▲侘 寂 萌 インデックス



擬態

 金に目が眩んで、また一張羅のスーツ着て働いてる。
 去年、派遣社員一同、一斉解雇された同じシステム屋。やっぱり人手が欲しいから短期で頼む、なんて話に乗ったオレが馬鹿だった。

 ヒマ。死ぬほどヒマ――というよりも、オレが血気にはやった勤王の志士だったら誰でもいいから一人二人叩っ斬ってるか分からんというくらいヒマ。
 またしてもオレみたいな余計なの雇って時給1800円で遊ばせとくたぁ、どうなってんだか。しかも明細みたら残業は2200円もついてる、すげえ。まあ、おあしさえもらえりゃ、こっちは文句はねえ――とか思ってたら突然の仕事ラッシュ。

 例によってマウスを使わずにウィンドウやタブをバリバリ切り替えたり、エクセルの操作してたら、エクセルのプロみたいに思われたらしく「じゃ、このデータ集計をマクロで」とか集計作業全般を任されることに。まずい。1年前、仕事を請け負うとき、エクセルなんか使ったこともないのに「中程度習得」とか申告しちまってるので、いまさら引っ込みがつかないというペパーダイン状態。
 しかしここで初めてエロゲ屋のスキルが役立つことに。
 独自仕様のものばかりとはいえスクリプトはかなりいじったので、ヘルプ見ながらオフィスのマクロにもなんとか対応できたのは僥倖の至り。

 またチームリーダーのA野さんがすごくいい人で、変な意味じゃなく萌え。
 2年以上かけた一大プロジェクトの完了期限が間近に迫り、はたから見てても心配なくらい疲れた様子で、200人のプロジェクトメンバーの中で一番忙しいのにA野さんが自分でコピーとってたりすると、オレは「あ、私がやります」とすかさず作業を引き継いだりしてる。
 でも今日A野さんに頼まれた仕事で大失敗やらかしたことに帰りの電車で気づいた。
 山田太一ドラマに出てくるような態度のでかいお偉いさんが勢揃いする定例会議に提出した集計表で、肝心の項目を追加するの忘れちまったよ。あいやー。鬱、、、

 メールをいちいち「お疲れさまです」の一文で始めたりするような「フツーのお仕事」の作法にはどうにも馴染めないが、それでもボタンダウンのシャツにレジメンタルタイ結んだ姿も様になっきて存外楽しかったりみたいな。
 ていうか毎日あんがい楽しいのは事務処理の作業手順を教えてくれる子(かわいい)の肩や手がやけに無造作に触れてくるような気がする(例によって男の錯覚)からとか、実はそういう単純な理由だったり。

 ていうかホントに人生観がちょっと変わったかも、みたいな。
 ああ、こういう人生もあったか――と。
 あと、なんでOLさんが萌えないか、わかった。

 が、なんにせよ、この奉公を済ませ次第、とっととゲーム屋に戻る。
 そして二度と真っ当な「お仕事」にはつかない。





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