Leaf K.O.F大会その三(改訂版) 投稿者:岩下 信


          Leaf K.O.F大会/第三回『暴走する力』

暖かい……
俺は暖かな空気に包まれてまどろんでいた。
体がふわふわと浮いているような感覚。
それは、思い出せそうで思い出せない懐かしい記憶を呼び起こす。
いい気持ちだ……。
・
・
・
「ちょっと、ヒロ!いつまで寝ているのよ。」
 んだよ、うるせーなぁ……。
 続いて体に衝撃が走る。
「いいかげんに起きろぉぉぉーーー!」
 耳元で怒鳴られて、俺はがばっと体を起こした。
「やっと起きたぁ?どお気分は?。」
 目の前に志保の顔があった。
「最悪だな……。」
 俺の言葉に志保が意外そうな顔をした。
「やだ……まだ治りきっていなかったかしら…。」
「こんなうるせー起こされ方したら、誰でも最悪な気分になるに決まっているじゃねーか
 …いったいどうしたんだよ。」
「じゃあ体のほうはなんとも無いのね?」
「あぁ……どーしてそんなこと聞くんだよ。」
「あんた何も覚えていないのぉ…あっきれたー。」
 志保は腰に手を当てて、俺を睨んだ。
「?」
「いい、あんたは第一回戦で大怪我をして、この"医療ポット"のお世話になっていたんでしょ?。」
 志保の言葉に俺はあたりを見回した。
 見覚えの無い部屋、そこにあるベットに俺は寝ていた。
 ベットの周りは金属の囲いがあって、そこから暖かい空気が吹き出ている。
 俺は頭がはっきりするにつれて、だんだんと思い出し始めた。

 確か第一回戦で化け物みたいな相手にボコボコにされた。
 そしてあの化け物みたいな女の子達に先輩からもらった『火の腕輪』で何とか勝つことが出来たんだ。
 思い出すごとに恐怖が脳裏をかすめる。

「で、何で志保がここに居るんだよ。あかりや先輩はどうした?」
 俺は志保に聞いた。
「あんたが寝ている間に次の相手を偵察しに行ったわよ。
 私達の試合がまだだからあんたの様子を見ててってあかりに頼まれたのよ。」
 やれやれといった感じに答える志保。
「…志保も出るのか…おまえは誰と組んでいるんだ?」
「私?私のチームは保科さんと宮内さんよ。」
「げっレミィと組んでいるのか……。」
「まぁこれで私たちの優勝も決まったわね。
 ヒロ、あんたも死にたくなかったら棄権することをおすすめするわ。」
 志保は勝ち誇った風に言った。
 こついらは問題外。
 俺はそう判断した。
 いざとなったら火で倒してしまえばいい。
 戦力となるのはレミィだけだ。
「なによぉ、何か言いたそうな顔ね。」
 志保が俺の顔を見ていった。
「別に………。」
 突っかかってくる志保を俺は軽くあしらう。
「何か気になるけど…まぁいいわ。起きたんなら行くわよ。」
 志保が俺を促す様に言った。
「はぁ?何処へだよ。」
「決まっているじゃない、会場へよ。まだ間に合うから早くしてよ。」
「おいおい、俺は怪我人なんだぜ。少しは考えろよ。」
「何言っているのよ、もう治ったんでしょ?
 ほらほら、行くわよ。次の試合は優勝候補のチームが出るんだから、見逃せないの!」
 と言う訳で俺は志保に無理矢理会場へ連れて行かれる事になった。

 会場へ向かう途中、俺はいきなり声をかけられた。
「やぁ、第一回戦を見せてもらったよ。えぇと確か藤田君とかって言ったかな。」
足を止めて声の方を見れば人のよさそうな笑顔をした男が立っていた。
「…あんた、誰?」
「いや、失敬。僕は月島拓也って言うんだ。よろしく。」
 笑顔を崩さぬまま、男は俺に言った。
「それにしても、君の力見せていただいたよ。素晴らしい『火』の力だね。」
「はぁ……。」
「ぜひ君と戦ってみたいものだね。」
「…………。」
 こいつ、どういうつもりだ?俺は相手の意図を掴めなかった。
「なにしろ君は僕の大事なおもちゃを…。」
 月島さんはそこまで言うと言葉を止めた。
 笑顔の下からすさまじい殺気が放たれる。
 反射的に俺の体がが硬くなった。
「いや、失敬。言葉が過ぎたようだ。…ではまた会おう。」
 月島さんはくるっと後ろを向くと手をあげて行ってしまった。
「ヒロ、今の確か優勝候補のチームの人じゃ…。」
 志保が俺に言った。
「しらねーよ。ちょぅとおかしい奴だな。」
 俺はそう言うと会場へと歩き出した。

 俺達が会場に着いたのは、試合が始まろうとしていた時だった。
 志保があかり達を見つけ、俺達は側に座った。
「浩之ちゃん、大丈夫なの?」
 あかりが俺を見ると心配そうに聞いてきた。
「あぁ。」
「そう、よかった…。」
 あかりが胸をなで下ろした。
「…………。」
「えっ良かったですねって?あぁ心配かけちまってわりーな先輩。」
 先輩は俺の言葉を聞くと頬を赤らめてうつむいた。
「ハァイ、ヒロユキ。ナイス・ファイトだったネ。ワタシ、見ていてベリーエキサイティングしたヨ。」
 後ろからレミィが声をかけてきた。
「おぉ、レミィ。サンクスな。」
 俺がそう言った時、
『雫・長瀬チーム VS TH姫川チームの試合を開始します!
 第一戦新城さおりVSマルチ、レディ・ゴー!』
 …マルチだって?あのマルチも出ているのか!
 俺はリングへと目を向けた。
 そこにはマルチがおどおどとしながら立っていた。
 相手の方は長い髪の女の子で、なぜか体操着だった。
 名前を新城とかって言ったっけ…。

 そして、試合開始。
「あわわわわわーーーーー。」
 聞き覚えのある声がした。
 見れば新城とかという女の子がどこからともなくバレーボールを取り出し、
『さおりんスパイクーゥ』とか言いながらびしびしとマルチ目掛けて
 バレーボールを打っていた。
 それを避けることも出来ずに一発一発と受けているマルチ。
「あうっ…あうっ…痛いですぅぅぅーーあうっ。」
 ひたすら悲鳴を上げているマルチ。
 新城さんはひたすらボールを打っている。

 …なんか一方的な試合だな……。
 俺はその様子をあきれながら見ていた。

『これで最後よ!さおりーんアターック!』
 ベチィッッッッッ…
 新城さんの雄たけびともに一際でかい音が響き渡った。
 マルチめがけて、さっきまでとは段違いにうなるボールが飛んでいく。
「あうっ。」
 避けられる訳もなくマルチはその一撃を浴びてばたっと後ろへひっくり返った。
「やったー勝った、勝ったぁー!」
 リングの上をぴょんぴょんと跳ねる新城さん。
『勝者…』
 アナウンスが新城さんの勝利を伝えようとした瞬間、マルチが立ち上がった。
「……………。」
 マルチは無言のまま新城さんを見つめる。
「えっ嘘?。」
 勝利を確信した新城さんには信じられない光景だった。
「やだっもうボール無いのにぃぃ。」
 泣きそうな顔で新城さんが言ったその瞬間、マルチが新城さんに飛び掛かった。
 今までとは打って変わった動きでマルチは新城さんの胸倉を掴み、平手打ちを浴びせる。
 ぺチぺチぺチペチぺチ……
 情けない平手打ちの音が会場に響き渡る。
 会場は静まり返っていた。マルチの繰り出す弱っちい平手に皆唖然としている。
・
 それから約十分ぐらい経ってからマルチが新城さんを放すと、
 新城さんはぐったりとリングに倒れて一言言った。
「やっぱ私ってやられ役なのね……。」
 それを見ると、マルチもガクンと崩れた。
『…り…両者ノック・ダウン…』
 アナウンスが試合終了を告げた。

「なぁ、あかり。」
「どうしたの?浩之ちゃん。」
「今の何だったと思う?。」
「さぁ………。」
 これ以上の追求は止めておこう。
 マルチを買った時の注意・『決して怒らせてはいけない。』
 俺はそれを記憶に刻みこんだ。

 両者ノックダウンと言う事で互いに二人目の選手がリングに上がった。
 "TH姫川チーム"の二人目は葵ちゃんだ。
 対する相手はぱっとしないヤロー、お世辞にも強そうには見えない。
『こりゃ葵ちゃんの勝ちだな……。』
 俺がそう考えていると、アナウンスが試合開始を告げた。
 その声と同時に葵ちゃんが相手に向かって飛び出した。
 先に仕掛けるつもりだ。
「てやぁぁぁぁーーーー!。」
 葵ちゃんは間合いに入ると、素早く相手に向かってパンチを繰り出す。
 相手はそれをよけようとしない。
 多分、避けようにも避けられないのだろう。
 俺が『決まったな』と思ったその瞬間、信じられない光景が目の前に広がった。
「うわぁぁぁぁぁーーーー。」
 葵ちゃんが体をビクッと震わせ、そのまま倒れたのだ。
『何が起こったんだ?』
 理解を超える光景に会場がシーンとなる。
 葵ちゃんはそのまま動かない。
『しっ…勝者、長瀬祐介!』
 震える声でアナウンスが告げた。

「…………。」
「先輩、どうしたの?。」
「……………。」
「えっ"電波"だって?。」
 こくり……。」
 俺は先輩の言葉の意味が分からなかった。

 続けて、琴音ちゃんがリングに上がる。
 相手がどんな力を使おうとも、琴音ちゃんの『念動力』にはかなわないだろう
 俺が本気で火の腕輪を使ったところで勝てる気がしない。

『長瀬祐介VS.姫川琴音、レディ・ゴー!』
 アナウンスが試合開始を告げる。
「あっあの、ごめんなさい。」
 琴音ちゃんがそう言ったときだった。
 天井の照明器具の一つが相手のすぐ側に落ちた。
 ガッシャァァン!
 大きな音を立てて、割れる照明器具。
「あっ外れちゃいましたね。………次ぎは必ず……。」
 琴音ちゃんは静かに恐ろしい言葉を口にした。
「………。」
 さすがに相手も危険を感じたらしく、顔色が変わった。
 だが、それも一瞬の事ですぐに平静を保つと、琴音ちゃんを睨みつれる。
 その時、
 パリンッ!パリパリパリパリッ!
 天井の照明器具のすべてが音を立てて割れた。
 上からガラスの破片が振ってくる。
「いゃぁーーーーーーーーー!」
 琴音ちゃんの絶叫が響き渡った。
 相手はそれを見つめているだけだった。
「ああぁぁぁぁーあ………。」
 絶叫が終わったかと思うと、琴音ちゃんは葵ちゃんの時と同じように崩れた。

 なんだよ、この野郎は………
 俺は相手の得体の知れぬ力に恐怖を感じた。
                                                
                                            続く……
=================================

この前の書き込みだと不十分だったので改訂版をお送りします。
                                                      岩下 信