Leaf k.O.F 大会 その二 投稿者:岩下 信


                   Leaf K.O.F大会 /第二回 『炎の力』

試合開始のアナウンスが響き、相手がゆっくりと俺の方へ近づいて来る。
『くっ………。』
相手の異様な空気に押されて、俺は後ずさった。
恐怖に体が震える。
俺が下がるより、一歩早く相手が進んで来る。
俺と相手の間合いが少しずつ縮まる。
「浩之ちゃん!」
あかりが叫んだ。
何時の間にか俺はリングの端まで下がっていたらしい。
…このまま引いていても埒があかない…。
俺は下がっていた足を止め、"構え"をとった。
こぶしを握り、足を半歩踏み出す。
『葵ちゃんとの練習が役に立つとな……。』
頭の中でそんな事を考えながら、こぶしに力を込める。
「うおぉぉぉぉぉーーーーーー!」
次の瞬間俺は吠え、相手に向かって踏み出した。
相手はそれを見ても、ゆっくりと近づいて来るだけだ。
『いける!』
俺はそう直感すると、ありったけの力を込めて振りかぶった。
ねらいは相手のこめかみ。
一撃でケリをつけるつもりだ。
さすがにここを思いっきり殴り付ければ気絶するだろう。
俺はそう考え、ねらいを定める。
「もらったぁぁぁーーーー!」
俺のこぶしが相手のすぐそこまでせまっていた。
その瞬間、相手の手が今までからは考えられない速さで反応し、
俺のこぶしをいとも易しく受け止めた。
パシィィィィ……
こぶしの当たる音が会場に響く。
続いて右手にしびれを感じた。
相手はそのまま俺のこぶしから手を離すと、信じられない速さで
俺の腹にボディブローを入れて来た。
「かっはっ………。」
俺は堪らず体を折った。
口から生暖かい液体が零れ落ちる。
…これが女の子の力か…よ……。
そう思った時、あごに強い衝撃を浴び、俺の体は軽く宙に浮いた。
どうやら相手の膝蹴りをモロに浴びたらしい。
「浩之ちゃん!」
あかりの二度目の絶叫が聞こえた。
その声をききながら俺はそのまま、仰向けに倒れた。
……ばっ…化け物だな……。
あまりの衝撃に脳が揺れたらしく、視界がぼんやりとしている。
頭の中にもやがかかっているみたいだ。
ゴツッ!
続けて頭に強い衝撃が走る。
頭の中のもやが一段と濃くなった。
…相手は俺を殺そうとしているらしい……。
ぼやけた頭でも、それだけの事は分かった。
「くはっ!」
腹を蹴り上げられ、俺の体は横になった。
間髪を入れずに今度は胸を蹴られた。
「うぐっ!」
ペキッ。
嫌な音が耳に届いた。
どうやら肋骨をやられたらしい。
…このまま、やられてしまうのか?……。
……………………。
相手は容赦無く俺を痛めつける。
…冗談じゃ…ない……
このまま、大人しくやられてたまるものかよ。
それに俺が負けたら次は先輩やあかりがこの化け物と戦う事になる。
そんな事はさせたくない。
俺は悲鳴を上げる体に鞭打って相手の隙をうかがった。
相手が蹴りを繰り出すその瞬間、俺は体をひねり、蹴りをかわした。
蹴りを放った足が空振りをして相手が大きくバランスを崩す。
『今だ!』
俺はすばやく立ち上がると、自分でも信じられない速さで
相手の腹に蹴りを放った。
そのまま俺の蹴りを受け、吹っ飛ぶ相手。
だがこれだけでは形勢が逆転した訳では無い。
相手は人間離れした力を持つ女だ。
こちらもそれ相応の力で対抗するしかない。

『えっこの腕輪には"火の神"が宿っているって?』
『こくり………。』

俺は先輩に貰った腕輪の事を思い出した 。
……………使ってみるか………。
俺は腕輪に視線を向けそう考えた。
どうせこのまま戦ってもさっきの繰り返しになるだけだ。
次にやられた時、再び起き上がれる保証はない。
迷っている暇はない。
相手は起き上がり、こちらに向かって来ている 。
だとしたら……殺られる前に殺るだけだ!!
俺は結論を出すと、すぐに念じ始めた。
『火よ!』
俺がそう念じると、腕輪からボッと炎が出た。
だが、俺の腕には熱さを感じない。
本当に相手を焼けるのか分からなかったがそんな事を考えて
いる場合ではない。
それを確認すると、腕輪をしている手をすっと相手の方へ向けた。
続けて、『あいつを焼きはらえ!』と念じる。
すると炎が相手の方へと伸び、相手の体を包み込んだ。
一気に燃え上がる相手。
それを見て多少の後悔が残ったが、こうしなければ俺が殺られていた
だろう。
炎に包まれながら崩れ落ちる相手。
そこで勝負は決まった。
俺は燃え盛る火に向かって『消えろ』と念じる。
炎は消え去り、倒れている相手だけがその場に残った。
相手はひどい火傷を負っただろう……。
だが相手を見ると、相手の体には火傷の一つも残っていない。
………………。
何だよこれ……。
俺には信じられない出来事だった。
俺は先輩の方へと振り向く。
「……………。」
「えっこの炎は幻覚みたいな物だから、熱さは感じても実際に焼ける事は無いって?」
「こくこく……。」
……非常識だ……。
俺が頭を抱えたその時、
『WINNER、藤田浩之!!。』
とアナウンスが俺の勝利を告げた。

その後の戦いは楽だった。
俺は火を操り、もう一人の相手をたやすく倒す事が出来た。
さっきまでの苦戦が嘘のようだ。
そして、残すところあと一人となった。
相手は、顔に包帯を巻いた少女だ。
俺は一気に片をつけようと、
「これで、終わりだ!。」
某格闘ゲームのキャラみたいなセリフを口にして二人目と同じように
炎を放った。
本当にこれで終わる筈だった。
だが、相手は炎に包まれながらもこちらへとゆっくり歩いてくる。
炎の間から時々見える顔は無表情で熱さを感じていないようだ。
『感覚が無いのかよ!』
俺は驚愕に震えた。
相手はゆっくりと近づいて来て、俺との間合いを詰める。
恐怖のあまり俺は一歩も動けない。
間合いが詰まるに連れ、ぶつぶつという声が聞こえる。
それは相手が発している声だった。
「カテバ、アノヒトガ、カエッテキテクレル。カテバ、アノヒトガ、
カエッテキテクレル。カテバ、アノヒトガ、カエッテキテクレル……。」
壊れたCDプレイヤーの様に同じ言葉を感情が入っていない声で繰り返
す相手。
……そうか、こいつには負けられない訳が在るのか……。
「だけどな、…俺も負けられないんだよ!」
俺は最後の言葉に力を込めて言った。
相手に同情して、殺される訳にはいかない。
俺の炎が一段と燃えあがる。
その瞬間、相手は倒れた。
幻覚にしても、火は火だ。
多分相手の周りの空気を燃え上がった炎が奪ったのだろう。
「悪く思うなよ……。」
俺は相手に言葉を投げかけると、あかりや先輩の方へと歩き出した。
『WINNER、藤田浩之!TH・来栖川チームの勝利です!』
アナウンスが俺達の勝利を告げた。
「浩之ちゃん!」
「………………。」
先輩とあかりが駆け寄ってくる。
「浩之ちゃん!大丈夫?痛くない?痛くない?」
泣きそうになりながら俺の心配をするあかり。
俺はあかりに『大丈夫だ。』と言おうとして、意識を失った。
覚えているのはどっちの物だか分からない手の温もりだった。
……嫌々参加したのに何を熱くなっているんだか俺は……。
   
                                                続く

次回予告
なんとか勝ち進んだ浩之達は一時の休息を謳歌していた。
志保達に連れて行かれた会場で、浩之達が目にした物は?
次回『暴走する力』
     「こんなんありかよっ!。」(浩之)
     「気にしない、気にしない。」(志保)
お楽しみに!

という訳でLeaf K.O,F大会第三回をお送りしました。
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                                     岩下 信