矢印があって、GROUNDと描かれている以外はなんの
変哲もない、普通のエレベータだ。
 …なんかドキドキするな。
 行っちゃいけない場所に行く----しかも、初めての場所へだ。
 まるで子供に戻ったみたいな感覚になる。
「心の準備はいいか?」
 オレの問いに、ゆっくりうなずく雨宮さん。
 それを確認して、オレは恐る恐るエレベータに乗り込んだ。
 雨宮さんも後に続く…。
 二人が乗り込んで、ドアの方へ向き直った途端、ドアがゆっくりと閉まった。
 スイッチを探そうと目を配るが、どこにもボタンがない。
「…全部自動かぁ。さすがは宇宙船」
「すごい…」
 なんて言ってるうちに、エレベータが動き出し、地上と変わりない当たり
前の浮揚感が伝わってきた。
 壁の矢印は下向きなのに、エレベータは上に向かってる。
「ヒロ君、…恐くない?」
 不安そうな表情で雨宮さんが訊く。
「恐いっつーか、ワクワクするな」
「…うん、やっぱり男の子。頼りになるな…」
 にっこり微笑む雨宮さん。
 なんか照れてしまう。
 雨宮さんはお嬢様系で普段は知的でおとなしい。
 けど、ときどき年下のコみたいな可愛らしいところも見せる。
 その辺とか、見てて時々、イイなーって思ったりしてしまう。
「はは…、草薙さんも一緒ならよかったな…なんて」
「……」
 雨宮さんはちょっと微笑んだっきりだった。
 ちなみに、草薙拓也さんはM高三年。
 つまり、オレより一個上で、雨宮さんの同期。
 いわゆるゲーマーで、特にシューティングゲームの達人。
 志保いわく、雨宮さんの『いい人』なんだそうだ。
 まあこの際、草薙さんもこの騒動に巻き込まれりゃよかったと思うな。
 大体だ、雨宮さんを含め、みんながこの船に乗る羽目になったのが----
「ねえ、なんか、変じゃない?」
 不意に、横で雨宮さんが訊く。
「あ、ああ…」
 曖昧にうなずきながら、オレもそう思った。
 …なにがって、変なんだ。
 上に向かってるはずなのに、体がスゥーっと軽くなってくる。
 間違って下の階に止まるんじゃねえのか?
「なんだか、ふわふわして----きゃっ!」
 軽く床の上で跳ねて見せた雨宮さんの体が、不意に浮き上がった。
「お、おい…!」
 言ってるうちに、雨宮さんはふわりと天井へ向けて上昇を始めた。
「ど、どうなってるの?」
 と言うが早いか、ゴツン! と天井に頭をぶつけ小さく声を上げた雨宮さ
ん。
 今度は下に戻ってきた。
 足が床についたところでやっと止まった。
 だが、その頃にはもっと変な感覚にオレは包まれていた。
 地面の感覚がないんだ。
 足元に床があるのに、そこは地面じゃない感じがする。
 地面も判らなければ、天井がどこかって感覚もない。
 …判った!
「「無重力状態!?」」
 二人で同時に同じことを口走ってしまった。
 そうなんだ。
 これこそまさに無重力状態。
 オレは慌てて壁の手すりをつかんだ。
「雨宮さんも手すりをつかめっ」
「あ、うんっ」
 二人はようやく落ち着くことができた。
 見れば、エレベータの天井にまで手すりが付いている。
 …オレたちみたいな連中専用って訳か。
 なんだか知らないが、妙に感心してしまう。
 ピンポ〜ン
 そこで、エレベータが一番上----今はそんな気がしない----に到着した。
 果たして、ドアの向こうには…!

        (Aパート終了、アイキャッチからCMへ)
   <つづく>


 私自身、時間を見つけてはコツコツ書いているので、ペースは遅いと思い
ますが、皆さんどうか気長にお待ちくださいませ。m(_ _)m