「美浜の会ニュース」No.46(1998.10.12)より
高浜プルサーマルで
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プルサーマルの事故で、プルトニウムが放出され住民は被曝するが、しかしその評価を電力会社が行うことは「免除」する。このような欺瞞に満ちた「報告書」を、9月28日に原子炉安全基準専門部会がまとめ、原子力安全委員会に提出した。急きょ開かれた10月1日の安全委員会では、異例の委員長談話をつけて、この「報告書」に対し約1ヶ月間の「意見募集」を行うことを決定した。
この間まったく奇妙な経過をたどっている。関電は高浜プルサーマルについて、プルトニウム被曝の評価を行っていない。それを妥当と認めた通産省の判断は、「7月29日付専門部会報告書」に基づいていた。ところが、それは9月28日に作り変えられた。
この「報告書」に全国から批判と抗議の声を集中しよう。高浜プルサーマルに即して具体的にプルトニウム被曝の評価を行わせよう。関電に立地評価をやりなおさせよう。同時に、この欺瞞的な「報告書」の内容と地元住民の安全をないがしろにする国・関電の姿勢を、福井・福島の地元の人々に知らせていこう。これらを通じて、プルサーマルを阻止していく声を形成していこう。
幻の「7月報告書」で通産省承認?! 「報告書」をめぐる奇妙な経過 |
この「報告書」は、今年7月以来、10月1日に安全委員会が「意見募集」を決定するまで、まったく奇妙な経過をたどっている。当初、専門部会の「報告書」は、7月29日の安全基準専門部会で決定された。安全委員会委員長宛の文書まで確認し、安全委員会に提出することになっていた。 これを受けて関電は、8月6日に申請書の補充書を通産省に提出した。その中では、「7月29日付専門部会報告書」を引用し、それにしたがって「『プルトニウムめやす指針』の適用を行わない」と記載している。そして8月26日、通産省は関電の申請書を承認した。通産省もまた、「適用を行わないことを妥当と判断」するにあたって「7月29日付専門部会報告書」を「参考にした」ことを明記している。
ところが、9月28日の専門部会では、「7月報告書」に変わって、結論は同じであるが内容を大幅に書き直した新たな部会「報告書」がまとめられ(詳細は5頁参照)、こちらが正式な「報告書」となった。いったんは7月に「報告書」としてまとめられ、それをもとにして通産省の審査が行われたものが、実は現在は存在せず、新たな9月「報告書」となったのである。そしてそれが10月1日の安全委員会に提出され、11月2日までの「意見募集」となった。いったいこの7月から9月の間に何が起こったのか。現時点では、知ることはできない。明らかなことは、今となっては、関電・通産省が幻の「7月報告書」をもとにしたこと、さらにこの前代未聞の奇妙な経過そのものである。
安全委員会自からが安全審査を骨抜きに |
では「報告書」の内容をみてみよう。経過だけでなく、内容そのものも極めて奇妙である。
「報告書」はまず、「『プルトニウムめやす線量』の適用の考え方及び適用方法などについて検討するため、『プルトニウムを燃料とする原子炉』の範囲を・・・プルトニウムによる寄与が無視できない(5%程度以上)状態にある原子炉と定義する」と述べている。その場合、この寄与が50%もある高浜原発プルサーマルはもちろん、通常のウラン炉心までもが定義の範囲に入ることになる。
その上で、「そのような原子炉に対しては、・・・『プルトニウムめやす線量』を考慮して評価を行うこととしたが、『プルトニウムめやす線量』の実際の適用に関しては、・・・プルトニウムによる組織線量のめやす線量に対する比が他の核種によるそれと比較して一定の基準未満に留まることが分かれば、『プルトニウムめやす線量』を用いた被曝評価を行う必要はない」とし、その評価手法として「決定核種判別法」を「考案」したとする。そして、「このような原子炉については立地評価上プルトニウムの放出を想定した場合でも、ヨウ素による甲状腺に対する線量または希ガスなどによる全身に対する線量によって立地条件の適否を決めることができるので原子炉設置許可申請書(変更許可申請書を含む)及びその安全審査において、『プルトニウムめやす線量』を用いた被曝評価を行う必要はないと考える」としている。結局、55基の軽水炉でプルサーマルを実施しても「『プルトニウムめやす線量』を用いた被曝評価を行う必要はないが、高速増殖炉については行う必要がある」と結論づけている。
要するにどういうことなのか。一方では「プルトニウムめやす指針」を考慮して評価を行うとしながら、実際、申請の際には、評価しなくていいというのである(詳細は5頁参照)。
「報告書」は、プルサーマルが「もんじゅ」以上のプルトニウムを使用するという事実を認め、事故時のプルトニウム被曝を認めている。現に「報告書」は、プルトニウムの吸入量の推定値まで求めている。それにもかかわらず、「決定核種判別法」という手法を「考案」した結果、プルトニウム被曝の評価は必要ない。専門部会が55基全ての原発について一般的に考慮したので、電力会社が個別に「プルトニウムめやす指針」を適用して申請書を出す必要はないというのである。安全委員会がわざわざ、電力会社に対して、「プルトニウムめやす指針」の適用を免除してやるという。すなわち、電力会社の申請書をチェックするはずの安全委員会が、電力会社の手間をはぶき、プルサーマルの安全審査を簡略化するというのである。これが安全委員会のやることであろうか。本末転倒もはなはだしい。
そもそも、専門部会が「考案」したという手法(決定核種判別法)は、プルトニウムの被曝評価をヨウ素の被曝評価で肩代わりさせるというもの。すなわち、臓器ごとに被曝評価を行うというこれまでの立地評価に関する根本原則を、自ら放棄してしまっている。ヨウ素による甲状腺被曝、希ガスによる全身被曝、プルトニウムによる骨・肺・肝臓への被曝を区別するという根本原則を放棄して、ヨウ素を上回らなければ、プルトニウム被曝の評価は必要ないという。ヨウ素の毒性がプルトニウムの毒性を消し去ってくれるとでも言うのだろうか。
また、立地条件・気候条件等を具体的に考慮するという立地評価そのものの原則もかなぐり捨てている。これまで立地に際しては、各原発それぞれについて具体的な被曝評価がまがりなりにも義務づけられてきた。しかし、今回の「報告書」は、それらをかなぐり捨てて、炉型・出力などで区別したBWRについて4パターン、PWRについて3パターンの一般的基準をつくり、それで評価すれば十分だという。高浜原発がいったいどのパターンに属するのかすら明記していない。高浜の具体的地理条件・風速・風向き・人口分布等を考慮したプルトニウム被曝の評価を行わなければ何の意味もない。
「報告書」の基本的性格は、電力会社にプルトニウム被曝の評価を免除し、原子炉立地の根本原則を放棄し、安全委員会自らが安全審査を骨抜きにするところにある。
適用免除の本当の理由 |
なぜそうまでして、電力会社に対して「プルトニウムめやす指針」の適用を免除しようとするのか。指針を適用する場合と免除する場合で何がどう変わるのか。
適用する場合には、まず、8月26日の通産省の承認を撤回しなければならない。次に関電は、高浜プルサーマルに即して具体的にプルトニウム被曝の評価を行った申請書を出し直さなければならない。これだけでも来年4月から実施というタイムスケジュールは危うくなってしまう。
さらに関電は、「プルサーマルでは、これまでと違って事故時にプルトニウムが放出され、被曝します」、「プルトニウムで被曝しますがプルサーマルは安全です」と地元に対して説明しなければならない。その次には、一体どれだけのプルトニウム被曝が起こるのか、関電が出さざるを得ない過小評価の数字を巡って議論が起こる等々。「MOXはウラン燃料と同じなので安全」という自らの安全宣伝もほころび始める。
他方、指針の適用を免除されるとどうなるか。上記全てが免除され、「7月部会報告」を「9月部会報告」とする正誤表を提出するくらいで、安全審査は猛スピードで行われる。
「報告書」の狙いは、なんとしても早期にプルサーマルを実施させることである。その根拠・お墨付きを、今回の「報告書」で与えようとしている。しかしこのことは同時に、国・関電の弱点でもある。超猛毒のプルトニウムで被曝することをひた隠しにすることでしかプルサーマルを進めることができないという弱点である。高浜プルサーマルに即して具体的なプルトニウム被
曝の評価をやり直させよう。
「部会報告書」に批判と抗議の声を! |
電力会社に対しプルトニウム被曝の評価を免除し、立地審査の原則を放棄した「部会報告書」を認めることはできない。周りの人々に、欺瞞に満ちた「報告書」の内容と姿勢を暴露しよう。全国からこの「報告書」に批判と抗議の声を集中しよう。安全委員会に「報告書」を撤回するよう要求しよう。高浜プルサーマルに即したプルトニウム被曝の評価を行わさせよう。関電に立地評価そのものを一からやり直させよう。
同時に、「報告書」の内容とその姿勢を、福井・福島の地元の人々に知らせていこう。まずは、プルサーマルでプルトニウム被曝が起こることを訴えよう。関電の山手原子燃料副部長が福井新聞に投稿した「燃料の破壊が起こったとしてもプルトニウムは外に漏れないので安全です」は、「報告書」に照らしてもデタラメであることを訴えよう。さらに、電力会社に指針の適用を免除して自ら審査を骨抜きにする安全委員会の姿勢を、地元住民の安全をないがしろにする国・電力の姿勢を知らせていこう。
さらに、プルサーマルの安全審査全体を問題にしていこう。安全審査の問題点は、プルトニウム被曝の評価問題だけではない。被覆管の酸化による大LOCA時の燃料損傷の危険性(9頁参照)、高燃焼度MOXによる燃料破損の危険性等々、これまでになかった危険性が存在している。これらを全く考慮しない安全審査にけん制をかけていこう。
これらを通じて、プルサーマルの真の姿を広範に暴露・宣伝し、福井と関西の連帯した力で、高浜原発プルサーマルを阻止する声を形成していこう。