すれちがう恋
 すれちがう恋


僕は毎朝同じ車両の同じ場所に乗る。通学時間の1時間。
ラッシュの電車 調布駅で毎朝すれちがう女性。
行く方角が違う二人は、車窓越しに毎朝顔を合わせている。
彼女との間は約1メートル でも、その1メートルは
心を通わすには距離が有りすぎる。
名前も知らない窓越しの彼女に
いつしか僕は心を寄せるようになった。

たぶん彼女も僕に気が付いている でも、声を交わす事はない。
僕が微笑みかけると 彼女も微笑んでくれる。
何度かレポート用紙に 携帯の番号を書いて彼女に見せるけど
電話がかかってきたことはない。

卒業して銀行に就職した。新宿支店に配属になる。
学生の頃より20分はやい電車に乗るようになった。
彼女の顔を見なくなって1年
無我夢中で働く僕にとって1年は短かった。
いつしか、僕の背広姿も板に付いてきたようだ。

今朝は自宅から笹塚支店へ直接出張
いつもより10分遅く家を出た。
乗り換えるために明大前で特急電車をおりた。
向かいのホームには 僕を見てそっと微笑でいる彼女がいた。




この文章はフィクションであり、文中に登場する人物、団体などは
実際に存在するものとまったく関係がありません。
また、風景、建造物等現地の状況と異なっていることをご了承ください。

 

Copyright 1999 Hironao Mogi



2000/08/29 09:31:10;it9h-mg;RETR;ok;/homepage/tanpen3.htm