交錯 その一 投稿者:岩下 信


                   交錯・第一章"新たなる敵"

俺が千鶴さんからの連絡を受け、隆山温泉の駅に着いたのは昼過ぎだった。
千鶴さんに電話をすると『駅前で待っていてください』との事なので、
俺は駅前のベンチに腰掛けて待つことにした。
……それにしても懐かしい……。
この前の夏に来た時には、大変な目にあった。
奇妙な夢にうなされた日々。
楓ちゃんから"エルクゥ"の事を聞き、自分が"次郎衛門"の生まれ変わりであることを聞き、
柏木家と自分が"エルクゥ"の力を受け継いでいる事を知った。
そして、千鶴さんから親父の死の事実を聞き、誤解から命を狙われる事となった。
一度は死にかけるものの、その後現れた新たな『エルクゥ』のおかげで
俺は“エルクゥ”の力を制御できるようになった。
新たなエルクゥを覚醒した俺が倒し、千鶴さんを救った。
その数日後、俺は千鶴さんとある約束をして柏木家を後にした。
その約束とは、『千鶴さんを俺が幸せにする』という事だった。

ぼんやりとそんな事を考えていると、俺の目の前に一台の車が止まった。
その車の中から千鶴さんが降りてきた。
「お久しぶりです。耕一さん。」
「やぁ千鶴さん、お久しぶり。」
俺は挨拶を交わした後に千鶴さんが大分やつれている事に気づいた。
「どうしたの千鶴さん?なんだか顔色が悪いような気がするんだけど…。」
「えっ……。」
俺の言葉に動揺を隠しきれない千鶴さん。
「…とりあえず家に行きましょう。」
千鶴さんはうつむいたまま俺を車へと促した。
俺はそれに従い、車へと乗り込んだ。
車は俺と千鶴さんを乗せると、すぐに出発した。

電話の件と言い、やつれた千鶴さんと言い、いったい何が起こっているのだろう……。

柏木家に着くと、俺はまず仏間の親父に挨拶をした。
そのまま千鶴さんに言われた通りに、客間に座った。
すると、楓ちゃんが部屋に入って来る。
「耕一さん、来てくれたのですね…。」
楓ちゃんの第一声がそれだった。
楓ちゃんの声は力が無かった。
「どうしたのさ、楓ちゃん。」
俺の問いかけに楓ちゃんが答えた。
「“エルクゥ”が……。」
「“エルクゥ”!?まさか、あの時の……。」
驚きの余り、大声で楓ちゃんに聞き返した。
楓ちゃんは俺の大声にびくっとなった。
「あっいや、ごめん。大声を出しちゃって……。」
俺が楓ちゃんに謝ると同時に、
「耕一お兄ちゃん……。」
初音ちゃんとが部屋に入ってきた。
いつもの様子とは違い、初音ちゃんの表情が固い。
「どうしたのさ、二人とも……。」
俺は笑顔で二人に問い掛けた。
「お兄ちゃん、ヨークが降りたんだよ。」
初音ちゃんは俺にそう言った。
「ヨーク?何、それ……。」
「鬼達の箱船だよ。星星の海を渡る鬼達の箱船・・・。」
俺が聞き返すと、初音ちゃんはつぶやくように答えた。
「新たな『鬼』がこの地に降り立ったのです。」
千鶴さんが部屋の中に入って来て、俺に言った。
「どういう事?」
俺は聞き返した。
「ダリエリの呼びかけが真なるレザムに届いたんだよ。」
初音ちゃんが俺に言った。
「ダリエリ……。」
俺は無意識の内にその言葉を繰り返した。
初めて聞くはずなのになぜか『ダリエリ』という奴を知っているような気がした。
「耕一さん、そしてその新たなる鬼達は私たちを狙っています。現に梓が一回襲われています。」
「梓が!?で梓は無事なのか?。」
俺は千鶴さんに聞いた。
「えぇ、多少の傷は負いましたが私たちの回復力があれば致命傷には至らないものでした。
今回は運良く私がすぐに駆けつけられる距離にいたので…けど次は…。」
千鶴さんはうつむいて俺に言った。
「私たちは裏切り者なの、だから…。」
初音ちゃんが俺を見て言う。
「“エルクゥ”は互いに引き合う…これも何かの運命でしょう…。」
楓ちゃんが言った。
「避けられない戦いなのです。」
千鶴さんが俺を真っ直ぐ見て言った。
「俺を呼んだのは、この事だったの?」
千鶴さんに俺は聞いてみた。
千鶴さんはただこくりとうなずくだけだった。

                                                        続く…
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お待たせいたしました。ここに『交錯』の第一章をお送りします。
ちなみにこの物語はマルチサイド形式で進みます。
次は『雫』のキャラクターが登場します。
次回にご期待ください。

leaf K.O.F大会の方は明日にでもお送りします。
今日FDを忘れてしまったもので・・・・・・(−−;)

                                     締め切りに苦しむ 岩下 信