2001年(平成13年)12月3日



大麻取締法の運用の改善と改正を求める請願


請願人

〒185ー0021

東京都国分寺市南町3ー10ー26 ユアステージ国分寺503号
武蔵野共同法律事務所

電話042-325-1224、fax.042-325-1274
丸井 英弘(弁護士)



〒100ー8914

千代田区永田町2ー3ー1 総理官邸内閣府内

内閣総理大臣     小泉 純一郎   殿

〒100ー8045

千代田区霞ヶ関1ー2ー2 厚生労働省内
厚生労働大臣     坂口  力    殿






 私は、憲法第16条(請願権)「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。」及び請願法に基づき、以下の請願を行いまので、請願法第5条で「この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。」と規定しているとおりに、受理をした上で誠実に処理をするように申し入れます。
 なお、この請願権の行使は、憲法第12条「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」に基づくものであり、また私の1975年以降今日までの約27年間におよぶ大麻取締法違反事件の弁護活動における経験を踏まえたものであり、弁護士法第1条(弁護士の使命) 「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。2 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」に基づくものです。

請願の趣旨

第1。大麻の茎と種の活用を目的とする大麻栽培免許手続きの運用を改善すること。
 大麻取締法の上位法である1961年の麻薬に関する単一条約では園芸用と産業用の大麻の栽培などについては同条約の規制対象にしないとされているので、大麻の茎と種の活用を目的とする大麻の栽培免許については、免許の欠格事由のない場合には、原則的に認めるようにするように、大麻取締法の運用を改善すること。

第2。大麻の茎と種の有効利用とその普及に向けての研究開発を行政の政策として民間と協力して推進すること。

第3。野生大麻の有効利用を推進すること。
 現在日本特に、北海道には大量の野生化した大麻が毎年生育している。特に北海道に多くの野生大麻がはえているのは、明治政府が軍服やロープなどの軍需用の繊維を供給するために、国策として、大麻を栽培していた名残りといわれている。
 しかしながら、毎年大麻取り扱い者の免許なしに栽培された大麻や野生化している大麻は行政当局によって抜き取られ、焼却処分にされていますが、その数は、1998年時点で全国で約146万本にもなる。そして、そのように処分された大麻の91%は、北海道に存在している。
  この大量に存在する野生大麻を有効に利用することが、行政当局によって抜き取られ、焼却処分にするために使われている税金の有効な使い方の上でも、さらには、衣食住用の有用な資源としての大麻の有効利用という観点からも極めて大切である。
 
 なお、赤星 栄志 著「ヘンプがわかる55に質問」41頁では、大麻を種子用に1ha栽培した場合の種子と茎の収量を生産量および売り上げ高について次のように報告している。

種子の収量 1300kg
 種子(オイル)の生産量 500kg
  種子(オイル)売り上げ高 50万円
 種子(絞りカス)の生産量 760kg
  種子(絞りカス)の売り上げ高 30万円
茎の収量 14トン
 茎(麻炭)の生産量 560kg
  茎(麻炭)の売り上げ高 112万円

      


第4。個人的な使用目的での大麻の所持と栽培については、刑事罰の対象から除外するように、大麻取締法を改正すること。
 
第5。大麻の花穂と葉の医療用の使用を認めることができるように、大麻取締法を改正すること。  

請願の理由

目次
第1。大麻取締法の根本的問題点と日本人のアイデンティティ
1。大麻とは、縄文時代の古来から衣料用・食料用・紙用・医療用・儀式用に使われ、日本人に親しまれてきた麻のことであり、第二次大戦前はその栽培が国家によって奨励されてきたものである。
2。大麻とは、犯罪とは何か。大麻の取扱いは果たして刑事罰で取締るべきものなのか。
第2。大麻の有益性
第3。大麻の作用

1。大麻は薬理作用の上でも麻薬ではなく、社会的にも有害性はない。
2。大麻の作用に関する研究報告の紹介
第4。欧州の主な国の大麻政策
第5。大麻取締法の当否を根本から見直すべきである

第1。大麻取締法の根本的問題点と日本人のアイデンティティ
1。大麻とは、縄文時代の古来から衣料用・食料用・紙用・医療用・儀式用に使われ、日本人に親しまれてきた麻のことであり、第二次大戦前はその栽培が国家によって奨励されてきたものである。
 私の法律事務所は東京都国分寺市にあるが、国分寺は昔武蔵野国の時代に多麻と呼ばれた地域であって、麻の栽培が多く行なわれていたとのことであり、近くには多摩川が流れているが、多摩川とは麻が多く栽培されている川という意味で、多摩川べりには川崎市麻生区という地名も残っている程である。大麻つまり麻は武蔵野国の特産品であった歴史があり、調布という地名も麻布に関係しているものである。また私は名古屋で生れたが、私および三人の弟は麻模様の産着で育てられたのであり、大麻との強い縁を感じている。
京都にある麻製品を扱う「麻にこだわる麻の館、麻小路」という店のパンフレットでは次のように 云っており、麻がいかに素晴らしいものであるのかがわかる。

『魔除けの麻幸せを呼ぶ麻』
古来から「麻」は神聖なるものとして取り扱われてきました。今は、昔、天上より麻の
草木を伝って神々がこの地上に降り立たれたとされ、今日でも神社、社寺、仏閣で、特
に魔よけ、厄除け、おはらい等に種々用いられております。特に魔よけとして縁起物に
はよく使われております。「麻」の育成が素晴らしく速く、その成長が発展、拡大にも
つながり大きく根を張ることも含めて、商売繁盛、事業発展、子孫繁栄にも根を張ると
して、縁起物で重宝されております。事ある毎に「麻」にふれる機会の多い人ほど幸せ
であるといわれております。粋をつくした「麻製品」色々取揃えております。四季を通
じてお楽しみ下さい。』

 そもそも大麻とは神道において天照大神の御印とされ、日本人の魂であり、罪・けがれを払う神聖なものとされてきたのである。天照大神とは、生命の源である太陽すなわち大自然のエネルギーのことであり大麻はその大自然の太陽エネルギーを具体化したものであって、日本人の魂とは、麻に象徴される大自然のエネルギーのお陰で生かされているという心のあり方を云うのではないかと思う。大麻は天の岩戸開きの際にも使われているし、最近では新天皇の即位に際して行なわれた大嘗祭において新天皇が使用した着物も麻で織られているのである。この麻の着物は「あらたえ」と呼ばれているが、徳島県に住む古来から麻の栽培・管理をしてきた忌部氏の子孫によって献上されたものである。
 
 2600年前にかかれた旧聖書エゼキェル書でも主たる神創造主ヤーベの言葉として次のように述べており、麻の着物「あらたえ」を大嘗祭で天皇が使用したのと同様に、旧約聖書の世界でも麻の着物が神聖なものとされてきたことが明らかである。
『旧訳聖書』(日本聖書協会発行/p1213,p1214)
「しかし、サドクの子孫であるレビの祭司たち、すなわちイスラエルの人々が、私を捨て
て迷った時 に、わが聖所の務を守った者どもは、私に仕えるために近付き、脂肪と血
とを捧げるために、私の前に立てと、主たる神に云われる。すなわち彼らはわが聖所に
いり、わが台に近づいて私に仕え、私の務を守る。彼らが内庭の門に入る時は、麻の衣
服を着なければならない。内庭の門および宮の内で、務めをなす時は毛織物を身につけ
てはならない。また、頭には亜麻布の冠をつけ腰には、亜麻布のはかまをつけなければ
ならない。ただし、汗の出るような衣を身につけてはならない。彼らは外庭に出る時、
すなわち外庭に出て民に接する時は、務めをなす時の衣服は脱いで聖なる室に置き、ほ
かの衣服を着なければならない。これはその衣服を持って、その聖なることを民に移さ
ないためである。」

 このような罪・穢れを祓うとされた神聖なる大麻が、第二次大戦後の占領政策のもとで犯罪の対象物とされてしまったのである。
 占領政策の目的は、日本の古来の文化を否定し、アメリカ型の産業社会を作ることにあったと思われるが、日本人にとって罪・穢れを祓うものとされたきた大麻を犯罪として規制することは大麻に対する従来の価値観の完全なる否定であり、極めて重大なことであると思う。
 私は1944年(昭和19年)生まれであり、アメリカの影響を受けた戦後教育を受けたが、日本の良き伝統に対する教育を受けなかったために日本人としてのアイデンティティを充分に確立することができなかったように思う。
 日本は、明治維新によっていわゆる近代化の道を歩んだのであるが、特に第二次世界大戦は、戦後生活の建て直しということもあり、物中心の競争原理に立った経済活動を優先してきたと思う。また、生活習慣も、例えば、食生活が米からパンに変わり、畳の生活も椅子の生活に、薬の分野でもいわゆる化学的合成薬が取り入れられ、従来の東洋医学は軽視されてきたのである。大麻は薬用として何千年も使 用され、日本薬局方にも当初から有用な薬として登載されていたのかかわず、大麻取締法の施行に伴って薬局方から除外されてしまったのである。
 人間は、植物を初めとする自然の恵みの中で生かされているのであって、日本人の伝統の中には自然を聖なるものとして大切にしてきたものがあった。しかし経済復興の名のもとに、例えばダムの建設等自然生態系とそこに住む人々の生活を破壊する経済開発が国策として進められてきたために、川や海そして大気は汚染されてしまったのである。また、精神面でも、生活の中心が他者との競争関係に立った上での物質生活の確保にあったために、心の根底に不安感と孤独間を抱えたままの精神生活をしてきたと思う。
 「人はどこから来てどこへ行くのか」というのが人生の大問題であるが、どこからきたのかもわからずどこへ行くのかもわからないのでは人生の生きがいがわからないということになる。まさに「人はパンのみにては生きるにあらず」とは聖書の言葉であるが、この意味での人生に対する良き信念が、大自然との融合的生活という過去の良き日本の伝統が切断されたことによって、無くなってしまっ たのではないかと思う。
 大麻取締法は、日本人にとって、大自然のシンボルであり罪・穢れを祓うものとされてきた大麻を、聖なるものから犯罪にしたものであって、まさに日本人の精神を根底から否定するものである。それは例えば日本人に英語のみを話すことを強要するのと同様な日本文化の否定であり、さらに大麻の持つ産業用や医療用の有効利用を妨げるものである。

2。大麻とは、犯罪とは何か。大麻の取扱いは果たして刑事罰で取締るべきものなのか。
 大麻取締法は、大麻の取扱について免許制度を採用し、懲役刑という刑事罰でもって無免許の取扱を禁止している。大麻の取扱をなぜ禁止しているのか、つまり大麻取締法の目的について同法は何らの規定を置いていない。このように目的規定のない法律はそもそもその存在理由が不明確であるから、民主主義社会においては無効とされるべきであろう。
  厚生省や警察等取締り当局や裁判所は、大麻取締法の目的として、大麻の使用による国民の保健衛生上の危害の防止である」と説明している。しかしながら、「国民の保健衛生上の危害の防止」という抽象的な疑念を刑事罰の目的つまり法律で保護される利益(法律学上は保護法益といわれる)とすること自体、人権尊重を基本理念とする近代的法体系にはなじまないものである。刑事罰特に懲役刑は、人の意に反して身体の自由を束縛し、労働を強制するのであるから、それを課される者にとっては、人権侵害そのものであるので、刑事罰の適用は必要かつ最小限にするべきである。
 大麻の使用が、どのような保健衛生上の危害を生じるのかについて、過去の裁判所の判例は、大麻には向精神作用があり、精神異常や幻覚が生じるとしているが、そこでいう精神異常や幻覚の内容については、例えば時間感覚がゆったりする、味覚・聴覚・視覚などの感覚が敏感になる(つまりよくなる)ということであって、刑事罰でもって取締らなければならない反社会的な犯罪行為とはまったく云えないものである。
 向精神作用自体が危険であり、犯罪であるとすれば、アルコールの有する向精神作用(いわゆる酔いの作用)は大麻と比べ格段に強いものでありアルコールを大麻以上に厳しく取締らなければならなくなる。
 また、そもそも人間は自らの体内で向精神作用を有する神経伝達物質を生産するのであ
り、例えば何かに集中したり、恋愛中であったり、また、大麻取締法違反等刑事事件で逮捕されたりしてショックを受けるとアドレナリンやドーパミン等いわゆる脳内麻薬と呼ばれる神経伝達物質を生産するのである。逮捕されること自体が神経伝達物質を生じさせるのであるから、大麻取締法そのものが、保健衛生上有害といえるのであって取締りの対象にしければならなくなってしまうのである。
 そして判例で、大麻使用の危険性として具体的に指摘しているのは、自動車の運転のみである。しかし、道路交通法では、アルコールも含めた大麻など薬物の影響下で車を運転することを刑事罰で規制しており、また大麻の中毒者は運転免許の欠格事由とされているのであるから、この規制に加え、大麻の取扱を一率に刑事罰でもって禁止することは、ただ単に犯罪者の数を増やすだけである。
 私は、過去27年間もの間大麻取締法違反事件の弁護活動を通じて、多くの大麻使用経験者に出会ったが、大麻の向精神作用は心身がリラックスすること、味覚・聴覚・など感覚が良くなること程度であり、具体的な弊害は発見できなかった(後程大麻に関する研究報告を紹介するが同様の内容である)。
 大麻使用の経験者には実質的にみて悪いことをしているという意識はな く、大麻取締法という法律に対し実質的権威を感じるものは皆無である。むしろ問題なのは、実質的な権威のない法律の存在によって司法に対する信頼感が喪失し、法治主義の基盤が崩壊することである。
 
第2。大麻の有益性
 大麻は、有害どころか、次に述べるように、人類に対し精神的にも肉体的にも有益である。
 このような有益な大麻は、規制するどころか第二次大戦前の日本の様に、その栽培を奨励することが必要ではないかと思われる。それが農業の活性化と熱帯林の伐採の禁止や空気の浄化さらには温暖化対策(大麻には、木と同等以上の炭酸同化作用がありうる。)にもつながる可能性があるのではないかと思われる。
 現在、大麻の茎と種の活用を目的とする大麻の栽培免許についても、免許の欠格事由がないにもかかわらず、各都道府県の大麻栽培免許の担当当局は、社会的必要性がないなどとして、簡単に大麻の栽培免許を出さない状況である。さらに、現行の大麻取締法では医療用の大麻の使用が認められていない。また、個人的使用目的で大麻を栽培したり所持したことに対しても、誰も被害者がいないのにもかかわらず、人を傷つけたのと同様な重大犯罪扱いとして取り扱われている。
 そこで、当面の政策としては、請願の趣旨で述べたような現行大麻取締法の運用の改善と法改正の提案をするものである。

1。人類がこの地球で生きていくために必要な燃料を生産できる。大麻の茎や葉を発酵させるとエタノールやメタンガスなどの燃料が生成されるが、それは石油や原子力に替わるエネルギー源になりうる。

2。環境上安全な紙や建築材料が生産でき、森林を守ることができ地球温暖化対策にも有効である。
 大麻の茎に含まれるセルロースを原料として有機塩素による漂白を必要しない紙が作れる。なお、今から1200年程前の西暦770年頃に中国で作られた仏典は麻から出来ているし、 アメリカなどでは国旗や紙幣が麻の茎から作られた。
 大麻の生育期間は木に比べて非常に早く半年程度であるので、大麻から紙や建築材料を生産すれば永続可能な状態で原料の供給ができ、森林伐採をする必要がなくなり、地球の緑を守ることが可能である。その結果、地球温暖化対策にも有効である。

3。環境上安全な生分解性のプラスチックが生産できる。麻の茎に含まれているセルロースを原料として自然に土に分解するプラスチックが生産できる。石油からできるプラスチックの場合には、土に分解せずまた燃焼するとダイオキシンなどが含まれている有毒ガスを発生する可能性があるので、現在深刻な環境問題になっているが、この問題を解決できる。

4。麻の種は、栄養食品として極めて価値が高い。
 現代食は、@脂肪の量の増加A脂肪の質の低下B必須脂肪酸のバランスの崩れC植物繊維の不足などにより、生活習慣病(便秘、肥満、高血圧、高脂血、糖尿、ガンなど)の原因になっている。しかし、麻の実はこの様な食生活を改善することができる。
 なお、私が住んでいる国分寺地域は、古くから多摩と呼ばれる地域ですが、多摩という呼び方は、麻が多く栽培されてきたことからつけられたものです。多摩川の流域には麻生という場所も残っています。(以下の記述は、「麻の実クッキング〜21世紀を拓く自然の恵み〜」著者赤星栄志の8頁から27頁を参考にしました。)

@良質なタンパク質で必須アミノ酸をすべて含む。
 人体が必要とする9つの必須アミノ酸を十分に理想的な割合で含んでおり、大豆よりよい栄養価をもっているといわれている。
A植物油で最も必須脂肪酸が多い麻実油(おのみゆ)
人体にとって極めて大切な必須脂肪酸はリノール酸とαーリノール酸であるが、これらは体内で合成することが不可能なので食事から採らなければならない。麻の実の重量の30%から35%は、麻実油(おのみゆ)と呼ばれる脂肪油である。麻実油は、植物油の中で必須脂肪酸の割合が80%と最も高く、しかもそのリノール酸とαーリノール酸のバランスが3対1と理想的な割合で含んでいる。
B食物繊維が豊富。
 麻の実は、古くから血糖降下作用、潤腸通便作用が高い漢方薬として使われてきました。麻の実には、食物繊維が約23%含まれている。
 食物繊維は、「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性の炭水化物」と定義され、老化抑制や、ガンの予防にも効果があるとされている。そのため、5大栄養素である糖質(炭水化物)、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルに加えて、食物繊維を第6の栄養素という。一日最低17gの摂取が必要とされ、最近問題になっている生活習慣病の予防のためには一日30g以上が必要といわれている。
 食物繊維の働きは、次のとおりです、
  ^カロリーの取り過ぎを防ぎ、コレステロールなどの余分な吸収を防ぐ。
  _血糖のコントロールを助ける。
  `よい腸内細菌が住みやすい環境を作る。
C通便を助ける。
Cミネラルとビタミンがバランスよく含まれている。
 麻の実のミネラル分には、骨や歯の形成と成長に欠かせない「マグネシウム」、「リン」、「カルシウム」、が多く含まれている。また、血液中のヘモグロビンの構成成分であり、酸素の運搬に重要な「鉄」やヘモフロビンの合成や骨や血管壁を強化する「銅」も多く含まれている。そのため、麻の実は、貧血の90%の原因になっている鉄欠乏に非常に有効であるといわれている。さらに味覚異常や生殖能力に関係が深い「亜鉛」も含まれている。
 ビタミンとは、動物の生理機能を調整する働きともつ微量の有機化合物の総称で、体内で合成することができず栄養素として食物から摂取しなければならないものです。ビタミンは、体内の生理作用を調整する潤滑油としての役割だけで無く、生活習慣病や老化の予防、細胞のガン化抑制物質として高い評価をされている。麻の実には、活性酸素から体を守って老化を防ぎ、また血栓の予防や治療に効果があり、さらに最近の研究ではアルツハイマー病で脳細胞が死滅していくのを抑制する効果があることがわかってきた「ビタミンE」、赤血球や細胞の新生に不可欠な「葉酸」が多く含まれています。

 種子(麻の実)の100グラムあたりの食品成分表を参考までに紹介します。

     出所「四訂 食品成分表」女子栄養大学出版部
エネルギー  469kcal     マグネシウム 640mg
水分    5.9g            鉄    13.1mg
タンパク質 29.5g           銅   390マイクロg
脂質     27.9g           亜鉛   6000マイクロg
糖質     9.2g      ビタミンA効力    11 IU
繊維    22.1g     ビタミンAカロチン   20マイクロg
灰分     5.4g      ビタミンB1     0.35mg
カルシウム 130mg      ビタミンB2    0.19mg
リン     1100mg     ナイアシン  2.3mg
ナトリウム  2mg

5。医薬品として利用できる。大麻取締法では禁止しているが、麻の葉や花穂は副作用が大変少ない喘息や痛み止め・不眠症などの医薬品として過去何千年も中 国、インド、アラブ、アフリカ地方さらには日本で使われてきた。
 1895年(明治二八年)12月17日の毎日新聞には次のような広告が載った程である。
「 ぜんそくたばこ印度大麻煙草」として「本剤はぜんそくを発したる時軽症は1本、重症 は2本を常の巻煙草の如く吸う時は即時に全治し毫も身体に害なく抑も喘息を医するの 療法に就いて此煙剤の特効且つ適切は既に欧亜医学士諸大家の確論なり。」(小林司著『心に働く薬たち』192頁、発行株式会社筑摩書房)
 なお、「印度大麻草」および「印度大麻草エキス」は、1886年に公布された日本薬局方に「鎮痛、鎮静もしくは催眠剤」として収載され、さらに、1906年の第3改正で「印度大麻草チンキ」が追加収載された。これらは、1951年の第5改正日本薬局方まで収載されていたが、第6改正日本薬局方において削除された。また、種に含まれているオイルには健康に有用なものが含まれておりさらに皮膚に対する浸透力もいいので、マッサージオイルとしても大変有用である。

第3。大麻の作用
1。大麻は薬理作用の上でも麻薬ではなく、社会的にも有害性はない。
  麻薬という言葉は、1924年(大正4年)にジュネーブで締結されたアヘン条約の批准に伴い、国内法令としての内務省例7号「麻薬取締規則」が昭和5年に制定された際にできた言葉であって当事業界紙で麻薬とは何だと騒がれたそうである。当時日本では問題になっていたのは、アヘン(その原料はケシ)、ヘロイン等のアヘン系薬物であり、「アヘン類似品」「麻酔薬」「危険薬品」という名称も使われていたのであって、「麻薬」という言葉は「麻酔薬」からでてきたものと思われる。
 つまり「麻薬」の「麻」はアヘン系薬物の「麻酔薬」の「麻」のことであり、「大麻」の「麻」は「アサ」のことであって両者は何の関係もないのである。
 さらに麻薬の薬理学的定義からしても、大麻は麻薬ではない。
 麻薬を薬理的・社会的に定義すれば次の様にいいうるであろう。
 「強い精神的および肉体的依存と使用量を増加する耐性傾向があって、その使用を中止すると禁断症状が起り、精神及び身体に障害を与え、さらには種々の犯罪を誘発する様な薬物」
 しかしながら、大麻は薬理的にも社会的にも麻薬では決してなく、また汚染と評価されるような有害なものではない。
 大麻が薬理作用の上でも麻薬ではないことは、医学博士の小林司氏が「心にはたらく薬たち」の3頁のまえがきで、「大麻(マリファナ)が麻薬だと誤解している人も多い。こんな人たちの疑問に答えたいと思って、私はこの本を書いた。」で指摘されているとおりである。
 この見解は医学者の常識であり、「マリファナ」レスター・グリンスプーン、ジェームズ・バカラー著 青土社発行の帯では、次の様にこの本(以下本書という)を紹介している。
 「それでも マリファナは麻薬なのか?  医師としての厳正な目でマリファナの薬理を分析し、マリファナが安全な鎮吐・鎮静剤であり、ガン治療の副作用の緩和、緑内障の進行の抑止、アトピー性皮膚炎の治療などに著しい効果の認められる優れた医薬であることを実証して、その豊かな可能性を告げる、衝撃のドキュメント。」
 そして、著者のグリンスプーン医学博士は本書のまえがきで次のように述べている。
「1967年にマリファナの研究に手を染めたとき、マリファナが有害な麻薬であって、多くの愚かな若者たちがその害にたいする警告に耳を傾けようとしない、あるいは、それを理解できないでいるのは不幸なことであるという考え方について、私はいささかの疑念ももちあわせていなかった。私は、科学や薬学の専門家の文献や、そうした専門知識をもちあわせていない人たちの手になった文献を詳しく調べていったのだが、3年も経たないうちに私の考えは変わりはじめた。アメリカに住んでいる多くの人たちと同じように、私もまた洗脳されていたのだという事実を理解するにいたったのである」
 本書は1993年にYale University Pressより出版された「Marihuana,theForbidden Medicine」の翻訳書である。本書はマリファナすなわち「大麻の薬効」について書かれたものであり、その歴史や、大麻を使った場合の利益と危険の比較考量、医薬品としての過去と、将来についての可能性を、患者や医師の体験談を交えながら詳しく説明している。
 著者の医学博士レスター・グリンスプーン氏は、ハーバード医科大学精神医学科准教授であり、マリファナ研究の第一人者として広く知られている。特に1971年に出版された著書「マリファナ再考 (Marihuana Reconsidered)」は全米でベストセラーを記録し、マリファナの医学的、精神学的、社会的、人類学的要素、そして法律的な側面をとらえた最も権威のある研究であると高い評価を得ている。1977年に改訂され後、本書の出版に続いて191994年に第三版が出ている。
共著者のジェームズ・バカラー氏もまた、ハーバード医科大学精神医学科の教師であり、「ハーバード・メンタル・ヘルス・レター」編集委員を務めている。グリンスプーン氏とともにマリファナをはじめとする「精神変容ドラッグ」の研究に従事しており、二人の共著には「サイケデリック・ドラッグ再考(Psychedelic Drugs Reconsidered)」、「コカインとその社会的変遷(Cocaine: A Drug andIts Social Evolution)」、「「自由社会におけるドラッグ管理(Drug Control in a Free Society)」などがある。

2。大麻の作用に関する研究報告の紹介
^ ラ・ガーデア報告
 1938年9月13日ニューヨーク市における大麻問題について、当時の市長フィヨレロ・ラ・ガーディアが、ニューヨーク医学アカデミーに対して、ニューヨーク市における大麻問題について科学的、ならびに社会学的な研究を置くなうように、要請した。そこで、薬理学・心理学・社会学・生理学などの権威者たち二〇人が参加して『ラ・ガーディア委員会』が作られ、さらに警官六人が常勤者としてこれを助けて、系統的な大麻研究がおこなわれた。そして、1040年4月から41年にかけての研究の結果が1944年に発表された。そこでは、次のような結論が出されている。
 
  @大麻常用者は、親しみやすくて、社交的な性格であり、攻撃的とか、好戦的には見えないのが普通である。
  A犯罪と大麻使用との間には、直接の相関関係がない。
  B性欲を特別に高めるような興奮作用はない。
  C大麻喫煙を突然中止しても、禁断症状を起こさない。
  D嗜癖を起こす薬ではない。
  E数年に渡って大麻を常用しても、精神的・肉体的に機能が落ちることはない。
(小林司著『心に働く薬たち』172〜173頁参照)
 
_ インド大麻薬物委員会報告
 1893年から1895年にかけて行なわれたイギリス政府のインド大麻薬物委員会の報告は、全巻、3、698ページからなっており、現在までに行われた大麻の研究の中でも群を抜いて完全で組織的なものである、といわれている。
 アメリカ政府の国立精神衛生研究所の主任研究員で臨床医でもあるトッド・ミクリヤ医学博士は次のように指摘されている。
 すなわち、「その内容の稀少性、そして多分その恐るべき膨大な規模のため、同報告の貴重な情報は、この問題に関する現代の文献の中に取入れられていない。これは実に不幸なことだ。というのも、今日アメリカで議論されている大麻に関する論争の多くは、このインド大麻薬物委員会の報告にすでに記述されているからだ。 
 イギリス人植民地官僚による文書の、時の流れにも色あせない明晰性に驚嘆するとともに、その努力を評価したい。もし現代において、この報告の中で実現されているような厳密さと全般的な客観性の基準に達する諸研究グループが出来るなら、どんなに幸いなことだろう。」
 そして、この委員会の報告は、結論として次のように述べている。以下は、ミクリヤ医学博士がまとめられた論文の訳である。
 『委員会は、大麻に帰せられる影響に関して、全ての証拠を調べた。その根拠と結論を簡潔に要約するのがいいだろう。時々の適量の大麻使用は有益であるということがはっきりと確証された。しかしこの使用は薬用効果として考えられている。委員会が今、注意を限定しようとしているのは、むしろ大麻の通俗的で一般的な使用である。
 その効果を、身体的・精神的・または倫理的種類の影響に分けて考察すると便利である。

 身体的影響
身体的影響に関して言えば、委員会は、大麻の適量の使用は実際上有害な結果を全く伴わないという結論に達した。中には特異体質が原因で、適量の使用ですら有害になる例外的なケースもあるかもしれない。恐らく例外的な過敏者の場合、いかなる物の使用も有害でないとはいえないのだ。また特別に厳しい風土や激しい労働と長時間太陽にさらされているような環境においては、人々が有益な効果を大麻の習慣的な適度の使用のためだと考えているケースも数多くあり、この一般の考えが事実に基づいたある根拠を持っていることを示す証拠がある。一般的に言って委員会の見解では、大麻の適度の使用はどんな種類の身体的な害の原因ともならない。しかし、過度に使用すれば害を生じさせる。他の陶酔物のケースについてと同様、過度の使用は体質を弱める傾向があり、また使用者をより病気にかかりやすくさせる。かなりの証人達によって、大麻が原因だとされている特定の病気についても、過度の使用によってもぜんそくを生じさせないことがわかった。ただし、前述したように、体質を弱めることによって間接的に赤痢を生じさせるかもしれない。そしてまた、主に煙を吸込む行為によって気管支炎を生じさせうるということもあるかもしれない。

 精神的影響
 大麻の精神的影響と言われているものに関して、委員会は、大麻の適度の使用は精神に有害な影響を与えないという結論に達した。ただし、特に著しい神経過敏な特異体質のケースでは、適度な使用の場合でも精神的損傷がもたらされることはある。というのは、このようなケースでは、ごくわずかの精神的刺激や興奮がそのような影響を及ぼすことがあるからだ。しかしこれらの極めて例外的なケースを別にして、大麻の適度な使用は精神的な損傷をもたらさない。これは過度の使用の場合とは異なっている。過度の使用は精神的な不安定の兆しを示し、それを強化する。

 倫理的影響
 大麻の倫理的影響に関する委員会の見解によると、その適度の使用はいかなる倫理的損傷ももたらさない。使用者の人格に有害な影響を与えると信じるに足る妥当な根拠は存在しない。他方で過度の消費は、倫理的な弱さや堕落の兆しを示し、強める。

  討  議
 被験者を全体的に観察してみると、通常これらの薬物の使用は度を過ごすことはなく、極端な使用は比較的少ないということを付け加えておくべきだろう。実際上、適度な使用は有害な結果を生み出すことは全くない。最も例外的な場合を除けば、適度な使用を常習的に続けても悪影響が出るいうことは認められない。
 過度に使用した場合でも、はっきりした悪影響が認められない場合が多くあるが、そうした使用はかなり危険だということをやはり認識すべきだろう。しかし、過度の使用が引き起こす悪影響はほぼ例外なく使用者自身に限られており、社会に対する影響を認識することはほとんどできない。大麻の影響を観察することがほとんどできなかったということが、今回の調査の最もはっきりした特色である。社会の各層から選ばれた人達の多くが大麻の影響を見たことが全くないと証言していること、そうした影響をきちんと説明できるほど記憶がはっきりしている者の数が非常に少ないこと、影響が認められるといわれたケースを調べてみると、直ちにそうでないことが判る場合が非常に多いこと、これらの事実を総合してみると大麻が社会に及ぼす影響はほとんどなかったということを最もはっきりと示している。」

 更に、大麻の管理政策のあり方について、次のような、貴重な提言をしている。
『インド大麻薬物委員会は、薬物規制政策における政府の役割に関して、哲学的または倫理的観点からの考察をふまえて、正面から取り組んだ。そして、薬物取締り法は、贅沢取締り法として位置づけられ、その実施の可能性と個人及び社会への影響という観点から考察された。 ある著名な歴史家(脚注:J・A・フロウドの英国史、第二版、第一章五七ページ)は「いかなる法も、一般大衆の実用レベルの上にあっては何ら役にたたず、そうした法律が人間生活の中に入り込めば入り込むほど、違反の機会が増える」と述べている。こうした表現が封建制度下の英国で真実であるならば、今日の英領インドにおいては更に真実となる。この国の政府は内なる勢力からうまれたものではなく、上から与えられたものであって、こうした父子主義に基づく政治制度は、世論が形成される過程や国民のニーズが年々はっきりと表されるようになってくると、全く観念的なものになってしまう。父子主義は一六世紀の英国や、インドのある地方における併合直後の初期の開発段階においてはふさわしいものであったといえるだろう。もちろんインドの立法府においても、幼児殺しやヒンズーの寡婦を火あぶりにする習慣に関する法律に見られるように、一般的には受入れられない倫理基準を時として予想することがあっただろう。しかし、こうした法案は、政府の影響力の及ぶ事情において倫理に関する一般の考え方をどうしても変えなければならないという感覚と、時間の経過とともにこうした法案が社会の知識人から同意を得られるという確信から議会を通過してしまった。ミルはその「政治経済学」の中の一章で不干渉の原則を論じているが、それによると政府の干渉には二つのタイプがあるという。即ち、権力による干渉と勧告または情報の公表による干渉である。前者のタイプの干渉については、次のような所見が述べられた。即わち、「権力による干渉は、もう一方のそれと比べて合法的行為の範囲が非常に限られていることは、一見して明らかだ。如何なる場合においても、権力による干渉はそれを正当化する必要性が権力によらない干渉に比べより強くあるし、また人間生活においてはそうした干渉をしてはならないところが多くある。社会の団結に関していかなる理論を取ろうと、またどんな政治制度のもとで生活しようとも、いかなる政府も、それが超人間的存在のものであれ、選ばれた者のものであれ、一般人のものであれ、絶対に踏込んではならない部分が人間一人一人のまわりに存在する。思慮分別ができる年齢に達した人間の生活には、いかなる個人または集団からも支配されない部分がある。人間の自由や尊厳に全然敬意を払わない者が投げかける疑問などを相手にしない部分が人間の存在の中にはあり、またなければならない。要は、どこにそうした制限を置くかということだ。自由に確保されるべき領域は、人間生活のどれほど広い分野を占めるべきなのか。その領域は、個人の内面であれ外面であれ、その人の人生にかかわる全ての分野を含み、個人への影響は、規範や倫理的影響を通してのみにするべきだ、と私は理解している。
 特に内的意識の領域、つまり思考・感情・ものの善悪・望ましいものと軽蔑するものとに対する価値観に関しては、それを法的強制力か単に事実上の手段によるかは別にして、他者に押し付けない、という原則が大切だと私は思う。そして例外的に他者の内的意識や行動を規制する場合には、立証責任は常に規制を主張する側にある。また個人の自由に法律が介入することを正当化する事実は、単なる推定上のものであってはならない。自分がやりたいと考えていることが押えられたり、何が望ましいのかという自分の判断と逆の行動をとることを強いられたりすることは、面倒なことだけではなく、人間の肉体または精神の機能の発達を、感覚的あるいは実際的な部分にかかわらず、常に停止させる傾向がある。
各個人の良心が法的規制から自由にならなければ、それは多かれすくなかれ奴隷制度への堕落に荷担することになる。絶対に必要なもの以外の規制は、それを正当化することはほとんどない」この言及を長々と引用した理由は、この見解が、政府が大麻薬物を強権をもって禁止すべきか否かを決定するための指導原則をはっきりと説明していると、本委員会が信ずるからである。』
 
 私も、大麻規制のあり方としては、このインド大麻薬物委員会つまり、ミルの見解は、日本国憲法の基本精神と同じであり、それを具体的に表現したのが、第13条の幸福追求権であると考える。なお、インド大麻薬物委員会は、薬物(具体的には、大麻のことであるが)の使用を贅沢と位置付けているが、この贅沢という意味は、精神的幸福感という意味である。
従って、大麻規制のあり方としては、ミルのいう政府の干渉の二つのタイプのうち、強制的な権力による干渉ではなく、勧告または、情報の公開という方法が、日本国憲法の趣旨に合致するのであり、現行の懲役刑という大麻の規制方法は、国民の幸福追求権を否定し、、更には、自由な精神のありかたすなわち、思想・良心の自由を否定するものである。

` WHOのレポート(No.478、1971年)
このレポートは、1970年12月8日から14日まで11人の世界的な専門家が討議のうえ作成したものである。そこでは、大麻の作用について、次のように報告されている。
@ 大麻を使っていると、それが飛び石になって、ヘロインその他の薬の中毒に移っていくという説 踏み石理論)は、確かでない。なお、この踏み石理論は、アメリカで、禁酒法時代に、アルコールを取り締まる根拠として、詰まり、アルコールが、ヘロインなどの薬物中毒の原因になるとして、主張された理論である。
A 奇形の発生はない。
B 凶暴な衝動的行動は、稀である。
C 犯罪と大麻の因果関係は、立証されていない。
D 耐性の上昇、すなわち、同じ効果を得るのに必要な使用量の上昇は、ほとんど見られない。
E 身体的依存すなわち、その使用を止めると、汗が出るなどの禁断症状はない。
F 多くの常用者には、精神的依存が見られる。しかし、この精神的依存いうことは、例えば、珈琲や煙草、お酒、さらには、お菓子が好きな人が、また、飮みたいなとか、食べたいなと感じる気持ちのことであって、大麻だけの特徴ではないし、格別、刑事罰を持って規制しなければならない作用ではない。かりに、この精神的依存性が、刑罰を科する根拠にされることがあれば、例えば、ご飯が好きな人は、ご飯に精神的に依存しているということになり、ご飯禁止法を作らなければならないことになってしまうのであり、この考えが、極めて不合理なことは、明らかである。(小林司氏『心に働く薬たち』180〜181頁参照)

a大麻と薬物の乱用に関する全米委員会報告
ニクソン大統領は、1971年に前年に議会を通過した薬物規制法に基ずき前ペンシルベニア州知事のロイヤルド シェイファを委員長とする大麻と薬物の乱用に関する委員会を設置した。この委員会は、保守派といわれる13人の委員によって、構成されており、1年に及ぶ調査の後、1972年3月に『マリファナ:誤解の兆し』と題するレポートを発表し、更に1973年には、最初のレポートと結論を同じくする最終報告を提出した。この報告の結論であるが、生田典久氏が、ジュリストのNo.654の42〜43頁で、次のように簡潔にまとめられている。
  
@大麻には、耽溺性がない。
A大麻使用と犯罪またはその他の反社会的行動との関連性はない。
B大麻使用は、ヘロインなど危険な薬物への足掛かりにもならない。
C長期間の大麻常用者には、ある程度の耐性が生じることがあり得るが、その程度は、煙草以上のものではない。
D大麻の使用者も大麻自体も公衆の安全に対して、危険な存在を成しているとはいえない。

b フランス国立保健医療研究所の報告
 1998年6月17日付けパリ発の 共同通信ニュース速報 では、「 題名 : 酒、たばこは大麻より危険  仏研究所が調査報告」との見出しで次のように報じている。
 『十七日付のフランス紙ルモンドは、国立保健医療研究所のベルナールピエール・ロック教授のグループがこのほど、アルコールやたばこは大麻より危険だとの研究報告をまとめた、と一面トップで報じた。
 同紙によると、これは「麻薬の危険度調査」で、調査対象の各薬物について「身体的依存性」「精神的依存性」「神経への毒性」「社会的危険性」など各項目ごとに調査した。
 その結果、アルコールはいずれの項目でも危険度が高く、ヘロインやコカインと並ぶ最も危険な薬物と位置付けられた。たばこは鎮静剤や幻覚剤などと並んで、二番目に危険度の高いグループ。大麻は依存性や毒性が低く、最も危険度の小さい三番目のグループに入った。
 調査は、フランスのクシュネル保健担当相の指示で実施された。同紙は「この研究結果は、ソフト・ドラッグ(中毒性の少ない麻薬)消費の合法化の是非をめぐる論争に火を付けるだろう」と報じている。』

c米国立保健研究所(NIH)と米科学アカデミーの報告
 1999年5月22日付けの朝日新聞は、次のように報じている。
「米政府は21日、マリファナを医療研究用に販売するためのガイドラインを発表した。マリファナは、エイズやがんの痛みなどにも有効とされ研究者は研究目的が承認されれば、購入することができるようになる。入手を容易して研究を進めるのがねらいだ。ガイドラインの発効は12月で、価格は未定という。マリファナは、カルフォルニア州など数州などは医療用の使用を認めているが、連邦法は禁じている。これまでは厚生省の厳重な管理の下、ミシシッピ大学で栽培され、連邦政府の予算で研究が認められてた研究者に無料で配付されてきた。今後は身元のはっきりした研究者であれば、購入できる。マリファナの有効性については、米国立保健研究所(NIH)が1997年8月米科学アカデミーが今年3月、エイズやがんに伴う痛みなど、ほかに治療法がないような症状に対して効果があり、かつ目立った依存性もないとの報告をまとめている。医療用のマリファナは、患者団体や研究者から解禁を求める声が出る一方、乱用のおそれもあるとして、議論の的になっており、政府は慎重な態度をとってきた。」

第4。欧州の主な国の大麻政策
  朝日新聞2001年3月27日国際版では、『 大麻 欧州「容認」へ傾斜 』と題して、次のように欧州の主な国の大麻政策を紹介している。
 日本国憲法は基本的人権の保障を基本理念とするものであり、大麻政策においてもオランダを初めとする欧州諸国の政策こそがこの憲法の理念に合致するものである。

オランダ
 1976年に薬物法を改正し、社会が看過できない危険があるヘロインやコカインなどの麻薬と大麻を区別。18歳以上の30g未満の大麻所持は訴追されない。
コーヒーショップでの大麻販売は、下記などの条件を満たせば認められる。
1) 1回の販売量が5g以下。
2) 18歳未満への販売禁止。
3) 公共の秩序を乱さない。

デンマーク
 少量の大麻所持については警告のみで対応するよう、検察長官が警察に勧告。

ドイツ
 すべての麻薬の少量所持は、下記などの条件をみたせば訴追を免れる。一部の州では販売を容認。
▼第三者に迷惑をかけない。
▼未成年者が関与しない。
▼個人使用目的である。

スペイン
 公共の場などでの個人使用は罰金の対象だが、実際はほとんど取締は行われていない。

フランス
 1999年、個人使用は訴追しない方針を政府が発表。

イタリア
 1回目は勧告、2回目以降は運転免許証没収など行政罰だが、実際はほとんど適用されていない。

ポルトガル
 2001年1月、法改正案が議会を通過。すべての麻薬の個人使用を罰則の対象としない代わりに、麻薬使用者は依存症の程度に応じて治療を受ける義務を負う。

英 国
 少量使用は警告か罰金刑。
 政府は最近、大麻使用者が雇用主に警告を犯歴として報告する義務を廃止すると発表。

スイス
 個人使用容認へ政府が法改正案を提出。

 なお、英国の大麻所持に関する政策について、「英国ニュースダイジェスト」2001年11月1日では、次のように報道している。

大麻「所持」はOK。 内相、規制緩和案を発表。
 ブランケット内相は10月23日、下院の内政問題特別委員会で、大麻使用の規制を緩和する法改正案を発表した。同案が成立すれば、大麻所持が発覚しても、ほとんどの場合逮捕されなくなる。
警察が、麻薬の中でも比較的害の少ない大麻の取り締まりに時間と労力を奪われている現状を是正し、より有害なヘロインやコカインの取り締まりに重点を置けるようにするための措置。
 英国では法律で、危険度によって麻薬が3段階に分類されている。改正案は、危険度「中」にあたる「クラスB」に分類されている大麻を、ステロイド剤やバリウムと同じ「クラスC」に格下げするもの。これにより、自らが使用するために持っている場合は、大麻所持が見つかっても逮捕されず、ほとんどの場合、警告を受けるだけになる。他人への提供、売買、またはその目的のために所持している場合は逮捕されることもある。
 今後、同案を検討し、国会での審議を経て来春にも法改正する見通し。

 同内相はまた、現在行っている臨床テストが成功すれば、多発性硬化症(MS)などの病気の治療に大麻を基に製造した薬を処方できるよう法改正すると示唆した。」

第5。大麻取締法の当否を根本から見直すべきである
 
米軍による軍事占領下の1948年に大麻取締法が制定されてから今年ですでに53年経過した。大麻取締法の当否を根本からみなおすべき時期に来ていると考える。
 私は、大分県日田郡大山町小切畑で大麻すなわち麻の栽培をしている矢幡左右見さんが 96年6月26日、文化財保存技術保持者として文部大臣から認定を受けたことを、大山町のホーム頁でみつけたが、その記事の要約は次のとおりである。このように、大麻の栽培者が文化財保存技術保持者として文部大臣から認定を受けているのであり、大麻すなわち麻を犯罪として取り締まることが不適切であることは、明白である。
 『 矢幡さんは、昭和6年に栽培を始め、49年から福岡県久留米市の久留米絣(かすり)技術保存会から正式な依頼を受けて粗苧の製造 を始めました。以来、矢幡さんは毎年、粗苧20Kgを出荷しています。粗苧(あらそ)とは、畑に栽培され、高さ2メートルに成長した麻を夏期(7月中旬頃)に収穫して葉を落とし、約3時間半かけて蒸し、さらにそぎ取った表皮を天日で一日半ほど乾燥 させて、ひも状にしたものです。粗苧は、国の重要無形文化財である「久留米絣」の絣糸の染色の際の防染用材として使われ、久留米絣の絣模様を出すためには欠かせないものです。しかし、栽培・管理の手間に比べて利益率が低いことから生産者は減少の一途をたどり、 現在では矢幡さん一家を残すのみとなりました。 久留米絣の模様は粗苧なしではできないといわれており、粗苧が無形文化財の保存・伝承に欠く ことのできないものであるということから、今回の認定になりました。矢幡さんは、「ただ、自然にやってきたこと だけなのに、とても名誉なことです。」と話しています。』

 また、「麻 大いなる繊維」と題する栃木県博物館1999年第65回企画展(平成11年8月1日ー10月24日)の資料集では、次のあいさつを紹介している。

「ごあいさつ

 麻は中央アジア原産といわれ、わが国への渡来も古く、古代より栽培されています。
 表皮を剥いで得られる繊維は、他の繊維に比べ強靱で、肌ざわりがよく、木綿や羊毛、化学繊維が登場するめで、衣服や漁網、下駄の鼻緒の芯縄、各種縄などに用いられてきました。その一方では麻は特別や儀礼や信仰の用具に用いられ、現在でも結納の品や神社の神事には欠かせない存在となっています。麻は実用のみならず信仰・儀礼ともかかわる、まさに大いなる繊維でした。
 ここでは、質量とも日本一の「野州麻」の産地である足尾山麓一帯で使用された麻の栽培・生産用具、麻の製品、ならびに東北地方の一部で使用された麻織物に関する用具や麻織物を展示するものです。
麻がどのように生み出され、利用されてきたか、大いなる繊維「麻」について再認識していただければ幸いです。
 おわりに、本企画展の開催にあたり、御指導御協力をいただきました皆様にこころより、御礼申し上げます。

平成11年8月1日
 
栃木県立博物館館長 石川格 」

 そして、表紙の2頁目では、次の鹿沼市立北小学校校歌が紹介されているが、このような麻が第2次大戦後の占領米軍による占領政策でもって犯罪視されてしまったのである。

「 鹿沼に里に もえいでし
  正しき直き 麻のこと
  世の人ぐさの 鏡とも
   いざ 伸びゆかん  ひとすじに
 」