大麻取締法の根本的問題点と日本人のアイデンティティ
ー大麻取締法の改正と麻の有効利用を求めるー

2001年2月4日    弁護士 丸井 英弘

1: 大麻とは、縄文時代の古来から衣料用・食料用・紙用・医療用・儀式用に使われ、日本人に親しまれてきた麻のことであり、第二次大戦前はその栽培が国家によって奨励されてきたものである。


私の法律事務所は東京都国分寺市にあるが、国分寺は昔武蔵野国の時代に多麻と呼ばれた地域であって、麻の栽培が多く行なわれていたとのことであり、近くには多摩川が流れているが、多摩川とは麻が多く栽培されている川という意味で、多摩川べりには川崎市麻生区という地名も残っている程である。大麻つまり麻は武蔵野国の特産品であった歴史があり、調布という地名も麻布に関係しているものである。また私は名古屋で生れたが、私および三人の弟は麻模様の産着で育てられたのであり、大麻との強い縁を感じている。
京都にある麻製品を扱う「麻にこだわる麻の館、麻小路」という店のパンフレットでは次のように 云っており、麻がいかに素晴らしいものであるのかがわかる。

『魔除けの麻幸せを呼ぶ麻』
古来から「麻」は神聖なるものとして取り扱われてきました。今は、昔、天上より麻の草木を伝って神々がこの地上に降り立たれたとされ、今日でも神社、社寺、仏閣で、特に魔よけ、厄除け、おはらい等に種々用いられております。特に魔よけとして縁起物にはよく使われております。「麻」の育成が素晴らしく速く、その成長が発展、拡大にもつながり大きく根を張ることも含めて、商売繁盛、事業発展、子孫繁栄にも根を張るとして、縁起物で重宝されております。事ある毎に「麻」にふれる機会の多い人ほど幸せであるといわれております。粋をつくした「麻製品」色々取揃えております。四季を通じてお楽しみ下さい。


 そもそも大麻とは神道において天照大神の御印とされ、日本人の魂であり、罪・けがれを払う神聖なものとされてきたのである。天照大神とは、生命の源である太陽すなわち大自然のエネルギーのことであり大麻はその大自然の太陽エネルギーを具体化したものであって、日本人の魂とは、麻に象徴される大自然のエネルギーのお陰で生かされているという心のあり方を云うのではないかと思う。大麻は天の岩戸開きの際にも使われているし、最近では新天皇の即位に際して行なわれた大嘗祭において新天皇が使用した着物も麻で織られているのである。この麻の着物は「あらたえ」と呼ばれているが、徳島県に住む古来から麻の栽培・管理をしてきた忌部氏の子孫によって献上されたものである。
 2600年前にかかれた旧聖書エゼキェル書でも主たる神創造主ヤーベの言葉として次のように述べており、麻の着物「あらたえ」を大嘗祭で天皇が使用したのと同様に、旧約聖書の世界でも麻の着物が神聖なものとされてきたことが明らかである。

『旧訳聖書』(日本聖書協会発行/p1213,p1214)
しかし、サドクの子孫であるレビの祭司たち、すなわちイスラエルの人々が、私を捨てて迷った時 に、わが聖所の務を守った者どもは、私に仕えるために近付き、脂肪と血とを捧げるために、私の前に立てと、主たる神に云われる。すなわち彼らはわが聖所にいり、わが台に近づいて私に仕え、私の務を守る。彼らが内庭の門に入る時は、麻の衣服を着なければならない。内庭の門および宮の内で、務めをなす時は毛織物を身につけてはならない。また、頭には亜麻布の冠をつけ腰には、亜麻布のはかまをつけなければならない。ただし、汗の出るような衣を身につけてはならない。彼らは外庭に出る時、すなわち外庭に出て民に接する時は、務めをなす時の衣服は脱いで聖なる室に置き、ほかの衣服を着なければならない。これはその衣服を持って、その聖なることを民に移さないためである。

 このような罪・穢れを祓うとされた神聖なる大麻が、第二次大戦後の占領政策のもとで犯罪の対象物とされてしまったのである。
占領政策の目的は、日本の古来の文化を否定し、アメリカ型の産業社会を作ることにあったと思われるが、日本人にとって罪・穢れを祓うものとされたきた大麻を犯罪として規制することは大麻に対する従来の価値観の完全なる否定であり、極めて重大なことであると思う。
私は1944年(昭和19年)生まれであり、アメリカの影響を受けた戦後教育を受けたが、日本の良き伝統に対する教育を受けなかったために日本人としてのアイデンティティを充分に確立することができなかったように思う。
 日本は、明治維新によっていわゆる近代化の道を歩んだのであるが、特に第二次世界大戦は、戦後生活の建て直しということもあり、物中心の競争原理に立った経済活動を優先してきたと思う。また、生活習慣も、例えば、食生活が米からパンに変わり、畳の生活も椅子の生活に、薬の分野でもいわゆる化学的合成薬が取り入れられ、従来の東洋医学は軽視されてきたのである。大麻は薬用として何千年も使 用され、日本薬局方にも当初から有用な薬として登載されていたのかかわず、大麻取締法の施行に伴って薬局方から除外されてしまったのである。
人間は、植物を初めとする自然の恵みの中で生かされているのであって、日本人の伝統の中には自然を聖なるものとして大切にしてきたものがあった。しかし経済復興の名のもとに、例えばダムの建設等自然生態系とそこに住む人々の生活を破壊する経済開発が国策として進められてきたために、川や海そして大気は汚染されてしまったのである。また、精神面でも、生活の中心が他者との競争関係に立った上での物質生活の確保にあったために、心の根底に不安感と孤独間を抱えたままの精神生活をしてきたと思う。
 「人はどこから来てどこへ行くのか」というのが人生の大問題であるが、どこからきたのかもわからずどこへ行くのかもわからないのでは人生の生きがいがわからないということになる。まさに「人はパンのみにては生きるにあらず」とは聖書の言葉であるが、この意味での人生に対する良き信念が、大自然との融合的生活という過去の良き日本の伝統が切断されたことによって、無くなってしまっ たのではないかと思う。
大麻取締法は、日本人にとって、大自然のシンボルであり罪・穢れを祓うものとされてきた大麻を、聖なるものから犯罪にしたものであって、まさに日本人の精神を根底から否定するものである。それは例えば日本人に英語のみを話すことを強要するのと同様な日本文化の否定であり、さらに大麻の持つ産業用や医療用の有効利用を妨げるものである。



2: 大麻とは、犯罪とは何か。大麻の取扱いは果たして刑事罰で取締るべきものなのか

  大麻取締法は、大麻の取扱について免許制度を採用し、懲役刑という刑事罰でもって無免許の取扱を禁止している。大麻の取扱をなぜ禁止しているのか、つまり大麻取締法の目的について同法は何らの規定を置いていない。このように目的規定のない法律はそもそもその存在理由が不明確であるから、民主主義社会においては無効とされるべきであろう。
  厚生省や警察等取締り当局や裁判所は、大麻取締法の目的として、大麻の使用による国民の保健衛生上の危害の防止である」と説明している。しかしながら、「国民の保健衛生上の危害の防止」という抽象的な疑念を刑事罰の目的つまり法律で保護される利益(法律学上は保護法益といわれる)とすること自体、人権尊重を基本理念とする近代的法体系にはなじまないものである。刑事罰特に懲役刑は、人の意に反して身体の自由を束縛し、労働を強制するのであるから、それを課される者にとっては、人権侵害そのものであるので、刑事罰の適用は必要かつ最小限にするべきである。大麻の使用が、どのような保健衛生上の危害を生じるのかについて、過去の裁判所の判例は、大麻には向精神作用があり、精神異常や幻覚が生じるとしているが、そこでいう精神異常や幻覚の内容については、例えば時間感覚がゆったりする、味覚・聴覚・視覚などの感覚が敏感になる(つまりよくなる)ということであって、刑事罰でもって取締らなければならない反社会的な犯罪行為とはまったく云えないものである。
向精神作用自体が危険であり、犯罪であるとすれば、アルコールの有する向精神作用(いわゆる酔いの作用)は大麻と比べ格段に強いものでありアルコールを大麻以上に厳しく取締らなければならなくなる。
 また、そもそも人間は自らの体内で向精神作用を有する神経伝達物質を生産するのであり、例えば何かに集中したり、恋愛中であったり、また、大麻取締法違反等刑事事件で逮捕されたりしてショックを受けるとアドレナリンやドーパミン等いわゆる脳内麻薬と呼ばれる神経伝達物質を生産するのである。逮捕されること自体が神経伝達物質を生じさせるのであるから、大麻取締法そのものが、保健衛生上有害といえるのであって取締りの対象にしなければならなくなってしまうのである。
そして判例で、大麻使用の危険性として具体的に指摘しているのは、自動車の運転のみである。しかし、道路交通法では、アルコールも含めた大麻など薬物の影響下で車を運転することを刑事罰で規制しており、また大麻の中毒者は運転免許の欠格事由とされているのであるから、この規制に加え、大麻の取扱を一率に刑事罰でもって禁止することは、ただ単に犯罪者の数を増やすだけである。
 私は、過去25年間に約180件、関係者にして数百人の大麻使用経験者に出会ったが、大麻の向精神作用は心身がリラックスすること、味覚・聴覚・など感覚が良くなること程度であり、具体的な弊害は発見できなかった。大麻使用の経験者には実質的にみて悪いことをしているという意識はな く、大麻取締法という法律に対し実質的権威を感じるものは皆無である。むしろ問題なのは、実質的な権威のない法律の存在によって司法に対する信頼感が喪失し、法治主義の基盤が崩壊することである。
 なお、最近の研究報告でも大麻が安全であることが明らかになっている。
 1998年6月17日付けパリ発の 共同通信ニュース速報 では、次のように報じている。

『 酒、たばこは大麻より危険 仏研究所が調査報告』(共同通信ニュース速報)
 十七日付のフランス紙ルモンドは、国立保健医療研究所のベルナールピエール・ロック教授のグループがこのほど、アルコールやたばこは大麻より危険だとの研究報告をまとめた、と一面トップで報じた。
 同紙によると、これは「麻薬の危険度調査」で、調査対象の各薬物について「身体的依存性」「精神的依存性」「神経への毒性」「社会的危険性」など各項目ごとに調査した。
 その結果、アルコールはいずれの項目でも危険度が高く、ヘロインやコカインと並ぶ最も危険な薬物と位置付けられた。たばこは鎮静剤や幻覚剤などと並んで、二番目に危険度の高いグループ。大麻は依存性や毒性が低く、最も危険度の小さい三番目のグループに入った。
 調査は、フランスのクシュネル保健担当相の指示で実施された。同紙は「この研究結果は、ソフト・ドラッグ(中毒性の少ない麻薬)消費の合法化の是非をめぐる論争に火を付けるだろう」と報じている。


3: 大麻の有益性について

 大麻は、有害どころか、次に述べるように、人類に対し精神的にも肉体的にも有益である。つまり

  1.  人類がこの地球で生きていくために必要な燃料を生産できる。茎や葉を発酵させるとエタノールやメタンガスなどの燃料が生成されるが、それは石油や原子力に替わるエネルギー源になりうる。
  2.  環境上安全な紙が生産でき、森林を守ることができる。麻の茎に含まれるセルロースを原料として有機塩素による漂白を必要しない紙が作れる。なお、今から一二〇〇年程前の西暦七七〇年頃に中国で作られた仏典は麻から出来ているし、アメリカなどでは国旗や紙幣が麻の茎から作られた。

     麻の生育期間は木に比べて非常に早く半年程度であるので、麻から紙を生産すれば永続可能な状態で原料の供給ができ、森林伐採をする必要がなくなり、地球の緑を守ることが可能である。
  3.  環境上安全な生分解性のプラスチックが生産できる。麻の茎に含まれているセルロースを原料として自然に土に分解するプラスチックが生産できる。石油からできるプラスチックの場合には、土に分解せずまた燃焼するとダイオキシンなどが含まれている有毒ガスを発生する可能性があるので、現在深刻な環境問題になっているが、この問題を解決できる。
  4.  麻の種は、栄養食品として極めて価値が高い。麻の種には消化吸収に優れた良質なタンパク源と8種類の必須脂肪酸をすべて含まれている。また、必須脂肪酸のリノール酸とアルファーリノレイ酸が3対1という理想的な割合で含まれている。なお、中国では、五穀豊穣の五穀の中に麻の実をいれている。
  5.  医薬品として利用できる。大麻取締法では禁止しているが、麻の葉や花穂は副作用が大変少ない喘息や痛み止め・不眠症などの医薬品として過去何千年も中国、インド、アラブ、アフリカ地方さらには日本で使われてきた。明治二八年の毎日新聞には次のような記事が載った程である。

『印度大麻草』(明治28年 毎日新聞)
ぜんそくたばこ印度大麻煙草」として「本剤はぜんそくを発したる時軽症は1本、重症は2本を常の巻煙草の如く吸う時は即時に全治し毫も身体に害なく抑も喘息を医するの療法に就いて此煙剤の特効且つ適切は既に欧亜医学士諸大家の確論なり。

 なお、「印度大麻草」および「印度大麻草エキス」は、1886年に公布された日本薬局方に「鎮痛、鎮静もしくは催眠剤」として収載され、さらに、1906年の第3改正で「印度大麻草チンキ」が追加収載された。これらは、1951年の第5改正日本薬局方まで収載されていたが、第6改正日本薬局方において削除された。また、種に含まれているオイルには健康に有用なものが含まれておりさらに皮膚に対する浸透力もいいので、マッサージオイルとしても大変有用である。





種子(麻の実)の100グラムあたりの食品成分表
出所「四訂 食品成分表」女子栄養大学出版部
エネルギー 469kcal マグネシウム 640mg
水分 5.9g 13.1mg
タンパク質 29.5g 390マイクロg
脂質 27.9g 亜鉛 6000マイクロg
糖質 9.2g ビタミンA効力 11 IU
繊維 22.1g ビタミンAカロチン 20マイクロg
灰分 5.4g ビタミンB1 0.35mg
カルシウム 130mg ビタミンB2 0.19mg
リン 1100mg ナイアシン 2.3mg
ナトリウム 2mg ** **

                        


 
4: 現行大麻取締法の運用の改善と法改正の提案
 このような有益な大麻は、規制するどころか第二次大戦前の日本の様に、その栽培を奨励することが必要ではないかと思われる。それが農業の活性化と熱帯林の伐採の禁止や空気の浄化さらには温暖化対策(大麻には、木と同等以上の炭酸同化作用がありうる。)にもつながる可能性があるのではないかと思われる。当面の政策としては、次のような現行大麻取締法の運用の改善と法改正の提案をしたい。

1)大麻取締法の上位法である1961年の麻薬に関する単一条約では園芸用と産業用の大麻の栽培などについては同条約の規制対象にしないとされているので、大麻の茎と種の活用を目的とする大麻の栽培免許については、免許の欠格事由のない場合には、向精神作用がないとされるTHC含有量が1%未満のCBD種と言われている産業用の大麻の種を使うことを条件にして、原則的に認めるようにする。産業用の大麻の種の育成およびその種の有効利用とその普及に向けての研究開発を行政の政策として推進する。

2)個人的な使用目的での大麻の所持と栽培については、刑事罰の対象から除外する。
 
3)大麻の花穂と葉の医療用の使用を認めること。


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