交錯その二 投稿者:岩下 信


         『交錯』第二章・接触・前編

僕らが隆山温泉の駅に着いたのは夕方のことだった。
日が傾き、山際に沈もうとしている。
駅前に出て、迎えを頼んでおいた叔父の姿を探す。
だが、叔父はまだ来ていない。
僕と瑠璃子さんは駅の待合室で待つことにした。

あの『毒電波事件』から半年以上が経ち、学校はいつもの退屈な日常を謳歌していた。
月島さんは元の『優しかったお兄さん』に戻り、今は大学に通っている。
太田さんはというと、僕と月島さんとの電波対決の時の余波でしばらくは病院のお世話になっていたが、
しばらくして奇跡的な回復を遂げ、元の『扉を開く以前の』大田さんへと戻った。
そして、あの『壊れた日』の記億はあらかじめ僕が電波で壊しておいたので、
太田さんは空白の時間に戸惑っているようだ。
そんな太田さんといつも一緒にいる瑞穂ちゃん。
彼女にも笑顔が戻り、今は太田さんと生徒会を盛り立てている。
新城さんは、僕の電波により、あの事件の事はすっかり忘れているものの、
僕の事だけはしっかりと覚えていて、いつものコロコロと変わる表情で僕を楽しませてくれる。
それはいいのだが、彼女の熱いアプローチに僕は時々困っている。
そして、瑠璃子さん。
彼女の僕に関する記憶・忌まわしいあの記憶はすべて電波で消しておいたはずなのだが、
瑠璃子さんの記憶は消えてはいなかった。
「忘れないよ…だって…長瀬ちゃんだもの。」
事件の解決から数日経ったある日の屋上で瑠璃子さんは僕にそう言った。
風にそよぐ細い髪、優しい微笑み、『壊れた者』の瞳、いつもの瑠璃子さんがそこにいた。
その日から僕と瑠璃子さんはつきあうようになった。
毎日のように屋上で電波を集め、時には体を重ねる事もあった。
瑠璃子さんと僕がつきあう事を月島さんは快く思わないかどうか気になって、
一回、瑠璃子さんに聞いてみたところ、『瑠璃子が望んでいる事なら…』と意外な答えが返ってきた。
だから、瑠璃子さんと僕はこうしていられる訳だ。

「どうしたの、長瀬ちゃん?」
僕が瑠璃子さんの顔を見ながら物思いに耽っていたので瑠璃子さんが聞いてきた。
「何でもないよ、瑠璃子さん。」
僕は微笑んで瑠璃子さんに答えた。
そして、待合室から駅前の町並みを見渡す。
『田舎だな』
それが第一印象だった。
数件の商店が並ぶ商店街らしき通りに、バスの発着場のあるロータリー。
行き交う人々もまばらだ。
そんな風に町並みを眺めていると、瑠璃子さんがいきなり立ち上がり、
手をすぅっと上へと伸ばして目を閉じた。
「?どうしたの?瑠璃子さん。」
僕がそう聞くと、瑠璃子さんはそのままの姿勢で答えた。
「長瀬ちゃん、電波、感じないの?」
「電波だって?」
うん、といった感じでうなづく瑠璃子さん。
僕も電波を感じようと目を閉じ、意識を集中させた。

「復讐の時が来た。あの女・あの男の最後の時だ!」
地の底から聞こえるような低い声に、獣の荒い息遣いが混ざっている。
その声の主からはすさまじい怨念が感じられる。
「みつけた・・・・・。」
その声の主は僕に話し掛けてきた。
「同じ力を持つ、新たな『狩猟者』よ。」
『狩猟者』?何の事だろう・・・・・。
僕には相手が何を言っているのか理解できなかった。
ただ、僕に“電波”を使って話し掛けてくる相手がいる事に恐怖を覚えた。
僕はそのまま、受信を止めた。

「長瀬ちゃん、どうしたの?」
気がつけば、瑠璃子さんが僕のほうを心配そうに見ていた。
僕の体は冷や汗でびっしょりになっていた。
「うん、僕ら意外にも電波を使える人がいたんだ。」
「私にも届いたよ。」
「瑠璃子さんも感じたのか・・・。」
僕らのように、電波を使える人はめったにいないはずだ。
僕は瑠璃子さん以外の電波をこれまで感じた事がない。
それに、相手は『狩猟者』とかと自分を呼んでいた。
どういう事なのだろうか・・・・

「長瀬ちゃん、長瀬ちゃん・・・」
瑠璃子さんが僕の服のすそを引っ張って言った。
「ん・・・どうしたの?瑠璃子さん。」
「あの人・・・・。」
瑠璃子さんが駅前のロータリーに車を止め、こちらを伺っている
人を指した。
「あっ叔父さんだ。」
僕は瑠璃子さんを促すと、叔父の方へと歩き出した。
瑠璃子さんはそれに続いてきた。

「よぉ、祐介。久しぶりだな。」
「叔父さん、お久しぶりです。」
叔父さんが車のドアを開けて話し掛けてきた。
そして、僕の隣にいる瑠璃子さんを見て、
「なんだぁ・・・祐介、おまえも側に置けんな・・・。」
とにやにやしながら僕に言ってきた。
「止めてくださいよ叔父さん。月島瑠璃子さんです。」
僕は叔父に瑠璃子さんを紹介した。
瑠璃子さんはぺコリとお辞儀をした。
「長瀬源二郎だ。よろしくな。」
叔父は瑠璃子さんに挨拶をした。そして、
「まぁ二人とも、こんなところで立ち話もなんだから、乗ってくれ。」
叔父は僕らを促した。

                                               続く

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  どうも、お待たせいたしました。『交錯』の方をお送りします。

P.S
  SGY様へ
  電波、届きました。ありがとうございます。

 今回は時間がないのでこの辺にて・・・・・
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 お聞かせください。

                                  でわでわ、岩下 信