池袋の東口から深夜バスが出る。バス停まで行くと、人がたくさんいる。今日は、富山行きのバスは3台出る。山登りに行くものが、大半と思いきや、そんなに多くない。もう、夏山シーズンも終わりだからだろうか。この富山行き、電車に比べて安いせい(7350円)もあるのか、人気があるようである。深夜バスというと、スキーバスの狭くて寝れない感じがして、遠慮したくなるのだが、このバスは、座席が180度近く倒せて、座席も少なく、仮眠をとれる。そういうのも、高速に入る前、消灯となる。高速を途中三カ所停まるのだが、深夜ともあって、特にアナウンスはされない。うつらうつらしていると、富山に着くという案配である。ただ、運転席後ろの1C,1Dは、ちょっと狭い。予約する場合は、避けた方が良い。実は、今回この席で、足を伸ばすことができなかったのである。
薬師沢にそって進む。7時25分にA沢出会にあたる。沢は崩壊しており、土砂が崩れ落ちている。ここから、沢の中州にでて歩く。10分ほどでB沢出合である。ここから、沢を離れる。B沢を登って行くと、左に道が付いており、その道を登っていって、沢を離れる。地図では、沢に沿って、トラバースしていくような感じであるが、途中、小さな沢を横切るので、そのたびに上り下りがある。二時間ほどあるいて、高天原峠に着く。ここは、雲ノ平と高天原を分ける。峠から、高天原へは、下って行く。沢の音が聞こえ、下りきると、沢の流れている湿原となる。環境保護のため、木道がしかれている。
小屋へ行く途中、ワタスゲが密集していた。高天原は、湿地帯であり、高山植物が多数見られるとても良いところである。小屋には10時30分に着いた。小屋の屋根が真ん中あたりでへこんでいる。悪い予感がした。とりあえず、温泉に向かうことにした。
温泉は、小屋から15分のところにある。下りで、風呂にはいった後、登らなければならない。一寸、厳しい。下っていくと、沢に出会う。沢の左側に、二つ風呂があり、一つは女性用、一つは混浴である。風呂は、素晴らしかった。
乳白色で、硫黄泉である。汗を落とすにはちょうど良い。ただ、今時の温泉と違って、非常に濃い源泉である。硫黄が肌につき、山から帰っても、匂いが残っていた。これが、本当の温泉と実感した。
温泉から小屋に戻って、ビールを飲んだら、もう、雲ノ平に行く気はなくなってしまった。でも、食事が心配なので、小屋の人に、カレーじゃないでしょうねときく。カレーじゃないというので、安心する。実際、夕食は、とても美味しかった。今回の山小屋の中で、一番良かった。
何もすることがない。最近は、山小屋でのこの時間が嬉しい。やることがないので、小屋に置いてある本を読む。辻邦生の短編小説があったのでよむ。『城』を読んでみる。これは、ほとんどが単文で書かれていて、タ形で終わっている。読んでいて、とても読みづらい。辻邦生は、実験的にタ形を用いたのだろうか。でも、これは、失敗だね。簡潔性よりは、タ形を連ねることによって、冗漫な感じが出てしまう。タ形の場合、現在と切り離された事実を述べるため、読者は、物語にはいることができなからね。
そんなこんなで、眠たくなって寝てしまったのだが、話し声で起こされてしまったのである。二人の中年の女性が、延々と話しているのである。大声ではない。だけれども、はっきりと聞こえるのである。話の中身から、彼女らがどこに住んでいて、どういう仕事に就いていて、何に不満があるのか、わかってしまうのである。飽きることなく話す。これには、さすがに参った。
待ちに待った夕食である。今日のは、ごちそうである。例の二人づれも、食事らしい食事を食べたと行っていた。薬師沢小屋のカレーはほんとにひどいからね、そう感じるのである。今回の山行で一番良かったけどね。食事の時、となりに関西出身の家族連れがいた。三世代の家族のようである。でも、これがうるさいのである。もともとうるさいのに、酒が入っているから、ますますうるさい。特に、一人のおばさんがテンション高く、一人で盛り上がっていた。夕食を終えて戻ると、例の二人のおばさんが、ほんとにおばさんはうるさいと言っている。どっちもどっちである。
小屋を9時45分に出て、祖父岳に向かう。途中、水場を通るが、水は流れていなかった。そこが、テント場になっているが、テントはなかった。水場から離れて登っていくと、黒部の源流と祖父岳に向かう分岐に出会う。祖父岳に向かい、登り切ったところが頂上となる。11時35分に着く。そこから下っていくと岩苔乗越に着く。ここから、鷲羽岳に向かう。登っていくと、ワリモ岳に着く。頂上にのぼって見ると、360度の展望である。そこから少し下り、登り切ると鷲羽岳に着く。途中、例の家族連れに追いつく。頂上には、13時30分についた。頂上で記念写真を撮っていたら、例の家族連れが写真を撮ってくれと言う。このときになると、かなり馴れ馴れしい。10分ほど休んで、下る。鷲羽岳から三俣蓮華小屋への下りは、ざれたところを下る。かなり急斜面なので、滑りやすい。三俣山荘には、14時28分に着いた。一時間ほどの下りである。休憩していると、例の家族連れが写真を撮ってくれと言うので、写真を撮る。もう、家族も同然である。明日帰ればならないので、三俣山荘には泊まらないで、双六山荘に向かう。雲行きは怪しく、雨が降りそうだったが、例の二人連れもいるし、静かさを求めて、双六に向かったのである。
小屋から登っていき、しばらくすると三俣蓮華岳へ分岐に出会う。そのまま、トラバースしながら、双六に向かう。時たま、雨が降ってきたが、山荘には、16時20分に到着。小屋は、新しい。宿泊する人は少ない。この小屋は、民宿に近い。食事もまあまあだし、電気も明るい。この小屋のオーナーの小池さんは、写真家でもあり、サイン入りの本を売っていた。快適と言えば快適なのだが、部屋が密閉性が高いので、布団が湿ってしまう。朝起きたら、結露がすごい。新建材だとこうなってしまうのだね。
鏡平の分岐に7時に着く。稜線から離れ下る。鏡平小屋に着いたのは7時40分であった。そして、10時20分には、新穂高温泉に着く。これで、今回の山行も終わる。無料の温泉施設に入った。平湯行きのバスにのり、平湯で、14時35分の新宿行きの高速バスに乗った。家に着いたのは、7時であった。