それは、現在?

















それは、過去?

















それは、未来?







































それは、現実?

















それは、幻?

















それは、夢?














































命の価値は


外伝 壱


How , Where , When?
















































   「じゃあ、シンジの事、頼んだわよ、レイ」



   「わかってるわ。あなたこそ、しっかりやってきてね」



   「あんた、誰に言ってんのよ? あたしは惣流アスカラングレーよ!?」







金色の髪の彼女は、そう言って笑う。


空色の髪の彼女は、そんな彼女に微笑む。





第2新東京国際空港のロビーは、大きなスーツケースを持った一見して観光とわかる旅行客や、

スーツをきちんと着こなしたビジネスマン、

はたまた新婚旅行に出掛けるだろうカップルとその友人達など、

雑多な人々でごった返していた。




その中でも一際目を引いていたのが、このふたり。




ひとりは。


淡いクリーム色の、シンプルな中にも華やかさのあるツーピースのスーツに身を包んでいる。

ヒールの高いワインレッドのパンプスからは、しなやかな脚が伸び、

それはタイトなスカートへと、滑らかに続く。

身につけているものすべてが、彼女の長い金髪と、マリンブルーの瞳に完璧に調和していた。



ひとりは。


オフホワイトに細い紺色のボーダーが入ったVネックのサマーセーターに、黒いショートパンツを合わせ、

素足に黒いローファーを履いている。

その色合いが、彼女の紅の瞳と、空色の髪と、見事なハーモニーを醸し出していた。




そのふたりは、行き交う人々の注目を一手に集めていた。










まだ少年の面影を残した青年がゲストに呼ばれているニュース番組が、ロビーのTVに流れている。




ふたりはダークグレーのソファーに座り、暫くそれを眺めていた。











   「それにしても」



   「あんたとこうして笑える日が来るとは、夢にも想ってなかったわ」



   「そうね」



   「憶えてる? 初めてあんたとあたしが逢った日のこと」



   「ええ、憶えてるわ」






   「・・・ヤな娘だと想ったでしょう」







   「そうね」









紅い瞳の彼女は、顔色ひとつ変えずに、さらりと言う。










   「・・・・ずいぶんはっきり言ってくれるじゃない」












紅い瞳の彼女は、クスリと笑って蒼い瞳の彼女に向かう。








   「冗談よ」





   「冗談?」





   「そう、冗談」







そうしてまた、TVに目を向けた。








   「あの刻の私は、そんな事は関心がなかったわ」


   「あなたのことは、ただ新しいパイロットが来た、くらいにしか考えてなかったから」



   「あの刻の・・・  私は、ね」







蒼い瞳の彼女もまた、TVに視線を戻す。







   「そうね・・・ そんな感じだったもんね」












そしてふたりは、TVで笑う青年を、眺める。












   「でもね」






天井を見やり、なにかを想い出しているように一言。







   「少しずつ、変わっていったのよ・・・  私も」


























          「シンジのせい?」


























紅い瞳の彼女は、白い頬を瞳と同じ色にわずかに染め、


一瞬だけ、視線を彼女から逸らすと、再び向き直って、微笑む。








   「そうね、碇くんのせいね」




























   「・・・でも、あなたもそうでしょう」




























今度は、長い金色の髪の彼女が、その顔一杯を真っ赤にし、


これ以上ないくらいの笑みを零す。























          「そうね。シンジのせいね」


























そしてふたりは、お互いの顔と顔を向かい合わせ―――


  この世で最高の、笑顔を、見せた。
























































   「じゃあ、そろそろいくわね」



   「そうね、そろそろ時間ね」



   「シンジを、ホントに頼むわね。

      あのばか、危なっかしいから」



   「ええ、わかってるわ。

      私にあなたの代わりは出来ないけど、私なりにがんばる」






クリーム色のスーツの彼女は、大きく息をひとつ、吐いた。






   「・・・ ホントにあんた、変わったわね・・・」







   「そう?」







その彼女は、紅い瞳でしなやかに笑う。







   「ホント、あたしがもし男だったら、絶対に放っとかないわよ」




   「ありがとう。 嬉しいわ」









惣流アスカラングレー、と言う名の彼女は、


   綾波レイ、と言う名の彼女の足元に視線を落とす。




そして、レイの履いている、奇麗に磨かれた黒いローファーを見る。




奇麗に磨かれたそれからは、細く引き締まった、完璧な脚線美が続いていた。











   「シンジもばかよね。 まったく・・・」


























   「そんなこと言わないで」

















張りのある、凛とした声に、アスカは思わず顔を上げる。




そこには、彼女を正面から見抜く、真紅の瞳があった。









   「あなたは、碇くんが選んだ人なのよ」









   「だから、そう言わないで」









   「自分を、責めないで」














   「私は、あなただから・・・」









   「あなただから、私は納得したのよ」









   「あなただから、私は喜んだのよ」









   「あなただから、私は祝福したのよ」









   「だから・・・」









   「そう、言わないで」




























   「レイ・・・」
































   「ゴメン」























アスカは一欠片の曇りもない、レイの瞳を見詰める。





そんな彼女を見て、レイはまた、十五夜の月のように微笑む。









   「いいのよ・・・」





















   「でもね」











レイは、その紅の瞳にほのかな笑みを湛えながら、アスカに向かった。











   「あなたがいない間に私、碇くんを取っちゃうかもしれないわよ?」











アスカは一瞬だけ、右の眉をぴくりと動かしたが、


  次には不敵な笑いを見せ、言う。









   「上等よ」




   「レイ、あんたも言うようになったじゃない」









   「そう?」









そして、大きく深呼吸をひとつ。











   「いいわ」





   「取れるもんなら、取ってみなさい」





   「そう簡単には、いかないわよ」













      「あたしのシンジ・・・・ は、 ね」



















そしてふたりは、




    また、




        本当に楽しそうに、笑った。



























   「じゃ、ホントに行くわね」



   「碇くんが来れないのが、残念ね」



   「ま、仕方ないわよ。 シンジもいろいろと忙しいんだから」



   「そうね・・ ワールドチャンピオンだものね」



   「派手なことやったわよねぇ。 初挑戦の年、それもいきなり500ccでさ。

    最終ラウンドの日本GPで逆転優勝だしね。

    周りだって、大騒ぎになるわよ」





   「碇くんらしいわ」



   「本人の自覚がないのに、凄いことをやるのが?」



   「ふふふ・・  そうね・・」









   「でも・・・ それだけじゃ、ないんじゃない?」






レイは、彼女には珍しく悪戯っぽく笑う。






   「あなたのせいよ、きっと」






アスカは思い当たる節があるのか、一瞬にしてその白い顔を紅く染めた。






   「碇くん、みんなの前であなたのこと、


        『僕の、一番好きな人です』


              なんて言ってたじゃない」







   「あ、あれは・・・ あんまり周りがうるさいもんだから・・・」




その彼女は、真っ赤な顔でうろたえながらあらぬ方向を向いて、いい訳じみた返答をした。








   「でも、本当のことでしょ?」









   「・・・・」






   「・・・・レイ・・・」



   「あんた、ホントに変わったわ」




   「このあたしをやり込めるとはね」











   「ありがとう」









そしてまた、ふたりは笑った。


























   「さて、と」



   「ホントに、行くわね」



   「ええ」



   「あんたも頑張るのよ。 やりたいこと、見つかったんでしょ」



   「うん・・・・    アスカもね」



   「あはは、シンジに負けてらんないもんね」



   「ん・・」









   「じゃあね」




   「そうね、また」















そうして。






惣流アスカラングレーは、


   ヒールの音を響かせながら、胸を張って、


      搭乗ゲートへと消えていった。






その背中を、綾波レイは、


   穏やかな笑顔で見送る。









      彼女の背中が、見えなく、なっても・・・
























































闇の中に、ジャンボジェットのシルエットが浮かび上がる。




タラップが外されていく。




そしてゆっくりと、滑走路に向けて動き出す。









アスカの乗った旅客機は、尾翼灯を煌かせながら、徐々にその速度を増していく。









レイは、だんだん小さくなっていくそれを、じっと見送っていった。
























       タッタッタッタッタッタッタッタッ






スニーカーが床を蹴る音が、遠くから響く。






そしてその音はどんどん近づいてくる。






レイはまるで知っていたかのように振り返り、駆けてくる青年を迎えた。






       ハァハァハァハァハァハァハァハァハァ・・・






青年はレイの元へと駆け寄ると、肩で息をしながら、

小脇に抱えていた白いヘルメットを足元に置き、

流れる汗も拭おうとせず、荒い息のまま、ガラスウインドゥに張り付く。


本当に急いで来たのだろう。

髪は乱れ、

Tシャツは汗で、細いながらも鍛えられた彼の体に、張り付いていた。



汗の雫が、一粒、また一粒と、床に滴る。













金色の髪の彼女を乗せたジャンボは、機首を上げ、今まさに離陸しようとしているところだった。









青年は、その姿を目に焼き付けるように、瞬き一つせずに、見詰める。







ただ、その姿を、それが見えなくなるまで、追いかけていった。









     ずっと、 ずっと、 ずっと―――   



































   「行っちゃったわね」






傍らの彼女の声に、青年はようやく、視線を星空から戻した。






   「うん・・・  やっぱり間に合わなかった・・」




   「仕方ないじゃない。 TVに出るのだって、大切なお仕事でしょ」




   「そうだけど・・・ なにもこんな日に・・・」











   「アスカがね」




   「アスカが、碇くんによろしくって」




   「あたしがいなくても、しっかりやるのよって」






   「ははは、アスカらしいよ」











   「そしてね」











   「頼まれたの、アスカに」











   「碇くんのこと、頼むわよって」




   「碇くんはひとりだと危なっかしいからって」











   「まったくアスカは・・・  いつまで経っても子供扱いするんだから・・・」











シンジの表情はその台詞とは裏腹に、満足げだった。




その彼の表情を見て、彼の隣に立つ彼女も、微笑みを見せる。


















   「さぁ、そろそろ行きましょう」






彼女は、彼の左腕に自分の右腕を絡めて、彼を促す。






   「あ、綾波・・・」




   「なに?」




   「あ、あの・・・  うで・・・」




   「腕がどうしたの?」




   「あ、いや・・ その・・・」











   「ふふふ、碇くんって、本当に変わってないわね」




   「・・・それって、誉めてくれてるの?」




   「さぁ、どうかしら?」






   「ほら、行きましょう」











そうして彼女は、彼の腕を抱えたまま歩き出す。











彼は、自分よりずっと小さい彼女に引っ張られるようにして、歩き出す。











   「ほら、碇くん」







こころから楽しそうに、彼女は彼に笑いかける。







   『まぁ、いいか・・・』




   『アスカ、ちょっとだけ、ゴメンね』







   「そうだね、行こうか、綾波」




   「ええ」











   『アスカ、ちょっとだけ、碇くんを借りるわね




       でも、さっきの言葉は冗談じゃないわよ?




          しっかり捕まえておかないと・・・  知らないから』









   「さぁ、行きましょう、碇くん」




   「そうだね」











彼と彼女は、腕を組んだまま、空港を後にした。






























そのころ、空では。   











遠ざかる街の光を見詰めながら、金色の髪の彼女は、満足げに微笑んでいた。









   『シンジ、暫くお別れだけど、しっかりやるのよ』



   『あたしも・・・  がんばるから』





   『じゃあね、シンジ』



   『またね、レイ』






   『また逢う日のことを・・・  楽しみにしてるから・・』











      「よし、行くわよ、アスカ」











彼女はそう呟いて右手を握り締めると。



       遠ざかる街の光に、暫しの別れを、告げた。























   『そうよ、また、すぐに逢えるんだから・・・』



















   『そうだよ、また、すぐに逢えるんだから・・・』



















   『そうね、また、すぐに逢えるのだもの・・・』

























































































3人の想いは絡み合い、星空に、溶けていく














3人は、それぞれの道を、歩き始めていた















自分らしく







自分のために







そして







お互いの、為に































それはかつて、『チルドレン』と呼ばれた少年少女達の・・・


























―ひとつの―









―幸せの―



















―かたち―

















































彼らの物語は、走り続ける―――







































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