第6回講演会報告 下段に写真



 
  73期有志による教育問題を考える"Project-K"の第6回セミナー報告
 「子どもたちの近代――学校教育と家庭教育」
   京都大学人間・環境学研究科 小山静子教授

      2006年5月20日(土) 北野高等学校同窓会館3階ホール


 これまで、大学・高校・中学校の教育現場を歩んできた先生方、教育行政を司る方、また、小学校の教育現場を見続けてきた大学の先生方からお話を伺い、子供達の学力問題・学校の実状・教育改革のあるべき姿等について考えてきました。
 今回は、少し趣を変えて、家庭教育と学校教育を歴史的に眺め、教育に対する考え方の変遷を辿る中で、これからの教育のあり方を考えてみたいと思います。長い時間軸の中で広い視野から教育を眺めることによって、より的確に現状を認識できるのではないかと思います。
 第6回目の講演者、小山静子先生の御専門は日本教育史・ジェンダー史で、近代日本の教育をジェンダーや家族の視点から考えてこられました。「良妻賢母という規範」、「子どもたちの近代−学校教育と家庭教育」、「戦後公教育の成立-京都における中等教育」などの著書があり、数々のご講演をしておられます

1.小山教授の略歴(自己紹介)
 熊本県人,京大文学部から教育学部に転部、立命館大学を経て02年から現職。

2.子ども教育の歴史を4段階に区分する
 @ 共同体の内部での家(20世紀初頭まで):A「家」を継ぐものとしての子供
   イ)家名、財産、屋号,通称、を継ぐミッションを父親の権限と責任で教育
   ロ)子供は労働力でもあった。(見習い)
   ハ)育った村で5人組の干渉の下で「子供は共同体のもの」であった。


 A 家と学校による教育が並立(20世紀半ばまで):B
   イ)義務教育によるプロ意識の教師の存在
   ロ)家業からの解放と共同体規制の消滅





 B 新中間層(70年代標準家族という核家族)の発生で、
   学校教育への過度の期待:C
   イ)近代的職業(医者、弁護士、公務員、会社員等)は
     教育を媒介に獲得
   ロ)「よりよい子供」を創る専業主婦化した母親の役割
    (男は仕事に専念)



 C 家庭の崩壊(20世紀末から):D
   イ)「教育家族であることを持て余している家庭」と
     「教育家族になれない家庭」との分化
   ロ)教育目標がフォーカス出来にくくなって来た(偏差値,学歴重視の
     弊害、親が子供を制御することの疑問、過剰干渉の弊害)

3.資料説明
  @ 小原国芳; 学校教育を優先すること。人間のよしあしは教育と、遺伝の2要素で
          決まる。
          産児制限主張。(教育史B→C)
  A 鳩山春子; 母親次第で子供は廃物とも必要物ともなる。(C)
  B 宮本常一; 親は学校のことを口出ししない。校内で方言の否定、民謡不可。
          日曜は労働させる。村と学校のダブルスタンダード。(B)
  C 明治/大正のしつけ; 共同体か学校が主役(アンケート結果)
  D 女子労働; 20世紀末にかけて労働参加率は上昇しているが60歳で50%、
          欧米は逐年労働参加率上昇、日本はほぼ横ばい、女子未婚率は30歳代
          までは極端に近年上昇中

4.意見交換
 参加者)昔の子供は労働力扱い、学校教育もそこそこでよい。共同体はニュータウンの
     高齢化でコミュニテイが崩壊し、この教育機能も取り戻せないということですか。
 小山)居住地でのコミュニテイ形成は難しい。子育てサークルや趣味、インターネットでの
     つながりで「誰かとつながっている」意識が必要でしょう。インターネットは偏りが
     ある点はそのとおりで、地域の保育所単位も一法でしょう。
 参加者)フランスではENA出身者が「自分の成長には家庭の団欒が寄与した」といって
     います。本日のお話は歴史的視点を持てば、現況はあまり問題視すべきではなく、
     過去の視点から非難すべきではない。難しい状況に苦しんでいる子供たちに
     どのように手を差し伸べるかと言う風に捉えるべきかと反省しています。
 小山)「教育とはおせっかいと必要なお世話の中間にある。」と考えています。
     あまり熱心すぎるのはいかがかと思います。
 参加者)現在の偏差値偏重の風潮をどう考えますか。
 小山)明らかに、全人教育からは逸脱ですね。
 参加者)偏差値偏重は「母の生きがいの典型」ではないでしょうか。よい子供とは
     何かモデルが明確ではありません。
 参加者)国策が明確であった。明治や高度成長期は迷いがなかったですね。現在は
     個人の解放なのですかね。
 若い参加者)自分は母親の思い通りの路線を、自身では疑問を持たず育ってきました。
     皆さんは「よい子供のモデル」を具体的にどのように思ってこられましたか。
 参加者)自立すること。インターナショナルであれですね。
 参加者)読み書きそろばんが人並みに出来ること。コミュニケーション力を持つこと。
     自分のやりたいことを自分で見つけることですね。
 参加者)自分の子供に対して「高校時代は好きにやれ。浪人してから勉強すればよい.」
     といって、そのとおりとなりました。
 小山)今の子供たちは難しい状況を生きているのですよ。それでも礼儀も正しいし、
     そこそこの勉強をし、常識もあります。優しさ、思いやりも持っています。
 参加者)「家庭崩壊に近い家庭」では労働環境も悪く、夫の子育て参加も期待できない。
     したがって、祖父母の役割が大きいのでしょうね。
 小山)自分の孫だけ面倒を見るのか。他人の子供をどうするか。近くに住んでいるかも
     問題<ですね。
 参加者)教育史の各段階の推移は何によるのでしょうか。
 小山)社会経済の変化が大きい。昭和30年代までは親よりも先生が高学歴層だったが
     今は同等か逆転した。教育を投資ではなく、商品化し消費とする見方もある。

小山静子先生


講演会


講演後の談話会−小山先生を囲んで



参加者