Leaf K.O.F大会第十二回 投稿者:岩下 信


     LeafK.O.F大会第十二回『決勝前夜』

「あっヒロ…。」
志保は俺を見るとつぶやくように言った。
「レミィ達は?」
「うん……二人とも、面会謝絶。しばらくは安静だって…保科さんの方
はすぐに回復するみたいだけど、レミィの方は傷が深くて、2,3日は
絶対安静だって…。」
志保はつぶやくように俺に説明した。
いったんは俺を見ていた視線も今は床に落とされている。
「そうか……お前、試合の方はどうしたんだ?」
「…あんたねぇ…あんなバケモン相手に戦える訳ないでしょ?私は棄権
したわよ。」
志保が激しい口調になって答えた。
言い終えると一つ息をついて、続ける。
「…あんた達、明日はあいつらと戦うのよね……。」
さっきまでとは打って変わって落ち着いた声で俺に言う。
「あぁ………。」
「分かっているわよね……。」
志保が上目遣いで俺に言う
「あぁ。」
…志保の表情を見れば、何を言いたいのか大体は検討がつく。
だから、俺は一言それに答えただけだった。
「…頼んだわよ……。」
志保が言う。
俺は志保の肩をポンっと優しくたたくとその場を後にした。

部屋に向かう途中、俺は志保の事を考えていた。
なんか、志保らしくない。
いつも、口を開けば憎まれ口しか出さなかった志保が俺に『頼んだわよ』
と言った。
……よっぽど悔しいんだろうな………
…それは、俺も一緒か…いや、俺の場合は悔しいというより、怒りだな。
志保の前では押さえていた感情が、再び湧き起こる。
「許さねぇ……。」
無意識のうちに言葉が出た。

その日の夜。
あかりも目覚めて、俺達は夕食を取る事にした。
なにはともあれ、『腹が減っては戦はできぬ』だ。

俺は夕食の時、前々から気になっていた事を先輩に聞いてみた。
「なぁ、先輩。一つ聞いてもいいか?」
「…………。」
何でしょうか?といった表情で、俺を見る先輩の手が止まる。
「先輩はさ、何でこの大会に参加しようと思ったのさ?」
「……………。」
「『占いの結果です。』…ってそれはもう聞いたよ。で、占いにはなんて
出たのさ?」
「………………。」
「『この大会に邪悪な意志を持つ者達が参加する。放っておけば、災いとなるだろう』って?」
こくり………。
「………………。」
「えっ『その者達を倒せるのは、俺達だけ』だって?」
こくり………。
「…なんとなく分かった、とりあえず、この大会に優勝してしまえばい
いってことだろう?」
こくり……
先輩は俺の言葉にうなづいた。
「…そいつらってもしかすると、あいつらか?」
こくり………
「そうか…。」
「ねぇ、浩之ちゃん。『あいつら』って誰の事」
今まで、俺と先輩の会話を聞いていたあかりが俺に聞いてきた。
「そうか、あかりは寝てたから、あいつらの事を知らないんだな。」
俺はあかりに今日の志保たちの試合の事を話した。
「…………ひどいね。」
それが俺の話を聞いたあかりの第一声だった。
「俺は許せねーよ。」
こくり………。
先輩がうなづいた。
「まぁ、すべては明日になってからだな。」
「そうだね。浩之ちゃん。」
こくり………。
それから、俺達はまた、出された食事に手をつけ始めた。

俺達は夕食を終え、部屋へと向かった。
俺達の部屋の前で、見覚えのある一人の女性と男が立っている。
準決勝の相手だった柏木千鶴さんと柏木耕一さんだった。
一瞬お礼参りかと思い、俺は身構えたが、相手から殺気は感じられない。
俺達を見ると、千鶴さんの方がぺこりとお辞儀をした。
どうやら、俺達に用があるらしい。
「何か、ご用でしょうか?柏木千鶴さん。」
あかりが尋ねる。
「あなた達に、聞きたい事があります。」
千鶴さんは静かに言った。
「……………。」
「先輩が、『立ち話もなんですから』って言ってるぜ。とりあえず入って
くれ。」
俺は二人に言った。
部屋に入って、互いに席に付くと俺は千鶴さんに聞いた。
「お話って何の事?」
俺の言葉を受け、千鶴さんは俺達に聞いてきた。
「私たちは、鬼の一族です。」
「………………。」
千鶴さんの言葉に唖然とする俺達。
確かに戦ったときには普通の人間ではないと思っていたが、まさか『鬼』だとは…
非常識な事が起こるのは当然だな……。
言葉を失っている俺達にかまわず、千鶴さんは続ける。
「私たち、『鬼のちから』に対抗できるのは唯一、『鬼のちから』を持つ
者のみ…あなた達は見たところ普通の人です。」
「…何が言いたいんだよ。」
俺は千鶴さんの言葉を遮り、言った。
千鶴さんはそのまま続ける。
「あなた達の持っている『ちから』の源というべき道具はどこで手に入
れたのですか?」
「………………。」
千鶴さんの言葉を受け、先輩が言った。
だが、先輩の声は小さくて、聞こえないらしい。
代わりに俺が伝える事にした。
「『来栖川家の倉庫』だってよ。」
「なぜ、そんな所に『鬼』の力を持つ物があるのかしら………。」
千鶴さんは考え込んだ。
「千鶴さん、"来栖川"って言えば、有名な財閥だよ。もしかしたら、"柏
木家"と交流があってもおかしくはないと思うけど。」
隣に居る耕一さんが千鶴さんに言った。
「……そうですね…。」
千鶴さんは考え込んだままだった。
「あと、君たちに忠告に来たんだ。」
耕一さんが俺達に言う。
「忠告?」
「そう、君たちが明日戦うチームの一人に『柳川』という男が居るだろ
う。」
「………。」
この人たちはあいつの事を知っている?なぜだ?
「あいつには気を付けた方がいい。あいつは『鬼』の武器を手に入れて
いる。俺達でも、倒せるかどうかってとこだからな。」
「……手強い相手という事は分かっています。」
「そうか、気を付けてくれよ。俺達を倒した君たちだから、心配はないと思うけど…」
「気を付けます。」
俺は耕一さんの目を見て強く言った。
「ところで、一つ提案があるんだけど……。」
耕一さんは話を切り替えた。
「?なんでしょう?」
「明日、君たちの試合に付いていきたいのだが……。」
「どういう事ですか?」
「仮にだ、君たちが柳川を相手に負けそうになるとする。」
「………。」
「そうなったら、君たちは確実に狩られる−すなわち、殺されるだろう。」
「………。」
俺はレミィ戦の事を思い出した。
たしかに、あいつなら簡単に俺達を殺すだろう。
「そこで、俺達・俺と千鶴さんがそうなったら助けに入る、つまり保険
というわけだ。」
「…………。」
確かに、保険をかけておくのは悪い事じゃない。
「…分かりました。」
「よしっ!じゃあ明日だな。」
「はい。」
「それじゃあ…千鶴さん、行こう。」
耕一さんと千鶴さんは部屋を出ていった。
「先輩、勝手にああ言ったけど、よかったかな?」
こくり………
「あかりは?」
「ウン、浩之ちゃんがそういうなら…。」
困ったようにあかりが答えた。

決戦は明日だ!

−同時刻、別室にて−
「決勝か……たやすかったな……。」
「あぁ、俺達の相手には、長瀬君のチームや柏木家のチームが居なかっ
たからな…。」
「まぁいい。奴等の炎に興味が出た。明日は狩る。」
くっくっくっといった風に眼鏡をかけた男が言った。
「ところで、月島君、君にはもう戦う理由がないのではないか?」
「いや、彼らは、僕の大切な玩具を壊しました。倒す理由はあります。」
「そうか……。」
「明日ですね。」
「あぁ。」
二人は低く笑った。
その会話を黙って聞いている男も笑い出した。
その目には何故か、感情がなかった……

                                                      続く……

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   どもっ岩下です。
   時間がないので、予告とコメントはまた明日という事です。
   でわでわ